『映画 仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐』感想:現実とリンクした斬新さ

映画「ギーツ・キングオージャー」製作委員会 (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映 (C)テレビ朝日・東映AG・東映

簡さん、役とのギャップあり過ぎ。

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作品情報

2022年9月から放送されている『仮面ライダーギーツ』の劇場版作品。テレビシリーズに引き続き、脚本の高橋悠也とメイン監督の中澤祥次郎がタッグを組む。同時上映は『王様戦隊キングオージャー アドベンチャー・ヘブン』。

原作: 石ノ森章太郎
出演: 簡秀吉 / 佐藤瑠雅 / 星乃夢奈 / 杢代和人 / 工藤遥 / 長田庄平 ほか
監督: 中澤祥次郎
脚本: 高橋悠也
公開: 2023/07/28
上映時間: 60分

あらすじ

突如世界が4つに分裂してしまった!?
それぞれの世界へ飛ばされてしまう桜井景和、鞍馬祢音、吾妻道長、ツムリ。
そして、何故かそれぞれの世界に現れる、どこか様子が違う4人の英寿!?
なんと英寿も4人に分裂してしまったのだ!
その原因とは、未来人によって始められた《世界滅亡ゲーム》。
英寿と世界の危機に、仮面ライダータイクーン、ナーゴ、バッファ、
さらに、ケイロウ・ロポ・パンクジャックも参戦!
奇想天外な展開に現れたのは――黒いギーツ!?
英寿、そして世界の運命はいかに――!?

ストーリー – 映画『仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐』映画『王様戦隊キングオージャー アドベンチャー・ヘブン』より引用
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レビュー

このレビューは『映画 仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐』をはじめとした、『仮面ライダーギーツ』関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

簡秀吉劇場

令和仮面ライダーシリーズ4作目として、2022年9月から放送中の『仮面ライダーギーツ』。数多くの仮面ライダーが登場し、最後まで勝ち残ると願いを叶えられる「デザイアグランプリ」で競い合う。その願いが実現されると参加者たちの記憶は消去され、新しいゲームが開始される。

8月末に最終話を迎えるテレビシリーズは、シリアスムード真っ只中。そんな中で公開されたこの劇場版は、コメディ要素多めに仕上がっています。両者の温度差は凄いですが、テレビシリーズ序盤のような主要キャラの柔らかい表情が見れてホッコリします。

映画冒頭、新しく始まるデザイアグランプリに参加するライダー7名が発表され、最初のゲーム「宝探しゲーム」がスタート。しかしその直後、巨大な樹木が街に現れ、ジャマトと呼ばれる怪人が大量に発生し、人々を襲い始める。

神的な力を持つ主人公・浮世英寿は、仮面ライダーギーツIXに変身し、圧倒的な力でジャマトのボスを倒す。すると世界が4つに分割され、ライダーは各世界に散り散りになった。それだけでなく、なぜか英寿自身も4人に分かれてしまう。

一瞬たりとも隙を見せず、常に飄々とした立ち回りをする完璧人間・英寿。タイトルにもなっている「4人のエース」は、そうしたテレビシリーズで作り上げられた彼のイメージを大きく覆してきます。

仮面ライダーバッファこと吾妻道長は、「力」の英寿に出会う。いま自分が何を食べているのかすら理解していない、語弊を恐れずに言うとバカ。変身せずに敵と戦うし、変身しても銃を使わない。仕舞いには『RRR』(2022)ばりに「馬」になり、終始バッファを困惑させた。

仮面ライダーナーゴこと鞍馬祢音が出会った「知恵」の英寿は、すぐつまずいて転んでしまう運動音痴。また異変を察知したデザイアグランプリのナビゲーター・ツムリが出会ったのは、ラッキーとハッピーしか言わない能天気な「運」の英寿だった。

いずれも「こんなの英寿じゃない!」と叫びたくなる変人たち。今作序盤は、これら4役を演じる簡秀吉さんの独壇場でした。というのも簡さんは、共演者やスタッフから「天然」と言われており、今回の役柄には彼の素の性格が反映されているのです。

個人的に驚いたのは、『ギーツ』開始当初から極秘に決まっていた英寿の輪廻転生設定を、うっかり番組制作発表の場で言ってしまった、というエピソード(※1)。彼の天然ぶりが一発で分かる話だと思いました。

※1:28話 慟哭Ⅳ:絆のレーザーブースト!| 仮面ライダーWEB【公式】|東映参照

仮面ライダータイクーンこと桜井景和が出会った4人目の英寿は、なぜか公園のブランコに座り、なぜかオカリナを吹いていた。彼には力も、知恵も、運もない。劇中では「搾りカス」と揶揄されていました。しかもオカリナの演奏は下手。これも演出ではなく、簡さんの素の演奏なのだそう。

これまでのイメージとは異なる人間味溢れる英寿からは、長期間にわたる撮影を通して、主役を務める簡さんがいかにキャストやスタッフに愛されているのかが伝わってきました。

諦めない心

この「世界滅亡ゲーム」は、神殺しと呼ばれる二人の未来人によって仕掛けられた。お笑いコンビ・チョコレートプラネットの長田庄平さん演じるメラと、『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』(2018-19)に出演していた工藤遥さん演じるメロのコンビ。

サーカスのピエロを彷彿とさせる、カラフルな衣装やセットが目を引きます。ただしそのポップさとは裏腹に、彼らの正体はいくつもの神話を滅ぼしてきた指名手配犯。しかもその様子をタイムレースと称して実況配信する愉快犯です。

