『タイム・トラベラー』感想:奇妙な世界へといざなう幻の時かけ

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『時をかける少女』の映像化作品を順番に扱っていきます。今回はその第1弾です。

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作品情報

1972年に開始したNHK「少年ドラマシリーズ」の第1作として製作された連続ドラマにして、筒井康隆の小説『時をかける少女』初の映像化作品。最終話のみが映像で現存しており、全話分の音声とともに2001年にDVDが発売されている。

原作: 筒井康隆『時をかける少女』
出演: 島田淳子 / 木下清 / 城達也 ほか
演出: 佐藤和哉 / 黛叶 / 石川康彦 / 花房実 / 加地通康
脚本: 石山透
放送期間: 1972/01/01 – 02/05
話数: 6話

あらすじ

フラスコに入った謎の液体の匂いを嗅ぎ、時間を移動する超能力を身につけた中学3年生の芳山和子とその謎の液体を作った男子生徒・深町一夫(700年後の世界から来た未来人ケン・ソゴル)との出会いから別れまでを描いたSFファンタジーである。

少年ドラマシリーズ タイム・トラベラー | NHK放送史(動画・記事)より引用
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レビュー

このレビューは『タイム・トラベラー』をはじめとした、歴代『時をかける少女』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

『時をかける少女』

はじめに原作『時をかける少女』について、手短にご紹介。筒井康隆さんによって書かれたSFジュブナイル小説であり、1965~66年に中高生向けの学年誌に連載されました。

主人公である中学3年生の芳山和子は、偶然嗅いだラベンダーの香りにより、時空を移動する力を身につけた。その能力の真相を探っていくにつれ、同級生の深町一夫の知られざる正体に迫ることとなる。

文庫本で約110ページという、サクッと読める長さ。推理サスペンス的な内容でありながら、中学生ならではの淡い恋心や学生生活が描かれており、王道の青春ものでもあります。そこに絡まるSF要素も難しいものではないため、作中で描かれる未来を、読者は「身近に」感じられるでしょう。

1965年に発表された物語が、時代を越えて読み継がれ、半世紀以上経った現在も「時かけ」と略されるほど親しまれているのはなぜか。

上述した話自体の完成度もさることながら、豊富なメディアミックスが大きな理由に挙げられます。これまでに時かけは、ドラマや映画、ドラマCD、漫画、舞台など多種多様な形で翻案されてきました。特に映像作品の数は多く、2022年4月時点で9つも作られています。

最初の映像化として、1972年にテレビドラマ『タイム・トラベラー』が放送。その後、作品の名が大きく世に広まるきっかけは、1983年に行われた映画化です。原田知世さんが主演を、大林宣彦さんが監督を務めた映画版は、その年の邦画の興行収入で年間2位を記録するほどヒットしました。

時かけの代名詞的に知られるようになった原田版を皮切りに、次々と映像作品が作られていきました。南野陽子さんや内田有紀さん、中本奈奈さん、安倍なつみさんといった方々が主役に起用され、若手俳優の登竜門的な題材とも言えます。

2006年に公開された細田守監督によるアニメーション映画は、それまでとは一線を画した新たな「時かけ」イメージを創造しました。仲里依紗さんや黒島結菜さんが主演した、後年の実写作品にも影響を与えています。いまや時かけ=アニメ版といったイメージを持っている人も少なくないでしょう。

幻と化した作品の発掘

長い歴史を持つ「時かけ」の記念すべき最初の映像化作品が、『タイム・トラベラー』。1972~83年にNHKで放送された「NHK少年ドラマシリーズ」の第1作として企画された、全6話で構成される連続ドラマです。

このドラマ、残念ながら現在では全話分の映像を観ることができません。というのも1970年代当時、ビデオテープは高価で貴重なものだったので、上書きして繰り返し使用していました。他にも保管スペースや著作権の関係も、その理由と言われています。

放送後にマスターテープが消去されていた多くの番組たち。このドラマもその例外ではなく、二度と世に出ないと思われていました。そんな中、視聴者の一人が録画していた最終話のテープが、NHKに寄せられました。

提供された映像を、最新のデジタル技術を駆使して、ほぼ完全な状態に復元。視聴者による復活署名運動が後押しとなり、2001年に『少年ドラマ アンソロジーI』としてDVD化されます(※1)。

※1:NHK少年ドラマシリーズ参照

NHK少年ドラマシリーズ アンソロジーI(新価格)|国内ドラマ|DVD
「NHK少年ドラマシリーズ アンソロジーI(新価格)」あのなつかしいNHKの青少年ドラマ&人形劇が新価格で連続リリース!1972年から1983年にかけてNHKにて放映されていた『少年ドラマシリーズ』の名作が今蘇る!!

