中本奈奈版『時をかける少女』感想:過度な郷愁に包まれた怪作

(C)1997『時をかける少女』製作委員会

『時をかける少女』映像化の第5弾です。

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作品情報

1965年に発表された筒井康隆による同名小説を、主演・中本奈奈で14年ぶりに再び映画化。前回の映画化の際、製作に携わった角川春樹が監督・脚本を務める。昭和の飛騨古川を舞台にした、全編モノクロ映画。

原作: 筒井康隆『時をかける少女』
出演: 中本奈奈 / 中村俊介 / 早見城 ほか
監督: 角川春樹
脚本: 伊藤亮二 / 桂千穂 / 角川春樹
公開: 1997/11/08
上映時間: 106分

あらすじ

昭和40年春、新学期が始まったばかりのある日の放課後、 理科実験室でガラスの割れる音が響いた。 床の上で、試験管から流れ出た液体が白い湯気のようなものをたてていた。 甘くなつかしい香り…、そのにおいをかいだ和子はゆっくりと床に倒れ伏してしまった。 それ以来、和子は夢の中で、未来の出来事を経験するようになる。 恐くなった和子は深町に助けを求めるが、 黒ずくめの男達に追われるようになり、たびたび危険にさらされる…。

DVD『時をかける少女』パッケージより引用
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レビュー

このレビューは中本奈奈版をはじめとした、歴代『時をかける少女』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

アンチ「大林版時かけ」の試み

日本映画界の巨匠・大林宣彦さんは、独創的な作家性を盛り込んだ様々な作品を世に送り出しました。『時をかける少女』(1983)は、彼の代表作の一つとして知られています。

この大ヒット映画が製作された背景には、原田知世さんが角川映画の大型新人オーディションで特別賞を受賞したことが関係しています。角川春樹さんの彼女への相当な思い入れから、彼女を主演にした映画の企画が持ち上がりました。

そんな『時をかける少女』が、14年の時を経て再び映画化されます。監督と脚本を担当したのは、大林版時かけ製作のきっかけを作った角川さんご自身。なぜ彼はもう一度、時かけを「作り直した」のでしょうか…。

主人公・芳山和子役に抜擢されたのは、中本奈奈さん。南野陽子さんや内田有紀さんといった、歴代の時かけ俳優と比べると知名度は高くないかもしれませんが、目力が強いのが特徴的な方で、彼女が演じる和子からは聡明な印象を受けました。

本作には角川監督だけでなく、大林版に関わった方々が複数参加しています。まず目を引くのは、大林版で主演した原田さんのナレーション。ただし出番は少しだけなので、あくまで話題づくりのためにキャスティングした感は否めません。

オープニング曲と主題歌も、大林版と同じ松任谷由実さんが担当しています。とはいえオープニングで流れる『時のカンツォーネ』は、異色そのもの。この曲は大林版の主題歌『時をかける少女』の歌詞をそのままに、メロディだけを新しく作ったものです。聴いたことがあるようで聴いたことがない。そんな違和感が襲ってきました。

ロケーションも特徴的です。土器がズラッと並んだ古墳や、姫路城らしき城が撮影に使われていました。こういった「古き良き」街並みが映し出されるのも、広島県尾道の街並みで撮影された大林版をどうしても連想させられます。

上述した要素を念頭に置くと、この作品が大林版を意識して作られているのは明らか。しかし同時に、角川監督の強いこだわりが随所に伺えるのも今作の大きな特徴です。

そのこだわりとは、昭和時代へのノスタルジーと考えられます。物語の舞台設定は、1965年の飛騨古川。公開当時からして既に30年以上前に設定されています。全編白黒であることも相まって、平成に撮られた映像でありながら、角川さんが過ごした「あの頃」の物語であるように思えました。

また和子の教室で繰り広げられる、生徒と先生のやり取りには、セクハラっぽい会話が見受けられ、居心地悪さを感じられます。おそらく意図的でないでしょうが、台詞回しからも当時の時代性が感じ取れました。

昭和55年、飛騨古川で行われている三幸まいりに参加する一人の女性。15年前に出会ったある人を待ち続けている彼女の様子を映し、映画は幕を開ける。オープニングが流れた後、時代は昭和40年にさかのぼる。

和子のクラスに、イギリスからの帰国子女である深町一夫が転校してくる。演じる中村俊介さんによって、どこか普通とは違うような、遠いところから来たような雰囲気が見事に体現されています。

和子と深町の純愛物語へ

これまで何度も映像化されている時かけ。原作はSF小説でありながら、各映像作品のテイストはそれぞれ大きく異なります。その歴史の中で本作は、恋愛要素が強く打ち出されています。

同じように恋愛色が濃い作品として挙げられるのは、青春時代の淡い初恋を描いた大林版や、三角関係に発展した内田有紀版。それらとは異なり今作は、和子と深町の「純愛」に焦点が当てられています。

