『仮面ライダーギーツ』感想:時代性を突き詰めたニチアサの最適解

(C)2022 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

「いい最終回だった。」

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作品情報

「生き残りゲーム」をテーマにした令和仮面ライダーシリーズ第4作。勝者の願いが叶うデザイアグランプリで、主人公・ギーツら多くの仮面ライダーが競い合う。『仮面ライダーゼロワン』の高橋悠也が脚本を担当し、『仮面ライダー鎧武』の武部直美がチーフプロデューサーを務める。

原作: 石ノ森章太郎
出演: 簡秀吉 / 佐藤瑠雅 / 星乃夢奈 / 杢代和人 / 青島心 / 忍成修吾 ほか
演出: 中澤祥次郎 ほか
脚本: 高橋悠也
放送期間: 2022/09/04 – 2023/08/27
話数: 49話

あらすじ

予告なく届けられるIDコアとドライバー。
それを手にしたもののみが参加でき、
優勝者の願いを叶える生き残りゲーム、
デザイアグランプリの幕が開く―
桜井景和は就職活動中の大学生。
ゆるふわっとした彼の考えは、
この競争社会で戦い抜くにはあまりに心もとなく…
思うようにいかない結果を受け、
姉と一緒に蕎麦屋を訪れていると
そこに突然、謎の怪人が現れる。
なんとなく幸せに続くと思っていたこの世界は
今まさに目の前で、
大きな転機を迎えようとしていた

仮面ライダーギーツ | 仮面ライダーWEB【公式】|東映より引用
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レビュー

このレビューは『仮面ライダーギーツ』および関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

「黎明」現代の流行を反映した舞台設定

桃太郎×電車、武士×フルーツ、医者×テレビゲームなど、1999年に復活した仮面ライダーシリーズは、斬新なアイデアを盛り込んだ新作を毎年送り出してきました。令和仮面ライダー第4作にあたる今作『ギーツ』には、特に近年の流行を意識した要素が取り入れられています。

その要素とは、バトルロワイヤル系のサバイバルゲーム。コロナ禍以降、オンラインゲームの流行が世界規模で急激に加速しました。同ジャンルを代表する『エーペックスレジェンズ』や『フォートナイト』が、今回の設定のベースになっています。

『仮面ライダーギーツ』 2022年9月4日(日)スタート! 【毎週日曜】 午前 9:00~9:30 放送

勝てば理想の世界を叶えられる「デザイアグランプリ(デザグラ)」を舞台に、ライダーたちが生き残りを賭けて戦う。「生き残りゲーム」や「多人数ライダー」といった、平成以降のライダーシリーズではお馴染みの要素ながら、それらが本作ではゲームモチーフと上手くハマっています。

バトルロワイヤルものを代表する作品として挙げられるのが、のちの様々な創作物に影響を与えた『仮面ライダー龍騎』(2002-03)。同作に携わった東映の武部直美さんが、同じくライダーバトルを主軸にした『仮面ライダー鎧武』(2013-14)以来、プロデューサーを担当しています。

全49話にわたって脚本を執筆するのは、『仮面ライダーエグゼイド』(2016-17)と『仮面ライダーゼロワン』(2019-20)のメインライターを務めた高橋悠也さん。『エグゼイド』で彼とタッグを組んだ中澤祥次郎さんが、メイン監督を務めました。

「黎明F:ライダーへの招待状」と題した1話では、仮面ライダーギーツに変身する主人公・浮世英寿が、他のライダーを圧倒してデザグラの勝者「デザ神」になる様子が描かれます。エピソードゼロ的な内容やテンポ良い話運び、アクションの見せ方の多様さから、初回への気合いが伺えました。

1話ラスト、英寿が望んだ「俺が世界スターになっている世界」に世界が作り変えられる。次回からは、この新しい世界を舞台に物語が紡がれていきます。

デザグラが終了すると、世界が作り変えられると同時に参加者の記憶が消去される。この感覚は、何度もプレイをやり直しできるゲームのそれに近い。『エグゼイド』でゲームモチーフを物語に華麗に昇華させた高橋さんの手腕により、『ギーツ』にもゲーム要素が多分に盛り込まれています。

