『仮面ライダー THE WINTER MOVIE ガッチャード&ギーツ 最強ケミー★ガッチャ大作戦』感想:水と油を共演させる難しさ

「ガッチャード/ギーツ」製作委員会 (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

ごん、おまえだったのか、いつも、くりをくれたのは。

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作品情報

2023年9月から放送されている『仮面ライダーガッチャード』と前作『仮面ライダーギーツ』のクロスオーバー映画。テレビシリーズのメインライターの一人である内田裕基が脚本を担当し、『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』の山口恭平が監督を務める。

原作: 石ノ森章太郎
出演: 本島純政 / 簡秀吉 / 松本麗世 / 高橋李依 / 白上フブキ ほか
監督: 山口恭平
脚本: 内田裕基
公開: 2023/12/22
上映時間: 95分

あらすじ

ケミーの捜索を続ける一ノ瀬宝太郎たちと、
ふたたび出現したジャマトに立ち向かう浮世英寿たちの前に
突如として現れた”レベル10の最強ケミー”≪クロスウィザード≫。
彼の持つ不思議な魔法の力によって、桜井景和らがケミーの姿にされてしまった!
さらには同時に5体もの”レベル10の最強ケミー”や、
ギーツにそっくりな≪ギーツケミー≫も出現!
相次ぐ異常事態に戸惑う宝太郎たちと英寿、そしてケミー化した景和たちは、
それぞれチームを組み【最強のケミー捕獲ゲーム】に挑む!
このゲームに隠された恐るべき目的とは。ギーツケミー出現の謎とは。
仮面ライダーガッチャードと仮面ライダーギーツは、
待ち受ける難関をクリアすることができるのだろうか……!

【予告】『仮面ライダー THE WINTER MOVIE ガッチャード&ギーツ 最強ケミー★ガッチャ大作戦』 – YouTubeより引用
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レビュー

このレビューは『仮面ライダー THE WINTER MOVIE ガッチャード&ギーツ 最強ケミー★ガッチャ大作戦』および関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

本編と冬映画の完全連動

仮面ライダーガッチャードこと一ノ瀬宝太郎は、錬金術によって生み出された人工生命体「ケミー」の力を用いて怪物と戦っていた。ケミーたちの心を理解するため錬金アカデミーに入学した彼は、九堂りんね、銀杏蓮華、鶴原錆丸ら仲間たちと錬金術師の修行に励んでいる。

こうした舞台設定をベースにした学園ものこそ、2023年9月に放送を開始した令和仮面ライダーシリーズ第5作『仮面ライダーガッチャード』。それまでのシリーズ4作品とは異なる、突き抜けて明るい作風が印象に残ります。

前作『仮面ライダーギーツ』(2022-23)では、浮世英寿をはじめとした多くの仮面ライダーが、自身の願いを叶えるべく戦っていた。コメディテイストの『ガッチャード』とは対照的に、メッセージ性の高いシリアスな物語が特徴的でした。

毎年冬休み時期に公開される仮面ライダー映画では、現行作品と前作の共演が恒例として行われています。2022年の『仮面ライダーギーツ×リバイス MOVIEバトルロワイヤル』は、『仮面ライダーリバイス』(2021-22)パートと『ギーツ』パートに分かれており、『MOVIE大戦』シリーズに似ていました。

一方で今作の内容は、『ガッチャード』と『ギーツ』の登場人物が入り混じる一本のオリジナルストーリー。「冬映画」の中では、『平成ジェネレーションズ』3部作や『仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ』(2021)に近い構成です。

特に今回は『ガッチャード』の世界観をベースにしており、そこに『ギーツ』のキャラが客演しているようなバランスです。というのも、テレビシリーズとの完全連動を打ち出している本作(※1)。第15話と第16話の間に起きた話であることが明確にされています。

※1:クライシスXmas!オロチ事変 | 仮面ライダーWEB【公式】|東映参照

映画冒頭、ケミーが目撃された場所へ向かう錬金アカデミーの面々。寝坊した宝太郎は、急いで家を出るも間に合わなかった。その後、ジャマトの出現に困惑する彼らのもとに、仮面ライダーギーツ、タイクーン、ナーゴ、そしてバッファの4人が助けにやってくる。

ここから展開される、ガッチャードとヴァルバラドを含めた6人が共闘するアクションシーンは、最初からクライマックス級の見どころです。なのでオープニングの時点から、一気に作品世界に引き込まれました。

仮面ライダーたちの前に現れたのが、高橋李依さん演じる魔法使いのケミー・クロスウィザード。彼女の不思議な力によって、タイクーン、ナーゴ、バッファの3人は小さくされてしまう。無邪気でよく笑うクロスウィザードは、とてもチャーミングでした。

加えて、ぬいぐるみで撮影された3人の姿は、サンエックスの「すみっコぐらし」を彷彿とさせます。子供たちの流行を敏感にキャッチし、作品に反映させる製作陣ならではのコンセプトでしょう。

感動的サプライズと蛇足

クロスウィザードが仕掛けた「最強ケミー捕獲ゲーム」に則り、登場人物たちはチームに分かれ、5体のケミーの捕獲に向かう。その後に描かれる各チームのやり取りは、キャラ萌え的な魅力が盛り込まれている楽しい場面でした。

5体のケミーを捕獲し終えると、テレビシリーズの主題歌『CHEMY×STORY』が流れ、大団円を迎える。一瞬、映画が終わったかのように思わされましたが、経過時間はわずか3分の1ほど。暗転後に描かれる平和な世界に、徐々に宝太郎は違和感を抱いていきます。

これもまた登場人物たちに平和な夢を見させていたクロスウィザードや、彼女を操っている釘宮リヒトの仕業だった。謎の組織・錬金連合の調査官である彼は、『ガッチャード』本編にも登場しており、怪しげな表情や行動が時々映し出されていました。

