『シン・仮面ライダー』感想:愛と執着に溢れた独創的リブート

(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

御期待していました。

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作品情報

1971~73年に放送された特撮ドラマ『仮面ライダー』を新たに映画化した、仮面ライダー生誕50周年企画作品。改造手術により超人的な能力を得た青年が、自身を改造した悪の組織に立ち向かう。『シン・ゴジラ』の庵野秀明が企画・脚本・監督を務める。

原作: 石ノ森章太郎
出演: 池松壮亮 / 浜辺美波 / 柄本佑 / 森山未來 ほか
監督: 庵野秀明
脚本: 庵野秀明
公開: 2023/03/17 (PG12)
上映時間: 121分

あらすじ

望まぬ力を背負わされ、人でなくなった男。与えられた幸福論に、疑問を抱いた女。
SHOCKERの手によって高い殺傷能力を持つオーグメントと化した本郷猛(池松壮亮)は、組織から生まれるも反旗を翻した緑川ルリ子(浜辺美波)の導きで脱走。迫りくる刺客たちとの壮絶な戦いに巻き込まれていく。
正義とは? 悪とは? 暴力の応酬に、終わりは来るのか。
力を得てもなお、“人”であろうとする本郷。
自由を得て、“心”を取り戻したルリ子。
運命を狂わされたふたりが選ぶ道は。

『シン・仮面ライダー』追告 – YouTubeより引用
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レビュー

このレビューは『シン・仮面ライダー』および関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

50周年最大の目玉

今から遡ること2年、仮面ライダー生誕50周年を記念した3つの企画が発表されました。一つ目は、『仮面ライダーW』(2009-10)の正統続編である漫画『風都探偵』(2017-)のアニメ化。二つ目は、『仮面ライダーBLACK』(1987-88)を白石和彌監督の手でリブートした『仮面ライダーBLACK SUN』(2022)の制作。

そんな中『シン・仮面ライダー』制作の第一報は、大トリとして発表されました。庵野秀明さんが脚本と監督を務め、シリーズの原点である『仮面ライダー』(1971-73)をリブート。つまりこの映画は、仮面ライダーの最新作であると同時に、「シン・」シリーズの最新作でもあります。

既存の特撮コンテンツを独自の解釈で作り直す「シン・」の冠は、『シン・ゴジラ』(2016)のヒットを受けてシリーズ化しています。庵野さんは仮面ライダーシリーズのファンとして知られるため、とりわけ今作は、彼ならではの「再解釈」に期待が寄せられました。

実際のところ、『シン・ゴジラ』が公開された2016年には、既に企画が始動していました。しかしコロナ禍も相まって、『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』(2021)『シン・ウルトラマン』(2022)の製作と重なり、過酷なスケジュールで作られたのが容易に想像できます。

改造人間・本郷猛と彼を助け出した緑川ルリ子が、バイクに乗って何者かから逃げている。本編開始と同時に物語が動き出す点は、これまでの「シン・」作品と共通しています。またPC画面や監視カメラ越しなど、庵野作品を象徴する独創的なアングルも全編で見受けられました。

そこから繰り広げられるクモオーグとの戦いは、仮面ライダーの初陣となる蜘蛛男とのバトルを描いた『仮面ライダー』第1話「怪奇蜘蛛男」を多分に意識して作られています。ロケ地や画面構成、画質にいたるまで、一つ一つのカットに細かいこだわりが込められています。

『仮面ライダー』第1話は、YouTubeで配信中。映画本編のクモオーグ戦をノーカットで放送した『シン・仮面ライダー公開記念 〈特別放送〉幕前/第1幕 クモオーグ編』は、4月16日までTVerで見逃し配信されています。双方を比較すると、その一致具合に驚くとともに、再現への執念に感服しました。

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ビジュアルとキメ絵のカッコよさ

その名の通り、終盤までバイクに乗って戦う「仮面ライダー」。元の1号からは逸脱せず、細部にアレンジを加えた、そのスーツやバイクのデザインのカッコよさには目を見張ります。バットマンさながらに黒いロングコートをまとい、ルリ子からもらった赤いマフラーを身につけているのも、輪をかけてカッコいい。

