『日本沈没2020』感想:挑戦的な脚本が生み出した悲劇

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2020年のアニメ界最大の問題作をいま振り返ってみたかった。

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作品情報

1973年に発表された小松左京によるSF小説『日本沈没』初のアニメ化作品。巨大地震が発生した日本で生き抜くために、一つの家族が奮闘する。Netflixにて独占配信しているほか、2020年11月には同作を再編集した『日本沈没2020 劇場編集版-シズマヌキボウ-』が劇場公開。

原作: 小松左京
出演: 上田麗奈 / 村中知 / 佐々木優子 / てらそままさき ほか
監督: 湯浅政明
脚本: 吉高寿男
配信: 2020/07/09
話数: 10話

あらすじ

2020年、平和な日常が続く日本を襲った突然の大地震。
都内に住むごく普通の一家、武藤家の歩(あゆむ)と剛(ごう)の姉弟は、大混乱の中、家族4人で東京からの脱出を始めるが、刻々と沈みゆく日本列島は、容赦なく彼らを追い詰めていく。極限状態で突きつけられる、生と死、出会いと別れの選択。途方もない現実と向き合う中、歩と剛は、未来を信じ、懸命に生き抜く強さを身につけていく…

STORY | アニメ『日本沈没2020』公式サイトより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

ミクロな視点への転換

言わずと知れたSF界の金字塔『日本沈没』。沈みゆく日本列島に翻弄される人々を描いた、小松左京によるベストセラーです。1973年の発表以降、多岐にわたる媒体でメディアミックスが行われてきました。

その中でおそらく最も有名なのが、1973年末に公開された森谷司郎監督による実写映画『日本沈没』でしょう。小説の企画と同時並行で製作が進められた、初めての映像化作品。1970年代当時ならではの演出や特撮が特徴的で、かなり大規模な撮影がなされた超大作です。

地球物理学者・田所雄介、潜水艇「わだつみ」の操艇者・小野寺俊夫、そして時の総理大臣・山本。三人の人物に焦点を当て、大災害の脅威に対して彼らがどのように立ち向かうのかが描かれました。原作に近い内容で、全体的に重厚な印象を与えます。

その直後となる1974~75年には、TBSでテレビドラマが放送。一部の場面は森谷版と同時期に撮影されたため、共通のカットが存在します。2クール26話にわたる大作のため、小説の話をベースにしながらも、オリジナルの展開が大幅に付け加えられました。

ストーリーにさらなる改変がされたのは、2006年。樋口真嗣さんが監督した二度目の実写映画化のときです。田所博士や小野寺といった基本的なキャラは原作を踏襲しつつも、舞台設定や性格、そして結末を大きく変更。草彅剛さん演じる小野寺と、柴咲コウさん演じる玲子の恋愛が強くクローズアップされているのも印象的でした。

特撮映像だけでなく、前作までの時代には存在しなかったCG・VFXの使用により、迫力あるパニック映画に仕上がっている樋口版。ただしドラマパートの演出や脚本に関しては、製作サイド内にあった(と思われる)色々なしがらみを垣間見えるような出来でした。

この他にもラジオドラマや漫画など、手を変え品を変え、その時代ごとの「日本沈没」が作り直されてきました。とはいえ政府関係者や研究者といった、国の運命を背負う人間たちのドラマである点は共通しており、マクロな視点から見た天変地異をテーマとしてきたのです。

では本作『日本沈没2020』はどうか。

内閣府によると、マグニチュード7クラスの首都直下地震が今後30年以内に発生する確率は、およそ70%。南海トラフ沿いの東海地震にいたっては、80%を超えるとされています(※1)。この記事を書いているつい先日(10月7日)も、東京で震度5の地震が起き、地震大国に住んでいるのを痛感させられます。

※1:これまでの首都直下地震対策について – 内閣府防災情報参照

昔よりも巨大地震の発生が現実的に感じられるようになった昨今。東京湾を震源とした大地震を描いた『東京マグニチュード8.0』(2009)や、電気が消失した日本を題材にした『サバイバルファミリー』(2017)など、日本を舞台にしたディザスター作品が次々と作られています。実際の被災体験が、こういったコンテンツに如実に反映されているのは明らか。