クロスウィザードの力を取り込んだ釘宮への対抗策として挙げられたのが、上級の錬金術師にしか使えない2枚のライドケミーカード。それらはガッチャードには使えないため、りんねが先程まで見ていた夢の世界へ向かう。

彼女の夢に現れたのは、偉大な錬金術師であった父・九堂風雅。テレビシリーズ第1話の時点で彼は行方不明なので、現状では夢でしか会うことができません。その世界で父親と対峙し、新たに力を託された彼女が、仮面ライダーマジェードへと変身を遂げます。

この場面にいたるまで今作では、守られるだけの自分に対する、彼女の忸怩たる想いが丁寧に描かれてきました。だからこそ、戦う覚悟を決めた彼女が変身する流れには、非常にカタルシスがあります。「この一言で私は変わる。字は、仮面ライダーマジェード!」の台詞には痺れました。

本編に先駆けてお披露目されたマジェードは、公開日まで登場が伏せられていました。マジェードが多くの敵を圧倒する流れは痛快で、映画全体の白眉です。可愛らしいし、カッコいい。りんねを演じている松本麗世さんは、実質的な主役と言っても過言ではありません。

「シリーズ史上初の女性2号ライダー」と謳われているマジェード。後の仮面ライダーガッチャードデイブレイクなどを含め、年末年始に立て続けに投入されたサプライズ要素のうちの一つと思われます。こういったリアルタイム視聴を促すための展開作りは評価すべきでしょう。

しかしながら、さらにパワーアップした釘宮がブラックホールを生み出し、仲間たちはその中に次々と吸い込まれていく。雨の中、宝太郎と英寿が二人で共闘し、何とかして釘宮を倒す。マジェード変身までの流れに感動させられただけに、この終盤の内容は蛇足に感じられました。

本作の黒幕である釘宮は、2000年前から生きている真実が明かされます。デザイアグランプリでのギーツへの恨みから、謎の不老長寿や錬金術を身に着け、クロスウィザードを利用して英寿を誘い出したのでした。

『ガッチャード』未視聴の観客にとっては、執拗に指輪を磨いている人にしか見えません。ただし本編を見ていても、『ギーツ』の世界観を踏まえた正体明かしは唐突に感じられ、かなり面食らいました。いっその事、本編にも『ギーツ』に絡めた描写をガッツリ入れたほうが受け入れやすかったのでは、と個人的には考えました。

正反対の作風

戦闘シーンについては、モンスターやレーザーブーストなど、フォームの多彩さを活かしたアクションにテンションが上がりました。両作品のテレビシリーズに参加した山口恭平さんや、『ギーツ』のアクション監督の藤田慧さんの手腕と思われます。

プロペラバックルまで出番があったのには驚きましたし、ギーツIXとタイクーンブジンソードが出てきたときの安心感は凄まじかったです。

英寿役の簡秀吉さんをはじめ、佐藤瑠雅さん、星乃夢奈さん、杢代和人さん、青島心さんといった『ギーツ』キャスト5人の安定感も素晴らしかった。とりわけ様々な苦難を乗り越え、神になった英寿の姿は逞しく、立ち姿からしてカッコ良かったです。

『ガッチャード』キャストに関しては、本島純政さん演じる宝太郎の「思春期の高校生」感が印象的でした。例えば母親と喧嘩する場面や、英寿に対抗心を抱く描写です。物語ラスト、帰宅した宝太郎は母親に謝る。親子の和解と抱擁で幕を締めるのが、子供をメインターゲットにした作品として好感が持てました。

また今作で特筆すべきは、謎の存在・ギーツケミー。ぬいぐるみの姿が愛らしく、声を当てる白上フブキさんも見事な演技でした。後にその正体が、英寿の亡き飼い犬・コンスタンティンであることが明かされますが、これは『ギーツ』本編で英寿がバイクに付けた愛称を踏まえたものです。

他にも、宝太郎の母親を演じる南野陽子さんの代表作『スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説』(1985)を連想させる仕草や、「赤いきつね」と「緑のたぬき」の唐突すぎるタイアップなど、お遊び的な演出は微笑ましく感じられました。

この映画の脚本を執筆するのは、長谷川圭一さんとともに『ガッチャード』本編を手掛ける内田裕基さん。『仮面ライダーセイバー』(2020-21)や『リバイス』にも参加していましたが、同作で初めてメインライターを務めています。

テレビ本編と通じた作風の本作ですが、『ギーツ』のキャラの描き方に少し違和感を抱きました。『ギーツ』の脚本家・高橋悠也さんが監修してはいるものの、コメディテイストの『映画 仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐』(2023)の雰囲気とも異なり、戸惑いがありました。

さらに物語での最大の疑問は、ケミーという呼称。そもそもタイクーンたち3名は、明確にケミーに変化しているわけではありません。加えて幽霊であるギーツケミーを「ケミー」と呼んでいるのには違和感がありました。

個人的に気になったのが、鞍馬祢音の「作られた命」という呟き。話の本筋に繋がるわけでもなく、この台詞だけ妙に浮いており、『ギーツ』の設定を雑に引用しているように感じられました。『仮面ライダーアウトサイダーズ』(2022-)をはじめ、クロスオーバー作品を多く手掛ける内田さんだけに残念なポイントでした。

総じて『ガッチャード』と『ギーツ』の作風が、水と油のように正反対である点が浮き彫りになった映画でした。どちらも単体で素晴らしい作品には違いありませんが、さすがに食い合わせが悪すぎました。両作品を上手く「ガッチャンコ」できていない、と思わざるを得ません。

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最後に

今後の『ガッチャード』本編でも触れられるであろうエピソードなので、ぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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