『ルパン三世 カリオストロの城』感想:心を盗む名作家の原点

原作:モンキー・パンチ (C)TMS

いつも金曜ロードショーでやっているルパンの映画。

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作品情報

モンキー・パンチ原作のテレビアニメ『ルパン三世』シリーズの劇場版2作目。指輪に隠された秘密を追って、ルパン一味がカリオストロ公国に潜入する。山田康雄らシリーズお馴染みのキャストのほか、島本須美や石田太郎が声を当てた。宮崎駿の長編映画初監督作品。

原作: モンキー・パンチ
出演: 山田康雄 / 増山江威子 / 小林清志 / 井上真樹夫 / 納谷悟朗 ほか
監督: 宮崎駿
脚本: 宮崎駿 / 山崎晴哉
公開: 1979/12/15
上映時間: 100分

あらすじ

国営カジノから50億を盗み出すも、じつはゴート札と呼ばれる偽札を掴まされたと知ったルパンと次元はゴート札が発行されたカリオストロ公国へと向かう。その道すがら武装した男たちに追われるウェディング姿の少女を目撃、激しいカーチェイスの末少女クラリスの救出に成功するが僅かな隙に奪われてしまい……。ルパンたちはクラリスの残した指輪を手に要塞のようなカリオストロ伯爵の城へ潜入する。

ルパン三世 カリオストロの城 | ルパン三世 | TMS作品一覧 | アニメーションの総合プロデュース会社 トムス・エンタテインメントより引用
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レビュー

このレビューは『ルパン三世 カリオストロの城』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

過酷な環境で作られた名作

日本でその名を知らない者はいないと言っても過言ではない、神出鬼没の大泥棒・ルパン三世。初めてテレビアニメ化された1971年以降、半世紀以上にわたって多くの映像作品が世に送り出されてきました。

中でも1977~1980年に放送されたテレビシリーズ第2期、通称「新ルパン」の赤ジャケットを着たルパンは、多くの人が抱くルパンのイメージを形作っていると思います。「旧ルパン」と呼ばれる第1期よりもエンターテインメント性を強くしたことで、幅広い層からの人気を獲得しました。

その放送中に公開されたのが、劇場用長編『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978)。ルパン一味が「賢者の石」を巡り、神を自称する男・マモーと対立する。「新ルパン」の明るくポップな作風とは対照的にダークで、SF要素の濃い重厚な物語が展開されました。

同作の成功を受け、劇場版2作目の製作が決まります。監督を引き受けたのは、「Aプロダクション演出グループ」名義で高畑勲さんと共に、「旧ルパン」後半の演出を手掛けた宮崎駿さん。彼の初監督作『未来少年コナン』(1978)と同様に、大塚康生さんが作画監督を担当します。

今作について驚くべきは、わずか4ヶ月半という類を見ない制作期間の短さです。手描き、手塗り、手作業での撮影が当たり前だった当時のアニメ制作現場。現代とは比較にならないほど、過密なスケジュールだったのは想像に難くありません。

しかし完成した映像は、その過酷さを微塵も感じさせない圧倒的なクオリティ。約1450カット・総動画枚数約4万5000枚が成し得た映像からは、アニメーションがぬるぬると動く気持ち良さが感じられます。画面の隅にいる名もない登場人物の表情までもが生き生きとしています。

ゆえに公開から40年以上経っていながら全く色褪せていません。そして現在から振り返れば、後の宮崎作品の特徴が、既にこの映画に詰め込まれているのが分かります。

宮崎作品と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのが、食事シーンでしょう。ルパンたちがレストランで食べる、ミートボールがゴロゴロ入っているトマトソースのスパゲッティが、とにかく美味しそう。アニメ史に残る名物メニューと言われているのも頷けます。

ルパンの愛車であるフィアット・500をはじめとした数々の乗り物の作画は、宮崎監督ならでは。冒頭の疾走感溢れるカーチェイスや、壊れた車の緻密な内部描写は、『紅の豚』(1992)など多くの作品に通底する乗り物描写へのこだわりと言えます。

クライマックスに現れる、カリオストロ公国の「財宝」である水に沈んだ古代ローマの遺跡も同様。監督は後の『天空の城ラピュタ』(1986)では海底都市、『崖の上のポニョ』(2008)では水没した街並みを登場させており、水と調和した街の景色はどれも幻想的です。

加えて本作の舞台であるカリオストロ公国は、監督が携わった『アルプスの少女ハイジ』(1974)の雰囲気を連想させます。というのもクラリスの園丁が、アルムおんじと明らかに似ている。何ならどちらも宮内幸平さんが演じており、ある程度意識していたと考えられます。

計算された話運びとルパン像

新作が公開されるたびに、様々な考察が行われる宮崎作品。しかし一切の考察をせずとも、今作は映画として最高に面白い。アクションとサスペンス。愛と友情。そういったエンターテインメントの全てが揃った爽快な冒険活劇に仕上がっています。

国営カジノから大金を盗んだルパンと、ルパンの相棒・次元大介。大はしゃぎするも束の間、二人が盗んだのは幻の偽札「ゴート札」であることに気付く。大量のゴート札が空に舞う中、主題歌『炎のたからもの』が流れ出す。

本編開始からオープニングまでの約2分間だけで、二人が何を盗んだのか、盗みを成功させる彼らの卓越した腕前、次の獲物が何なのかを端的に描いており、たとえ初見の観客だとしても、彼らが腕利きの泥棒だと分かるようになっています。

