原田知世版『時をかける少女』感想:大林節全開の名作青春劇

(C)KADOKAWA 1983

『タイム・トラベラー』につづき、『時をかける少女』映像化の第2弾です。

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作品情報

1965年に発表された筒井康隆による同名小説を、主演・原田知世で映画化。大林宣彦が監督を務め、前作『転校生』、次作『さびしんぼう』とともに「尾道三部作」に数えられる。同時上映は、薬師丸ひろ子主演の『探偵物語』。

原作: 筒井康隆『時をかける少女』
出演: 原田知世 / 高柳良一 / 尾美としのり ほか
監督: 大林宣彦
脚本: 剣持亘
公開: 1983/07/16
上映時間: 104分

あらすじ

ある日の放課後、実験室でラベンダーの香りを嗅いで以来、時間を跳躍する能力を持ってしまった芳山和子。時をかける少女となった和子は、会うはずのない彼に出逢ってしまった…。

時をかける少女 4K Scanning Blu-ray:Blu-ray | KADOKAWAより引用
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レビュー

このレビューは原田知世版をはじめとした、歴代『時をかける少女』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

青春映画の金字塔へ

時代を越えて幾度となく翻案されている「時かけ」こと『時をかける少女』。初の映像化であるNHK少年ドラマシリーズ『タイム・トラベラー』(1972)から約11年の時を経て、映画『時をかける少女』は公開されました。

連続ドラマゆえに大幅に改変が加えられた『タイム・トラベラー』とは対照的に、ストーリーの大まかな流れは原作に沿っている本作。とはいえ小説の持つSF要素は、かなりカットされています。劇中にてSF的な専門用語は登場せず、未来人の本名や薬品名も語られません。

その反面、この映画は原作が内包していた青春物語の側面を、全面に押し出しています。というのも主人公たちの高校生活の描写が、とても丁寧。特に物語序盤、事の発端となる土曜日から翌週の火曜日までの間に、エピソードが大幅に追加されています。

主人公は、しっかり者の高校2年生・芳山和子。土曜日の午前授業を終え、クラスメイトである深町一夫と堀川吾朗とともに、理科室を掃除していた。

物音を耳にした彼女が隣の実験室へ向かうと、フラスコからこぼれた液体から、白い煙がもくもくと漂っているのを発見する。煙の甘い匂いを嗅いだ途端に意識を失い、その場に倒れてしまう。

この導入部分は原作と変わらないまま、翌日の日曜日へと話は続きます。目覚まし時計が異常をきたしたり、家の中にいた母親が急に姿を消したり、和子の身に起こる些細な不思議現象が描かれます。ほかにも、吾朗の家を訪ねるといった何気ない日常描写は実在感がありました。

月曜日も同じように、授業や弓道部の活動などが順番に映し出されます。そして夜になると地震が起き、吾朗の家の隣で発生した火事の様子を見に行く。この時点で既に、作品全体のおよそ半分が経過しているのですが、ここでついに満を持して、彼女の身にタイムリープが訪れます。

この映画版はタイムリープという不思議体験の話でありながら、和子が心身ともに子供から大人へ成長するストーリーとしても考えられます。

高校2年生という年頃について、立花先生は「(16歳は)植物に例えれば、もう十分に熟して実のなった年頃」と生徒たちに教え、深町は「(和子は)気持ちが少し不安定なだけだよ。大人になるときって、そういうことがよくあるらしいよ。」と述べる。これらの台詞から、和子が今まさに子供から大人へと変化する過程にいるさまが伺えます。

また作中には、深町が和子に「ラベンダーから香水を作るとね、男性的な匂いとしては、欠くことのできないほどのものになるんだ。」と語りかけるシーンや、立花先生が「あの子、今、生理…」と言いかける場面がある。子供から大人への成長が、「性」と切っても切り離せないことが明らかに表現されています。

そういった複雑な年頃の和子、深町、吾朗は、三角関係にあります。といっても明確な恋愛感情というよりは、友達以上恋人未満な関係。そうした微妙な関係性も、子供でも大人でもない彼らの曖昧な年頃とリンクしているように思われます。

大林宣彦のフィクション性

当時アイドル的人気を誇っていた、薬師丸ひろ子さん主演の『探偵物語』と同時上映された今作。当初は主役の無名さから、あくまでおまけ的な立ち位置に置かれていました。ただし公開後こちらのほうが好評を呼び、興行収入が約51億円を記録するヒットとなります。

