『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』感想:万人向けの王道エンタメ

(C)2023「劇場版 SPY×FAMILY」製作委員会 (C)遠藤達哉/集英社

フリジスに行きたい。メレメレを食べてみたい。

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作品情報

2022年に開始したアニメ『SPY×FAMILY』シリーズ初の劇場用作品。原作者・遠藤達哉が監修した完全オリジナルストーリーが展開される。おなじみのキャストが集結したほか、中村倫也や賀来賢人がゲスト出演。WIT STUDIOとCloverWorksが共同で、アニメーション制作を担当する。

原作・監修・キャラクターデザイン原案: 遠藤達哉
出演: 江口拓也 / 種﨑敦美 / 早見沙織 / 松田健一郎 / 中村倫也 / 賀来賢人 ほか
監督: 片桐崇
脚本: 大河内一楼
公開: 2023/12/22
上映時間: 110分

あらすじ

世界各国が水面下で熾烈な情報戦を繰り広げていた時代。
西国の情報局対東課〈WISE〉の敏腕諜報員の〈黄昏〉ことロイド・フォージャーがいつものように任務に当たっていたところ、進行中のオペレーション〈梟〉の担当を変更する、という指令が。
しかし新たな担当に選ばれたのは、無能な男だった――。
その頃イーデン校では、優勝者に〈星〉が授与されると噂の調理実習が実施されることに。少しでもオペレーション〈梟〉の進展を示し〈WISE〉へ任務継続を交渉する為、ひいては世界平和を守る為、ロイドは審査員長を務める校長の好物である“フリジス地方”の伝統菓子≪メレメレ≫を作ることをアーニャに提案。本場の味を確かめるため、フォージャー家は家族旅行でフリジスへ向かうことに。その一方でヨルは、出発前にロイドと謎の女のやりとりの一部始終を目撃してしまい、仮初めの関係に一抹の不安を覚えながらの家族旅行となってしまう……。
そんな家族旅行の途中、列車内でアーニャは怪しげなトランクケースを発見。その中にはなぜかチョコレートが……。不思議に思っていると、トランクケースの持ち主が戻って来てしまい、驚いた拍子にアーニャは誤ってそのチョコレートを飲み込んでしまう……。ところが、そのチョコレートには世界平和を揺るがす重大な秘密が隠されていた――!?
そしてたたみかけるように、旅先で起こるハプニングの連続!!
世界の命運は、またしてもこの仮初めの家族に託されてしまった――。

『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』大ヒット上映中より引用
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レビュー

このレビューは『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』および関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

売れるべくして売れた人気作

近年、ヒット作や話題作を次々と輩出している漫画アプリ『少年ジャンプ+』。同アプリにて2019年から隔週連載されている遠藤達哉さんの『SPY×FAMILY』は、閲覧数やコメント数など、いくつもの記録を塗り替えた大ヒット漫画です。

[1話]SPY×FAMILY - 遠藤達哉 | 少年ジャンプ+
※一挙公開!キャンペーン期間:1/14まで※ 『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』絶賛公開中! 凄腕スパイ<黄昏>は、より良き世界のため日々、諜報任務にあたっていた。ある日、新たな困難な司令が下る――…。任務のため、仮初...

『ジャンプSQ』に2018年に掲載された読み切り漫画『I SPY』の好評を受けて企画された同作は、スパイを題材にしています。スパイの男、殺し屋の女、超能力者の少女。各々の利益のため、赤の他人だった3人が仮初めの家族を築き、「普通」の日常を送るために奮闘するコメディです。

2022年のテレビアニメ化以降、作品の人気は加速。翌年10~12月にSeason 2が放送され、同時期には初の劇場版が公開されました。公開前後には数多くの広告やタイアップが実施され、人気の高さが分かると同時に、この映画の推されっぷりが見て取れます。

物語の舞台は、世界が東国と西国に分かれ、水面下で熾烈な情報戦が繰り広げられていた時代。江口拓也さん演じる主人公・コードネーム〈黄昏〉は、西国組織「WISE」の敏腕スパイとして、東国で諜報活動を行っていた。

