安倍なつみ版『時をかける少女』感想:作品の骨子を露呈した短編

(C)2002 共同テレビジョン TBS (C)2002 hachama inc.

『時をかける少女』映像化の第6弾です。

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作品情報

1965年に発表された筒井康隆による同名小説を、安倍なつみ主演で短編ドラマ化。TBS系列『モーニング娘。新春! LOVEストーリーズ』内で2002年に放送された。同じくモーニング娘。のメンバーが出演する『伊豆の踊り子』『はいからさんが通る』との3本立て。

原作: 筒井康隆『時をかける少女』
出演: 安倍なつみ / 内田朝陽 / 永山毅 ほか
演出: 小野原和宏
脚本: 寺田敏雄
放送: 2002/01/02

あらすじ

期末テストも間近に迫ったある土曜日、高校生の芳山和子(安倍なつみ)は理科の実験室で気が遠くなり倒れてしまい、気がついたときには保健室に運ばれていた。この日から、和子の不思議で、切ない体験が幕を開けた。

DVD『モーニング娘。新春! LOVEストーリーズ』パッケージより引用
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レビュー

このレビューは安倍なつみ版をはじめとした、歴代『時をかける少女』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

時のトップアイドル「モーニング娘。」

後に第一線で活躍する俳優たちを輩出している『時をかける少女』は、若手の登竜門として何度も映像化されてきました。今作が作られた2002年に注目すると、わずか5年前に実写映画が公開。さらにその3年前には、フジテレビ系でドラマが放送。数年に一度という驚異のペースで、新作が製作されていたのです。

今回主役を演じるのは、モーニング娘。の中心メンバーだった安倍なつみさん。1997年に結成したモー娘。は、『LOVEマシーン』や『恋愛レボリューション21』といったメガヒット曲を次々と生み出し、一躍してトップアイドルグループに。バラエティへの出演やユニット曲など、多方面に活動の幅を広げていました。

2002年の正月に、ドラマ特番『モーニング娘。新春! LOVEストーリーズ』は放送されました。前年には『ザ☆ピ~ス!』をリリースし、5期メンバーが加入。まさにグループがノリにノっていたタイミングに製作されたと言えます。

番組の内容は、モー娘。メンバー総出演で、有名な恋愛小説を3つドラマ化するというもの。このコンセプト自体、時のトップアイドルだからこそ成立する贅沢な企画と考えられます。

その企画内で『伊豆の踊り子』『はいからさんが通る』とともに、『時をかける少女』もドラマ化されました。原作の選定理由は定かではありませんが、おそらく主演の3人(後藤真希さん、石川梨華さん、安倍なつみさん)のイメージに合致する小説をあてがったのではないかと推測します。

また過去の時かけ映像作品と比較すると、駆け出しの俳優を主人公に起用していない点が一線を画しています。既に世に知られているモーニング娘。の存在によって成立しているこの企画。そのためか彼女たちをいかに魅力的に映し出すかに重点が置かれています。

安倍さんの他にも、飯田圭織さんと加護亜依さんが出演しているこのドラマ。メンバー以外の役には、経験豊富な実力者たちが顔をそろえています。個人的には深町夫妻を演じる伊東四朗さんと市毛良枝さんが醸し出す、柔らかい雰囲気が好きでした。

舞台となるのは、21世紀最初のクリスマスシーズン。寒空の下、サンタのコスプレをした高校3年生の芳山和子が、クリスマスケーキ予約受付のバイトをしている場面から物語は始まる。

期末試験を直前に控えたある日、科学室を掃除する和子。何者かの気配を感じ、科学準備室へ行くと、黄緑色の液体が入った試験管を発見する。ふとした瞬間に液体が手に付いてしまったことで、不思議な能力を手にした彼女は床に倒れてしまう。

尺不足な恋愛譚へ

上述したように、「お決まり」の導入から始まる本作。歴代の映像化を通して恋愛物語のイメージが強くなっている『時をかける少女』ですが、今回も例に漏れず、ラブストーリーが話の主軸に設定されています。

今作の主人公の造形は、1983年に公開された大林宣彦版の芳山和子像と、世間一般のいわゆる「アイドル」像が混ざり合っているようでした。

同級生の深町一夫が変態に絡まれる和子を助け出す件や、和子が深町に対して抱く恋愛感情のトリック、深町の着ているパジャマ。大林版から引用したと思われる要素は少なくなく、脚本を作るうえで参考にされているのは明白です。

そして原作同様に、彼女は「ちゃんと手を洗うのよ」と幼馴染の浅倉吾朗を子ども扱いします。過度なしっかり者として描かれていると同時に、フィクション性の強いキャラクターに感じられる印象的な場面でした。

