韓国映画『パパとムスメの7日間』感想:真正面から伝える家族愛

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『パパとムスメの7日間』映像化の第2弾です。

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作品情報

2006年に発表された五十嵐貴久による小説『パパとムスメの7日間』を原作とした韓国映画。サラリーマンの父親と女子高生の娘の人格が入れ替わった7日間をコミカルに描く。入れ替わる父娘を演じるのは、ユン・ジェムンとチョン・ソミン。

原題: 아빠는 딸 (Abbaneun Ddal)
原作: 五十嵐貴久『パパとムスメの7日間』
出演: ユン・ジェムン / チョン・ソミン / イ・イルファ / シン・グ / イ・ミド ほか
監督: キム・ヒョンヒョプ
脚本: チェ・ユンミ / キム・ジソン / ジン・ナリ / チョ・ソンウ
日本公開: 2018/03/13
上映時間: 115分

あらすじ

47歳、化粧品メーカーのしがない中間管理職サンテ。部下からは軽んじられ、家庭でも、娘から服を一緒に洗濯されるのを拒否られるなど、さんざんな人生。
17歳、女子高生のドヨン。いつも勉強しろとしか言わない父にうんざりし、今は学校で片想いの男の子に夢中。
そんな二人が、いつものようにいがみ合いながら乗っていた自動車で交通事故に遭遇。病院で目覚めてみると、なんとお互いの体が入れ替わっていた!
しかも、サンテは自分の昇進を賭けた大事なプレゼンを、そしてドヨンは念願の人生初デートを控えた最悪のタイミングで。二人は仕方なくお互い協力して、何とかこの難局をくぐり抜けることにするが……。

DVD『パパとムスメの7日間』日本版パッケージより引用
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レビュー

このレビューは韓国映画版をはじめとした、歴代『パパとムスメの7日間』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

日本版へのリスペクト

ある事故をきっかけにして、人格が入れ替わった父と娘の奮闘を描いたコメディ小説『パパとムスメの7日間』。2007年にテレビドラマ化された際は、舘ひろしさんと新垣結衣さんが父娘役を好演し、人気を博しました。

そんな作品が、海を越えた隣国・韓国で2017年に実写映画化されました。日本でヒットしたドラマが韓国でリメイクされる例は珍しくありません。『花より男子』や『リーガル・ハイ』など、これまで数多くの映像作品がリメイクされています。

今作の特徴と言えるのが、2007年のドラマ版を踏襲して作られている点。パパの会社のプレゼンとムスメの先輩との初デート、といった難局を入れ替わった2人が協力して乗り越えていく展開は、同作と一致します。

化粧品会社の窓際部署「在庫処理チーム」の課長であるウォン・サンテ。田舎町に建てた一軒家の地下室にて、彼がホームビデオを見ている場面から物語は始まる。大きくなったらパパと結婚する、と無邪気に言っていた一人娘のドヨンは、すっかり思春期を迎えていた。

高校で一年上のジオ先輩に片想いしているドヨン。彼女はろくに父親と口を利こうとしなかった。愛用するヘッドホンが、女子高生特有の感情を代弁しているようです。

劇中には食事シーンをはじめ、韓国ならではの慣習や文化が所々に表れていました。しかしそういった中でも、思春期の娘と父親の関係性が日本と同じところには驚かされます。洗濯物を一緒に洗わないでほしい、という台詞は全く他国の話とは思えず、親近感を抱きました。

母方の父が倒れたと連絡を受けたドヨンが実家に駆けつけるも、実際のところ命に別状はなかった。そこでも無視され続けて頭に来たサンテは、彼女のヘッドホンを破壊。お互いの生活の大変さを嘆き、今後の展開のフリになる台詞を叫ぶのです。

2007年ドラマ版では第1話の前半を使って描かれた、入れ替わるまでの日常。本作では、冒頭10分でテンポよく語られています。原作小説をコンパクトにしたドラマ版をさらに切り詰めており、映画ならではのテンポ感がありました。

交通事故に遭ったサンテとドヨンが病院で目を覚ますと、互いの人格が入れ替わっていた。2人の食べ物の好みがまるっきり違ったり、迫ってくる母にドヨン(身体はサンテ)が困惑したり。細部にいたるまで、2007年ドラマ版に忠実にエピソードが構成されています。

見た目と中身は一致しない

サンテ役のユン・ジェムンさんは、『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』(2016)などに出演し、悪役が印象的な方です。しかし今作で彼は、非常にチャーミングな表情を披露していました。特に入れ替わって直後に、病院で見せる戸惑いの表情は素晴らしいです。

ドヨンを演じるのは、『イタズラなKiss』の韓国版テレビドラマで知られるチョン・ソミンさん。眉をひそめる表情からは、女子高生のキラキラ感ではなくオジサン感が醸し出されていました。

