『最高の教師 1年後、私は生徒に□された』感想:現代を捉えた正直な脚本

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脚本家、謎すぎる。

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作品情報

2019年に放送された『3年A組-今から皆さんは、人質です-』の製作陣によるオリジナル脚本作品。担任生徒に殺されたことでタイムリープした教師が、生徒たちと向き合っていく。主演の松岡茉優が、芦田愛菜ら若手俳優が演じる生徒30人の担任教師を演じる。

出演: 松岡茉優 / 芦田愛菜 ほか
演出: 鈴木勇馬 / 二宮崇 / 松田健斗
脚本: ツバキマサタカ
放送期間: 2023/07/15 – 09/23
話数: 10話

あらすじ

いま私の目の前にいる生徒は「1年後、私を“殺す”…30人の容疑者」
卒業式の日に、生徒を見送った教師・九条里奈は4階から突き落とされてしまう。
最後に見た光景は、制服の袖……。
「なんで…?嫌だ!どうして?誰が?死にたくない!」そう願った瞬間、彼女は始業式の日の教室に戻っていた。
真相を突き止めるために、生徒と本気で向き合っていく“新時代”の学園ドラマが、今はじまる。
生徒を想い、死力を尽くす“教師”は絶滅した――但し、『命が係る場合』はその限りではない。

新土曜ドラマ「最高の教師」7月スタート!松岡茉優が教師役に初挑戦 芦田愛菜が7年ぶりの民放連続ドラマ出演|最高の教師 1年後、私は生徒に■された|日本テレビより引用
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レビュー

このレビューは『最高の教師 1年後、私は生徒に□された』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

学園ドラマへの現代的アップデート

学園ものといえば、古今東西さまざまな作品が作られてきたドラマ界の王道ジャンル。『3年B組金八先生』や『GTO』、『ごくせん』など、破天荒な手段で生徒を導く強烈なキャラクターの教師は、どの時代にも存在します。

タイムリープものもまた、近年のドラマや映画においてポピュラーな題材と言えます。主人公が自身の死をきっかけに時を遡り、人生をやり直す『ブラッシュアップライフ』(2023)は記憶に新しいのではないでしょうか。

『最高の教師 1年後、私は生徒に□された』は、そうしたテレビドラマの定番的な二つのジャンルを組み合わせ、さらにそこにサスペンス要素を加えています。

高校教師の九条里奈は、卒業式当日に担任生徒の誰かに背中を強く押され、校舎から突き落とされる。直後に彼女が目を覚ますと、そこは一年前の始業式の日だった。彼女は運命を変えるため、自分を殺害するかもしれない生徒たちと向き合うことを決めた。

プロデューサーの一人である福井雄太さんと、メイン演出を務める鈴木勇馬さんは、『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(2019)を手掛けていました。同作は担任生徒を監禁した高校教師の謎を追う学園サスペンスであり、舞台設定が今作と似ています。

両作の共通点として挙げられるのが、現代的な連続テレビドラマの特徴が凝縮されている点です。具体的には、次回の放送まで視聴者を引きつけるインパクトの強いクリフハンガー。予想外な終わり方で本編が終わるため、毎回驚かされていました。

それに加え、犯人を考察させるために脚本や演出が計算されていました。SNSで視聴者が盛り上がれるような仕掛けがいくつも盛り込まれているのです。こういった作劇の自由さは、完全オリジナル作品ならではのメリットに違いありません。

主人公・九条が受け持つ3年D組には、問題児が一同に集められています。価値観の変化やスマホの普及によって、「いい距離感」が求められる現代社会。教師にとっても、生徒に寄り添うのを諦めざるを得ない時代だと考えられます。そんな世の中に抗うかのように、九条は生徒たちに全力で向き合います。

本作は一話ごとに数人の生徒に焦点が当て、彼らの悩みを払拭していきます。各話で取り扱われる問題も現代的で、『3年A組』を手掛けたスタッフなだけある、といった印象を抱きました。

例えば、貧しい家庭環境で暮らす生徒を通して浮き彫りになる、各家庭の経済格差。あるいは工学研究会から見た、窮屈なスクールカースト。クラス内での「いじめ」だけでない、高校生ならではの様々な問題が生々しく描かれています。

さらには自分の居場所を常に探している女子生徒や、芸能活動をするがゆえに後ろ指を指される生徒が登場。彼らが抱える思春期特有の悩みは、いつの時代にも当てはまる普遍性があり共感性の高いテーマに思いました。

九条に改心させられた生徒たちは、彼女の味方になっていく。それにより彼女を突き落とした容疑者は、徐々に絞られていきます。そのため正直、終盤には犯人が容易に推測しやすく、サスペンス面では尻すぼみした印象が否めませんでした。

ドラマ全体の盛り上がりとしても、クラスでいじめられていた生徒・鵜久森叶もタイムリープしている事実が明らかになってから、彼女の「運命の日」が訪れるまでの中盤の展開がピークに感じました。

個性を引き出したキャラ設定

高校教師の九条役は、『おカネの切れ目が恋のはじまり』(2020)以来、地上波連続ドラマの主演を務める松岡茉優さん。作品ごとに変幻自在に役を演じ分ける彼女ですが、今回の役は『ちはやふる』シリーズの若宮詩暢に近く、達観して物事を見通す超人的なキャラに映りました。

