『大奥〜誕生[有功・家光篇]』感想:ドラマティックに脚色された性の牢獄

(C)TBS

『大奥』映像化の第2弾です。

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作品情報

よしながふみの同名漫画を実写化した、2010年公開の映画『大奥』の続編。TBS系列「金曜ドラマ」枠で2012年に放送された。謎の疫病が流行りつつある3代将軍・徳川家光の時代、大奥誕生の裏側を描く。前作に引き続き金子文紀がメイン演出を務め、主人公・万里小路有功を堺雅人が演じる。

原作: よしながふみ『大奥』
出演: 堺雅人 / 多部未華子 / 田中聖 / 平山浩行 / 麻生祐未 ほか
演出: 金子文紀 / 渡瀬暁彦 / 藤江儀全
脚本: 神山由美子
放送期間: 2012/10/12 – 12/14
話数: 10話

あらすじ

三代将軍・徳川家光(岩井秀人)の時代、男子のみがかかる疫病が大流行し、国内の男子の人口が、女子の1/4まで減少してしまった。そして、家光自身もこの病にかかって早逝してしまう。徳川家の血筋が絶えることを危惧した春日局(麻生祐未)は、家光が江戸城の外に作った少女を男装させ、江戸城大奥でひそかに将軍として養育する。
その少女(家光・多部未華子)が16歳になったその頃、京から慶光院の新院主として継目御礼のため、美貌の僧侶・有功(堺雅人)が参府する。このとき、上様を謁見する有功を見初めた春日局(麻生祐未)は、有功ら一行を監禁。将軍・家光付きのお小姓になるよう、有功に還俗を迫る。そして苦慮の末、春日局の脅迫に屈した有功は、自分の弟子である小坊主の玉栄(田中聖)と共に還俗し、江戸城に上がり大奥に仕えることに……。

ものがたり|TBSテレビ:金曜ドラマ『大奥 ~誕生~[有功・家光篇]』より引用
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レビュー

このレビューは『大奥〜誕生[有功・家光篇]』をはじめとした、歴代『大奥』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

ドラマだからこそ可能なエピソードゼロ

よしながふみさんによる、架空の江戸時代を舞台にしたSF漫画『大奥』は、2004年に『MELODY』で連載を開始しました。若い男子にのみ感染する謎の疫病により男性の人口が激減する中、数百人の男性が集う江戸城最深部「大奥」での人間ドラマが描かれます。

2010年に公開された映画『大奥〈男女逆転〉』は、作品初の実写化にあたります。単行本1巻の「吉宗・水野編」を忠実に映像化し、二宮和也さんや柴咲コウさんが出演した同作の興行収入は23億円を超えました。

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ニュース| 2010年10月に公開され興行収入23億円のヒットとなった映画『大奥』の続編が、連続テレビドラマ『大奥』(TBS系2012年10月クール)と映画『大奥』(2012年12月22日公開)として描かれることが決定した。前作では、柴咲コ...

このヒットを受け、同じ監督・プロデューサー陣による二つの続編が2年後に製作されました。単行本2~4巻の「家光・有功編」を描くテレビドラマと、4~6巻の「綱吉・右衛門佐編」を描く映画。同時期に二作品が発表される一大プロジェクトです。

家光・有功編の舞台は、3代将軍・徳川家光の時代。つまり続編でありながら、前日譚でもあります。前作のキーワード「ご内証の方」の由来が明かされるなど、シリーズを通して観ると面白さが増す内容なのは確か。ただし共通のキャラは登場しないので、このドラマから観始めても問題ないでしょう。

また前作で使用された荘厳なメインテーマは、このドラマでも各話のオープニングで流れます。本編では使われないため、しつこさはありませんでした。メインテーマに加え、これまた前作に引き続き京都各地で撮影された映像からは、重厚さが感じられます。

江戸時代初期、謎の疫病「赤面疱瘡」が関東を中心に大流行。時の将軍・家光もその病で亡くなったが、乳母の春日局はその死を隠蔽し、彼の落とし子の少女・千恵を身代わりとしていた。この緊急事態を海外に知られないように、キリシタンの追放を名目に鎖国政策が進められる。

