『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』感想:未曾有の事態が作品にもたらした功罪

スーパーヒーロープロジェクト (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

世界が恐怖と不安に包まれた2020年。正直思い返したくないこともありました。しかしそんな世の中だからこそ完成された傑作です。

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作品情報

2019年9月から翌年8月まで放送された『仮面ライダーゼロワン』の劇場版作品。人工知能搭載人型ロボ「ヒューマギア」が様々な仕事をサポートする新時代。AIテクノロジー企業の社長に就任した飛電或人が、人工知能と人類の共存のために戦いに赴く。劇場版では戦いが終結した最終話の後日譚が描かれる。同時上映は『劇場短編 仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本』。

原作: 石ノ森章太郎
出演: 高橋文哉 / 岡田龍太郎 / 鶴嶋乃愛 / 井桁弘恵 / 山崎紘菜 / 伊藤英明 ほか
監督: 杉原輝昭
脚本: 高橋悠也
公開: 2020/12/18
上映時間: 80分

あらすじ

「神が6日で世界を創造したのなら、私は60分でそれを破壊し、楽園を創造する。」突如姿を現した謎の男エス/仮面ライダーエデンは、賛同する数千人の信者と共に、世界中で大規模な同時多発テロを引き起こす。人々が次々と倒れ、世界中が大混乱に陥る中、エスを止めるべく立ち上がる飛電或人。不破諫、刃唯阿、天津垓、さらに滅亡迅雷.netの迅、滅も、仮面ライダーとなり敵と戦いながら真相を究明しようと奮闘する。果たして、圧倒的な強さを見せるエスの正体とは。エスが作り上げようとする楽園とは、いったい何を意味するのか?人間とAIの垣根を越えて、60分で世界を救い出せ!

イントロ・ストーリー | 劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIMEより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

異例づくしの劇場版

2020年8月で一年間の放送を終了した令和仮面ライダーシリーズ1作目『仮面ライダーゼロワン』。緊急事態宣言発令による撮影中止、それに伴う総集編の放送やシナリオの変更など、異例のことばかり起きた一年を駆け抜けました。無事に最終話を放送し、物語を完結できただけでも素晴らしいことだと思います。

最終話が放送された当時の私の所感については、こちらの記事で述べています。一応前置きしておきますと、個人的には『ゼロワン』は好きな作品です。しかしながら話数を重ねていくほど、物語上の粗が目立つようになっていると感じました。

当時書いた記事では、私が抱いた違和感の要因について指摘させていただきました。要約すると、

  • キャラクターを深堀りする日常的な描写が減っていったことで、展開や人物の言動に共感できなくなった。
  • 主人公よりも敵の言い分に共感するところがあった。
  • 「夢」や「心」といった言葉が形骸化しているように見えた。

といった点を挙げました。

放送当時に賛否の分かれたエピソード「ZAIA“お仕事勝負”編」は、作品序盤のお仕事紹介の要素が好評を受けたことで、急遽持ち込まれたシナリオと言われています。近年の仮面ライダーシリーズで重視されているのが、こういった「ライブ感」です。ライブ感とは、放送中のファンの反応を柔軟に作品に反映させることを指します。

代表的なものとして挙げられるのが、『エグゼイド』での九条貴利矢/仮面ライダーレーザーの再登場です。当初の予想を超えた貴利矢の人気を受けて、予定されていたシナリオが変更され、一度退場したにもかかわらず物語終盤に再登場することになりました。彼の再登場が好評を博したことで、この年以降、ライブ感がより重視される傾向になっている印象があります。

しかしながら「お仕事5番勝負」に関しては、ライブ感が悪い方向に働いてしまったと言えます。刃唯阿/仮面ライダーバルキリーを演じた井桁弘恵さんは、この辺り相当苦悩しながら演じていたとインタビューで語られています。脚本時点で、唯阿をはじめとしたキャラクターにブレが生じていたのは明らかで、彼女が視聴者と同じような気持ちを当時抱いていたことが伺えます(「マイナビニュース」より)。

https://news.mynavi.jp/article/20201227-1613831/

「お仕事5番勝負」や総集編による日常的な描写の不足は、本編以外の媒体で補足されました。東映特撮ファンクラブで配信されたショートアニメ『仮面ライダーゼロワン ショートアニメ EVERYONE’S DAILY LIFE』です。2クール目以降に主要キャラクターのパーソナリティを十分に深堀りできていなかったことは、製作サイドも認識していたと思われます。

