『次元大介』感想:クラシックな相棒への愛とこだわり

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面白くなってきやがった。

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作品情報

モンキー・パンチの漫画『ルパン三世』の登場キャラ・次元大介を主人公にした実写アクション映画。2014年公開の実写映画で同役を演じた玉山鉄二が再演した。Amazon Prime Videoにて世界独占配信中。

原作: モンキー・パンチ
出演: 玉山鉄二 / 真木よう子 / 真木ことか / 永瀬正敏 / 草笛光子 ほか
監督: 橋本一
脚本: 赤松義正
配信: 2023/10/13
上映時間: 120分

あらすじ

愛銃コンバットマグナムに違和感を覚えた次元大介(玉山鉄二)は世界一のガンスミス・銃職人を求めて日本にやってくる。
辿り着いた先に待っていたのはさびれた時計店を営む女性・千春(草笛光子)だった。そこへ銃を求めて訪ねて来る少女・オト(真木ことか)。
徐々に明かされるオトの悲しい過去と彼女を狙う組織の存在。
そんな中、組織に連れ去られてしまったオトを助け出すべく、次元は孤独な戦いに身を投じる。

『次元大介』 予告動画 | プライムビデオ – YouTubeより引用
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レビュー

このレビューは『次元大介』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

9年越しに実現したスピンオフ

狙った獲物は逃がさない「神出鬼没の大泥棒」ルパン三世。彼とその一味の活躍を実写化したアクション映画『ルパン三世』(2014)は今から9年前に公開されましたが、否定的な感想が少なくありませんでした。

それから時を経て、同作で「早撃ち0.3秒のガンマン」次元大介を演じた玉山鉄二さんが、同役を再演するスピンオフの製作が今年7月に発表されました。タイトルは、シンプルに『次元大介』。主人公の名前がそのままタイトルになっている『ルパン三世』を踏襲しています。

玉山さんによると、公開後すぐにスピンオフの企画が立ち上がってはいたものの、「企画が二転三転しているうちにコロナ渦になってしまい、実際の製作決定が相当後ろにずれ込んでしまった」のだそう。

玉山鉄二が語る、次元大介の魅力とミュージックライフ | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)
玉山鉄二が主演を務めるAmazon Original映画 『次元大介』が、10月13日より世界同時配信される。今作は、『ルパン三世』シリーズの中でもとりわけ人気の高いキャラクター、次元大介を主役に据えたオリジナルムービー。長年連れ添った「相

紆余曲折を経て、無事に完成まで漕ぎ着けた今回のスピンオフ。なので『ルパン三世VSキャッツ・アイ』(2023)に続いて、立て続けにAmazonオリジナルの「ルパン三世」関連作品が発表されているのは、おそらく偶然だと思われます。

先述しているように、2014年に公開された実写版の世界観を引き継いでいる今作。冒頭ではポーランドやメキシコといった地名が、テロップで表示されます。このロケーション自体に意味は無いのですが、テロップのフォントからして前作の雰囲気を踏襲しているのが分かります。

教会の鐘が鳴り響く中、次元が愛銃コンバット・マグナムで敵を仕留める。彼の発射した弾がタイトルに繋がっていくオープニングのシークエンスが、まずカッコいい。その後、銃の不調を感じた彼が、世界一のガンスミス(銃職人)を探して日本を訪れるところから物語は動き出す。

映画の舞台は、悪名高いスラム街「泥魚街」。この舞台設定をはじめ、前作と同様に無国籍感が多分に意識されています。この街は劇中では、「都市開発に失敗して廃墟化していた街を、行き場の失ったはぐれ者達が占拠して作った、最後の居場所」と説明されていました。

ネオンカラーが目を引くサイバーパンク的な外観や、東南アジアのマーケットを連想させる街並みにはワクワクさせられます。加えて様々な車種の車がランダムに使用されており、特定の年代や地域を観客に連想させないように演出されていました。

こうした無国籍性こそ、『ルパン三世』に共通する魅力の一つです。言い換えれば、現実から乖離した、良い意味での作り物っぽさ。その雰囲気が、本作の現実離れした内容と合っていました。

またアニメ「LUPIN THE IIIRD」シリーズの音楽を手掛けるジェイムス下地さんの音楽が「ルパンらしさ」を担保しているとともに、作品の雰囲気を引き締めています。

劇中で次元が作る美味しそうな料理の中には、ステーキやすき焼きに加え、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)でおなじみのミートボールスパゲッティがありました。他にもモンキー・パンチさんの写真が居酒屋に飾られているなど、ファンへの目配せが随所に見受けられました。

統一感のない世界観

今作のストーリーは比較的シンプルで、一直線に話が進んでいきます。世界一のガンスミス・矢口千春の元を訪ねた次元が、そこで偶然出会った一人の少女に惹かれ、彼女を守るために戦いに身を投じていく。

このプロットは、同時期にシリーズ4作目が劇場公開された『ジョン・ウィック』(2014)を想起させます。愛する子犬を殺した人間に復讐する殺し屋ジョン・ウィックは、孤独な少女を助けに悪の組織に単身立ち向かう次元の姿と重なります。