「邂逅・謀略」明確な主要キャラと章分け

仮面ライダーたちがバトルを繰り広げる舞台となるデザグラ。参加者の招待から最終戦にいたるまで、その一部始終が描かれる2~9話の「邂逅編」は、『ギーツ』の世界観や登場人物を紹介する役割を担っています。

就活中の大学生である桜井景和は、セレブインフルエンサーの鞍馬祢音と共に、デザグラの参加者に選ばれたことを告げられる。それぞれ仮面ライダータイクーン、仮面ライダーナーゴとして、英寿ら他のライダーとの戦いに身を投じていく。

本編の最後にデザグラのルールが説明されるほか、戦況の変化を即座に反映したオープニング映像の変遷が楽しい。ですがストーリーとしては、中盤以降に明かされる伏線描写が散りばめられているため、『エグゼイド』序盤に近いテンポの遅さが感じられました。

『龍騎』や『鎧武』のようにライダー同士のバトルには比重を置いていません。ジャマトと呼ばれる敵の存在も、それほど重要ではありません。今作の特徴は、決められたルールの下でライダー同士が「競い合う」点。変身後の肉弾戦より変身前の頭脳戦が、強く印象に残っています。

いくつかのゲームで構成されるデザグラ。宝探しやゾンビサバイバル、神経衰弱、缶蹴り、とゲームの内容はバラエティに富んでいます。各ゲームのエピソードは、前後二話で完結する。そのため『仮面ライダーW』(2009-10)をはじめとした、平成2期前半の構成に近いと言えます。

10~16話の「謀略編」では、そんなデザグラの崩壊が始まります。「デザグラの運営者と家族になっている世界」を叶えた英寿は、ナビゲーターのツムリたちと家族になる。「脱落者は理想を願う心を失う」「退場者の面影があるジャマト」など、謎の多いデザグラの闇に迫っていきます。

圧倒的な強さで勝ち続け、幾度となく理想の世界を叶えてきた英寿。忍成修吾さん演じるゲームマスターのギロリは、彼を退場させるためゲームに直接的に関与していく。その不正が明るみになり、プロデューサーのニラムによって消滅させられた結果、グランプリは打ち切りとなった。

回を追うごとにどんどん新キャラが増えていく本作。しかしながら主要キャラは、英寿、景和、祢音、そして仮面ライダーバッファこと吾妻道長の4人に絞られています。

放送開始当初から多人数ライダーを謳っているとはいえ、4人以外のライダーは実質的にはゲスト扱い。逆に言えば4人の戦う動機は分かりやすく色分けされており、それぞれの言動が丁寧に描かれているので、感情移入しやすいと思います。

その弊害として「主要キャラは生き残る」問題は、確かに生じていました。はなから生き残る人物が分かってしまうと、ハラハラ感は途端に失われます。ただしタイクーンの不参加やバッファの消滅などのマイナーチェンジで、そうしたマンネリを解消しようとはしていました。

サブタイトルに明記されているとおり、邂逅や謀略といったように、ストーリーが明確に章分けされています。章ごとに話に区切りがついた構成は、その場その場でガラリと雰囲気が変わる豪華さがありました。毎回演出やゲームルールが大きく変化するため、メリハリがあり面白かったです。

「乖離」画面の向こう側に拡張する世界観

デザグラとは何なのか。誰が何のために開催しているのか。多彩なゲーム性による表向きのポップさに隠されながら、そういった謎や伏線が並行して提示されてきました。

このベールが明かされるのが、謀略編のラスト。デザグラとは未来人の観客のためのエンターテインメントの一種であり、様々な時代を舞台にしたリアリティショーだったのです。序盤から世界観が丁寧に作り上げられてきたからこそ、このどんでん返しには驚かされました。