対照的に過去の映像化にはない特徴が、アイドル映画の側面があるところ。例えばお風呂に入りながら深町を想うカットや、野毛山動物園にデートへ行く展開。いわゆる「アイドルらしい」表情や仕草をする和子を、当時現役アイドルだった安倍さんが見事に演じています。

こうした二つの側面が合わさることで今回の和子からは、理想化された「ヒロイン」といった雰囲気を強く感じました。

ストーリーに関しても、クリスマスをはじめとした舞台設定の大半が本作オリジナル。とはいえ大まかな流れは、原作の起承転結を踏襲しています。

期末テスト当日に地震が起こり、間もなくして吾朗の実家で火事が発生。時かけを知っている人にはお馴染みの「繰り返される一日」です。翌朝、校舎の窓ガラスが和子の頭上に落ちてくる。その瞬間に彼女は、前日にタイムリープするのだった。

全く同じ一日を経験した和子は、落下してくる窓ガラスから吾朗を守った。そこで唐突に、幼い頃に偶然聞いた深町夫妻の言葉「子供はいない」が、フラッシュバックする。急いで会いに行った深町から「僕を助けて」と言われた彼女は、ラベンダーの香りを嗅がせられる。

和子が行き着いた科学室にいた深町は、自身の未来人であることを明かす。彼がやってきた未来の現状やタイムリープ能力について、淡々と説明していく。

この種明かしは画面的に代わり映えが無く、説明台詞のみに頼っているため退屈に思われます。加えて長尺でありながら、使われている言い回しが理解しにくい。もしかしたら尺の都合で終盤までの「フリ」が短いため、彼の説明の飲み込みにどうしても時間を要したのかもしれません。

このドラマの長さは、およそ40分。歴代の時かけの中で最も短い作品となっています。そのため全体的に駆け足なストーリーという印象は拭えません。時かけの物語の中で重要な展開のみを掻い摘んで、そのまま繋ぎ合わせたように見え、残念に思いました。

時かけらしさの骨子と呪縛

深町家に設置されているビニールハウスのように、非常にこじんまりとした話であり、全体的に尺不足な本作。裏を返すと時かけの要素が、ギュッと凝縮されている作品と捉えることもできます。つまり時かけのパブリックイメージが、改めて浮かび上がったドラマでした。

時かけと言えば、タイムリープというSF的なギミック。和子が偶発的に得たタイムリープ能力には、タイムパラドックスの危険性が常に付きまといます。時間移動の形跡を残したり、歴史改変をしたりするなどの行動は、決してやってはいけない御法度です。

しかし作品によっては、別れ際に記憶を消そうとする深町の優しさが垣間見れる展開もあります。言うなれば歴史改変には影響しないほどの思い出づくり。その展開に際して、時を後世に残す「写真」がキーアイテムとして用いられる場合も多く、ストーリーの重要なポイントになっています。

とりわけ今作は、歴史への干渉のルールに対して甘め。深町との思い出を残すために、和子は彼が身分証として身に着けていたペンダントを貰う。

またクリスマスイブ当日、二人暮らしの深町夫妻のもとにケーキが届けられる。物語序盤に深町がケーキ代を前払いしていたのは、これが狙いだったのかもしれません。お世話になった両親へのクリスマスプレゼントの仕掛けにはホロッときてしまい、とても感動するシーンでした。

そしてなんといっても主人公の悲恋が、ストーリーと強く印象付けられています。タイムリープの記憶が消えた数年後、志望通りに看護の勉強をしている和子と、再び未来からやってきたと思われる深町は出会う。ただし記憶が無くなった二人は、互いにその正体を知らない。

和子の初恋の行方は、各映像化によって大きく異なります。しかし多くの作品に共通しているのは、深町の喪失に対しての悲しさが残るラスト。青春時代を終えて、成長を遂げた彼らがエピローグに映し出されるのも、さらに喪失感を増長させます。

時間がテーマな作品であるだけに、時の有限性と不可逆性を残酷なまでに映し出すあたり、鑑賞後に一抹の寂しさが感じられます。悲恋性こそ、視聴者が「時かけ」と聞いて真っ先に連想する時かけらしさではないでしょうか。

大林版のヒットをきっかけに、映画やドラマに何度も翻案されてきた時かけ。舞台設定や物語の改変に対する自由度は高く、時代に沿ってその姿を変えつつ、青春小説のクラシックとして一般に定着してきました。

それに対して和子と深町のラブストーリーという、パブリックイメージは時代を経るごとより強固になっていきました。それはまさに時かけの呪縛と言えます。このドラマの4年後に公開される新たなる『時をかける少女』によって、そのイメージは一気に塗り替えられることになるのです。

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最後に

この作品に関してはDVDで発売されたっきり、ブルーレイ化や配信はされていません。視聴するのが容易ではないですが、当時のモー娘。の雰囲気を存分に感じられる本作は、一見の価値がある作品だと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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