なんなら二人が結ばれるというゴールに向かって、最初から物語が進んでいるように思われます。というのも、深町を「生まれる前から知っていた気がする」と感じた和子は、終始ゾッコン状態。彼を好きになるまでの過程が一切描かれていないあたりに、脚本の「結果ありき」ぶりが如実に表れています。

理科室の掃除を頼まれた和子は、掃除中に何かが割れる物音を聞き、準備室へ向かう。そこに漂うラベンダーの香りを嗅ぎ、意識を失ってしまう。その夜に地震が発生。間もなくして幼馴染の浅倉吾朗の家で火事が起きる。

和子と深町とともに、時かけの主要人物である吾朗。しかし今作において、彼の存在感はかなり希薄です。『タイム・トラベラー』(1972)を除いた全ての作品、ひいては原作小説よりも影が薄いのです。

それだけでなく彼は、和子の腕時計を盗む窃盗犯に改変されていました。どうやら自分のお守りにするために盗んだのだそう。彼女に返してと頼まれても、なかなか返そうとしませんでした。このモラルの崩壊ぶりには呆れます。

当然ながら、和子に告白しても拒否反応を示されます。翌日も同じ一日を経験する和子。火事の現場で告白される気まずさを知っている彼女は、吾朗から逃げる。この行動には同情の余地しかありません。

ただしこの時に吾朗から時計を返してもらわなかったことで、歴史が変わってしまう。元に戻さないといけないと深町に言われた和子は、再度タイムリープ。無事に歴史修復に成功する。

このように全編を通して、吾朗がひたすら不憫です。和子と深町の恋路に全く絡んできません。製作サイドにとって彼がいかに不要な存在なのかが、この改変から読み取れるでしょう。そして物語は二人の純愛模様に焦点が絞られていきます。

その後、深町と再会した和子は、未来に帰る彼との別れを惜しむ。ここから過度に抒情的な音楽と、間を取りすぎたテンポの悪い演技が続きます。このシーンはひどく冗長で、尺自体も長い。時かけの持つ悲恋の要素だけを取り出して、希釈しているだけに思えました。

破綻した脚本

上述した吾朗の人格を疑うような言動に代表されるように、本作は歴代の映像化作品の中でも珍しく、ツッコミどころの多いストーリーになっています。

まず「時の番人」と呼ばれる存在について。原作には出てこないオリジナルの登場人物です。環境汚染がひどい未来から、他の時代へと逃げる人々の監視をする存在なのだそう。

二人のおじさんが、時のルールを犯した深町と和子を追いかける。しかし時間警察であれば、そもそも走って追いかけっこなんてする必要はなく、瞬間移動などで容易に捕まえられるのではないでしょうか。

他には深町のおばあちゃんについて。100年後の未来から来た彼は、祖母に会うために現代にやってきました。しかし1965年の時点では、5歳の子供だったことに出会って初めて気が付きます。そんな大事な部分、普通タイムリープする前に調べるでしょ。

また彼は時間移動の際、祖母の形見であるオルゴールを紛失する。そこで和子が古美術店で手に入れたオルゴールを、彼女から貰おうとするのです。腕時計を盗んだ吾朗と、オルゴールをねだった深町。二人の同級生がそれぞれ主人公の大切なものを奪おうとする、この世界の倫理観を疑わざるを得ません。

ここまで挙げたような、脚本の矛盾一つ一つを否定しているわけではありませんが、話全体がぼんやりしているように感じるのは否めません。粗さが目立つ脚本に加えて、セリフの独特な間やテンポの悪さが際立つような演出が、終盤までずっと続きます。

それを象徴しているのが、物語の結末です。時の番人に事情聴取を受けた和子は、深町に記憶を消されたことを証明。しかし彼とのすれ違いざま、我慢できずに名前を叫んだことで嘘がバレて、時の番人によって本当に記憶が消されてしまう。

冒頭の三幸まいりの場面に戻ると、一人寂しげに道を歩く和子が映し出される。深町が目の前に現れ、15年ぶりの再会を果たした二人はすぐさま抱き合う。話の中にどんなに矛盾を生じさせたとしても、最後には必ず二人を結ばせてみせる、といった心意気がここに表れていました。

そしてこのラストは、深町との恋は実らないまま存在ごと忘れてしまう、一抹の寂しさがある大林版とは非常に対照的です。「角川監督はこの展開を実現したかった」感がひしひしと伝わってきました。

どうして角川さんがこの映画を作ったのか。最後まで鑑賞しても、その意図は明確には分かりませんでした。ただし一つだけ言えるのは、角川さんは自分の手で映画を「リメイク」する力を持っていたということでしょうか。

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最後に

他の時かけと比べても、知名度・クオリティともに低い本作。珍味が好きな方は、一見してみるのも良いのではないでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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