そこから連なる17~24話の「乖離編」では、グランプリを運営する人々や、各ライダーを応援するサポーターたちが新登場します。敵味方問わず新キャラが出てきて、一気に世界観が拡張します。さらに毎話の展開がスピーディーかつ、しっかりと面白い。

「3.5次元」と呼ばれる遥か未来の存在が、大昔の世界を鑑賞し、ときに自ら干渉して楽しむコンテンツ。この意外性溢れる種明かしには、とてもワクワクさせられました。

別名「デザスター編」とも言われる今章には、参加者の中に運営側のスパイが一人だけ紛れ込んでいる。その人物を当てなければ優勝できないルールは、人狼ゲームに似ています。最終戦を前にその正体が祢音だとバレるのですが、ここで英寿と景和との絆が見られたのが良かった。

また新ゲームマスター・チラミが提案したライダーたちの共同生活は、近年流行しているシェアハウスもののリアリティショーを連想させます。オーディエンスからの支持率が勝敗に影響するのも現代的です。なんといってもチラミ役の山崎樹範さんによる濃い演技に惹きつけられました。

ライダーの活躍を、画面越しにオーディエンスが応援する。この構図は、この番組とテレビの前の視聴者の関係と一致する、という複雑なメタ構造を意味しています。

ジーン、ケケラ、キューン、ベロバらサポーターは特別な観客であり、直接ゲームに介入できないオーディエンスもいます。そうした視聴者とリンクする存在が描かれていることで、私たちもオーディエンスの一人だと錯覚させてくれました。

道長のサポーターであるベロバが天変地異を起こしたため、デザグラは強制終了。緊急特番という体で総集編が挟み込まれます。近年の東映特撮の例に漏れず、ただの総集編に終わらせない構成が巧みでした。

「慟哭・慕情」推し活の線引き

ベロバに加え、ジャマト開発者のアルキメデル、乖離編で脱落した仮面ライダーナッジスパロウこと五十鈴大智らは、デザグラの鍵となる「創世の女神」を奪うために暗躍していた。遂にグランプリを乗っ取った彼らが「ジャマトグランプリ」を開催するのが、25~32話の「慟哭編」です。

続く33~38話の「慕情編」では、世界を作り変えた道長によって、『仮面ライダーギーツ×リバイス MOVIEバトルロワイヤル』(2022)を彷彿とさせるライダーバトル「デザイアロワイヤル」が開幕する。

「推し」や「推し活」は、ここ数年で世間一般に広まりました。ちょうど同時期には、アニメ『【推しの子】』(2023)が大ヒット。その世相を反映するかのように、推しとファンの関係性が、中盤の物語の主題になっています。

応援してくれる人々がいるから強くなれることを伝えた乖離編。それに対して慟哭編と慕情編では、推しに対するファンの過激な言動、といった推し活の負の側面が色濃く描かれます。

また中盤では、ここまで膨大に増えた情報量や登場人物の関係が整理されていき、それに伴い主要キャラ4人のバックボーンが明かされます。いずれもシリアスな設定であり、その残酷さは平成1期を想起させます。

鞍馬財閥の一人娘として育てられた祢音は、実は11年前に亡くなった娘・あかりを模して「創世の女神」が創造した虚構の存在だった。自身のアイデンティティが全否定される、という全編通して最もシリアスなエピソードに思いました。

祢音に嫌悪感を抱いたオーディエンスたちは、容赦なく誹謗中傷の言葉を投げつける。彼女への言われのないバッシングは、現実における推しとファンの関係性への皮肉、あるいは現代人のSNSへの付き合い方に対する警鐘と考えられます。

景和に関しては、サポーターのケケラによって、志田音々さん演じる姉・沙羅がデザグラに参加させられた。「本当の仮面ライダーになるためには、悲劇が必要」と言い続けるケケラの姿は、実際に仮面ライダーシリーズに付き纏う厄介ファンやアンチを連想せざるを得ません。