そういった紆余曲折があったテレビシリーズと並行して進められた劇場版の製作も、新型コロナウイルス流行の影響を大いに受けました。仮面ライダーの単独映画は、本編がクライマックスを迎える時期でもある夏休み頃に公開されるのが近年の慣例となっています。本来予定されていた公開日は7月23日でしたが、公開の延期を強いられました。

公式Twitterによるプロダクションノート『REAL×TIMEノート』を拝読すると、劇場版がクランクインするタイミングで緊急事態宣言が発令された、と記されています。そのため本編中のエピソードだった脚本を、後日譚に変更しました。そしてテレビの最終話を撮影したあとに劇場版の撮影は開始されました。滅亡迅雷.net の劇中での立ち位置をはじめ、決定稿にいたるまで様々な変更が加えられました。製作の裏話については、公式Twitter に詳しく書かれているので、ぜひそちらも読んでいただきたいです。

正直ながら、公開延期によってプラスな面もあったと思います。時間を置いたことで、本編で抱いたマイナスなイメージがなくなり、フラットな状態で(もしくは一定の距離を置いて)作品に向き合うことができるようになった人もいたと思います。少なくとも私はそうでした。

劇場版ならではの魅力

今作の上映時間は80分。飛電或人/仮面ライダーゼロワンたちが、60分という世界滅亡へのタイムリミットに立ち向かう様子を描きます。劇中で残り時間がたびたび表示されますが、その場面で流れている時間は現実の時間とリンクしています。まさに「リアルタイム」で進行する物語なのです。

物語のカギとなるのが、人工知能搭載ナノマシン。もとは医療目的で開発が進められており、当時の研究チームでリーダーを務めていたのが一色理人。彼の婚約者であった遠野朱音も同チームに所属していました。開発が進められる中、デイブレイクが発生し、ナノマシンはヒューマギア同様に暴走を引き起こしてしまいます。ナノマシン投与の第一号被験者であった朱音は、容体が急変し亡くなってしまいました。朱音の意識を電脳世界に繋いだ理人は、彼女とともに人類を「楽園」へと導くために、エス/仮面ライダーエデンとして活動を始めます。

本作で最も目立っているのが、エスを演じる伊藤英明さんの演技です。主役級俳優として既に名の知られる彼の存在が、映画に重厚感を与えています。劇場版ゲストとして彼が出演することは、テレビシリーズ最終話で明らかになりました。伊藤さんから東映への逆オファーによって実現し、そのキャスティングを踏まえてキャラ造形・脚本を決めていったんだそう。

『悪の経典』(2012)で見せたサイコパスな連続殺人鬼のような全面的な悪役かと思わせて、実は彼なりの正義に基づいて行動していることが、中盤で明らかになります。そういった点において、『22年目の告白 私が殺人犯です』(2017)で彼が演じた刑事にも通じるところがあるように感じました。

エスの彼女である朱音を演じる、山﨑紘菜さんの演技も印象的でした。物語後半で、それまでのパンツスタイルの衣装から一変してウェディングドレスを身にまとった姿は、はかなくも美しい。「エスに伝えて、元気だよ」という台詞を或人に言ったときの表情が忘れられません。

エスとともに楽園を目指す「シンクネット」のメンバーを、福士誠治さんらが演じています。「シンクネット」の中でライダーに変身する4人は、全員が濃い見た目をしています。キャラが濃いサブキャラが複数人登場するといえば、前作『ジオウ』との共演作『仮面ライダー 令和 ザ・ファースト・ジェネレーション』(2019)に登場したレジスタンスの面々と似ています。しかし本作が異なるのは、そのキャラクターの濃さが、彼らの正体の伏線になっている点です。無理なく納得できる面白い仕掛けだと思いました。