「遠い未来に地球は消滅するんだから、ここで消滅させても大した問題じゃない」と言い放つなど、クレイジーぶりが凄い。その場の快楽以外は何も考えていない雰囲気が、本当にムカつきます。長田さん、工藤さんともにハマり役で、悪役としてかなり存在感がありました。

二人によって「力」「知恵」「運」の英寿は、次々と捕獲される。その後4つの世界が一つに戻ると、再びジャマトが大量に出現。この場面では、変身前のライダーたちによるアクションが用意されており、テンションが上がりました。

ギーツがいない中、苦戦するライダーたち。メラは追い打ちをかけるように、3人の英寿の力から誕生した仮面ライダーXギーツに変身し、バッファとタイクーンを一人で圧倒する。シックでカッコいい見た目と、ふざけた言動とのミスマッチ具合が新鮮でした。

このように魅力的な悪役に加え、これまでテレビシリーズに出てきたライダーたちが再登場しているのも本作の見どころの一つです。

今回選ばれたのは、仮面ライダーパンクジャックこと晴家ウィン、仮面ライダーロポこと我那覇冴、そして仮面ライダーケイロウこと丹波一徹の3人。特にケイロウは、腰を痛めた年配の方が変身しているので、心配しつつも素直に応援していました。

他にも仮面ライダーがいる中で、なぜ3人がキャスティングされたのか。それは皆、過去に英寿の言葉に勇気づけられた人物だから。本来の英寿がいなくなった世界で、ライダーたちは彼の言葉を思い出す。それでも世界は、滅亡していく。このシーンの静けさは序盤とは対照的で、非常に絶望感がありました。

世界にたった一人残された英寿は、力も知恵も運もないポンコツ。それでも英寿たらしめる何かを持っていた。それは、諦めない心。ギーツワンネスに変身した彼は、Xギーツと一騎打ちを繰り広げる。このラストバトルには鳥肌が立ちました。

メラを見捨てて一人で逃亡するメロ。それを見逃さなかったツムリは、彼女にキックをお見舞いする。全編通して青島心さん演じるツムリが可愛らしく、その言動一つ一つにキュンキュンさせられます。

戦いが終わって映し出されるエンドロールでは、湘南乃風が歌う主題歌『Desire』が流れます。2023年夏のうだるような暑さを吹き飛ばしてくれる一曲。曲調の疾走感だけでなく、作品のメッセージを直球で伝えている歌詞が素晴らしい。諦めなければ、未来は変わる。

観客を巻き込む演出

7人の仮面ライダー以外にもテレビシリーズに引き続き登場するのが、英寿をサポートする未来人・ジーン。演じている鈴木福さんは過去に、『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』(2021)にも、次元を超越したキャラとしてゲスト出演していました。

今作における彼の立ち位置は、さらに特殊なもの。映画が始まると同時に、ぬいぐるみなどの仮面ライダーグッズが飾られたサポータールームが映し出される。画面の向こうにいる私たちを、デザイアグランプリのオーディエンスに見立てて、基本的な設定を説明してくれます。

先述したとおり物語後半は、笑えないほど深刻な状況に転じていきます。ライダーたちの窮地を見守っていたジーンは、彼らへの想いを込めてコアIDを握りしめていた。

このコアIDは、入場者特典の第1弾として劇場で配布された「仮面ライダーギーツワンネスコアID」です。つまり私たちは、劇中でジーンが持っているアイテムと同じものを手にしています。現実と連動していることで、オーディエンスの一人として、ライダーたちを応援する気持ちは強くなりました。

同じ東映配給作品として『プリキュア』映画も、ペンライトを定番的に配布しています。それを使って、劇中でピンチになったプリキュアを応援できるのですが、その仕組みと全く同じ。玩具戦略の一環でもあるのでしょうが、入場者特典が物語にメタ的に組み込まれているのは、斬新で面白かったです。

さらに映画の最後にも、ジーンは観客に語りかけます。ただしその言葉は、もはやジーンではなく、子役時代から筋金入りの仮面ライダーファンである鈴木さん本人からのメッセージでは?、と思わざるを得ません。箱推し精神は、ぜひとも見習いたいものです。

そしてテレビシリーズと同様に、「仮面ライダーは我々の世界を守っている。」という文言が出て、映画は締め括られる。今後公開予定の映画の予告などが無かったこともあり、綺麗な終わり方に感じました。

脚本を務めた高橋悠也さんが、過去に担当した『劇場版 仮面ライダーエグゼイド トゥルー・エンディング』(2017)と『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』(2020)は、どちらもテレビ本編と密接にリンクしたエピローグでした。

ギーツが「神」と認識されていたり、タイクーンがブジンソードの力を手に入れていたり、本作に関してもテレビシリーズ終盤を想起させます。ですがこの時系列に当てはめると、多少の齟齬が出てきます。

最終話が放送されたら時系列が明かされるかもしれませんが、現時点では曖昧にされています。そのため本編の展開とは切り離して、純粋に一つの作品として鑑賞したほうが楽しめるでしょう。

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最後に

既に来場特典は別のものに変わってしまいましたが、それを抜きにしても、観客みんなで応援せずにはいられない一体感がある映画。『王様戦隊キングオージャー アドベンチャー・ヘブン』と合わせて、ぜひ劇場で観ていただきいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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