原作の大きな魅力の一つとして、このように史実との整合性をとりつつ、歴史の空白に巧みにフィクションを盛り込んでいます。歴史改変SFとしての設定や展開の面白さが、元のストーリーをなぞっている今作でも堪能できます。

赤面疱瘡の最初の罹患者が現れるところから、ドラマは幕を開けます。『大奥〈男女逆転〉』では、原作第1話にあるこの場面は省略されており、アンバランスな男女関係が定着して久しい8代将軍・徳川吉宗の時代が描かれました。

しかし本作の時代は、そうした世界が出来上がるまでの過渡期。赤面疱瘡の感染拡大に伴い、徐々に変わりゆく江戸の姿が、全10話を通して丁寧に映し出されます。尺を長く確保できるテレビドラマだからこそ出来る見事な演出でした。さらに2023年に観た私は、近年のパンデミックを想起させられました。

主人公は、公家出身の僧・万里小路有功。慶光院の新院主になった彼は、継目御礼のため、二人の僧・玉栄と明慧とともに江戸城へ訪れた。そこで春日局の脅迫により半ば強制的に還俗させられ、大奥に入った彼は、家光の死や千恵の存在を知らされる。

ドラマ的に脚色された悲恋

全話を通しての印象として挙げられるのが、切なく苦しく悲しい物語、ということ。第1話では、春日局が遊女を部屋に差し向け、有功を籠絡させようとする。首を縦に振らない彼に苛立った彼女は、明慧と遊女を殺す。こうした無惨な展開に始まり、各話ごとに悲劇が用意されているのです。

有功と千恵が出会い、互いに心を通わせるまでが序盤のストーリー。中でも第3話のクライマックスが、一つの大きな見せ場と言えます。千恵は重臣の男性たちに女装をさせ、彼らの舞を見て楽しんでいた。そのシーンの間に回想が挟まり、彼女が歩んできた過去が次々と明かされます。

男色家の家光が、偶然に出会った町娘を暴行したことで千恵は産まれた。父親の素性を知らずに育った彼女は、父親の死後に春日局によって大奥に匿われる。それ以降、将軍としての生活を余儀なくされた。あるとき城内で見知らぬ男に暴行を受けた際、妊娠してしまい、出産するも死産となった。

こうした辛い過去を、漫画では一続きに描いています。それに対してドラマでは、口を開けて笑っている彼女の顔のアップと、過去回想をカットバックで映し出しています。それにより、彼女の「悲しい笑い声」の裏にある悲壮感が、何倍にも増幅していました。

有功は自身に用意された桃色の着物を千恵に着せる。すると彼女は、大声を上げて涙を流し出す。彼女の女性として肯定された一連の場面は本当に物悲しく、感動を誘う素晴らしい演出でした。

話の流れ自体は原作に忠実ながら、このような映像的な脚色が随所に見受けられるのが特徴的な今作。例えば第2話では、有功の夢に明慧が出てくる演出によって、彼の心の揺らぎを示していました。また第4話には有功と千恵が海を眺めるカットがあります。絶対に叶わないであろう儚い描写が、とても美しかった。

二人が相思相愛になり一年が経つも、世継ぎには恵まれなかった。大奥の最重要事項は世継ぎを産むことであり、有功の大奥での存在意義は種馬。痺れを切らした春日局により、二人は引き剥がされる。千恵の相手はすげ替えられていくが、彼女の気持ちはずっと有功に向いていた。

有功の代わりに連れてこられたプレイボーイの捨蔵は、側室「お楽の方」となり娘を授かる。彼が半身麻痺になってしまった後は、名門の出の青年・溝口左京が新しい側室「お夏の方」となり、娘を授かった。そして玉栄も、有功の嘆願を受けて側室「お玉の方」となり、娘を授かった。

捨蔵に関しても、漫画とドラマで演出の変化が見られました。ジャンプして木に実った柿をむしり取っていた彼。劇中ではその癖が、大怪我を引き起こしました。しかし漫画にはこの描写はなく、怪我の原因も異なります。これは原作では唐突だった大怪我への理由づけであると同時に、彼のやんちゃさを表現するための演出と考えられます。

