ベトナム映画『パパとムスメの7日間』感想:自分らしさを尊重する家族愛

(C)CHANG PHUONG FILMS

『パパとムスメの7日間』映像化の第3弾です。

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作品情報

2006年に発表された五十嵐貴久による小説『パパとムスメの7日間』を原作としたベトナム映画。子供っぽい父親としっかり者の娘の人格が入れ替わった日々を描く。同国でヒットしたコメディ映画『サイゴン・ボディガード』を手掛けた落合賢が、監督・プロデューサーを務める。

原題: Hồn Papa Da Con Gái
原作: 五十嵐貴久『パパとムスメの7日間』
出演: タイ・ホア / ケイティ・グエン / トラン・ヒー / ギア・グエン / ヴァン・チャン ほか
監督: 落合賢
脚本: マイケル・タイ
日本公開: 2019/11/17
上映時間: 113分

あらすじ

日系化粧品会社 DHCのベトナム支社で働くハイ(43歳)はユニークなアイディアを考えつくクリエイティブな人材だが、子供っぽくておっちょこちょいなのが欠点。対照的に真面目でしっかり者の女子高生チャウは才色兼備の優等生。最愛の母を3年前に亡くし、大人になることを余儀なくされたチャウは、問題ばかり起こす父の面倒に嫌気がさし、海外留学することを決意する。真逆の性格からくる衝突の多いパパとムスメだったが、ママの3回忌の日、不思議な現象をきっかけに人格が入れ替わってしまう。周囲にバレないようにと、二人はこれまでになく意思疎通を図るが、お互いに善かれと思ったことが裏目に出てしまい、関係は悪化するばかり、そんな中、チャウ(中身はパパ)には海外留学の奨学金を得る為の大事な発表会の日と、ハイ(中身はムスメ)には、会社での大事なコンペの日がやってきてしまう!

DVD『パパとムスメの7日間』日本版パッケージより引用
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レビュー

このレビューはベトナム映画版をはじめとした、歴代『パパとムスメの7日間』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

ベトナム風な大胆アレンジ

人格が入れ替わってしまった父娘の奮闘をコミカルに描いた、五十嵐貴久さんによる小説『パパとムスメの7日間』。2007年に放送されたテレビドラマは人気を博し、2017年には韓国で実写映画としてリメイクされています。

それからわずか1年半後、今度はベトナムで映画化されました。メガホンをとるのは、アメリカ・ロサンゼルスを拠点に世界各地で活動する落合賢さん。監督作『太秦ライムライト』(2014)は、同年のファンタジア国際映画際で最優秀作品賞を受賞しました。

『サイゴン・ボディガード』(2016)は、日本人監督作で初めて、ベトナム出資・ベトナム語・オールベトナム人俳優で製作された映画です。大ヒットとなった同作に続く今作は、本国公開時、初週で観客動員50万人超えを記録しました。

ベトナムで映画化された「パパとムスメの7日間」、編集段階で思わぬ事態に? : 映画ニュース - 映画.com
吉本興業が主催する「島ぜんぶでおーきな祭第11回沖縄国際映画祭」の特別招待作品「パパとムスメの7日間」が4月18日、那覇市・桜坂劇場で上映され、落合賢監督と出演者のひとりであるギアが舞台挨拶に立った。2007年に舘ひろし&新垣結衣主演でドラ

落合監督は「今回の作品は自分から原作権を交渉し、制作から配給まで作品の全ての段階に関わっています。ベトナムの映画業界は目覚ましい急成長を遂げている過程ですが歴史も浅いため、良質のコンテンツや若い映画作家を常に求めており、僕のような外国人にもチャンスが満ち溢れていると思います」と語ります(※1)。

※1:「パパとムスメの7日間」ベトナムで実写映画化! メガホンは落合賢監督 : 映画ニュース – 映画.comより引用

こうした監督の意気込みは、映画本編の内容からも如実に感じ取れます。というのも日本を舞台にした原作小説から大胆にアレンジを加えており、現代のベトナムの慣習や社会問題を物語に反映させているのです。

話の中心となるのは、ファム家。父・母・娘の3人で楽しく暮らしていたが、母の死によってその日々は一転してしまう。思春期を迎えた娘と父の間には、すっかり会話は無くなった。冒頭の回想シーンでは、2人の喪失感が、画面の色調や音楽の変化によって端的に表現されていました。

父のハイは、化粧品会社に勤めるクリエイター。しかし家では、自室に籠ってずっとサッカーゲームをするなど、父親らしいことを一切しない怠惰な生き方をしていた。遅刻や忘れ物を頻繁にする彼は、そのたびに娘に叱られている。

対照的に娘のチャウは、学校に通いながら家事を一人でこなすしっかり者に育った。現在の生活に辟易している彼女は、海外留学を考えており、その奨学金を獲得できるタレントショーのオーディションを控えていた。

原作と異なるキャラ設定の理由として、「成長しないまま親になった大人と、頼りない親をサポートするために親よりも大人っぽく育った子供が最近増えている」現代のベトナムにおける親子関係を描いた、と監督は述べています(※2)。

