『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』感想:新たな趣味が促す成長

(C)「量産型リコ」製作委員会 (C)創通・サンライズ

この人たちと働いてみたい。

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作品情報

『お耳に合いましたら。』を手掛けた畑中翔太が企画・原案を務めるオリジナルドラマ。テレビ東京系列「木ドラ24」枠で放送された。偶然立ち寄った模型店でプラモデル作りに触れた小向璃子は、自身の生活を見つめ直していく。主人公・璃子を演じるのは、与田祐希。

出演: 与田祐希 / 藤井夏恋 / 望月歩 / 石川恵里加 / 田中要次 ほか
演出: アベラヒデノブ
脚本: マンボウやしろ / ゴージャス村上 / 畑中翔太 / オコチャ
放送期間: 2022/07/01 – 09/02
話数: 10話

あらすじ

性格、容姿、好きなもの、センスや価値観などあらゆるものが平均的なタイプの人間・小向璃子(こむかい・りこ)。イベント企画会社に勤め、会社の中でも“のほほん部署”と言われているイベント3部に所属している璃子は、ある日同僚から言われた「量産型の人間」という言葉に自問自答してしまう。そんな時、ふと町で見つけた模型店が気になり入ってみると、“量産型”と書かれたTVアニメシリーズ『機動戦士ガンダム』の「ザク」に目が止まり、堅物店主に勧められるままに初めてのプラモデル作りに挑戦することに。璃子は徐々にプラモデルの魅力に惹かれ、それが自分自身を見つめ直すきっかけになっていく…。

イントロ | 【木ドラ24】量産型リコ | テレビ東京・BSテレ東 7ch(公式)より引用
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レビュー

このレビューは『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

『お耳』製作陣の新作

ドラマ『孤独のグルメ』が人気シリーズになって久しい現代、疲れきって帰宅した後でも見やすい「ゆるい」深夜ドラマの需要は高まっています。食ではなくプラモデルを描くこのドラマも、学校や仕事に日々忙殺されている人々に、癒しを与えてくれるでしょう。

イベント会社に勤める若手社員・小向璃子は、経歴や性格、価値観など、何もかもが平均的なごく普通の女性。ある日、同期の浅井祐樹から「量産型」と言われ、その言葉がずっと引っかかっていた。

会社からの帰り道に彼女は、偶然見つけた小さな模型店に入ってみる。店員の指示を受けながら、量産型ザクのプラモデルを作成。完成後、プラモ作りに没頭していた自分に気付いた。それから事あるごとに店を訪れ、プラモデルを組み立てることで、仕事やプライベートのヒントを得ていく。

制作に携わるBABEL LABELは、映画やドラマなど様々な映像メディアを制作するディレクター集団。『八月は夜のバッティングセンターで。』(2021)や『お耳に合いましたら。』(2021)といったオリジナルドラマを共に作り上げたテレビ東京と、今回再びタッグを組みました。

特に今作は、『お耳に合いましたら。』との共通点が多く見受けられます。同作の主人公は、「チェンメシ」を紹介するポッドキャストを配信していました。一般にはニッチとされる趣味を見つけ、それに没頭し、やがて周囲をも巻き込んでいく主人公像は、両作の大きな共通点です。

璃子の趣味が周囲を巻き込む例としては、かつてモデラ―だった彼女の上司である雉村が挙げられます。早期退職を考えていた彼は、彼女とのプラモ作りを通して、熟練だからこそできる仕事があるのを気付かされた。

また会社のエース・大石亮太は、幼い頃にミニ四駆で遊んでいた。璃子が企画したミニ四駆イベントの前日、幼少期を思い出しながら、本格的な改造を二人で行う。話のラスト、個々に遊んでいた子供の姿の彼らが、一緒に遊び始める演出には不意にホロリとさせられました。

自身の生活について自問自答しながら、新たな趣味との出会いを通じて成長していく姿が描かれる本作。その趣味に触れたことがない人でも楽しめる話作りがされています。一話完結を繰り返しつつ、全体の話が少しずつ進行していく点も『お耳に合いましたら。』と共通しています。

両作のメインキャラクターは、どちらも3人組で行動しています。主人公と、彼女を取り巻く二人の同世代の同僚で構成されるトリオの関係性が魅力的。そして同時に、この作品がどういった層をターゲットにしているのかが分かります。

さらなる共通点としては、エンディング映像が毎話ごとに撮り下ろしされています。LINKL PLANETの『ツクッテクミタテテ』が流れる中での、璃子たちによるミニコントは毎回ほっこりしました。ゆるくてポップなオープニング映像も素晴らしいので、どちらも飛ばさずに観てほしいです。

愛おしい登場人物たち

今作を観ていると、主人公の璃子をはじめとした、登場人物一人ひとりが本当に愛おしく思えてきます。悪役が存在しないので、良い意味で気持ちを大きく揺さぶられないため、疲れている時でもストレスなく視聴できるのです。

主演を務めるのは、与田祐希さん。璃子は常に飄々としており、ずっと力が抜けているようで、その雰囲気が独特で面白い。しかしながら時々見せる目力の強さには、ハッとさせられます。