ここまで物語上の魅力を説明してきましたが、本作は演出面に関しても特徴的な場面が多くあります。杉原監督は『ゼロワン』1話のバスの中を動き回るアクションシーンをはじめとして、これまで見たことないようなフレッシュな演出を多用しています。まず今作でハッとさせられたのが、物語序盤の電車内のシーン。或人をどの角度から撮っているのか、そしてどういった演出や編集をしているのか。「たかが仮面ライダー映画と侮るなかれ」といった主張が、この演出から聞こえてきます。この場面は必見です。

アクションシーンは、テレビシリーズでは観られなかったような演出が使われていました。中盤の見どころであるバルキリーのバイクアクション。長めの尺で見せてくれて楽しいです。迅(バーニングファルコン)の特徴を活かした、CGを多く駆使した空中戦もカッコいいです。エデンを含めたゼロワンライダーのスーツ自体のカッコよさも引き立っており、大画面で映える演出でした。

長所を伸ばすことで輝く

ここまで述べたように、この映画は深いことを考えずに観れて面白い作品であることに違いありません。というのも今回の劇場版、テレビシリーズで踏み込んでいたテーマにはほとんど触れていません。それはヒューマギアの自我の問題です。ヒューマギアは人間の道具なのか、人間と同じ自我を持つ存在なのか。この難しい問いに挑んだ本編は、物語が進むごとに作品の主張がブレていきました。

道具、夢、心。本編で多用されたこれらの表現がオミットされた今作は、シンプルにアツいストーリーにまとめられています。これはシリアスな展開が賛否分かれたからとも考えられますが、2020年という特異な時代もその理由として挙げられると思います。2020年後半は、コロナ禍の鬱屈した気持ちを晴らす内容の作品が人気になっていきました。『半沢直樹』や『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』のヒットが、その潮流を物語っています。2020年の観客が求めていたものと、『ゼロワン』の描きたかったものが上手くマッチした作品と言えます。

映画全編を通して、或人はイズ以外とは直接会わずに、単独行動をとって敵に立ち向かいます。他の登場人物も生身アクションではマスクをつけており、現在の社会情勢を彷彿とさせる演出が含まれています。離れたところにいる彼らが連携して、共通の敵と戦っていく。現実の世界とリンクした展開にグッときました。

今作で何気なく重要なのが、出番の少ないキャラクターもいるものの、レギュラーキャラ全員が元気に生きていることが分かる点です。それだけで後日談としては十分なのではないでしょうか。彼らの掛け合いがたくさん見れたことで、イズの仕草が可愛かったり、滅の佇まいに惹かれたり、そういった一つ一つの気持ちをもう一度抱くことが出来ました。これぞ見たかった『ゼロワン』でした。

そんな登場人物の中でも特に、メインキャラクターたちの距離感がちょうど良い。『エグゼイド』しかり、脚本の高橋悠也さんはドライな(割り切った)人間関係を描くのが上手い人なんだな、ということをはっきり認識しました。不破、唯阿、滅、迅、垓の5人が集合して変身するシーンは、本編での色々ないざこざを見ていた身としては、否応にもテンションが上がる場面でした。

しかし冷静に考えると、デイブレイクが原因ってことは結局今回の話も天津のせいじゃないか、とツッコみたくなりますが、鑑賞中はそんなことを感じさせない勢いがあります。今回は彼に対する責任追及をしている時間はなく、一丸となって解決方法を探っている点が、彼らのドライな関係を象徴しており素晴らしかったです。

このように登場人物みんなが、それぞれ前を向いて生きている姿に感動しました。他の人の意見自体に全て賛同はできないけど、その人を受け入れていこうという気持ちが大切なんですよね。私自身も或人の考えに100%共感することはできないけど、或人も頑張ってるんだから私も頑張ろうという気持ちになりました。戦いが終わったあとの垓の台詞「これから仲良くなればいい」という心持ちで、肩の力を抜いて生きていきたいものです。

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最後に

『ゼロワン』を観た人にとって一見の価値ありの作品なので、ぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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