『劇場版 銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ』感想:if世界線の完璧な「最終話」

(C)空知英秋/劇場版銀魂製作委員会

銀魂版『バックトゥ・ザ・フューチャー』です。

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作品情報

2006年に放送を開始したテレビアニメ『銀魂』の劇場版2作目。原作は2003年に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まった同名漫画。原作者・空知英秋自ら物語とキャラクターデザインを担当した、完全オリジナルストーリー。杉田智和ら主要キャストが総登場するほか、前作に続いて物語のキーパーソンを山寺宏一が演じる。テレビシリーズに引き続き、サンライズがアニメーション制作を務める。

原作: 空知英秋
出演: 杉田智和 / 阪口大助 / 釘宮理恵 / 磯部勉 / 山寺宏一 ほか
監督: 藤田陽一
脚本: 大和屋暁
公開: 2013/07/06
上映時間: 110分

あらすじ

5年後の未来、謎のウィルスにより総人口の三割は死に絶え、四割は別の星へ移り住む事となった、捨てられた星・地球。未来にタイムスリップした銀時は荒廃した江戸・かぶき町、そして自分の墓を目の当たりにする。未来の銀時の死後、新八と神楽は喧嘩別れし、それぞれで万事屋を営んでいた。世界も万事屋も、いったいどうしてしまったのか? 銀時は、その謎に迫っていく。

劇場版 銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ – 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画より引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

紆余曲折の道のり

今年1月に公開された『銀魂 THE FINAL』で完結を迎えたアニメ『銀魂』。アニメが歩んだ道のりは、他には見られないとても特殊なものでした。2003年から『週刊少年ジャンプ』に連載された漫画を原作にして、2006年からテレビアニメがスタート。ゴールデン枠で放送を開始するも、わずか半年で夕方枠へ移動。原作エピソードに追いつかないようにオリジナルエピソードを挟みつつ、4年間の放送を終了。同時期にシリーズの人気長編を映画化した『劇場版 銀魂 新訳紅桜篇』(2010)を公開しました。

第1期終了後に再放送でつないで、2011年から第2期が放送開始。その間も原作エピソードのストックを貯めるために、休止期間や再放送の期間を設けました。2013年3月に終了した第2期の後に公開されたのが本作。このように、2013年までの系譜を追っていくだけでも、紆余曲折の道のりが伺えます。

前作『新訳紅桜篇』が既に放送した話のリメイクだったのに対して、本作は原作者・空知英秋さんが脚本やキャラクターデザインに携わった完全新作ストーリー。そのタイトルには完結篇と銘打たれています。しかしここに至るまで休止期間をたびたび挟んだこともあり、第150話「長いものには巻かれろ!!」や第252話「ごめんなさい」といった、アニメオリジナルの「最終回」が繰り返し作られました。そのため「どうせ最後じゃないでしょ」といった気持ちを抱いたファンも多いと思います。これこそ本作が「終わる終わる詐欺」と揶揄されるにいたる所以です。

休止期間を挟んでまで作品のクオリティを優先したのは、やはり空知さんによる原作こそが重要な要素として考えられていることが分かります。今作の監督を務めた藤田陽一さんは、休止期間を設けたのはアニメ制作側だけで無理なオリジナルエピソードはやりたくなかったからであり、劇場版の制作時もその考えは一貫して変わらない、と言及していました(※1)。

※1:『劇場版 銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ』パンフレット参照

今回の劇場版は「銀魂が映画化するのであれば、アレをネタにするだろうな」という期待に応えています。アレとは、映画泥棒のことです。2021年現在では新しい映像に変わっておりますが、映画館で映画を観ている人にとってはおなじみの『NO MORE 映画泥棒』。劇場内での撮影・録音や違法ダウンロードに警鐘を鳴らす映像です。作品冒頭で流れるのが、この映像をアニメで完全再現したパロディ。そこでは銀時が画面の向こうに話しかけたり、映画泥棒に謝罪させたりするなど、冒頭から『デッドプール』(2016)で言うところの「第四の壁」(フィクションと現実世界の境界)をぶち破っています。

そしてこの映画泥棒が、実は物語のキーパーソンであることが明らかになります。彼を演じるのは、主人公・坂田銀時の師である吉田松陽も演じている山寺宏一。映画泥棒の正体は、発明家・平賀源外が開発したタイムマシンでした。こういった自由な展開ができるのも、原作者自身が制作に大きく関わっているからこそでしょう。

さらに特筆すべきは来場特典であった三位一体フィルム。序盤に実際のアイテムとして登場したフィルムが、のちに深い意味を持っていくのです。この展開は本当に感動しました。こういった構成力の巧妙さは、さすが『銀魂』といった印象を受けました。