『少年ドラマ アンソロジーI』には、今作の全話分の音声も収録されています。また脚本を担当した石山透さんによる、全編のシナリオが書籍化。これらのおかげで、ストーリー全体の流れを知ることは可能です。

そして、こちらも偶然発掘された、今作のサウンドトラック音源も既に発売されています。このように脚本や音楽を手掛かりに、現代でも擬似的に作品を味わえます。しかしながら完全な状態では観られない、幻のドラマであることには変わりありません。

『タイム・トラベラー(石山透)』 販売ページ
復刊ドットコムにて『タイム・トラベラー』(石山透)を販売しています。
(オリジナル・サウンドトラック) | タイム・トラベラー(ALBUM)| ビクターオンラインストア
濱田高志監修/選曲による“TV-AGE”シリーズ。1972年1月1日にスタートしたNHK少年ドラマシリーズ第1回作品『タイムトラベラー』(原作:筒井康隆『時をかける少女』)のオリジナル・サウンドトラック。 (C)RS

私自身も全話分の映像を観ていないため、シナリオとサントラ、最終話の映像を受けての感想を書いていきます。

本作は放送時に好評を呼び、続編を望む声が多く寄せられました。その要望を受け、オリジナル脚本の続編『続 タイムトラベラー』(1972)が製作。2003年にNHKが集計した「もう一度見たいあの番組」リクエストで上位を記録したことからも、根強い人気が伺えます(※2)。

※2:『NHK少年ドラマ・シリーズ「タイム・トラベラー」オリジナル・サウンドトラック』冊子参照

不可思議ミステリーへ

「時かけ」初の映像化である『タイム・トラベラー』。ただしその内容に関しては、歴代作品の中でも、かなり大胆な原作からの改変が行われています。

原作に書かれていたSF的な種明かしや、用語・ギミックの解説は最小限にとどめられており、SF的な要素は薄まっています。

その反面、ミステリーやサスペンスの様相を強めているのが特徴的。各話冒頭についている城達也さんによるナレーションが、それを象徴しています。

扉が音をたてて開くと、椅子に座った男性が不思議な出来事を語り始める。そして毎回、こういった台詞で話を締めくくる。

「われわれの常識ではなんとも説明できないことが、起るかも知れないのです。今日にも、あなたの身近なところに……」

白黒の映像もあいまって、少年少女向けにしては、なかなか恐怖心を煽ってくる導入に感じました。後の『世にも奇妙な物語』のタモリさんの雰囲気にも近いような印象も受けます。

さらに劇中で印象的なのが、タイムリープする瞬間の演出の怖さ。芳山和子が時空を移動する際、彼女の顔が真っ黒になります。この演出のおどろおどろしさは、特殊能力を楽しいものではなく、恐ろしいものとして描くためであるように思いました。

1話30分で全6話のドラマゆえに、半ば必然的に原作にはない要素を加えている本作。主要人物は主人公の和子と深町一夫に絞られ、二人の掛け合いを軸に物語が進行します。原作で彼らと同級生だった浅倉吾朗はモブキャラに変更されており、和子と深町の関係性により焦点が当てられています。

第1話では、理科室で掃除をしていた和子が、偶然タイムループの能力を得る。ふとした瞬間に時間を移動したことで、能力を自覚。その能力の謎に迫っていくと、深町の存在の矛盾に気付くのだった。

この第1話の時点で、既に深町の正体について触れられています。原作では終盤のキモとなっているこの展開を、全体の序盤に持ってきているため、小説よりも話がスピーディーな印象を受けました。

タイムリープの残酷な御法度

深町が自身の正体を和子に明かしてからの話は、ほぼ石山さんによるオリジナルストーリーと言えます。

未来人「ケン・ソゴル」である彼は、元の時代に戻る方法を必死に模索していました。自身の存在を信じてくれた和子や福島先生などの協力を得て、薬の開発を続け、最終話でようやく完成に漕ぎつけます。

ケンが薬の開発をしている一方で、和子は過去や未来へ何度もタイムリープをしていました。行った先々で彼女が目にするのは、近い将来に両目を失明してしまう山形先生の姿や、掃除のおばさんの娘が戦時中に亡くなる様子、といった悲惨なものばかり。

タイムリープの原則は「知ってしまった過去や未来を変えることはできない」。

いくつもの残酷な未来や過去を知った和子は、運命に抗えない自分の無力さを痛感するのでした。そして一刻も早くこの能力を手放したいと、決意を固めます。

中でも衝撃的なのは、研究室に無断で入った掃除のおばさんが、事故的にタイムリープをしてしまう最終話。娘が亡くなった1945年に移動した彼女は、娘を現在に連れてこようと試みます。しかし時間のエネルギーに押しつぶされ、消滅してしまいました。

放送当時から遡れば、太平洋戦争はわずか27年前の記憶。当然ながら演者やスタッフの中には、戦争を実体験として経験している人は今よりも遥かに多かったでしょう。脚本の石山さんの戦争体験も物語に反映されているでしょうし、彼の価値観が結末に表れているように思いました。

元の時代に戻るケンと別れを告げた和子。彼女をはじめとした周囲の人々は、ケンにより記憶を消され、元の生活を過ごしていました。

しかしタイムリープによって消えた、掃除のおばさんの命は戻ってきません。この場面に「亡くなった命は元通りにならない」という、命の重要性を伝える力強いメッセージが込められているように考えられます。

主人公の和子を演じているのは、当時中学生の島田淳子さん(後に浅野真弓に改名)。彼女の醸し出す親しみやすさが非常に印象的なのですが、それがかえってストーリーの残酷さを際立てているようにも思えました。

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最後に

小説から連想されるような「青春」とは異なる、ミステリー色の強い映像化。

視聴する難易度は容易ではないですが、機会があればぜひ見ていただきたい名作です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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