『今日から俺は!!劇場版』感想:ドラマ劇場版として最高の娯楽作

(C)西森博之/小学館 (C)2020「今日から俺は!!劇場版」製作委員会

こんにちは。こひぱんです。

映画館で映画を観ると、どういった層の人たちが観に来ているのか分かります。アイドルが出演していたらそのファンの人たちが多く観に来ていたり、恋愛ものだと女性やカップルが多かったり。

今回書く映画、学生や若者が多いんだろうなと想像して観に行ったんです。そしたら学生以上に子連れの方や小学生が思いのほか多くてびっくりしました。子どもたちにめちゃくちゃ人気あるんですね。

『今日から俺は!!劇場版』

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作品情報

2018年放送の連続ドラマ『今日から俺は!!』の劇場版。原作は1988~97年に連載された西森博之による同名漫画。人気の高いエピソード「VS北根壊ほくねい高校編」を映画化する。『勇者ヨシヒコ』シリーズをはじめ、多くのコメディ作品を手掛ける福田雄一が、引き続き脚本・監督を務める。

原作: 西森博之
出演: 賀来賢人 / 伊藤健太郎 / 清野菜名 / 山本舞香 / 柳楽優弥 ほか
監督: 福田雄一
脚本: 福田雄一
公開: 2020/07/17
上映時間: 114分

あらすじ

転校を機に髪を金髪に変え、ツッパリデビューした軟葉高校の三橋貴志は、同じ日に転校してきたトゲトゲ頭の伊藤真司とコンビを組んで、やって来る不良たちを次々と返り討ちにしていた。3年になったある日、かつて2人が死闘を繰り広げた開久高校の一角を、凶暴にして狡猾な柳鋭次が番長に君臨し、極悪高として知られる隣町の北根壊高校が間借りすることに。そんな中、開久の生徒・森川悟のいとこで女番長の森川涼子が、なぜか三橋と今井をつけ狙いはじめるのだったが…。

映画 今日から俺は!!劇場版 (2020)について 映画データベース – allcinemaより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

観る人を選ぶ確立した作家性

いまや日本有数の喜劇作家として知られるようになった福田雄一監督。『勇者ヨシヒコと魔王の城』(2011)をきっかけにして、映画・ドラマともにヒット作を生み出しています。ただし作品の多くに共通する特徴は、非常に独特なものです。そのため彼の笑いが好きな人にとっては「毎回おもしろい!」となる一方で、嫌いな人は「一切受け付けない!」となる印象があります。

その理由は作品の笑いが「誰が見ても分かりやすい」傾向にあるからです。台詞上で繰り広げられる「王道的な」笑いがありつつも、演者の変顔やそれをアップで撮る演出が多く見られます。実写でこういった笑いを見せられると、くどいなと思う人も一定数いるでしょう。

加えて役者のアドリブ演技も特徴的です。毎回出演しているムロツヨシさんと佐藤二朗さんの演技が、福田作品を象徴しています。二人の「ゆるい」話し方は、良い意味で本当にくだらなく、どうしても笑ってしまいます。本番中に他の演者が笑ってしまうこともあり、しかもそれが本編に使われていたりしています。

そういった独特な作家性にも関わらずヒット作が生まれているのは、くだらない笑いを貫き通しているからです。似たような作品を撮り続けることで「この監督の映画を観れば、何も考えず笑える」という、信頼を得たのだと思います。そうは言っても、作品の中には好かれるものと嫌われるものがあります。評価の違いを決めているのは、確立している作家性と、作品の題材との相性です。

相性が良い例としては、『勇者ヨシヒコ』シリーズや『銀魂』(2017)が挙げられます。『ドラゴンクエスト』に似た世界や異星人がやってきた江戸時代といった、私たちが生きている現実とかけ離れた世界を舞台としています。一方で舞台が現実に設定されていると、相性が悪い傾向にあります。『ヲタクに恋は難しい』(2020)が多くの批判を集めたことも記憶に新しいです。

ただ単にフィクション的な物語だから面白いとか、リアル寄りの舞台設定だからつまらないという話ではありません。コメディでは、ある人物が別の人物を「いじる」ことによって、笑いが生まれることが多いです。例えば、台詞を言い間違えてしまった人のことをいじるのは、映像作品だけでなく私たちの会話の中でも自然に行われます。福田作品に限って言うと、製作者側が登場人物をいじるという構造も含んでいます。変顔をアップにする演出が、その代表例です。