監督を務めるのは、ドラマ『相棒』シリーズのメイン演出を担当している橋本一さん。『相棒』シリーズや監督作『探偵はBARにいる』(2011)では、主人公とバディの軽妙なやり取りが話を推進させる役割を果たしていました。

さて本作の主人公である次元はとても寡黙なので、一人きりではドラマはさほど盛り上がらないでしょう。そこで彼の相棒として用意されたのは、親を殺される現場を目撃したトラウマにより、言葉を発せなくなった少女・水沢オト。

映画中盤には、矢口が次元に対し、もっと相棒の声を聞いてやりな、と語りかける印象的な場面があります。ここでの「相棒」は愛銃コンバット・マグナムを指していると同時に、失語症のオトのことも暗示していると考えられます。

そんなオトを狙うのは、変幻自在に顔の作りを変えられる能力を持つ暗殺者の川島武。このような非常にSF的な人物は、「ルパンらしさ」とはかけ離れています。さらにアニメではなく実写なのも相まって、このキャラ設定のおかしさが殊更浮き彫りになっていました。

彼の上司アデル・ギースは、泥魚街を取り仕切っている今回のラスボスです。彼女が車椅子に座ったまま行うガンアクションは、白眉でした。義足に隠した銃を取り出し、取り囲んでいるヤクザたちを華麗に撃っていくさまは爽快。演じる真木よう子さんの迫力も凄まじかったです。

子供を誘拐し、恐怖感を与え、若返りの薬を製造する人体実験を行っているアデル。彼女自身、実年齢52歳でありながら、この薬物により若々しい見た目を保っています。詳細を書くのは控えますが、この「アドレノクロム」は、配信だからこそ出来る攻めた設定なのは否めません。

ただしこのシリアスすぎる設定とは対照的に、矢口たちが暮らす商店街は「ザ・日本」という印象を与えます。商店街でのほんわかしたやり取りと、泥魚街でのゴア描写とのギャップがあり、作品全体の世界観が統一されていないようにすら感じられる程でした。

実写版次元ならではのバランス

次元の名前と腕前は、泥魚街にいる全員に知れ渡っています。その様子は既に次元を知っている私たち観客と重なるようでした。攫われたオトを彼が助けに向かう第三幕は、身体を張ったアクションが展開される、この映画最大の見どころと言えます。

クライマックスでは、弾を切らした次元に対し、アデルが弾丸を渡して早撃ち対決を仕掛ける。次元は弾を避けた一方、彼の弾が命中したアデルは地面へ落下。

次元は圧倒的な腕前を持っているため、引き金を引く段階ではほぼ勝敗が決まっていると言っても過言ではありません。なので戦いの最中ではなく、彼が撃つのを決意する第二幕までに物語が語られています。とはいえ最後のバトルは、あっさりで物足りませんでした。

世界一のガンマンであるとともに、酒と煙草をこよなく愛する男として知られる次元。『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978)でも「クラシック」と言われており、時代の変化に柔軟に対応してきたルパンとは対照的に、彼はどんなに時代が変化しても自身の信念を貫き通してきました。

『ルパン三世 PART6』(2021-22)の第0話「EPISODE 0 ―時代―」では、初代・次元役の小林清志さんが50年にわたり演じ続けてきたことと重ねながら、そうした「次元らしさ」が丁寧に語られていました。

今作では例えば、コンバット・マグナムを「初めて握った銃だから」と言って何度も修理して使い続けていたり。あるいは、吸う煙草を一つの銘柄に決めていたり。頑固とも言えるブレない姿勢は、蕎麦の食べ方にも表れており、それらの描写から製作陣の次元への愛が伝わってきました。

ハードボイルドと称される次元ですが、オトの悲惨な過去を知り、涙をこらえている姿を劇中で見せていました。また戦いを終えた後には、すき焼きを「大人になったらまた作ってやる」と照れながら彼女に向けて呟いています。

こういった場面からは、玉山さんならではのツンデレのバランス感が見受けられ、個人的には好感が持てました。オトを演じる真木ことかさんの演技も素晴らしく、映画ラストで彼女の笑顔が映されたとき、彼女が無事で本当に良かったと思わされました。

そして何といっても、矢口役の草笛光子さんの存在が作品の雰囲気を引き締めていました。腕利きのガンスミスとして生きていたが、引退後の現在は時計店をひっそりと営んでいる。その設定自体が劇画的でカッコいいだけでなく、大女優・草笛さんの演技により説得力があって、一気に心を掴まれました。

殺し屋の過去を想起させるキリッとした表情と、オトに接する際に見せる優しい眼差しを合わせ持つ彼女。なんなら矢口の物語をもっと見たいと思わせられました。

しかしこの映画は、次元を主役にしたスピンオフ。ラストシーンには、彼を迎えにフィアット・500がやってくる。前作でルパン一味が乗っていた車の登場により、本作がスピンオフであることを再認識させたところで終わるのが美しかったです。

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最後に

娯楽映画として楽しめる要素が存分に盛り込まれているアクション映画。2014年の映画を観ていない方でも、ぜひ観ていただきたい作品です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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