Netflix版『大奥』感想:ジェンダーSFの丁寧な再現

(C)2023Netflix

『大奥』映像化の第5弾です。

他の『大奥』関連記事はこちら

スポンサーリンク

作品情報

2004〜21年に『MELODY』で連載されたよしながふみの同名漫画をNetflixでアニメ化。謎の疫病が蔓延する架空の江戸時代、8代将軍になった徳川吉宗は、大奥誕生の裏に隠された物語に迫っていく。アニメーション制作は、スタジオディーン。

原作: よしながふみ『大奥』
出演: 宮野真守 / 松井恵理子 / 関智一 / 小林沙苗 ほか
監督: 阿部記之
脚本: たかすぎ梨香
シリーズ構成: たかすぎ梨香
配信: 2023/06/29
話数: 10話

あらすじ

流行り病により男子の数だけが激減したことで、男女の役割が逆転した江戸時代。大奥までもが、女将軍に仕える男たちの世界になっていく。

大奥 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイトより引用
スポンサーリンク

レビュー

このレビューはNetflix版『大奥』をはじめとした、歴代『大奥』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

『大奥』初のアニメ化

男女の役割が逆転した架空の江戸時代を描いた漫画『大奥』。江戸城最深部に位置する「大奥」での壮絶な人間ドラマや、歴史改変SFとしての高い完成度が話題を呼び、単行本全19巻の累計発行部数が700万部を超える同作は、よしながふみさんの代表作の一つです。

よしながふみさんの漫画「大奥」初アニメ化 Netflixで6月から配信
Netflixは23日、よしながふみさんの漫画「大奥」をアニメ化し、6月29日から独占配信すると発表した。

2004年から約17年間にわたる『MELODY』での連載にて、3代将軍・徳川家光の時代から大政奉還までの数百年が描かれました。2010年代にTBS中心で実写化されたほか、2023年1〜3月にはNHKでもドラマが製作されました。同年10月からは完結編となるシーズン2が放送予定です。

このように連載中から何度も実写化されてきた人気漫画ではあるものの、アニメ化されるのは今回が初めて。Netflixオリジナル作品として企画され、全10話が一挙独占配信されました。

基本的には一話30分程度ですが、第1話のみ約80分という長さで、単行本1巻の「吉宗・水野編」を丸ごと映像化しています。

監督の阿部記之さんによると、「第1巻は『大奥』という世界を紹介するようによしなが先生が描かれているので、我々もそこを割って3話で見せるよりは、第1話で描ききった方がいいだろうと」考えたのだそう(※1)。

※1:大奥:“男女逆転大奥”の重厚な世界観を表現 原作に忠実に アニメならではの表現も – MANTANWEB(まんたんウェブ)より引用

この手法は、物語のプロローグを初回放送に収めたアニメ『【推しの子】』(2023)と偶然にも似ており、とても現代的な潮流と言えます。

内容としては、こちらも『大奥』全体のプロローグにあたります。8代将軍になった徳川吉宗は、「ご内証の方」や「男名」といった大奥の慣習に疑問を抱く。大奥の歴史が記された「没日録」を彼女が読み始めるところで、第1話は終わります。

残り9話の内容は、単行本2~4巻にあたる「家光・有功編」。舞台は3代将軍・家光の治世へと遡る。江戸城を訪れた公家出身の僧・万里小路有功は、家光の乳母である春日局の脅迫により還俗させられ、半ば強制的に大奥に入れられた。

その頃日本では、若い男子のみが感染する謎の疫病「赤面疱瘡」が流行していた。その病を患った家光の死は春日局によって隠蔽され、その身代わりとして、彼の落とし子の少女・千恵が大奥に匿われている。有功に課せられた役目は、種馬として彼女との間に子供を作ることだった。

悲しい運命を背負った二人はやがて相思相愛になるが、なかなか世継ぎに恵まれなかった。痺れを切らした春日局は、次々と新しい側室を連れてくる。彼らとの間にそれぞれ娘を授かった千恵はだが、彼女の気持ちはずっと有功に向いていた。

自身の運命を受け入れた千恵は、御家人たちを前にして、家光の名を継ぐことを高らかに宣言する。一方で有功は、春日局の役職であった大奥総取締に就任。若くして息を引き取った家光の跡を継ぎ、4代将軍となった娘の千代姫を有功が支えている様子がラストに映し出されます。

実直な映像化

今作の特徴として挙げられるのが、原作の内容にきわめて忠実に作られている点。台詞や画面のレイアウトまで漫画からそのままトレースしており、過去のTBS版やNHK版と比較すると、その違いがよりはっきりと分かります。まるで原作漫画を読んでいるような感覚に陥ります。

脚本は『フルーツバスケット』(2001)や『ひぐらしのなく頃に』(2006)に携わった、たかすぎ梨香さん。また監督の阿部さんは、『幽☆遊☆白書』(1992-95)や『BLEACH』(2004-12)、『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』(2017-23)で監督を務めた方です。