主人公の英寿は、前世の記憶を保持しながら転生し続けてきた特異な存在だった。彼が探していた母・ミツメが創世の女神である事実を知り、彼女を利用してきた運営に対抗する。慕情編ラストで漸く二人は再会できたが、直後に女神は崩壊してしまう。

色々と都合が悪くなったデザグラ運営は、この世界から撤収する準備を進める。この思考が象徴するように、エンタメのために人命を軽視するなど、未来人は倫理感や道徳心が欠けているように描かれています。

一方では参加者の幸せを願ったり、彼らの成長を支えたりする未来人もいます。全人類の記憶が欲しいと思っていたジーンは、戦いの中で死の恐怖を知り、デザグラへの過度な干渉を止めた。つまりファンの存在自体を否定してはおらず、今作の「推し」への肯定的な姿勢が見て取れます。

「創世・黎明」エモさを追求した幕引き

運営とオーディエンスがいなくなり、39~48話の「創世編」では英寿によるデザグラが始まる。運営側に回った彼は、俯瞰した立場から他のライダーに力を貸す存在になりました。基本的に彼以外の活躍がメインであり、後日譚的なストーリーと言えます。

デザグラへの参加を決めたライダーたちの前に立ちはだかるのは、パラサイトゲームを仕掛ける大智、ブラックカードを手にしたベロバとケケラ、バッドエンドを望む運営のジットとサマス、そしてラスボスのスエル。

序盤で退場した仮面ライダーダパーンやギロリが復活したり、英寿がツムリから「創世の力」を受け継いだり、一般市民同士がライダーに変身して争ったり、とにかく盛り沢山な展開が用意されています。

それと同時に、溺愛する姉を失ったことで自身の願いに向き合う景和や、親との和解を果たす祢音など、『ギーツ』の物語を畳む上で解決すべき課題に対して、しっかりとオチをつけています。景和が願った世界を実現させた結果、さらなる地獄絵図が生まれるあたりは絶望感が凄かった。

しかしながら、かなりの力業で話を畳んでいる印象は否めません。いつの間にか道長が味方になっていたり、鞍馬夫妻の祢音への愛情が急に明かされたり、登場人物の感情の変化には随所に唐突さがあります。頻繁に世界が作り変えられていく点も惜しい。

慕情編までは前後編で話が区切られていましたが、今回だけは例外。それゆえにダレていると思う人も少なくないでしょう。テンポが悪くなっているために、序盤から見受けられた「なんでも台詞で説明しすぎ」な点が浮き彫りになってもいました。

1話と同じく「黎明」を冠した最終話では、スエルが変身した仮面ライダーリガドΩに、タイクーン、ナーゴ、バッファが挑む。そこに「神」になった英寿がやってきて、ギーツに変身。4人揃って初期フォームで共闘する王道展開がアツかった。

戦いが終わり、英寿が叶えた「誰もが幸せになる世界」を生きる登場人物の日常が描かれます。ただしデザグラに関しても英寿に関しても、みんなの記憶には存在しない。「Ace with us」の文言は切ないながらも希望を感じさせます。観終わった後、余韻に浸りたくなる見事な幕引きでした。

物語終盤、物語の理屈が分からない部分はあったものの、展開一つ一つには「エモい」という気持ちになりました。これはおそらく、作品全体の雰囲気やトーンが徹底して管理されていたからこそだと考えられます。

4人の仮面ライダーと1人のナビゲーター

登場人物が多い本作に全話通して出演するのは、主要ライダー4人にナビゲーター・ツムリを加えた5人のみ。彼らを演じる俳優陣の成長が味わえる点は、一年以上かけて撮影されるライダーシリーズの醍醐味でしょう。

主人公の浮世英寿は、まさに「エース様」としか言いようがない完璧人間。常に人を騙すような態度をとっており、本心を表に出しません。とはいえ人懐っこさが見える瞬間もあり、そこは演じている簡秀吉さんならではの魅力だと思われます。

物語が始まった時点で既に絶対的なヒーロー性を持っている人物なので、キャラとしての成長は他と比べて分かりにくい。それでも1話と49話を比較すると、簡さんの顔つきは明らかに変化しています。

