映画『ルパン三世』感想:40年ぶりの実写化への挑戦

(C)2014 モンキー・パンチ/「ルパン三世」製作委員会

実写ルパンとして。アクション映画として。

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作品情報

モンキー・パンチの同名漫画を小栗旬主演で実写映画化。所属する盗賊集団のリーダーを失ったルパン三世が、秘宝「クリムゾン・ハート」の奪還に挑む。映画『あずみ』の監督・北村龍平と脚本・水島力也がタッグを組んだアクション大作。

原作: モンキー・パンチ
出演: 小栗旬 / 玉山鉄二 / 綾野剛 / 黒木メイサ / 浅野忠信 ほか
監督: 北村龍平
脚本: 水島力也
公開: 2014/08/30
上映時間: 133分

あらすじ

所有する者は世界を統べると言われる秘宝「クリムゾンハート・オブ・クレオパトラ」を盗み出すため、鉄壁のセキュリティを誇る要塞「ナヴァロンの箱舟」に挑むルパンと仲間たちの姿を描く。

劇場版ルパン三世 | エイベックス・ピクチャーズ株式会社より引用
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レビュー

このレビューは映画『ルパン三世』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

懐の広いキャラクターたち

モンキー・パンチ先生が生み出した神出鬼没の大泥棒「ルパン三世」。日本が世界に誇る人気キャラクターでありながら、半世紀以上にわたる歴史の中で実写作品が作られたのは、たった2回です。

最初の実写化は、主演の目黒祐樹さんや田中邦衛さん、伊東四朗さんらが出演した『ルパン三世 念力珍作戦』(1974)。原作のキャラクターや世界観を無視した内容ゆえに、現在まで語り継がれる珍品です。

その後、今作『ルパン三世』にいたるまでの約40年もの間、実写映像は製作されてきませんでした。ルパン一味のイメージは、テレビシリーズや劇場版といったアニメ作品、およびそれらから派生したゲームやパチンコなどによって形作られています。

長きにわたり実写化されなかった理由の一つは、難易度の高さと考えられます。超人的な身体能力や盗みの技術を持った登場人物や、ハードボイルドな世界観。そうしたアニメ版が築き上げた「ルパン三世」のイメージは、多くの日本人に既に根付いているものです。

そのイメージを三次元で再現するハードルの高さたるや、作り手でなくとも想像に難くありません。正直、大半の人が自分から手を挙げようとはしない題材だと思います。なので今回企画された実写化を引き受けた方々の努力には拍手を送りたいです。

特にメインキャラを演じた5人は、素晴らしい演技を見せています。ルパンを演じるのは、小栗旬さん。5人の中で最もアニメ版に寄せているように感じられました。それでいてコントっぽさやモノマネっぽさは無く、実写映画のリアリティに落とし込んでいるバランス感は見事でした。

ルパンと行動を共にするのが、玉山鉄二さん扮する次元大介と綾野剛さん扮する石川五ェ門。二人に関しては、役者自身の佇まいが活かされており、見た目の再現度が非常に高い。ルパンたちを追う銭形警部を演じる浅野忠信さんも、彼ら同様にダンディな雰囲気を醸し出していました。

一方、主要人物の中で最もイメージを変えているキャラと言えるのが、黒木メイサさん演じる峰不二子です。妖艶さを武器に男たちを誘惑する従来の不二子像とは異なり、劇中では身体能力を駆使して敵と直接闘っていました。

上述したメインキャラたちには、「これはこれでアリ」と思わせる新鮮な魅力がありました。というのも「ルパン三世」は、長い歴史の中で様々な作り手によって、多種多様な人物造形や世界観の作品が生み出されてきました。

例えば、劇場版1作目『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978)と2作目『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)を比較してみても、両作の作風は全く異なります。つまり「ルパン三世」というコンテンツには、色々な作風を受け入れる懐の広さがあるのです。

ルパンらしさへの挑戦

「ルパン三世」を象徴するものといえば、『ルパン三世のテーマ』をはじめとした大野雄二さんによるアニメ音楽が代表的です。今回の実写化は、当初はアニメ版を放送する日本テレビとタッグを組みたかったものの、断られてしまったのだそう。

そのため同局が版権を持っている音楽は使用できません。大野さんが多忙のため参加できないので本作への使用は断念した、と言われていますが、実際のところアニメ音楽の版権も、多かれ少なかれ関係していると推測してしまいます。

そういった中、半ば強行突破的に作られたこの映画。その理由として大きいのは、企画にクレジットされているKADOKAWAの池田宏之さんの熱意です。反対意見が溢れる中、一年以上かけてプロデューサーなどを彼が口説き落としたことで、企画の実現にいたりました。

プロデューサーの山本又一朗さんは、「最初はこれはやれないでしょうと断ってたんです。袴をはいて、刀を持っているような男が通りを歩くような現代劇なんて漫画独自の世界であって実写映画では作れないよってね。でも昨今の映画をいろいろと観てきて、(中略)ルパンもありだよな、と思うようになった」と語っています(※1)。