小説が発表された半世紀前とはすっかり変わった現代社会において、日本沈没を語り直したこのアニメ。樋口版では過去作で言及されてこなかった、大災害に対する市井の人々の反応を付け加えていました。今作は樋口版よりもさらに、一般市民の視点に絞った物語になっています。

主人公となるのは、陸上選手の女子中学生・武藤歩。弟の剛、母のマリ、父の航一郎を含めた武藤家4人が一致団結し、未曾有の事態に立ち向かう様子が全編を通して語られます。

そのため元の小説とは、ストーリーがまるで異なります。田所博士や小野寺といった小説の主要キャラは、このアニメでは脇役程度にしか出てこない。また丹波哲郎さんが熱演した総理のような政府側の人間は登場せず、政府側の政策や行動はほとんど明白にされません。

生死の軽視

『日本沈没』初のアニメ化となるこの作品。『四畳半神話大系』(2010)や『映像研には手を出すな!』(2020)に代表される、いくつもの名作を作り出してきた湯浅政明監督の最新作です。ゆえに配信前から多くの期待が寄せられていたと思われます。

しかし蓋を開けてみれば、低評価の嵐。「脚本沈没」やら「日本”珍”没」やら、痛快なおもしろ批評文がネット上に散見される始末。政治的な方面でも批判の的になり、悪い意味で話題になってしまいました。

視聴するまでそんな事実を一切知らなかった私は、第1話を観た段階では「普通に面白いな」と思っていました。ただし話数を重ねるごとに、雲行きが怪しくなっていきました。前情報のないフラットな状態だった私ですら、多くの展開に納得できなかったのが率直な感想です。

舞台となるのは2020年の東京。インターネットの発達によりグローバル化が進んだ、限りなく現実世界に近い日本が第1話冒頭で描写されます。

そんなある日、緊急地震速報を告げる警告音がスマートフォンから鳴り響く。地震大国にいる私たちにとって既に聞き馴染みのある音ですが、この音が一瞬にして恐怖を抱かせます。人によっては、強烈なトラウマを想起させられるかもしれません。

巨大地震が発生した東京は、混乱の真っ只中。離ればなれだった武藤家の4人だが、なんとか再会することができた。歩の先輩である古賀春生や、歩にとってお姉さん的存在だった・三浦七海と一緒に、安全な地を求めて東京を脱出する。

ここまでの内容はパニックものとして、シンプルに怖い。明日は我が身という危機感が、私の中にあるからでしょう。しかしこの後から徐々に、首をかしげる展開が増えていきます。

このアニメに寄せられる批判の大きな要因として挙げられるのが、登場人物の死の扱い方。第2話ラストで歩の父親である航一郎が、突然亡くなります。何の前触れもないため、本当にびっくりします。その後も以下のように、主要人物が次々と亡くなっていきました。

  • 航一郎:山芋を掘っている際、たまたま不発弾に衝撃を与えてしまい爆発。
  • 七海:トイレに向かうときに、有毒なガスを吸ってしまう。
  • マリ:補助心臓のバッテリーが切れる。
  • 春生:重要なデータが入ったスマホと引き換えに、波に流される。

このように全員が、自然災害と直接的に関係ないところで命を落とすんですよね。抗えない大災害の被害にあって亡くなるならまだしも、無関係な場面でわざわざ死なせる必要があるのか、と疑問を抱かされます。この展開にいたるまでの前触れの無さも、もやっとした気持ちを増長させます。

脚本の意図としては、「死」の唐突さや残酷さを示したかったのでしょう。前触れなくキャラが亡くなるのは、一つの物語としてはどうしても雑な印象を受けます。阪神・淡路大震災や東日本大震災をはじめ、自然災害の脅威を実感している現代人からすると、生へのリスペクトが欠如していると言っても過言ではありません。