タイムリープした当初、優しく寄り添う姿勢で生徒と接していた九条。しかしそれでは問題の解決に繋がらないと確信し、反抗的な態度をとる彼らに全力でぶつかっていく。未来を知っているがゆえの、ブレない覚悟が表情から伝わってきたと同時に、生徒への思いやりの心も台詞の節々から滲み出ていました。

彼女と同様に二周目の人生を生きる鵜久森を演じるのは、『Mother』(2010)をはじめ、子役の頃から活躍を続ける芦田愛菜さん。松岡さんとは、ドラマ『銀二貫』(2014)で二人一役を演じていました。第1話、鵜久森が自身のいじめ体験を告白するシーンには、一気に心を掴まれました。

芦田さんの生い立ちからは、「完璧」や「優等生」などのイメージを持たれることも多いでしょう。幼い頃から多くの経験を積んでいるが故に「人生何周もしている」と称される芦田さん自身と、役がリンクしており妙な説得力がありました。登場人物の中でも、特に当て書き要素が強いキャラだと思います。

鵜久森へのいじめの主犯格であり、クラスを牛耳っていたのが相楽琉偉。演じているのは、トヨタ自動車のCMで「こども店長」としてブレイクした加藤清史郎さんです。子役の頃のイメージを塗り替える強烈なヒール役が見事でした。

九条や鵜久森の味方につくクラスメイトが多くなるにつれ、どんどん相楽は追いやられていく。ついに第8話にて、彼の贖罪が描かれます。他人に弱さを見せる覚悟を決めた彼が、彼女の遺骨の前で号泣しながら謝罪する場面は今作の白眉でした。

そして物語のカギを握る生徒・星崎透を演じるのは、奥平大兼さん。彼は、俯瞰した視点で物事を客観的に見ているミステリアスな人物です。映画『MOTHER マザー』(2020)でオーディションを勝ち抜いた実力をもって、この複雑な役を好演していました。

各話の見どころと言えるのが、九条や生徒たちが自身の本音を吐露するシーン。実に爽快感がありました。特に、自身の性的指向に葛藤する東風谷葵役の當真あみさんや、鵜久森を校舎から突き落としてしまった西野美月役の茅島みずきさんの、力強い演技が印象に残っています。

加えて森田望智さん演じる居酒屋店長の智美と、ラランドのサーヤさんらしさ溢れる夏穂という九条の親友や、松下洸平さん演じる夫の蓮とのやり取りには癒されました。この何気ない日常シーンが、シリアスな本編の雰囲気を和らげていました。

直接的な台詞回しへの違和感

先述した登場人物が本音を吐露する場面ですが、確かに迫力はあるものの、みんな似た言葉遣いで話す点には違和感を抱きました。この違和感は、ドラマ全体に共通しています。キャラ設定や演技自体は個性的なので、画一的な台詞回しの異質さがより際立っていました。

今作でさらに特徴的なのが、説明的で堅苦しい言葉選び。「向き合う」をはじめとした概念的な言葉を会話劇に昇華せず、そのまま台詞に起こしているため、日常的な会話としては不自然さが生じています。

作り手が作品に込めたメッセージは直接的に伝わってきたものの、そうした言葉が劇中で繰り返し多用されていることでメッセージが形骸化していると思いました。

またそれまで隠していた感情を初めて吐露するような状況において、劇中の人物のように、澱みなくスラスラと話せる人は決して多くありません。総じて現代の高校生の話し方としてリアリティに欠けていました。

脚本にクレジットされているのは、ツバキマサタカさん。過去作は見当たらず、新人なのか、共作なのか、はたまた正体を隠した有名脚本家なのか。色々な憶測が飛び交っていますが、真相は明かされていません。

とはいえ作品が伝えているメッセージ自体は、非常に素晴らしい。ギャラクシー賞2023年9月度月間賞を受賞した際は、「学園ドラマの王道がアップデートされたかたち、一種の「ポスト学園ドラマ」と捉えられる点に新しさを感じた」と評価されています。

現代社会を生きにくく思う人には、何かしら心に響く内容でしょう。物語後半では「故人を憶測で語ること」の問題性が指摘されていました。2023年の日本のニュースを知るうえで、不可欠な視点ではないでしょうか。

ちなみに本作では、「自殺」という直接的な単語が徹底的に避けられています。代わりに「自分で自分の一周目を終わらせる」や「最悪」といった表現が使用されていました。こういったあたりは、センシティブな題材を扱う創作物として好感を抱く部分でした。

物語の着地も良かった。星崎は日常生活に特に不自由を感じていなかったが、「白黒」の虚しい世界で淡々と日常をこなす自分に辟易していた。まさしくそれは一周目の人生の九条が抱いていた感情と似ています。だからこそ、自分を信じてあげる、という彼女の言葉には説得力がありました。

タイトル「□された」の種明かしも。一周目での九条は「殺された」のに対し、二周目では、懸命に生きようとするも命を落とした鵜久森に、未来を「託された」のです。不条理に満ちたこの世界においても、希望を感じさせる見事な終わり方でした。

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最後に

芦田愛菜さんや奥平大兼さんをはじめとした注目の若手俳優陣の演技を堪能できるので、ぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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