『LUPIN the Third -峰不二子という女-』感想:古くて新しいルパンの提示

原作:モンキー・パンチ (C)TMS

新しいルパンを提示した意欲作。

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作品情報

1971年から続くテレビアニメ『ルパン三世』シリーズの放送開始40周年を記念したスピンオフ作品。女怪盗・峰不二子とルパン一味の面々との出会いを描く。峰不二子役の沢城みゆきをはじめ、2011年に一新された新キャスト陣が声を当てる。

原作: モンキー・パンチ
出演: 栗田貫一 / 沢城みゆき / 小林清志 / 浪川大輔 / 山寺宏一 ほか
監督: 山本沙代
脚本: 岡田麿里(シリーズ構成) / 三次五子 / 佐藤大 / 大西信介 / 西村ジュンジ
放送期間: 2012/04/04 – 06/27
話数: 13話

あらすじ

あるカルト教団の教祖が隠し持つ秘宝を狙い孤島に侵入したルパン三世は、美しくも危険な香りをまとった女と出会う。その名は峰不二子。素性や過去をベールに隠し大胆かつ華麗に仕事をこなす謎の女怪盗は、型破りでアクの強い4人の男たちと出会っていく。ルパン三世、次元大介、石川五ェ門、銭形警部、そして峰不二子……彼らの運命の糸がいま、交錯する!

LUPIN the Third ~峰不二子という女~ | ルパン三世 | TMS作品一覧 | アニメーションの総合プロデュース会社 トムス・エンタテインメントより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

シリーズの転換点

1971年から放送を開始し、半世紀が経過した今も新作が作られ続けている「ルパン三世」。非常に息が長いコンテンツとなっていますが、長期シリーズというものには常に浮き沈みが付き物です。

50年間の中で大きな人気があったと言える時期は、テレビシリーズ第2期が放送されていた1977~1980年あたりではないでしょうか。中高生から多くの人気を獲得したり、二つの劇場版が公開されたり、その好調ぶりが伺えるからです。

人気を博していた第2期は、1980年に3年間の放送を終了。その後に製作された第3期『PARTⅢ』(1984-85)以降は、しばらくテレビシリーズは作られなくなりました。

ただ新作アニメとしては、年に一度のテレビスペシャルとして長編アニメが製作されていました。それに加えて、たびたび劇場版やOVAが作られるくらい。あとはパチンコを展開するなど、当時のルパンはよりコアなファン向けになっていったイメージを勝手に抱いています。

この流れを変える転機が、2000年代以降に二度訪れたと私は考えています。

一つは「名探偵コナン」との共演。2009年のテレビスペシャル『ルパン三世VS名探偵コナン』にて、出版社の垣根を越えて、このクロスオーバーが実現しました。この続編が劇場で公開されていることからも、大きな反響が見て取れます。

これにより中高生などのコナンファンを取り込み、ファン層が広ったのではないかと思います。私自身もこの作品をきっかけに、ルパン三世に興味を持った記憶があります。

もう一つは、声優の刷新です。2011年の『ルパン三世 血の刻印 〜永遠のMermaid〜』にて、長きにわたり同じ方が声を当てていた五ェ門、不二子、そして銭形のキャストが変更されました。

「ドラえもん」や「サザエさん」など、名だたる長寿シリーズは軒並み声優の交代を行っていますが、ルパン三世もこのタイミングで主要登場人物の半分が一新されました。

これらをきっかけにして製作側には、長寿コンテンツ「ルパン三世」をもう一度盛り上げよう!みたいな機運が高まっていたのではないか、と思われます。

上記2作を踏まえて製作された『LUPIN the Third -峰不二子という女-』は、実に数十年ぶりとなるテレビシリーズ。しかし「PART 〇」といった正式なナンバリングではなく、あくまでスピンオフと位置付けられています。

そのため番外編ならではの実験的な試みが、いくつも見受けられます。まず挙げられるのはストーリー。原作を意識したようなダークでエロティックなストーリーは、それまで王道だったコメディ路線とは大きく異なるものでした。深夜帯で放送されることもあり、大人をメインターゲットにしているのが分かります。

あとはなんといっても、ビジュアルのインパクトが強い。これまでにはなかった、大きく影がついている劇画タッチなデザイン。キャラクターデザインを担当する小池健さんによるデザインは、既にルパンたちのイメージが確立されているだけに、好みが分かれそうな印象を受けました。

後続作品に受け継がれる新要素

このスピンオフでは峰不二子が、ルパンや次元、五ェ門、銭形と出会ったときのエピソードが語られます。つまり時系列的には、彼らが既に知り合っている状態から始まる、ほとんどの過去作よりも前にあたります。さらに第1話は、ルパン自身も次元や五ェ門と出会う前でもあります。