彼と同様に物語の鍵を握るのが、青島心さん演じるツムリ。回を追うごとに親しみ深い雰囲気が増しており、その様子がとても可愛らしかったです。特に英寿との掛け合いは良かった。

英寿とは対照的に、桜井景和はいわゆる「普通」の人間。狐と狸のモチーフからして、二人は明確に対比されて描かれています。「平和な世界」を願うお人好しであり、行き過ぎた自己犠牲をしてしまう。両親がジャマトに殺害された過去を含め、主人公的な人物造形がされています。

沙羅との共依存的な関係性や彼の「平和」に対する考え方には、序盤から危うさが垣間見えていましたが、終盤で遂に一線を越えます。最終的に、世界平和を叶えるため地道に試験勉強をしている場面には成長を感じられました。

最初こそ頼りなく見える景和ですが、劇中の彼の成長と同じように、演じている佐藤瑠雅さんの顔つきが如実に変わってきます。闇堕ちしている時の目つきは、本当に怖かった。作品全体を通して最も成長したキャラであると同時に、最も成長した役者さんだと思いました。

星乃夢奈さん演じる鞍馬祢音は、これまでのライダーシリーズにはいない革新的なキャラです。というのもライダーに変身して戦う女性キャラは、程度の差こそあれ「男勝り」な性格に設定されがちでした。

しかし祢音に関しては、最後までふわふわ女子を貫き通しており、その性格のままライダーとして活躍しているのが新鮮でした。元々持っている「その人らしさ」を作り手が尊重していたのが、非常に素晴らしかったです。

そして忘れてはいけないのが、杢代和人さん演じる吾妻道長。親友を消滅させたデザグラを終わらせるため、「全ての仮面ライダーをぶっ潰す力」を願うヒールに徹しています。ただし「ミッチー」呼びが似合う可愛らしさが所々に溢れており、そのギャップが良かった。

終盤には、願いを叶えるために生じた犠牲も自分で背負っていく強い覚悟も見受けられ、間違いなく責任感が強く優しい人物だと感じました。

あと付け加えると、ライダー4人と各サポーターの掛け合いも見逃せませんでした。鈴木福さん演じるジーン、俊藤光利さん演じるケケラ、水江建太さん演じるキューン、そして並木彩華さん演じるベロバ。その関係性は四者四様でしたが、それぞれに異なる魅力がありました。

諦めなければ願いは叶う

『エグゼイド』以来、再び全話の脚本を一人で執筆した高橋悠也さん。その速筆ぶりに驚かされるとともに、敵味方問わず個性的なキャラクターや、シリアスな展開を含めたテーマ性のあるストーリーなど、今回も彼の作家性が色濃く感じられます。

高橋作品の特徴といえば、同作の檀黎斗に代表されるように、最初は味方だった人物が敵になったり、敵だった人物が味方になったりする点。あるいは同作の九条貴利矢のように、一度退場したキャラであっても、視聴者の人気を受けて後に復活する流れも多々見受けられます。

『ギーツ』でも多くのキャラが敵味方を行き来したり、退場と復活を繰り返したりしていました。中でも後藤大さん演じる五十鈴大智は、この作風を象徴する人物です。

デザグラ参加時は自身の策に溺れて脱落し、以降はジャマト側の参謀として暗躍。その後、全人類の記憶を手に入れるため沙羅たちをジャマト化させる、完全な悪に転じました。しかし最終的には、ジャマト農家として味方側に逆転。想定外の方向に進み続ける面白いキャラクターでした。

シリアスなストーリーや多くのキャラの退場や復活といった側面は、『仮面ライダーオーズ』(2010-11)や『鎧武』を手掛けた武部プロデューサーの作風でもあります。つまり今作では、二人それぞれの作風が上手く噛み合っており、相乗効果が生み出されています。