〈黄昏〉に新たに命じられた任務は、東国の国家統一党総裁との接触を目的とした「オペレーション〈梟〉」。彼が公に姿を現すのは、息子が通う名門校・イーデン校の懇親会のみ。ゆえに〈黄昏〉は、精神科医ロイド・フォージャーを装い、偽りの妻と子供を作るのだった。

ロイドはアーニャと呼ばれる孤児を引き取るが、その少女は他人の心が読める超能力を隠していた。そこに早見沙織さん演じるヨルを妻として迎え、フォージャー家として一緒に暮らし始める。市役所で働いている彼女も、凄腕の殺し屋という裏の顔を隠していた。

秘密を持った3人の思惑が交差し、ときにすれ違うコメディ的な面白さがある『SPY×FAMILY』。各々の素性が、いつバレてしまうのか。もしバレたら、この関係はどうなってしまうのか。こうしたハラハラもまた、同作の魅力の一つです。

さらにスパイや殺し屋といった設定を活かした、アクション的な見せ場が作中には用意されており、エンターテインメントの王道的な要素の詰め合わせと言えます。

何より最大の魅力は、アーニャのキャラクター性でしょう。超能力こそあれど、4~5歳の少女。なので喜怒哀楽が豊かで、よく言い間違いをしてしまう。子供たちを中心に人気が出るのも頷けるキャッチーさがあり、種﨑敦美さんの好演も相まって、非常に可愛いキャラに仕上がっています。

ただし原作者の遠藤さんは、「キャラに愛着がゼロ」と語るまでに、自身の趣向よりも人気が出そうなキャラ造形を行ったのだそう(※1)。その姿勢自体が、とてもカッコいい。しかも目論見どおり大ヒットを飛ばしているのは、見事としか言いようがありません。

※1:『SPY×FAMILY 公式ファンブック EYES ONLY』より引用

初心者も楽しめるアニオリ

テレビアニメの劇場版といえば、あくまで番外編的な立ち位置として作られるのが、一昔前までの主流だったと思われます。例えば『ONE PIECE』や『NARUTO -ナルト-』。元の世界観とは離れたオリジナルストーリーやゲストキャラに対し、賛否が分かれることも多々ありました。

一方で『名探偵コナン』の劇場版は、シリーズ第1作から原作者が製作に携わっていました。また『ONE PIECE』も、『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』(2009)を皮切りに原作者が携わるようになります。いずれも映画一つ一つが、シリーズ全体で重要な立ち位置を担うようになっていきます。

その潮流を決定的にしたのが、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020)。テレビシリーズから地続きの原作エピソードを映像化し、日本映画史に残るヒットを記録しました。

その後、テレビシリーズの完結編である『銀魂 THE FINAL』(2021)や、テレビシリーズの前日譚である『劇場版 呪術廻戦0』(2021)が公開されます。どちらも原作を補完しつつ、テレビ本編と密接に関わる内容で、観客が本編を見ている前提で作られていると言ってもいいでしょう。

上述した『週刊少年ジャンプ』系作品の他にも、『映画 五等分の花嫁』(2022)『かぐや様は告らせたい-ファーストキッスは終わらない-』(2022)も同様の傾向にありました。

人気作『SPY×FAMILY』初の劇場版である今作ですが、そうした近年の潮流とは異なります。原作者監修のオリジナルストーリーではあるものの、シリーズ全体の縦軸には一切絡みません。アクションやコメディなど、作品の特徴を2時間に詰め込んだ真っ当なスピンオフです。

特筆すべきは、テレビシリーズを観ていない人でも楽しめる点。脚本の大河内一楼さんは、「この映画を入り口に「SPY×FAMILY」の世界に入ってきてくれる人が増えるといいな」と語っています(※2)。名前は聞いたことがあるが、中身は知らない。そんな門外漢でも世界観を理解できる親切さが感じられました。

※2:入場者特典『『SPY×FAMILY CODE: White』Film Files』より引用

映画冒頭では、各キャラの人物紹介が行われる。それと同時に、ロイドは「オペレーション〈梟〉」の解任を告げられ、ヨルはロイドの浮気現場らしき瞬間を目撃してしまう。仮初めの家族に危機が迫る中、調理実習を控えるアーニャのため家族旅行へ出かける、というのが本作のストーリー。