取って付けただけの脚本

加えて物語上の批判ポイントとして特筆すべきは、各話ごとの展開がとってつけたような感じがするところ。「こういうことを書きたい」というテーマのみが先行し、それを上手く脚本に落とし込めていないのが致命的。

個人的に本作から汲み取ったテーマを列挙すると、

  • 人心の荒廃:世界の混乱ゆえに感情的になった人による、口喧嘩や暴力、物品の略奪が増えていく。ザ・ポストディザスター的な「荒れた人間」描写ですが、同調圧力が強い日本で、地震発生後すぐにここまで荒れるかな、と少し疑問を抱きました。
  • 情報の錯乱:ネット上にはデマが拡散され、何が正しい情報か分からない。そのため限られた情報の中で、自分自身で選択をする必要があります。主人公グループは早期に西に進む選択をしましたが、あのとき東を選んだ人々はどうなったのか。一つ一つの選択にハラハラさせられました。
  • 新興宗教:中盤に主人公たちが辿り着くのが、シャンシティと呼ばれる施設。通信販売などで生計を立てており、そこに住む人は、死者の魂を降ろせる「マザー」を信仰している。割と長尺で語られる宗教組織ですが、最終的な結末に一切関係しないので、「出したかったから出した」という印象しか残りません。
  • ドラッグ:シャンシティでは大麻が栽培・利用されている。さらにはモルヒネ依存症のお爺さんが登場。ドラッグの設定を出すだけ出して、あとはほったらかし。必要性や使用の是非に対する批評が、物語上で一切なされていないのは気になります。
  • 優生思想:日本政府は将来有望な若者を優先して海外に逃がしていた。コーチとその家族までが枠に入るなら、選手とその家族もアリなのでは?とモヤモヤしますが、それ以上にこの政策に関しても、とりあえず出しただけという印象は拭えません。
  • 外国人排斥:とある右翼的な組織がメガフロートを使って、純潔な「日本人」を独自に保護していた。いかにも悪者なイメージを視聴者に植え付けたあと、すぐに座礁して爆発。ぽっと出の極みみたいな存在と言えます。
  • 障害:地震発生時に左足に大きなケガをした歩。物語終盤で、ケガが悪化したために片足の切断を余儀なくされる。最終的にはパラリンピックに出場して、めでたしめでたし(?)。

こうしたテーマを取り上げること自体は素晴らしい。しかしそれぞれの要素をしっかりとストーリーに落とし込まず、雑に詰め込んでいるのが現状。何もかもが唐突に見える説明不足が、作品全体の薄っぺらさを加速させています。

東京2020オリンピック・パラリンピックを意識したような結末。第1話からずっと、まるで伏線かのように彼女のケガを描写していました。だからこそ、治療する機会があったのになぜ治療しなかったのか、という疑問が残ります。そして、あたかも「らしげ」なラストで幕を閉じるのが、本当に鼻につきました。

ただし評価すべきポイントが全く無いわけではなく、過去の映像化と同様に、災害の残酷さを容赦ない表現をもって伝えています。森谷版や樋口版では特撮を中心に、迫力ある映像に仕立て上げられていました。

今作は人体の腐食や死体など、アニメでしか描けない表現で、残酷な現実を描いています。あっさりとしたタッチもあいまって、恐怖感を煽られました。惜しいのは、ところどころ作画が不安定な箇所がある点でしょうか。

新たな視点で『日本沈没』を語り直し、現代的な問題点を加えるというチャレンジそのものは良いが、出来上がったものは挑戦的な要素を雑に詰め込んだだけの代物。そもそもそういった要素を『日本沈没』と混ぜたのが正解だったのか、など色々な意味で「考えさせられる」という面では観てみるのも良いのかも。

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最後に

2021年10月から放送されている連続ドラマ『日本沈没-希望のひと-』はどういった結末を迎えるのか。

湯浅版は飛躍的な改変をやってのけました。決して同じ轍を踏まないようにと願うばかりです。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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