先ほど挙げた相性が良い例では、観客はキャラクターにあまり感情移入しないで観ているように思います。ヨシヒコに感情移入することは出来ないし、だからこそ彼へのいじりを見て面白さを感じます。言い換えれば、俯瞰して物語を見れることが重要になっています。

現実を舞台にしてしまうと、どうしても感情移入するキャラクターが出てきてしまいます。キャラクターへの「いじり」の対象や理由に共感できないと、いじる側が登場人物であれ製作者であれ、不快に思えてくるのです。このポイントが作品評価を分けているのではないでしょうか。

では『今日から俺は!!』との相性はどうなのか。テレビドラマから通して、1980年代のツッパリが描かれています。彼らの真っすぐな生きざまに共感することはあると思いますが、それ以外の普段の言動は非現実的であり滑稽です。俯瞰して物語を見れるという点で、監督の作家性と良い相性です。

いつものお約束

今作はテレビドラマの劇場版として素晴らしい出来になっています。劇場版映画には他の映画とは違う特徴があります。ほとんどの観客は既に登場人物について知っています。代表的なのが「ドラえもん」や「ポケモン」など毎年映画が作られるようなシリーズ。私たちはドラえもんが未来から来たロボットであることや、ポケモンという生き物について知っています。そのため前提となる設定の説明を省いて映画を始める作品が多いです。一応今回の映画では、軽くではありますが、主要キャラクターの人物関係が冒頭で説明されます。

この特徴を踏まえた上で、劇場版映画が決して外してはならない要素が大きく二つあります。テレビで見ていた「いつもの」お約束がちゃんとあること。そして、映画ならではのプラスアルファがあることです。

ここでは一つ目に挙げた、お約束について書いていきます。大方の観客はテレビシリーズを既に観てから見に来ています。ファンが求めているのは、そのシリーズで好きだったポイントが映画でも見れることです。例えば、人物同士のやり取りが見れれば、それで劇場版の役割として十分なのです。逆にこういった描写が無いということはファンの期待への裏切りで、本末転倒な結果になることは避けられません。

劇場版になっても賀来賢人さん演じる三橋は相変わらずだったし、伊藤と京子のいちゃいちゃも見れました。こういった描写こそ「今日俺」ファンが一番望んでいたことではないでしょうか。また「今日俺」で印象的なのは、嶋大輔さんによるナレーションと「男の勲章」に乗せたオープニングです。これらは映画でも引き続き使われており、ドラマ映画化の最低条件をしっかり満たしていました。私はこのオープニングが大画面で観れただけで満足でした。

映画ならではのプラスアルファ

いつものやり取りが見れれば十分、と先ほど書きましたが、それだけだとどうしても「テレビで見てるのと代わり映えしないな」といった、マイナスイメージにも繋がります。わざわざ映画館に観に行ってるのだから、映画ならではのプラスアルファ要素を求めてしまう人がいるのも当然だと思います。

今回の劇場版ならではの要素は、追加キャラクターと、クライマックスの戦闘シーンだと思います。映画化された「VS北根壊高校編」。そこで登場するキャラクターは主に、柳鋭次、大嶽重弘、そして森川涼子。この3人それぞれが本当にベストキャスティングでした。シリアス担当なのも相まってですが、3人とも実在感がすごかった!

彼らとシリアス担当が被ってしまうこともあって、元明久高校の智司と相良の出番は少ないです。ただし二人の登場シーンは、本当にカッコよかったです。

今作の最大の見せ場と言えるのが、クライマックスの戦闘シーン。ドラマから増えた予算を全部ここに使ったのかなという印象。こういう大掛かりな戦闘がやりたかったのは分かるし、事実として映像的に映えていました。ただその割には、最後があっさり終わって拍子抜けかな… テレビ版のラストもそんな感じだったから、それを踏襲している意図的なものとも言えますが、その前までが長めの尺だったのに対してバランスが悪い印象を受けました。

戦闘シーンに比べてドラマ部分が、テレビシリーズと全く代わり映えしていません。ただ福田作品やこのシリーズのファンは、いつもの「あの感じ」こそ望んでいるのだと思うので、これで良いのではないでしょうか。映画でやる必要ないだろ、と言われると何も返せませんが…

本作で個人的に一番良かったところを付け加えると、エンディングの『ツッパリHigh School Rock’n Roll (登校編)』です。オープニングに呼応するエンディング映像を観れただけでも、劇場版って感じがして良かったです。

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最後に

最後に良くないところを挙げさせていただきましたが、観ているうちはそんなことは正直どうでもいいでのです。ただ何も考えないで笑えることは間違いありません。監督の作風が苦手でなければ、楽しくカラッと観ることが出来る素晴らしい娯楽作です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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