劇中では婚約指輪を渡すシーンなど、テレビシリーズの場面が回想で使用されていました。正直シリーズを観ている人にとっては不要ですが、初心者に対して配慮した演出と考えられます。また出番は少ないながら、主要キャラが全員登場する点が個人的には嬉しかったです。

テレビシリーズでは、Season 1後半のオープニング映像に代表されるように、料理が美味しそうに描かれているのが印象的でした。今回の劇場版でも、物語のカギとなるスイーツ「メレメレ」から犬の餌にいたるまで、とにかく美味しそうなのです。

加えてスクリーンいっぱいに広がる雪景色も美しかったです。こうした作画の安定感は、WIT STUDIOとCloverWorksの成せる業ではないでしょうか。

第二次世界大戦後のヨーロッパをモデルにしていると言われる『SPY×FAMILY』。当時を意識したファッションや建築物の美術がオシャレに思います。衣装デザインを務めた石田可奈さんによる劇中の冬衣装も魅力的なものばかりでした。

安定感と既視感

無事にヨルの浮気疑惑も晴れ、フォージャー家は家族旅行を楽しんでいた。そんな中でロイドは、同僚のフィオナからミッションを言い渡される。ターゲットは、西国の軍情報部大佐・スナイデル。序盤で訪れたレストランで、ロイドたちからメレメレを奪った人物だった。

またアーニャは行きの列車で、スナイデルが狙うマイクロフィルムを吞み込んでしまう。そのとき彼女は、大佐の部下であるドミトリとルカと出会っていた。二人に声を当てる中村倫也さんと賀来賢人さんは、全く違和感がない好演をしており、絶妙なポンコツ感を醸していました。

『クレヨンしんちゃん』らしい要素が見受けられる今回の劇場版。よく考えればフォージャー家の家族構成は、未来予知能力を持つ犬のボンドを含め、野原家のそれとほぼ一致しています。

さらに特筆すべきは、敵に捕らわれたアーニャが、マイクロフィルムを奪われないために便意を我慢する、しょうもない攻防戦。唐突に画面全体がクレヨンタッチに変化し、千葉繁さん演じる「うんこの神」が出現する。何が起こっているのか分からないトリップ感は、間違いなく今作の見どころの一つです。

同様に『名探偵コナン』らしい要素も見受けられ、正体を隠しながら事件の解決に向けて奔走するさまは、工藤新一を連想させます。何なら『SPY×FAMILY』は、3人ともが秘密を隠して別々に行動する。その複雑な設定を破綻させず、一本の映画にまとめた脚本の手際は素晴らしい。

本作最大の見せ場は、ヨルと秘密兵器「タイプF」の戦闘シーン。燃え盛る飛行船の中を縦横無尽に駆け回るヨルを、グリグリと視点を動かしながら追いかけていきます。圧倒的な枚数の作画で作り上げられたこのクライマックスは圧巻でした。

なんやかんやあって、マイクロフィルムはロイドが無事に救出します。上司シルヴィアの根回しもあり、「オペレーション〈梟〉」の解任の話も無くなり、全てが一件落着。調理実習のスイーツを作る計画を、一家3人で新しく立てる場面で物語は幕を締めます。

一件落着とはいえ、物語のスケールが大きくなるほど、「なぜ正体がバレないのか」という疑問は強まっています。ロイドの運転技術しかり、ヨルの常人離れの身体能力しかり。最後までその疑問が消えることはありませんでした。

最後に付け加えると今回のストーリーは、Season 2で放送した「豪華客船編」と多少似ているように感じられます。どちらも家族旅行の道中で、互いにバレないようにスパイや殺し屋としての活動をする話。近々に放送していたのもあって既視感がありました。

確かにこの映画は、観なくても成り立つ番外編ではあります。しかしながら作品らしさが高いクオリティで凝縮されており、『クレヨンしんちゃん』や『名探偵コナン』と同じく全世代に対応しています。ヒット作の劇場版として「これで良いんだよ」と言える、丁度いい内容でした。

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最後に

この季節にピッタリな、どの世代にもオススメできるファミリームービー。シリーズを知らない人にこそ、ぜひ観ていただきたい作品です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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