阿部監督は「重厚な作られ方をしている作品だからこそ、アニメ化する上では、ストーリーのどこかを変えるということはできない作品だと思いました」と語ります(※1)。

赤面疱瘡の発祥となる農村の話に始まり、8代将軍・吉宗と貧乏旗本の子息・水野祐之進の出会いと別れが描かれる第1話。本編とは関係ない小さなエピソードゆえに、過去の映像化でカットされていたディテールの数々が、今回のアニメ化では映像化されました。

具体的には、呉服の間で裃を仕立てていた垣添が失くした針を探すのを水野が手伝う件や、オランダ商館長が江戸城に来たときの幕府の対応などが挙げられます。細かいディテールではあるものの、原作を読んでいる視聴者にとっては嬉しいでしょう。

第2~10話の大きな特徴は、百姓の女性・神原さとの物語が随所に挟み込まれている点。彼女の人生が並行して語られる構成は原作に則ったものなのですが、家光をはじめとしたメインキャラとは接点を持たない独立したエピソードのため、過去の映像化では省かれていました。

彼女の物語は、『大奥』における群像劇としての一面を担っています。ただし原作を読んだ際、メインストーリーから浮いている印象を受けました。今回のアニメ化では、そうしたマイナスな要素も引き継がれているように思いました。

つまり本作は、良くも悪くも非常に原作に忠実です。既にストーリーを知っていると、またこの話か、という印象はどうしても否めません。

過去の映像化の記憶が鮮明に残っているのも、そう思ってしまう理由の一つでしょう。特に2023年1~3月にNHKで製作・放送されたドラマは、大胆に省略や改変をしつつも、原作のキモにあたるエッセンスを巧みに汲み取っていました。

当然ながら今回のアニメ化は、原作の雰囲気をそのまま再現していて決して悪くないのですが、映像作品としての引きが弱い。ドラマならではの演出が加えられていたNHK版のインパクトが強く残っている中では、よりそのように感じられてしまいます。

近年は『鬼滅の刃』をはじめ、漫画原作アニメのほとんどが、原作に忠実に作る傾向にあります。それらの多くは、漫画では静止画でしか描けないアクションシーンを動かすことなどによって、アニメならではの見どころが加えられています。

しかしながら今作は画的には静かなため、物語を淡々と語っているように感じられるので、原作そのままに映像化している点が悪目立ちしています。個人的には総じて、実直にアニメ化した、といった印象を受けました。

Netflixで配信する意義

キャラクターデザインに関しても同様に、原作に忠実。特に吉宗の幼馴染・加納久通のデザインは、漫画そのままで感動しました。2次元でしか表現できないような人物のコミカルな表情は、アニメならではの魅力と言えます。

『この素晴らしい世界に祝福を!』(2016)などに携わってきた制作会社のスタジオディーンが、制作を担当しています。エンディングの水墨画風の映像含め、全体的には世界観にマッチした作画でした。とはいえ、時折のっぺりとした印象を受ける箇所はありました。

それをカバーしていたのが、ドキュメンタリー番組『情熱大陸』でも知られる窪田等さんによるナレーション。誰もが耳にしたことがある声によるナレーションが、重厚な世界観を作り上げています。

第1話で印象的だったのが、吉宗役の小林沙苗さんの威厳溢れる「下がりゃ!」。この一言で、作品世界に一気に引き込まれました。

第2話以降に登場する千恵に声を当てているのが、松井恵理子さん。子憎たらしい少年のような面から、将軍として力強く演説する面まで、いくつもの表情を演じ分けられていました。

他の声優陣も好演しており、圧倒的な主人公感がある関智一さん演じる水野しかり、絶妙な小僧っぽさがある梶裕貴さん演じる有功の弟子・玉栄しかり、経験豊富なキャストたちが生み出す抜群の安定感も、本作ならではの見どころです。

中でも特筆すべきは、ごく自然に京言葉を使いこなす有功役の宮野真守さん。温厚ながらも芯の強さを感じさせる声色が、有功の性格を見事に体現していました。個人的には『STEINS;GATE』(2011)の岡部倫太郎やバラエティ番組のイメージを持っていたので、今作を観て大きく印象が変わりました。

『大奥』は史実との整合性をとりつつ、歴史の空白部分に巧みにフィクションを盛り込んだ完成度の高い歴史改変SFです。2009年には、ジェンダーへの理解に貢献したSF・ファンタジー作品に送られる「ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞(現・アザーワイズ賞)」を受賞しました。

フィクショナルな「男女逆転」設定によって、フェミニズムやジェンダー問題などの現代に通ずる社会問題を描き出しています。ジェンダーSFという観点では、同年に放送されたNHK版のほうが原作の持つメッセージ性をより強烈に伝えていました。

しかし本作は、Netflixにて世界独占配信しています。英語をはじめ、様々な言語に対応しているのです。日本で生まれた素晴らしい傑作が世界に発信されることこそ、Netflixで配信される意義ではないでしょうか。

またここまで原作に沿っているとなると、過去の映像化でカットされてきた4代将軍・家綱や6代将軍・家宣、7代将軍・家継のエピソードのアニメ化を期待せずにはいられません。

スポンサーリンク

最後に

最終話で示唆される4代将軍・家綱の物語をはじめ、これまで飛ばされてきた話を扱った続編が制作されるためにも、ぜひ観ていただきたい作品です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

Comments