まさかまさかの続編。
作品情報
2019年に公開した実写映画『かぐや様は告らせたい~ 天才たちの恋愛頭脳戦~』の続編。『週刊ヤングジャンプ』に連載された赤坂アカによる人気漫画を原作とし、主人公二人による恋の駆け引きの決着を描く。キャストをはじめ、監督や脚本など主な製作陣は前作から続投する。
原作: 赤坂アカ『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』
出演: 平野紫耀 / 橋本環奈 / 佐野勇斗 / 浅川梨奈 / 影山優佳 ほか
監督: 河合勇人
脚本: 徳永友一
公開: 2021/08/20
上映時間: 116分
あらすじ
恋愛は戦—。「好きになったほうが負け!」の“恋愛頭脳戦”がついに決着!!
【90秒最新予告】『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナル』予告<2021年8月20日(金)公開> – YouTubeより引用
日本を代表する良家の子女と子息が通う、私立・秀知院学園。
その最高ランクに位置する生徒会において、学園史上最も白熱する戦いとなった『第68期生徒会長選挙』。白銀御行(平野紫耀)と四宮かぐや(橋本環奈)の選挙戦は終結したものの、二人の恋愛頭脳戦には決着がつかないまま幕を閉じたー。
新メンバー・会計監査の伊井野ミコを加え、再び集結された生徒会。
変わらず好き合っているが、告白できずにいる白銀とかぐやは、未だ、「自分から告白したほうが負けである――!」という呪縛から逃れられず、神聖なる生徒会室で“いかにして相手に告白させるか”の恋愛バトルを繰り広げていた…。
そして迎えるは、学園の2大イベント、《体育祭》と《文化祭》。
今度こそ相手に“告らせる”ことができるのか?!果たして、二人の恋の結末はー!?
レビュー
このレビューは『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナル』および関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
実写版ならではの笑い
赤坂アカさんの漫画『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』は、2022年まで『週刊ヤングジャンプ』で連載され、物語を完結させました。名門高校を舞台に、生徒会副会長の四宮かぐやと生徒会長の白銀御行が、相手に告白させるために頭脳戦を繰り広げるラブコメディです。
2019年に同作を実写化した『かぐや様は告らせたい~ 天才たちの恋愛頭脳戦~』が公開。心理戦を描いた一話完結のストーリーという、実写映画化に向いていない題材ながら、興行収入22.4億円を数えるヒットを記録します。
それから2年後に製作されたこの続編は、「ファイナル」と銘打たれている完結編。当時まだ連載中だった漫画に先駆けて、『かぐや様』の物語の結末が描かれます。
前作は当時の流行りを取り入れながら、原作のファンや俳優さんのファンなど様々な層をターゲットにしていました。しかしこの続編は主に、実写版『かぐや様』が好きなファンに向けて作られているのが、その内容から伺えます。
実写版を語るうえで特筆すべきは、特有のコメディ演出。キャラの内面描写や台詞のテンポによって生み出される原作の笑いとは異なり、劇中ではパロディやメタネタが展開されます。元の面白さとはズレているため、人によって好き嫌いが大きく分かれる点でした。
このズレは今作でさらに広がっており、映画オリジナルのギャグが随所に追加されています。例えば髙嶋政宏さんによる『全裸監督』(2019)の全力パロディや、『ルパンの娘(シーズン2)』(2020)に出演する橋本環奈さん繋がりの台詞。原作に倣う姿勢が見られた前作から一変し、完全にオリジナルな笑いに舵を切っていました。
シリーズのコメディ面の象徴とも言える佐藤二朗さんは、引き続き田沼正造役で出演しており、独特な存在感を放っています。原作では「都内ラーメン四天王」が登場する場面が、田沼に置き換えられていました。佐藤さんのアドリブ全開のギャグパート。福田雄一作品で「何度も見たことある」と思いつつも、面白い場面でした。
加えてリアリティに欠ける心理戦描写や、役者さんの顔をはめ込んだアニメーションといった、チープな演出は本作でも健在。この一貫した姿勢からも、この続編が監督の演出が苦手な層をターゲットにしていないことは明らかです。なので前作を面白いと思った方であれば、今回も間違いなく楽しめるでしょう。
継ぎ接ぎしたストーリー
シリーズを通して一貫した特徴が見られるのは、演出面だけではありません。ストーリーの構成についても同様です。原作は基本的に一話完結のため、一つの長編映画にまとめるには多かれ少なかれ話の構成を変える必要が出てきます。
単発のギャグ回を盛り込みつつ、花火大会のエピソードと生徒会選挙編を中心に据えた前作。ただし各エピソードを抜粋してそのまま繋げていたので、登場人物の描き込みが不足しており、キャラクターの感情の変化が唐突に感じられました。