加えて特徴的なのが、エモーショナルなカットに対する「後付け」による理屈づけの巧みさ。言い換えれば、先述したような「エモい」展開に持っていくために、リアルタイムで話を構築していくのが毎回上手いのです。

代表的なのは、オープニング再現です。『エグゼイド』では4ライダー集合を、『ゼロワン』では長髪イズを物語に組み込みました。放送開始時点では、話の全体像が決まっていない場合がほとんど。なのでOP映像は伏線ではなく、ただのイメージ映像に過ぎません。

それでいて高橋さんは、『ギーツ』でも「ツムリに銃を向けられる英寿」を本編に組み込みました。3作品全てで終盤の展開にOP映像の一場面を引用しており、もはや彼の作家性と言えます。

『エグゼイド』の命、『ゼロワン』の夢に続き、『ギーツ』の主題は「願い」。劇中では「諦めなければ願いは叶う」というシンプルかつ明確なメッセージが提示されており、それが最後までブレなかったため見やすかったです。あらかじめ幸せの総量が決まってる世界から、誰もが幸せになれる世界へ変わる、という希望に溢れた物語の着地も素晴らしい。

デザグラのルールを無視したダパーンこと墨田奏斗や、違法カジノディーラーの小金屋森魚など、悪者がちゃんと悪者としての結末を迎えたのは爽快でした。ただし大智は例外なのですが、そこまで彼にムカつかなかったのが不思議で仕方ありません。

過去2作にほとんど無かった日常描写ですが、本作では食事シーン(主にニラム)がたびたび登場します。中華料理やラーメン、恵方巻き、串カツ、エスカルゴにいたるまで様々で、人物の掘り下げというよりは、料理のバラエティの豊かさが面白かったです。

練り上げられたアクションと販促

『ギーツ』に登場するライダーは、みなエントリーレイズフォームを持っています。これがシンプルなデザインながら、統一性があってカッコいい。他のフォームについても、上半身と下半身が入れ替わる奇抜なアイデアを、見事にデザインに昇華させており感動しました。

そんなカッコいいスーツを纏った人々が躍動する戦闘シーンは、この作品において特筆すべきポイント。今作で初めてアクション監督を務める藤田慧さんが、アクションの演出を担当しています。

毎話の戦闘シーンは、バラエティに富んだ武器やアイテムを活用するために趣向が凝らされてました。スタイリッシュながら迫力あるアクションは、『ギーツ』の白眉と言っても過言ではありません。ブーストバックルをはじめ、劇中の強さ設定が終始ブレないのも好印象でした。

藤田さんの推薦で、ギーツのスーツアクターに起用されたのは、テレビシリーズでは初めて主役ライダーを演じる中田裕士さん(※1)。中田さんの卓越した身体能力を活かしたアクロバットは、ギーツの不敗神話の説得力を増幅させていました。

※1:2話 邂逅Ⅰ:宝さがしと盗賊 | 仮面ライダーWEB【公式】 | 東映参照

ライダーシリーズは特撮ドラマであると同時に、玩具の販売促進を目的とした番組でもあります。「スーパーヒーロータイム」および「ニチアサ」枠は、もはやバンダイと切っても切り離せません。

数ある玩具の中でも、今回の目玉はやはり「デザイアドライバー」です。複数アイテムの連動や多彩なギミックに加え、主役以外のライダーにも変身できる、完成度の高いこのベルト。放送開始前には、このベルトを全面に押し出した宣伝が行われていました。

歴代仮面ライダー25人の「変身ベルト®」ポスターが東京駅に出現!!|仮面ライダーおもちゃウェブ|バンダイ公式サイト

ベルトに連動するアイテム「レイズバックル」の扱いも、非常に考え抜かれています。劇中ではまずギーツが新アイテムを使い、その後に他のライダーが使用していました。全ライダー共通のベルトならではの互換性や、デザグラ内で誰でもゲットできる設定が存分に活かされています。