※2:パパとムスメの7日間|OAFF2019|クロージングより引用

過去の映像化と対照的な点は、他にも見受けられます。先輩に想いを寄せる年頃の女子高生だった原作のムスメに対してチャウは、元カレであるブウからのアプローチを邪険に扱っていました。上述した改変要素からも、原作とは違うものを作る、という製作陣の明確な意図が伺えます。

「勝ち組」と「自分色」

母の三回忌で大喧嘩したハイとチャウは、ある出来事をきっかけにして人格が入れ替わります。過去の映像化において、パパとムスメの入れ替わるきっかけは、電車の脱線事故や車の交通事故でした。しかし本作では、それらを凌駕する酷い仕打ちが次々と襲い掛かった末に、入れ替わりが発生します。

チャウの頭上に虫が落ちてくる。パニックになった彼女は、近くにあったトロッコに乗っかって急降下。そこから振り上げられ、電線に触れて感電。地面に落下した彼女は、蝶を飲み込んで気絶。意識を取り戻すと、父と人格が入れ替わっていた、といった悲劇のつるべ打ちが展開されます。自分だったら本当に耐えられません。

その後2人は協力して、それぞれに迫る難局を乗り越えていきます。『パパとムスメの7日間』の代名詞と言える展開であり、作品の醍醐味でもあります。この大筋の流れが残っているため、舞台や登場人物が大幅に改変されていても、しっかり『パパとムスメの7日間』らしさを感じられました。

若い世代に向けた新商品案を考えていたハイは、部下のビンたちとともに「自分色」をテーマにプレゼンを準備していた。同じく部下のニュンは、彼らを冷ややかな目で見ており、「勝ち組」をテーマにしたプレゼンを彼に提出する。

「勝ち組」の考え方に近いチャウ(身体はハイ)は、準備していた「自分色」ではなく、「勝ち組」のプレゼンを始めてしまう。彼女自身のエピソードを交えた熱弁は、社長の胸を打ち採用される。

一方でハイ(身体はチャウ)も、オーディションで披露するバレエを練習。ただし本番でハプニングが発生し、彼なりのアドリブを加えてその場を乗り切った。その奇想天外なパフォーマンスは「酔拳バレエ」と呼ばれ、好評となり代表に選ばれる。

良い結果が得られたとはいえ、互いに良かれと思ってとった行動が、相手の意思と異なっていた。ここで明白になったのが、父娘のディスコミュニケーション。日々のコミュニケーションを通して、自分と相手の価値観の違いを知ることの重要性が、物語中盤で描かれています。

プレゼンが採用されたハイは、クリエイティブ職を続けるのか、それとも管理職への昇進を選ぶのか。チャウは留学の意思を、ハイに伝えられるのか。自分の価値観を他者に押し付けていた両者が互いを理解し、互いのために行動したクライマックスには感動させられました。

母親らしさからの脱却

何といってもこの映画は、コメディ映画らしく笑える場面が多い。先述した入れ替わりのシークエンスのテンポ感だけでなく、学校の先生に下剤を飲ませたり、ハイの家にやってきたニュンが彼にSMプレイを仕掛けたり、といった展開にはバカバカしさすらありました。

印象的なのは、入れ替わった翌日の一幕。ハイは日本語を話せるのですが、全然分からないチャウは真逆の通訳をしてしまう。時を同じくして、授業中に先生に当てられたハイは、内容が全く理解できず呆然とする。そこでイヤホンを駆使して必死に助け合い、最悪な事態は回避できました。このシーンのハラハラの持続力はすさまじかったです。

ハイ役のタイ・ホアさんは、劇作家や舞台監督もこなす、本国で非常に有名なコメディ俳優。ベトナム側のプロデューサーであるチャーリー・グエンさんの作品に多数出演しており、落合監督とは『サイゴン・ボディガード』でタッグを組んでいます。

チャウを演じるのは、人気YouTuberのケイティ・グエンさん。チャーリー・グエンさん製作の映画『17歳の恋愛注意報!』(2017)で、映画初出演にして主演に抜擢されました。過去の映像化と同様に、父娘役のお二方の演技力は目を見張るものがありました。

主人公一家をシングルファーザー家庭に変更している今作。母が得意だったバレエと家事を行うチャウの姿は、亡き母の面影を追い続けているように映ります。母らしくあることを勝手に自分の枷にしてきた彼女は、今回の経験を通して、自分らしく生きることの大切さを学びました。

映画のエピローグで、チャウは海外留学に旅立ちます。2人の関係性は以前から改善しており、彼らの表情からは互いに対するリスペクトが感じ取れました。彼女がキャリーバッグにつけているキーホルダーが、その関係性を象徴しています。

そしてそれは「勝ち組」と 「自分色」の対立を描いてきた、本作のメッセージにも繋がっています。色々なオリジナル要素が足されているにもかかわらず、この対立構造が明確に存在することで、ストーリーも最後まで非常に分かりやすいです。

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最後に

普段あまり触れる機会のないベトナム映画であり、レンタルでしか現状では観られません。しかし言語の壁を越えて笑える作品なので、ぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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