彼女の平和主義的な価値観を象徴しているのが、「実績なんてない」という自己評価や、ミニ四駆に対する「勝たなくていい。無事に戻ってくるだけでいい」との台詞。さらにLINEで使うスタンプにも彼女らしさが表れており、描写の細部にいたるまでこだわりが感じられます。

中盤以降に描かれる、大石に対する一途な恋心も見どころの一つです。カップルだと思われた際に満更でもない表情をしたり、過度に彼を意識し始めたり、最終話で自ら告白するシーン含めて可愛らしかった。

映画『ぐらんぶる』(2020)や『日本沈没-希望のひと-』(2021)の役柄と比べ、与田さんがバラエティ番組で見せる独特な空気感が活かされたキャラに仕上がっており、ハマり役だと思いました。

璃子と同じくイベント3部に所属する同僚二人も良いキャラです。仕事ができる彼女の先輩・中野京子は、藤井夏恋さんが演じています。イライラさせてくる後輩に対して、「ヤバいよこいつ」や「それ以上しゃしゃんな」と言い放つストレートぶりがカッコいい。

しかし第8話で明かされた、彼女の過去と苦悩には涙させられました。全10話ながら主要人物全員の掘り下げがきちんと行われており、なおかつ各々に見せ場が用意されているので、ドラマとしての完成度が高いと言えます。

望月歩さん演じる璃子の後輩・高木真司は、中野とは非常に対照的。だれかれ構わず、すぐに改善点を指摘する危うさがありました。最初はムカつくけれど、璃子のサポートによって自分に向き合うようになってからは、彼のことが不思議と愛おしく思えてきます。

他にもイベント1部の元エース・猿渡、部長代理の雉村、そして部長の犬塚といった年長組も、3部の平和な雰囲気を形作る欠かせない存在でした。

一方、本作のもう一つの舞台が、璃子が通う模型店「矢島模型店」。LINKL PLANETの石川恵里加さん演じるバイト店員の郁田ちえみは、その独特な言葉遣いでキャラが立っていました。

そして何より、店主の矢島一を演じる田中要次さんの迫力が凄まじい。画面に見切れているだけなのに、圧倒的な存在感。表情で全てを物語る佇まいが面白い。他の人に活躍する出番を奪われると、途端にショボンとする仕草には可愛らしさすらありました。

最終話では、ラストシューティングのガンダム作りと、3部存続をかけたプレゼンが並行して語られます。登場人物みんなが一丸となるアツい展開。今まで璃子たちが作ったプラモデルが集結し、3部のプレゼンを見守っているカットは圧巻でした。

プラモ作りの魅力

BANDAI SPIRITS協力のもと、実在するプラモデルが毎回出てくる今作。量産型ザクをはじめとしたガンダム系だけでなく、スポーツカー、エヴァンゲリオン、宇宙戦艦ヤマト、ミニ四駆、ラブライブ!、ウルトラマンにいたるまでジャンルは多岐にわたります。

璃子が可愛さを知ろうとする回は、ラブライブ!。中野が組み立てるのは、素顔を表に出さないウルトラマン。次期エースと自負していた浅井が組み立てるのは、量産型ジム。このように、各話の内容に沿ったプラモデルが登場する点が良かった。

プラモデルを組み立てているシーンで特徴的なのが、ニッパーでパーツをランナーから切り離す音や、パーツ同士をはめるときの「カチッ」と言う音。これらの音が小気味良いテンポで編集されており、聴いていて心地良い。編集の緻密さからして、全体の中でも特にこだわっている演出だと思いました。

1話30分の中で、前半が会社内で巻き起こる人間ドラマで、後半がプラモ作りで構成されています。璃子の周囲で小さなトラブルが発生し、プラモ作りを通して得たヒントにより解決する。そうした日常系作品における王道的なストーリーが展開されます。

それでいて「御開帳~」「ギブバース!」「おかわりか?」などの独自の決め台詞により、話にメリハリがついています。これらの台詞は、矢島役の田中さんの言い方も相まって、つい真似したくなりました。

彼がモットーにしているのは、プラモ作りにおける自由さ。パッケージとは異なる好きな色で塗装したり、自分で作り上げた物語を妄想して塗る色を決めたりする璃子たち。その様子を見て、プラモデルに全く触れてこなかった私でも、「楽しそう」「やってみたい」と思わせられました。

さらに彼は、「失敗はときにギフトだ」「プラモはどこまでも自由だ」「誰にでも開かれている」など数々の名言を残しています。いずれも様々な人生の局面に通じる普遍的な格言なので、胸に響きました。

本作独特の空気感は、毎話ほのぼのとした気分にさせてくれます。仕事から疲れて帰ってきた後でも、何も考えずに観ることができるこのドラマ。そして観終わった後は、未経験者であっても、プラモデルに興味が湧いてくるはずです。

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最後に

続編『量産型リコ -もう1人のプラモ女子の人生組み立て記-』が7月から放送中。こちらと合わせて、仕事終わりにぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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