続編の公開に先立って、全5話の短編ドラマ『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~ ミニ』(2021)が、Amazon Prime Videoなどで配信されました。本編のストーリーと直接的にリンクした内容ではなく、原作で人気のあるギャグエピソードを映像化したものです。
このドラマでは漫画の会話のテンポ感が尊重されており、それが忠実に再現されていて面白かったです。10分程度という長さの実写化によって、このコンパクトさが本来『かぐや様』の映像化に向いていることが改めて浮き彫りになりました。
さて今回の映画は、原作の体育祭編と文化祭編をベースに、その合間に複数の単発エピソードを盛り込んでいます。前半で単発のギャグ回を羅列していた前作に比べ、話に一貫性は持たせられているものの、やや詰め込みすぎているように感じられました。
体育祭編は、生徒会メンバーの一人である石上にフォーカスを当て、彼が抱えていた過去のトラウマを振り切る話。今作では、四宮家の近侍・早坂愛と白銀の合コンの話が並行して語られます。前作で出番が少なかった人々にスポットが当たる前半は、まさに実写版ファンのための展開でしょう。
後半の文化祭編では、かぐやと白銀が初めて面と向かって本心を伝えます。主人公二人の物語は原作において、この文化祭編と次のクリスマス編で完結したとも言えます。このあたりの話は、翌年に製作されたアニメ第3期と『かぐや様は告らせたい-ファーストキッスは終わらない-』(2022)でも描かれました。
それまで膠着状態だった二人の関係性が変化する、とても感動的な内容です。ただしこの話の感動は、130話以上にわたる時間の積み重ねがあったからこそ生まれたのです。実写版に関しては、彼らに十分な思い入れがない状態のままこの展開を迎えたため、個人的には他人事に感じてしまいました。
前半の体育祭編も同じく、エピソード自体は心揺さぶられる内容でした。しかしながら本編が全体的に駆け足のため感情移入がしにくく、非常にもったいなかったと思います。
さらに二つのメインエピソードの繋ぎとして挟んでいる三者面談回も、場面同士の繋ぎ方が唐突な印象を受けました。このように元のエピソードを雑にカットして、継ぎ接ぎしたように見受けられるストーリーの特徴は、本作でさらに顕著になっていました。
潔い幕引き
前作から続投している俳優陣に関しては、キャラをそれぞれ自分のものにしているような安定感があり、彼らの掛け合いは終始楽しく観られました。劇中でフォーカスが当たる、石上を演じる佐野勇斗さんや早坂を演じる堀田真由さんが特に素晴らしかったです。
また今回、初登場するキャラクターも複数います。例えば、新しく生徒会に加わる一年生・伊井野ミコ。原作では白銀と生徒会選挙で対立し、敗北を喫するも、白銀の計らいにより会計監査として加入します。風紀委員を兼任しており、真面目すぎて融通の利かない性格。
とはいえ前回描かれた生徒会選挙は、かぐやと白銀による対決に改変されました。つまり伊井野の出る幕は、既に無くなっているのです。映画冒頭で彼女は、別の理由で生徒会に加入することになるのですが、その理由は強引なものでした。
何よりこの改変の影響によって、全編を通して彼女の扱いが持て余されていました。特に文化祭が舞台の後半は、先輩である藤原千花の取り巻きでしかありません。前作時点では続編の予定がなかったと考えられるので仕方ありませんが、今回わざわざ彼女を登場させる意味が感じられませんでした。
原作に先駆けての「完結編」である今作のラストには、実写版オリジナルの結末が用意されています。単行本の巻数からも明らかなように文化祭編以降、主人公二人が付き合い始めてからも、原作の話はしばらく続いていきます。
そのため今後も、この実写シリーズを展開し続けることもできたはず。2作目で物語の明確な結末を用意する製作陣は、とても潔いと思いました。アメリカの大学に入学した白銀を、かぐやが「告らせた」場面で幕を締める。タイトル回収をして幕を引いた、この内容自体も良かったです。
そして実写版ならではのオチをつけた点は、前作を踏襲している要素の一つでもあります。ここまで書いてきた通り、この続編は一貫して前作のファンに向けて作られました。話に全く関係ない文化祭でのかぐやのコスプレが、大和撫子な和装からロリータ風の衣装にわざわざ改変されているのが、その象徴ではないでしょうか。
エンドロールでは、King & Princeの『恋降る月夜に君想ふ』(2021)が流れます。King & Prince、元Rev. from DVL、M!LK、元SUPER☆GiRLS、さらに日向坂46と、メインキャスト5人は全員ダンス経験者。彼らが主題歌に合わせて踊る、他では見られないエンドロールは必見です。
最後に
前作を既に観ているファンのために作られた映画。好きな方には間違いなくおススメです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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