『お耳に合いましたら。』感想:好きを形にする素晴らしさ

(C)「お耳に合いましたら。」製作委員会

少し遅れてきた青春を描いた傑作。

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作品情報

オーディオストリーミングサービス「Spotify」と連動したテレビ東京オリジナル作品。ポッドキャスト番組を立ち上げた高村美園は、徐々に交流の輪を広げていく。『サマーフィルムにのって』の伊藤万理華が主演し、同作の松本壮史がメイン監督を担当する。

出演: 伊藤万理華 / 井桁弘恵 / 鈴木仁 ほか
監督: 松本壮史 / 杉山弘樹 / 松浦健志
脚本: マンボウやしろ / 大歳倫弘 / 灯敦生 / 松本壮史
放送期間: 2021/07/08 – 09/30
話数: 12話

あらすじ

漬物会社に勤める高村美園(伊藤万理華)。彼女の楽しみは、お気に入りのポッドキャスト番組を聴くことと、週に何度かチェンメシ(チェーン店グルメ)を堪能すること。とある日、喋るのが苦手な美園は会議中に何も発言できないでいた。見かねた同僚・亜里沙(井桁弘恵)は、喋る練習も兼ねてポッドキャスト配信をやってみることを勧めるが乗り気ではない。 しかしあることをきっかけに好きな想いを伝えないといけないことを知った美園は、大好きなチェンメシを片手に、はじめてのポッドキャスト配信に挑戦する。

第1話|ストーリー|【木ドラ24】お耳に合いましたら。|主演 伊藤万理華|テレビ東京より引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

コロナ禍との符合

世界的な音楽配信サービス「Spotify」の全面協力のもとで製作された本作は、実際のポッドキャストと連動したオリジナルドラマ。ポッドキャストの配信を題材にしている珍しい作品です。

主人公は、漬物会社に勤めるごく普通の会社員・高村美里。学生の頃からラジオをよく聴いており、チェーン店のご飯「チェンメシ」をこよなく愛している。親しい同期である須藤亜里沙の言葉をきっかけに、チェンメシについて語るポッドキャスト番組を立ち上げる。

自身の配信をきっかけにして彼女は、今まで関わりがなかった人たちと交流し、仲を深めていきます。例えば、会社の先輩・後輩や、お隣さん。また仲違いしてしまった母親や大学時代の友達も登場し、配信を通じて彼らとの関係性が修復されるさまが描かれます。

音声コンテンツを聴くタイミングは、人によってさまざま。家に一人でいるときや、通勤・通学の時間、ジョギングしながら、などなど。いずれにせよこういったコンテンツを聴くときは、誰かと一緒にというよりは、一人の時間が多いでしょう。

これら特有の魅力は、他の媒体では聞けないパーソナリティたちの他愛のない話にあると思います。まるで彼らと一緒にいるような感覚にさせてくれる距離の近さ。音声コンテンツ独特の距離感は、一人でいる寂しさや辛い現実を束の間だけ忘れさせてくれます。

今作にはTwitterでの反響にフォーカスしたエピソードがありましたが、パーソナリティはスマホの奥にいるリスナーの一人ひとりとも繋がっているのです。

この様子は2020年以降の「新しい生活様式」を連想せざるを得ません。登場人物はマスクをしておらず、劇中がコロナ禍でないことは明白。ただしそれぞれのキャラが一人きりでポッドキャストを聴く場面は、人と人が気軽に会えず、画面や電話越しでしか会話できない現実を想起させられます。

各話ごとに美園が食べる料理がテイクアウトである点も、ご時世を感じさせます。ちなみに、このチェンメシがめちゃくちゃ美味しそう。さらにチェンメシ愛の溢れる食リポによって美味しさが倍増しており、飯テロドラマとしてもポイントが高いです。

ここまで挙げた様々な要素を通して「離れていても、繋がっている」を打ち出したこの作品は、コロナ禍の最中にある2021年の現在に作られる意義があることに違いありません。最終話の展開はまさに「離れていても、繋がっている」ことを表わしており、作品のテーマをしっかりと締めくくるラストになっています。

また脚本が秀逸。一話完結ではないストーリードラマでありながら、ちゃんと各話ごとに起承転結があり、それでいて内容も面白く、ほっこりもさせてくれる。番組の反響が徐々に広がったり、関わる人が増えていったりするさまが演出されており、パーソナリティ成長譚としても楽しめます。

好きを諦めない

美園は他人に対して、ついつい必要以上に気遣いをしてしまう性格です。そのため会社の人とスムーズにコミュニケーションをとることができない。プレゼンや会議でも、なかなか上手に話せない。