オートバイがサイクロン号へと変形し、そこから流れるように仮面ライダーの姿に変身する。この一連のシークエンスは、細かいカット割りによってスピード感があり、本当にテンションが上がりました。普通のヘルメットが、仮面ライダーのマスクに変形するのも新鮮でした。

この演出は『仮面ライダー』初期における、バイクに乗りながらの変身を踏襲しています。加えて「ライダーキック!」と叫ばない必殺技や、怪人が泡になって消滅する演出も、番組が子供向けに舵を切る前の怪奇SF的な世界観を再現しています。

物語前半は、世界征服を企む悪の組織「SHOCKER」の怪人たちを仮面ライダーが次々と倒していく。各怪人のミリタリーなデザインは、ライダーのデザインとマッチしており、観ていて楽しかったです。

本郷とルリ子は、竹野内豊さん演じる「政府の男」と斎藤工さん演じる「情報機関の男」と協力し、コウモリオーグを撃破。その後、仮面ライダーの力を借りずして制圧されたサソリオーグの毒を利用し、ルリ子の旧友でもあるハチオーグを倒す。

順番に各怪人と戦っていくオムニバス的なストーリーは、『シン・ウルトラマン』の構成と似ています。元が一話完結型の連続ドラマである点を踏襲しているのかもしれません。しかしながら一つ一つのエピソードは掘り下げられないので、感情移入はしにくいです。

今作の白眉は、キメ絵のカッコよさにあります。「アニメーションのセル画制作と同様に、最初に1コマずつの絵コンテを並べ、それに合わせたポーズを俳優が演じ、コマ撮りしたフィルムを並べ」て作り出した「ハニメーション」(※1)。今回の撮影方法とは異なるものの、出来上がった映像からは『キューティーハニー』(2004)を連想しました。

※1:ASCII.jp:アニメを超えた実写!? “ハニメーション”とは?――『キューティーハニー』制作発表会開催より引用

『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-96)よりも遥か昔から、日本アニメが磨き上げ続けてきたキメ絵の美学。そうしたアニメ的なカッコよさが、本作の戦闘シーンには集約されています。特にシンプルながら迫力あるライダーキックは、他のライダー作品と一線を画す魅力がありました。

石ノ森作品への愛と敬意

物語後半はルリ子の兄・イチローこと、チョウオーグとの対立に焦点が当たる。彼が送り込んだ刺客として、本郷と同じくバッタオーグに改造、洗脳された青年・一文字隼人が登場。本郷との戦いの末、ルリ子によって洗脳が解かれる。

今作を観て驚いたのは、『仮面ライダー』の撮影中に主役の藤岡弘、さんが足にケガをしたエピソードをオマージュしていること。オートバイでの転倒により、大腿骨粉砕骨折という重傷を負い、撮影に参加できなくなりました。

この事故の影響で、代役となる仮面ライダー2号が登場し、変身ポーズでの変身が採用されます。その結果、当時の子供たちの間で一大「仮面ライダー」ブームが巻き起こりました。すなわち幸か不幸か、仮面ライダーシリーズ誕生のきっかけとなった出来事と言えます。

映画本編では、一文字の攻撃により本郷が左足を負傷し、戦闘不能になる。その後、一文字は洗脳を解いてくれたルリ子を襲ったK.Kオーグと対峙。「変身」の掛け声とともにポーズをとって仮面ライダー第2号へと変身する。実際のエピソードを知っていればこそグッとくる展開でした。

そしてショッカーライダーを彷彿とさせる、大量発生型相変異バッタオーグとの壮絶な戦いを経て、イチローが変身する仮面ライダー第0号とのバトルがクライマックスに用意されています。

『仮面ライダー』の平山亨プロデューサーによる小説に登場する「仮面ライダー0号」が、元ネタと考えられる第0号。そのデザインは、蝶のモチーフである『イナズマン』(1973-74)や、二つの風車が埋め込まれた変身ベルトが特徴的な『仮面ライダーV3』(1973-74)を想起させます。