長編としてのバランスの良さ

アニメ『銀魂』は基本的に一話もしくは二話で完結します。本編中で「サザエさん方式」と揶揄されるように、ギャグ中心のレギュラードラマが描かれます。その合間に、定期的に、シリアス色が強い長編が描かれるようになります。序盤はパロディや下ネタが全力で展開されるが、徐々にシリアスに寄っていき、アクションシーンをクライマックスとし、最後に再びギャグで締めるのが特徴。今作にもそういった構成が取り入れられており、本編の長編エピソードと同列として製作されていることが分かります。

冒頭から登場する時間泥棒が盗撮していたのは、万事屋3人が仕事で呼ばれた映画館。そこで上映されていたのは、本作と同時期に公開されていたジブリ映画『風立ちぬ』(2013)をもじった「アレ勃ちぬ」。その設定と絵面のしょうもなさに『銀魂』イズムが表れています。

映画泥棒から放出された光によって、銀時は荒廃した5年後の未来へ飛ばされます。銀時の墓をはさんで、お参りに来たお登勢と銀時が対面する構図。かつてお登勢の夫の墓にお供えしていた大福を食べた銀時が、墓の後ろに隠れていた二人の出会いと同じ構図です。これが観客のエモーションを高まらせます。

荒廃した未来で蔓延しているのは、殺人ウイルス・白詛(びゃくそ)。マスクをつけないと生きられない世の中だと言われています。「ウイルスが無ければこんな世の中になっていない」という考えがよぎってしまうのが、図らずも2020年以降の現実世界と呼応していて辛いです。

上述したくだらない下ネタに加えて、銀時が「珍宝」として活動するための変装道具「はなくそ」などの小学生的な下ネタ、そして様々な時代のコンテンツから引用したネタが序盤から展開されます。例を挙げると『NARUTO -ナルト-』、『宇宙戦艦ヤマト』、『魔女の宅急便』そしてチェッカーズなどなど。中でも私が一番好きなネタは、「ケンタッキー」のアイコン的存在を巻き込んだシーン。テンポ感のいい天丼ギャグから、原作者の頭の回転の凄さと、笑いのセンスが感じられました。この場面をはじめとして、このシリーズは元ネタを知っているほどに面白さが増す作品であることが改めて感じられました。

物語序盤では不仲になっていた神楽と新八だったが、銀時=珍宝の働きかけによって万事屋を再結成することになります。その後の3人の掛け合いには、7年間積み重ねた安定感があり面白いです。前作『新訳紅桜篇』が攘夷戦争時代の戦友3人にスポットが当てられていたのに対して、今作は万事屋3人の絆の強さに焦点が当てられているのです。

この物語こそ『完結編』

この劇場版が本当に完結編であるかの如く、「最終話」的な要素が続々と観られる点が本作の見どころとして挙げられます。

本作の敵キャラ・魘魅(えんみ)。15年前の攘夷戦争からの因縁がある相手。その正体は姿を消していた未来の銀時でした。攘夷戦争のときに魘魅本体を倒したことで、銀時自身がウイルスの依り代となっていたのです。劇場版だからこそできる唯一無二な設定であり、特別感があります。

バックトゥ・ザ・フューチャー』シリーズを模したような、現在から未来へ、そして未来から過去へのタイムスリップ要素も盛り込まれています。終盤の時間軸の仕組みは一見すると分かりにくいように感じました。おそらくこういった時系列で進んでいたと思われます。

銀時が過去へ行ったことで、未来が救われた。

→ 改変された未来で、神楽と新八だけが銀時の存在を覚えている。

→ 二人が尽力して、他の人々に銀時の存在を思い出させる。

→ みんなで銀時が行った過去へと飛ぶ。

こういった展開のあと、攘夷時代の銀時と現在の銀時の共闘が描かれます。一瞬しか描かれませんが、タイムスリップだからこそ実現する、本作でしか見られない場面であることは間違いありません。完結編にふさわしいと思わせてくれるクライマックスです。

戦いが終わった後は、笑いで締めてエンディングに入ります。そこで流れるのは、主題歌『現状ディストラクション』。それだけでなくテレビシリーズ最初のオープニング曲=Tommy heavenly6の『Pray』も流れ、7年間の名場面を振り返る作りになっています。「これは本当に完結編じゃないか。本当に終わらせる気だ。」そう思わざるをえないエンディングでした。しかしながら本作公開から2年後、さらっと第3期テレビシリーズが開始されました。やはりこれも結果的に「終わる終わる詐欺」の一例になってしまったのです。

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最後に

一本の映画として完成度の高い本作。銀魂好きにもそうでない人にもおススメしたい作品です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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