※1:それでも実写『ルパン三世』を作るワケ 監督&プロデューサーが語る「逆風覚悟の挑戦」 | 映画界のキーパーソンに直撃 | 東洋経済オンラインより引用

ストーリーは映画のために書き下ろされており、ルパンと銭形、次元が初めて出会う、ルパン一味誕生にまつわる物語です。様々な国籍の人物が登場するだけでなく、シンガポールや香港、タイなどアジアを横断しながら話が展開されます。

大盗賊団「ザ・ワークス」のリーダーであるドーソンは、次期リーダーを発表するため、ルパン三世や峰不二子、マイケル・リー、次元大介といった名だたる泥棒たちを呼び寄せる。そこでドーソンは暗殺され、秘宝「クリムゾン・ハート」が奪われた。ルパンたちはドーソンの遺志を継ぎ、秘宝奪還に向けて動き出す。

懐の深い「ルパン三世」とはいえ、歴代の映像作品に共通する「ルパンらしさ」からは、かなり逸脱しています。ルパンは盗賊団に所属しており、仲間たちと泥棒技術を競い合っています。私たちが知るルパンは、孤高の大泥棒。集団で行動しているのが、彼らしくありません。

次元、不二子、五ェ門のほかに、キム・ジュンさん演じる巨大なルービックキューブが印象的なピエールや、彼の知り合いである天才ハッカー・ヨゼフなど、いくつもの新キャラがルパン一味として共に行動しています。

また序盤で敵対していたジェリー・イェンさん演じるマイケルとも和解し、仲間になりました。こうした一味の大所帯感が、多くの観客との間に認識の齟齬を起こしていると思われます。

後に作られる『ルパン三世 PART 4』(2015-16)ではレベッカが、『ルパン三世 PART 5』(2018)ではアミが、新キャラながらレギュラー出演していますが、どちらもルパン一味とは一線を引いた関係性にあります。今回のように、同列に描くと違和感が生じるのが明らかだからでしょう。

吹替と口パク

ルパンシリーズにしては珍しく、今作はアクション映画です。監督は、『ゴジラ FINAL WARS』(2004)の北村龍平さん。水島力也名義で脚本を兼任しているプロデューサーの山本又一朗さんと、映画『あずみ』(2003)以来、再びコンビを組んでいます。

オープニングのワイヤーアクションやタイでのカーアクション、クライマックスの大爆破など、いくつも見せ場は用意されています。ただし五ェ門の斬鉄剣で斬られたハマーは、真っ二つになりません。リアリティを追求したのかもしれませんが、どうしても物足りなさを感じてしまいました。

他にもハッキングした際にルパンのアニメーションが使われていたり、フィアット・500や緑ジャケットが出てきたり、「裏切りは女のアクセサリー」などの名台詞が散りばめられていたりします。しかしこれらの目配せは、形式的な「ルパンらしさ」の寄せ集めにしか思えませんでした。

また「ルパン三世」であることを抜きにしても、話に突っ込みどころが散見されます。物語の構成が悪く、ストーリーが間延びしているのです。特に中盤のバイセル会場の件あたりは、ハラハラさせるための見せ場なのかもしれませんが、とにかくテンポが悪かった。

さらにクライマックスには、敵のボスに銃を突きつけられ、ルパンは絶体絶命の状況に陥ります。そこに銭形とともに、タイの現地警察がやってきて万事解決。主人公自身が何もしないまま解決する、というモヤモヤした終わり方で幕を締めます。

そして全編通して最も気になったのが、口パク感。日本語以外を話すキャラが多く登場するので、彼らの台詞は日本語キャストによって吹き替えられています。それだけでなく小栗さんをはじめとした、元々日本語を話すキャストに関しても、吹替用に音声だけを改めて別撮りしているように思われます。

というのも、口の動きと台詞が嚙み合っていない箇所が多々ありました。最後まで拭えなかったこの「口パク感」が、鑑賞中における最大のノイズでした。

ちなみに本作には「ワールドプレミアver.」と呼ばれる音声が存在します。配信サービスにはないものの、DVDやBlu-rayには対応字幕とともに収録されています。このバージョンではおそらく、私が抱いた違和感は解消されているのでしょう。

ここまで否定的な感想を書きましたが、アルド・シュラクさんによる劇伴はカッコよく、布袋寅泰さんが書き下ろしたメインテーマ『TRICK ATTACK -Theme of Lupin The Third-』も素晴らしいですし、それが流れるエンディング映像は良かったです。

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最後に

ストーリーはともかく、主要キャラ5人には確かに魅力がありますし、玉山さん扮する次元に魅入られるのも頷けます。今年配信予定の『次元大介』をより一層楽しむために観てみるのもいかがでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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