他にも『人造人間キカイダー』(1972-73)に見える人工知能・ジェイや、『ロボット刑事』(1973)に見えるケイなど、石ノ森ヒーローたちの要素が示唆的に盛り込まれています。

何より本作は、石ノ森章太郎先生による漫画版『仮面ライダー』(1971)に最もオマージュが捧げられています。本郷が死亡し、その意志を一文字が継ぐ展開をはじめ、全体的に漫画版の要素が多く取り入れられており、庵野さんの石ノ森作品へのリスペクトが感じられました。

「孤高」の存在だったルリ子が、本郷の力を「信頼」し、その意志を一文字へ「継承」する。漫画版を思わせるラストでありながら、1号でも2号でもない正義の戦士になった一文字の姿は、ビジュアル含めてカッコよく、感動的でした。

仮面ライダーシリーズに出てくる「おやっさん」立花藤兵衛と、FBI捜査官・滝和也あるいは滝二郎を想起させる、「タチバナ」と「タキ」の設定には膝を打ったと同時に、「シン・」シリーズの方向性が垣間見えました。

独特な作風の是非

漫画版へのオマージュでありながらも、本郷が無理やり仮面を外したときの絵的な恐ろしさは『真・仮面ライダー 序章』(1992)のようであり、常人離れした力強さの表現は『仮面ライダー THE FIRST』(2005)のようでありました。

このように『仮面ライダー』をリブートした映像作品は、既にいくつも存在しています。この映画がそれらと大きく異なるのは、庵野作品の特徴が詰め込まれている点です。

お風呂に入ってない描写や、食事の代わりとしての生体エネルギー「プラーナ」は、庵野さん自身のエピソードや過去作を連想させます。また主人公やヒロインの性格、ラスボスの計画やその動機など、ストーリーや設定に『エヴァンゲリオン』との共通点が多く見受けられました。

無骨な話し方で「天才、頭脳明晰だけどコミュ症」の本郷を演じる池松壮亮さんと、人間離れしたサバサバした性格のルリ子を演じる浜辺美波さん。お二方とも、いかにも庵野作品らしい登場人物を見事に体現していました。

特に柄本佑さんが演じている一文字が、本郷とは対照的に明るいキャラで最高でした。途中から登場したにも関わらず、すぐ好きになりました。全体を通して、この三人のアンサンブルが素晴らしかったです。ただし全員クセの強い台詞回しをするので、キャラの好き嫌いは分かれるでしょう。

しかし人間ドラマは、極めて希薄。これも庵野作品の特徴ではありますが、戦闘のスケールが大きいゴジラやウルトラマンとは違い、今作は等身大の人間同士が戦います。なので人間ドラマの希薄さが悪目立ちしており、過去作よりも不自然に感じられました。

個人的に最も腑に落ちなかったのが、一般人がほとんど出てこない点。敵との距離感がよく分からないし、非常に狭い世界の話に思えました。また『仮面ライダー555』(2003-04)のようなロードムービー的な側面があるとはいえ、屋内のシーンが多く、舞台が大きく動いている印象は抱きませんでした。

リアルな造形や世界観でありながら、キャラクターの言動や展開にリアリティがない。この矛盾に加え、あまりにも作り物っぽい表現が散見されるのも残念でした。例えば、ルリ子の服を這う蜘蛛や、コウモリオーグが生み出した大量のサンプルが挙げられます。

細かいカット割りに加え、画面が暗い部分も多く、何が起こっているのか分からない場面がありました。画面の暗さは、ハチオーグ戦や大量発生型相変異バッタオーグ戦に顕著でした。Dolby Cinema仕様で撮影されているわけでも無いので、上映方式を変えても印象はさほど変わらないと考えられます。

あえて実験的な挑戦をしているのは、十分に理解できます。前述したとおり、新鮮でカッコいい演出もありましたが、チープに感じられる部分もありました。総じてカッコいいシーンとカッコよくないシーンの落差が凄い映画でした。

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最後に

庵野監督にはゆっくり休んでほしい。強くそう思わせてくれた映画でした。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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