といったように一見したら口下手な彼女ですが、チェンメシやラジオの話題になると饒舌になります。しかし好きなことを伝える相手がいない。このままでは自分の「好き」が死んでしまう。そんな不安から、ポッドキャスト番組『お耳に合いましたら。』(通称「お耳」)をスタートさせます。

InstagramやTwitterをはじめとしたSNS、YouTubeやSpotifyなどの配信サービスの流行によって、世はまさに「一億総配信時代」に。スマホがあれば、だれでも自分のやりたい事を世界に発信できるようになった現代。それゆえ美園の動機に共感できる方も多いのでは。

第1話で初めてポッドキャストを録音する彼女。録音を終えて、勇気を振り絞って「公開」ボタンを押します。このシーンは、「あぁ、公開しちゃった」っていう期待と不安が入り混じった気持ちが忠実に表現されています。表現の方法は違えども発信をする者の末端として、共感しまくりな演出でした。

好きであることを諦めないという面では、監督と主演が同じ映画『サマーフィルムにのって』(2021)を連想する人もいるでしょう。この映画では、時代劇への愛情を胸に、時代劇を実際に撮影する高校生たちが描かれていました。二作とも「好き」という感情の重要性と美しさを描き出しています。

しかしながら番組の内容は、回を重ねるごとにどんどん身内話になっていきます。そもそも本名を公表していたり、会社の同僚について本名を交えて話していたり、勝手に心配になっていました。それが「注目のポッドキャスト」に選ばれるのが、少し現実感ないな、とも思いました。

このドラマの大きな特徴が、実在のポッドキャストと連動しているところ。Spotifyで『お耳』が実際に配信されているのです。中には劇中では流れないエピソードもあったり、ドラマを観た後に聴くのが楽しかった。そして同時に、美園が好きな氷川きよしの番組『氷川きよし kiiのおかえりごはん』も配信しており、両方とも注目していただきたい。

こだわりに溢れた作品

今作について特筆すべきは、キャスティングです。ラジオが題材になっているため、毎話ごとにゲストとしてラジオパーソナリティたちが出演します。クリス・ペプラーさんや安東弘樹さん、坂上みきさんといったラジオレジェンド。ラジオが好きであればあるほど、嬉しいキャスティングと言えます。

加えて芸人を起用しているのも特徴的。平子祐希さん(アルコ&ピース)演じる経営コンサルタントをはじめとして、伊藤俊介さん(オズワルド)演じる漬物会社の社長、森本サイダーさん演じる美園の同僚が登場。お三方とも良い味を出していました。

もちろん『お耳』チームの3人も魅力的。主役の伊藤万理華さんについては、美園役にピッタリとハマっています。彼女自身の活動がやりたい事をとことん突き詰めている境遇が、美園とリンクしているように感じられました。

彼女の同期である亜里沙役を務めるのは、井桁弘恵さん。『仮面ライダーゼロワン』(2019-20)に出演して以降、活躍の幅をさらに広げています。亜里沙からは「仲間にいたら絶対に頼りになる」感が溢れており、美園とのやり取りも自然で楽しかった。

そして機材面から美園をサポートをするのは、後輩の佐々木涼平。彼の持つ空気の読めなさや我が道を行く性格を、見事に体現しており素晴らしい。

第6話に登場する大学時代の友人役に桜井玲香さんを起用するなど、文脈が分かれば楽しめるような小ネタを仕込んでいるのも気が利いています。

さらにはキャッチーなオープニングとエンディングも見逃せません。オープニングで映し出されるのは、美園がワクワクしながらジオラマ模型を作る様子。ストーリーのゆるさに合った映像と音楽は、視聴者をドラマの世界観にふっと引き込ませてくれます。

エンディングの映像は、ワンカットで撮影されたダンス。振付を担当しているのは、振付家・菅尾なぎささん。『まりっか’17』や『伊藤まりかっと。』など乃木坂46在籍時の伊藤さんの個人PVにも携わっていることもあって、彼女が魅力的に見える振付になっています。しかも毎話分を別の場所で撮り下ろしているのが、地味に手が込んでいます。

現代に合ったメッセージ性とそれに沿ったストーリーだけでなく、ディティールにまでこだわった演出、俳優陣の演技、テーマであるポッドキャストやラジオについてなど、どの部分をとっても十分に語りしろのある本作。今後カルト的な人気を得ていくと思われます。

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最後に

本当に面白かった。観た後に感想を語りたくなるドラマ。本当におススメ。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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