ゴート札の出処と疑われるカリオストロ公国に入った二人は、偶然出くわしたカーチェイスに加わる。王女クラリスを追っていた車のタイヤを撃ち、見事退けたものの、彼女は気絶しており崖から落下しそうだった。間一髪で助けたルパンだったが、気絶していた隙に彼女は連れ去られてしまう。

ここまでおよそ10分。物語上、必要な説明を過不足なく、かつ映画的に行う手際の良さが、観客をスムーズに物語へと引き込んでいきます。ご存知『ルパン三世のテーマ』を、カーチェイスの場面でアクセント的に使用しているのも粋な演出ではないでしょうか。

ゴート札の秘密を探るため既に内部に潜入していた女怪盗・峰不二子に加え、ルパンと次元に協力する剣客・石川五ェ門、ルパンの予告状に必ず反応する警部・銭形幸一、といったお馴染みの面々もカリオストロに集結する。

世界中の偽札を作ってきたカリオストロ公国は、歴史の裏舞台で暗躍し続けてきた。その中枢にいる伯爵を演じる石田太郎さんの声が、絶妙な強者感を醸し出しています。城内に潜入したルパンは、伯爵の罠に落ちた銭形と協力してクラリスを助けようと試みるも、重傷を負わされてしまう。

目を覚ましたルパンは、次元、五ェ門と共に伯爵の結婚式に現れ、派手に暴れ回る。この総力戦では、つるべ打ちのようにアクションが繰り広げられます。物語ラスト、クラリスの持つ指輪に纏わるカリオストロの秘密が明かされ、彼女とルパンの別れで幕を締める。一本の映画として完璧な起承転結で構成されています。

また各キャラの個性を盛り込んだ台詞回し、常人離れしたルパン一味による豊かなアクション表現、世界観を表現した大野雄二さんによる音楽など、作り手一人ひとりの素晴らしい仕事が合わさったことで、この映画が完成したというのが伝わってきました。

今回のルパンの性格は「旧ルパン」後半のそれに近く、宝石やお金のために盗みや発砲を平気で行うお調子者ではなく、義賊的とも言える落ち着いた言動が特徴的です。その表れとして、「旧ルパン」後半のアイコンである緑ジャケットやフィアット・500が再び採用されています。

いわば本作のルパンは、10年以上前に助けてくれた一人の少女を身を挺して守るロマンチスト。演じている山田康雄さんの声にもルパン特有の騒がしさは感じられず、自ら吹き替えを担当していたクリント・イーストウッドのような余裕のあるニヒルな印象を抱かせます。

カリオストロの影響

「前作をしのげないのなら 2作目を作る意味がない」と銘打たれ、約5億円の製作費をかけて今作は公開されました。ただ蓋を開けれてみれば、興行収入は約6億円と、大コケしてしまいました。

しかしその後、テレビ放送をきっかけに人気が上がっていき、今となってはルパン三世シリーズないし宮崎監督を代表する作品として周知されています。日本テレビ系『金曜ロードショー』では、スタジオジブリ作品と同じく定期的に放送されている映画の一つです。

この流れは、半年間にわたる「旧ルパン」の放送が終了した後、再放送を何度も行うにつれシリーズの人気が高まり、「新ルパン」製作にいたった過去と偶然にも似ているのが面白い。

本作公開の翌年、宮崎さんは「照樹務」名義で、「新ルパン」の第145話「死の翼アルバトロス」と最終話「さらば愛しきルパンよ」を手掛けました。「新ルパン」に対する彼の不満が作劇に表れており、他の話とは一線を画す宮崎節溢れるストーリーと作画が堪能できます。

特に「さらば愛しきルパンよ」にはルパンを装った偽物が登場するのですが、この偽ルパンは『ルパンVS複製人間』に近い顔で描かれており、一方で本物のルパンは『カリオストロの城』に近い顔で描かれているのが非常に象徴的です。当時の放送局のスタッフは、イメージが違うとしてお蔵入りにしようとしたのだそう。

クラリスを演じた島本須美さんは、同エピソードでロボット兵「ラムダ」を操る少女・小山田真希を演じています。後に『風の谷のナウシカ』(1984)の主人公・ナウシカ役や、『もののけ姫』(1997)のトキ役も務めており、宮崎作品を代表するキャストの一人と言えます。

どちらのエピソードも『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』を彷彿とさせる、まるで映画のような密度の濃いストーリーが展開されます。なのでもし未見であれば『カリオストロの城』と合わせて観ていただきたい。

両エピソードしかり、『カリオストロの城』しかり、宮崎監督は他とは異なる独自のルパン像を作り上げました。ですが映画が知名度を上げるにつれ、良くも悪くも多くの人のルパン像になっていきます。

『魔女の宅急便』(1989)の大胆な脚色からも明らかなように、宮崎さんは登場人物や物語を自身の色に染め上げるのが得意な作家と言えます。なので彼の打ち出したルパンは、あくまで数多く存在するルパン像のうちの一つに過ぎないことは、留意しておきたいところです。

先述したように一度観れば分かる完成度の高さは、多くのアニメーターに影響を与えました。1981年頃からはアメリカでも上映され、ディズニーとピクサーの元CCOであるジョン・ラセターさんの人生を大きく変えました。まさに今作は、世界のアニメ史を変えた一作なのです。

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最後に

公開から40年以上が経ち、おそらく最後の監督作と言われている最新映画『君たちはどう生きるか』(2023)が現在公開中。このタイミングで、紛うことなき日本アニメ映画の傑作を見直してみるのはいかがでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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