有功たちとの出会いを経て成長し、自身の運命を受け入れた千恵。第8話のラスト、彼女は初めて御簾から顔を出し、御家人たちを前にして、家光の名を継ぐことを高らかに宣言する。この名口上は、ドラマ全体の白眉でした。

全話の脚本を担当した神山由美子さんは、ドラマ『悪女』(1992)などで知られる方です。漫画原作のドラマである同作と同様に、本作も漫画からドラマにするにあたって、映像的な落とし込みを着実に行っていると思いました。

あえて否定的な感想を挙げるとすれば、千恵が有功の頬を扇子で叩いた第1話の演出について。引きで撮影しているのも相まって、叩かれているフリをしているのが一目瞭然で残念でした。

魅力的な登場人物たち

ここまで主にメイン二人について書いてきましたが、劇中では他の登場人物のエピソードも展開され、漫画の家光・有功編にあった群像劇の要素を感じられます。

息子全員を亡くした幕府の重臣・松平信綱は、申し訳ない思いを抱えつつも娘・しずに男装をさせ、息子として育てる。演じている段田安則さんの演技も相まって、この親子の掛け合いは本編における貴重な笑える要素となっていました。

サブキャラの中でも特筆すべきは、家光の側近であった稲葉正勝。将軍亡き後、公には赤面疱瘡で亡くなったことにされた彼は、影武者として、頭巾を被って身を隠しながら将軍を演じていた。

漫画ではそれほどクローズアップされないキャラでしたが、今作では主要人物の一人と言えるほど、オリジナルエピソードが追加されていました。おそらく原作に登場する百姓の女性・神原さととその一家のエピソードを、形を変えて反映したものと思われます。

最終的には千恵を追うようにして、正勝は殉死する。彼女の死後、幕臣の殉死は禁じられたものの、彼だけはその例外だった、という設定はドラマオリジナル。演じている平山浩行さんの表情が素晴らしく、諦観すら超え、一切の感情を捨てているように思えてきます。だからこそ正勝とその家族の人生を応援しながら観ていました。

正勝をはじめとして、メインキャスト全員の見事な演技によって、登場人物がみんな魅力的に映っていました。

「お万の方」と呼ばれる有功を演じるのは、堺雅人さん。オファーが来る前から原作を既に読んでいたのだそう(※1)。同年に『リーガル・ハイ』(2012)に主演していましたが、役の振れ幅の大きさからも、その力量の高さが分かります。

※1:インタビュー|TBSテレビ:金曜ドラマ『大奥 ~誕生~[有功・家光篇]』参照

京言葉の自然な使いこなしをはじめ、何気ない所作の節々にいたるまで、公家出身の僧としての徹底した役作りが見て取れます。真面目で芯の強い性格の有功。温厚な表情だけではなく、彼は劇中で困惑したり激昂したりしますが、その全てに人間味が溢れていました。

その相手となる千恵は、多部未華子さんが好演しています。少年のような子憎たらしさ、有功といるときに見せる可愛らしさ、あるいは御家人たちに演説したときの力強さ。そうしたいくつもの表情を見せてくれます。そして幼さも残っていた当時の多部さんだからこそ、魅力的な千恵が出来上がったのでしょう。

玉栄は、気性の荒さゆえに他人に強く当たったり、御中﨟を罠にはめた際には思わずドヤ顔をしたり、感情がすぐ表に出てしまう少年です。そんなやんちゃ坊主を、当時KAT-TUNの田中聖さんが魅力的に体現していました。

そして何より印象に残ったのは、麻生祐未さん演じる春日局。声を荒げた激昂だけでなく、静かに怒りを浮かべる表情も怖かった。部屋の外から中を覗く場面が何度もありましたが、私はその目線だけで恐ろしく感じました。『パパとムスメの7日間』(2007)の役とは正反対で、役者さんの姿を実感したドラマでした。

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最後に

田中さんと同じグループに所属していた方と堺さんが共演した『リーガル・ハイ』と同じく、現在サブスクでは配信されていません。しかしながら重厚で丁寧に作られている素晴らしいドラマなので、レンタル等でぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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