今作を観てまず感じたのは、ルパンたちの若いときの物語が新鮮ということ。特に序盤で描かれる、それぞれのキャラクターが初めて出会う場面は面白い。これは既に彼らの性格を知っているために、「本当にこういう台詞を言いそう」といった気持ちになるからだと思います。

各話のストーリーは、一話完結で進んでいきます。しかしながら回を重ねるごとに、徐々に不二子の過去の記憶に迫っていきます。

監督を務めるのは、後に『ユーリ!!! on ICE』(2016)で原案や監督を担当している山本沙代さん。大人向けに作られた本作は、性的なシーンが頻繁に出てくるのが特徴。不二子が男性たちに仕掛ける色仕掛けや、1960~70年代という時代設定ゆえのセクハラも描かれます。また原作や劇場版の『ルパンVS複製人間』(1978)でも用いられていた、オス・メスの記号で表された性表現も復活しています。

対照的に過去作にはない新しい描写なのは、多様な恋愛模様。オリジナルキャラであるオスカーから銭形への片想いや、女子高生から女性教師への恋心が描かれます。これらが「変なもの」としてではなく、フラットな視点で描かれているのも重要なポイントです。また五ェ門が不二子に想いを寄せている様子からも、恋愛要素が強めであることが伺えました。

ルパンシリーズでおなじみの『ルパン三世のテーマ』が、オープニングで流れないのもかなり特徴的。かわりに今回のオープニングには『新・嵐が丘』という曲が使われており、そこで映し出される、不二子のヌードを含めたアート的な映像は初見時に衝撃を覚えました。

こここまで挙げた挑戦的な要素の中には、後続の作品へと受け継がれているものがあります。ハードな作風は、小池さんが監督を務める劇場用作品『LUPIN THE IIIRD』シリーズへと引き継がれています。2014年からスタートし、これまでに3作品が公開されています。

シリーズの伝統を適度に残しつつ、新しい要素も取り入れるバランスの良さは、正式ナンバリングである『PART 4』(2015)、『PART 5』(2018)、そして今年10月から開始する『PART 6』にまで受け継がれています。3作品それぞれで、オリジナルキャラが追加されているのですが、既存キャラの関係性を壊さない良いバランスになっているように感じられます。

峰不二子の語り直し

この作品の主人公・峰不二子を演じる沢城みゆきさんの演技の凄さには触れておきたい。彼女の唯一無二の妖艶な雰囲気が、不二子の大人な女性というイメージにピッタリとハマっています。ルパン曰く「俺の退屈を殺してくれる、とびっきりのいい女」を体現していました。

稀代の美女にして悪女のアイコンとして、古くから知られている峰不二子。ルパンをはじめとした男性たちに決して依存せず、自分の力で戦い、あくまで一匹狼を貫いて泥棒稼業をしています。その姿は1970年代当時においても、一般的な「女性らしさ」に囚われない生き方でした。

今作においても、その「女性らしくない」姿は健在。盗みの過程で男性たちと協力する場面はあったとしても、決して馴れ合いはしません。そういった「大人な」関係なのが、「ルパン三世」作品に共通する、大きな魅力の一つでしょう。

特に本作でクローズアップされるのは、何が彼女をここまで突き動かしているのか、ということ。タイトルにもある通り「峰不二子という女」について、シリーズを通してあまり語られてこなかった部分が、終盤に明らかになります。

彼女の動機だったのは、幼少期の記憶でした。虐待を受け、人体実験をされた過去。不二子はその記憶に自ら蓋をして生きてきました、その記憶の蓋を再び開けさせるために、本作の黒幕は、後にルパン一味となる3人を不二子と引き合わせました。

ただし最終的に、その記憶は不二子自身のものではなく、黒幕であるアイシャという少女の記憶であり、それが植えつけられていたことが明らかになります。この種明かし自体は、膝カックンされた感じがあります。これは推測に過ぎませんが、こういった新設定をあまり付け加えたくなかったのかな、と思いました。

そして彼女のアンチテーゼとして登場するのが、オリジナルキャラであるオスカー警部補。幼少期に救ってくれた銭形を慕っており、その感情は愛情へと変わっていきます。銭形や自身を利用した彼女を妬んでいました。

銭形への愛情が強くなるあまり周りが見えなくなっていったオスカーは、殺人をしたのちに姿を消してしまいます。オスカーのように他人への依存を望む生き方の悲しい末路を見せることで、不二子のような奔放でありながら自律した生き方を肯定しています。

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最後に

挑戦的な要素が多くあるため、好き嫌いははっきり分かれそうですが、一度見て損はない作品だと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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