レイズバックルは序盤から多くの種類が登場するものの、それらは毎回ランダムに割り当てられます。なので各アイテムは特定のライダーに固定されません。ギーツが毎回ブーストバックルを使うわけではないし、サブライダーもマグナムバックルやブーストバックルを使います。

途中から登場する強化フォームであっても、販促期間終了後は他のライダーにそのアイテムが引き継がれます。その結果、序盤に登場した主要ライダーの初期バックルが長期間にわたり使用され続け、最終決戦まで活躍の出番が用意されていました。

こうした施策により、「劇中で使用されなくなったアイテムが投げ売りされてしまう」という、シリーズ終盤に現実で起きていた悲しい事態が抑制できていました。

平成2期から令和にかけて、物語と販促のバランスに関して試行錯誤を続けてきたライダーシリーズ。本作の販促描写には、作劇上の強引さは全く感じられませんでした。このバランスは、現状における一つの正解ではないでしょうか。

『リバイス』からの前進

いまやテレビドラマにとって当たり前となった、放送後の見逃し配信。これまでライダーシリーズでは東映特撮ファンクラブ(TTFC)でのみ行われていました。しかし今作からは、TELASAとAmazon Prime Videoで、さらに25話以降はTVerとABEMAでも始まりました。

TTFCでは一部エピソードについて、スタッフやキャストが出演するオーディオコメンタリーバージョンやビジュアルコメンタリーも配信されています。加入しているコアなファンに向けた、良質なコンテンツだと思います。

前作『仮面ライダーリバイス』(2021-22)では、スピンオフ作品を連発したTTFC。対して本作のスピンオフは、『ギーツエクストラ 仮面ライダーパンクジャック』(2023)と『ギーツエクストラ 仮面ライダータイクーンmeets仮面ライダーシノビ』(2023)の2つ。

前者は本編と関係するものの観ていなくても支障のないエピソードであり、後者は他作品のキャラが客演するクロスオーバーものです。本編だけで物語が完結していなかった前作の反省が、このあたりに如実に表れています。

個人的には、公式ホームページの立ち位置も良かった。制作の裏側を毎話ごとに掲載しているサイトですが、今回は『仮面ライダーセイバー』(2020-21)で見られた設定の解説や種明かしがありませんでした。そうした解説がなくとも『ギーツ』は、ストーリーが十分に理解できるのです。

また『リバイス』放送時は、制作現場の労働環境およびセクハラ・パワハラに関する問題が明るみになりました。決して許される問題ではないし、東映は正式にコメントを発表すべきです。現在の東映の姿勢からは、この事態を風化させようとしていると思われても仕方ありません。

この作品はテーマやストーリーに、現代の流行を多く盛り込んでおり、先進性が感じられました。だからこそ東映には、現実に起きたこの件にも早急に取り組んでほしいです。

東映の撮影現場でセクハラと過重労働、「適応障害」と診断の元社員が労災申請「安心して作品作りできない」
東映は、女性に対するセクハラ行為や相談を受けた後の会社側の不適切な対応を認め、謝罪している。

ただし労働環境に関しては、『ギーツ』の劇場版である『映画 仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐』(2023)の現場で、新たな試みが行われました。

「映画制作に携わる人材の就業関係・取引環境の改善を目的として、作品ごとに基準に適合しているかどうか審査を実施し、認定を行う」ため2022年に設立された、日本映画制作適正化機構(※2)。同法人が制定した「日本映画制作適正化認定制度」初の認定作品が、この劇場版なのです。

※2:作品認定制度について – 日本映画制作適正化機構より引用

いわば、撮影時間や休憩時間のルール、安全やハラスメントに関する体制整備が行われていたことの証明です。この施策は評価すべきであり、ライダーシリーズにとって間違いなく大きな一歩でしょう。東映および映像制作の現場全体で、今後もこの流れが続くのを願っています。

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最後に

歴史あるシリーズにおいて、過去作と比較されることが多くなる中、『ギーツ』には時代性を反映した新鮮さがあり、一年間楽しませてくれました。現代を象徴している部分が多いので、いま観ていただきたい作品です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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