一人で複数の役柄を演じる入れ替わりもの。その題材ゆえに、役者の演技力の重要性は他よりも明らかに大きいと考えられます。この映画に主演する2人とも、口調や歩き方にいたるまで徹底的に役に憑依しており、俳優の凄さを感じました。

そして韓国語が理解できる人にとっては、より面白さが増す作品でしょう。というのも2人の言い回しや敬語表現の変化が、おそらく台詞で表現されているからです。

取引先の社長との会食に参加したサンテ(心はドヨン)は、部下のナ代理へのセクハラ発言を、スマホで録画してSNSにアップ。この展開は、原作小説にはなく2007年ドラマ版で付け加えられたエピソードと似ています。

これに代表されるように、ドヨンのアクティブさが物事を良い方にも悪い方にも変えていきます。通販番組で会社の商品を宣伝して活躍。あるいは部下のチュ代理に、女子高生の視点で恋愛指南をするも、逆効果となり失敗してしまいます。

今回の映画でメインとなるサンテの部下は、ナ代理とチュ代理の2人に絞られています。どちらもコメディ演技が面白く、個人的に印象に残るキャラクターでした。

一方でドヨン(心はサンテ)は、自身の経験を糧にして高校生活に挑む。オーディションではギターを披露してジオ先輩に好感を持たれたり、初デートで訪れたレコードショップでは古いレコードの知識を通して親しくなったりする。

当然ながら2007年ドラマ版と異なる部分も多くあります。原作にも出てくるサンテの鞄は、彼の家族への想いの象徴でした。本作ではその鞄に呼応するかのように、彼に買ってもらった洋服をドヨンが持っている、というエピソードが差し込まれています。

またパンツスタイルで登校するドヨンや、髪をセットして通勤するサンテといった、それぞれが自分らしさを出す一日があります。そのような細かい改変要素は、2007年ドラマ版からの巧みなアップデートであるとともに、時代の変化が垣間見れるアレンジに感じました。

中でも特筆すべきは、ドヨンの友人であるギョンミの存在。サンテは彼女の真面目な姿を見て、勝手に秀才だと思っていました。ただし実際の彼女は、それほど頭が良くなかったことが後に明かされます。

物語の肝である「見た目と中身の不一致」を体現した象徴的な人物であり、見た目だけで人を判断してはいけない、というメッセージとも受け取ることができます。そのため物語の結末で、彼女の問題に何らかの救いがあっても良かったと思いました。

ストレートな家族愛

今作のさらなるオリジナル要素が、入れ替わりの原因となる「伝説」。千年前から存在するイチョウの木の下で願い事をしたために、魂が入れ替わってしまった。7日間で元通りのはずだが、2人の仲が悪ければ元に戻れない設定です。

入れ替わって7日目の日、会社のプレゼンをきっかけにして2人は大喧嘩。ゆえに翌朝、元に戻ることは叶わなかった。落ち込んでいるドヨンは、眠り続けるサンテを前にして自身の想いを吐露するのであった。

いつ2人の人格が戻るのか、そもそも元に戻れるのか。2007年ドラマ版にあったハラハラ感は、この設定によって薄まっています。またドラマ版を既に観ていれば、なんとなく最後まで話の想像がつきます。なので思い切った改変をしても面白かったのではないか、と思いました。

サンテは父親としてドヨンを常に心配していました。通販番組の活躍などを知った彼は、娘がホームビデオの頃から成長を遂げているのを実感します。子離れしたパパと彼の愛情を知ったムスメの関係が、以前より少しだけ良くなったのが伺えるラストには、大人な味わいがあり素敵でした。

エンドロール前のタイミングでは、色々な女性たちから父親へのメッセージが流れます。ここで映し出される人々は、映画本編とは全く関係ありません。子供からご年配にいたるまで、幅広い年齢層の女性たちが次々と登場します。

そこで彼女たちは、自分の父親への想いを吐露します。それは純粋に愛の言葉を伝える子供だったり、恥ずかしながら想いを伝える思春期の娘だったり、亡き父に直接伝えられなかった想いを語るご年配の方だったり様々です。

家族の素晴らしさを真正面から伝える、類を見ないほどストレートな演出に感じられます。前後の脈絡はなく、突然に挟まれるため面食らう演出ですが、心に訴えかけるものがありました。彼女たちの事情を知っているわけではないけれど、直接的な愛情表現のかたちに感動させられました。

ここで語られる言葉が醍醐味でもある本作は、原作のテーマである家族愛が前面に押し出された映像化と言えます。

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最後に

現状ではレンタルでしか観ることができない映画ではありますが、韓国映画やドラマが好きな方には特に観ていただきたいファミリー向けコメディです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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