公開から年月が経っても、作品のファンは根強く存在しており、カルト的な人気を獲得するにいたります。それもあってか視聴手段は多く、現在ではブルーレイやDVD、各種配信サービスで観られます。

根強い人気の要因の一つに、監督である大林宣彦さんの作家性が挙げられます。物語の舞台は監督の出身地である、広島県尾道市。街に咲き誇る桜とともに、昔ながらの瓦屋根の木造建築が映し出されるオープニングからは、懐かしさが感じられます。

しかし同時にその光景には、どこか違和感が生じています。瀬戸内海に面してる尾道で撮影していながらがら、画面内に海がほとんど映り込まないのが、その大きな理由でしょう。さらには消火活動中の消防車を除いて、自動車すら登場しません。

登場人物の話し方に関しても、1980年代当時からしても不自然な、非常に古風な台詞回し。つまり劇中に映っているのは、大林監督によって作り出された偽りの過去なのです。上述したいくつもの要素から連想される現実離れ感や不自然さには、「この物語は映画なんだ」というフィクション性を強く認識させられます。

そんな大林宣彦作品の醍醐味といえば、風変りな作風ではないでしょうか。王道の青春ラブストーリーと思って本作を鑑賞した人の多くは、その独特で実験色の強い演出の数々に、面食らうに違いありません。

物語冒頭のモノクロで撮影されたスキー教室のシーンや、その後のモノクロとカラーが混在する黄色い菜の花畑。あえて棒読みの台詞、コマ落としの撮影、ドリーズームなど、多彩な視覚効果が取り入れられています。こうした様々な技法により、監督独自のテンポが演出されています。

今作における白眉は、自身の能力の真相を知りたい和子が、深町が植物採集をしている崖へ向かい、ついに土曜日の実験室へタイムリープを始める一連の流れ。スチール写真をコマ撮りで撮影することで、時間の跳躍を表わしており、観客も同時に時間旅行をしているような感覚に陥らせます。

このような多彩な演出技法によって完成した映像が、監督の計算どおりな点には驚きを隠せません。

原田知世のための映画

時間旅行の末、ようやく土曜日の実験室へ到着する和子。そこで再会した深町によって、全ての真相を明らかにされる。

本物の深町一夫は両親とともに亡くなっていた。これまで接していたのは、遠い未来から来た薬学博士。彼の超能力により、和子の中の記憶は都合の良いように改変されていた。

作中で印象的に使われているのが、オリジナル曲『愛のためいき』。和子が幼少期のひな祭りで歌っていた「桃栗三年柿八年」の歌のタイトルです。このひな祭りの日、鏡でケガをしたところを助けてくれたのは深町だと記憶していましたが、本当に助けてくれたのは吾朗だったことを思い出します。

深町への特別な想いに気づき、別れを拒否する和子。深町はそんな彼女に「時間はやってくるもの。だからまた会える。」と諭し、自分に関する記憶を消して元の時代へ帰る。このとき初恋を知った彼女は、また一つ大人に成長したと言えます。

ラストに11年後の未来が、映画オリジナルで付け足されています。薬学の道に進んだ和子は、全く別の人間としてやってきた「深町」と出会う。二人がぶつかるさまはスキー教室の場面を彷彿とさせると同時に、冒頭に映し出されたこの文章が観客の脳裏に蘇ります。

「ひとが、現実よりも、理想の愛を知ったとき、それは、ひとにとって、幸福なのだろうか?不幸なのだろうか?」

記憶を消された状態の和子でしたが、彼と言葉を交わした際、その正体に気付いたのか、それとも気付かないままなのか。観ている人それぞれに解釈の余地を与える絶妙な引き際となっています。

そしてこの作品で何より特筆すべきは、エンディングのカーテンコールです。

角川映画の大型新人オーディションで特別賞を受賞した原田知世さん。彼女に相当な思い入れを抱いていた角川春樹さんによる発案で製作されたのが本作。文字通り彼女の存在あってこそ作られた映画なのですが、このカーテンコールがその必然性をより強調しています。

松任谷由実さん作詞・作曲による主題歌『時をかける少女』を、原田さんがエンディングで歌っています。劇中に出てきた各場面と音楽がシンクロしており、それはさながら、ミュージックビデオのよう。本編と並行して各シーンが撮影されており、かなり手が込んでいることが一目で分かります。

さらに間奏にはNGカットも挿入されていて、メイキング的な役割を含んでおり、そういった面でも楽しめるように作られています。

素敵な男性がやってくることを願っているロマンチストな和子。「手を洗ってらっしゃい」や「かぜ引きますよ」と言うほどに、過度なしっかり者の性格も本編では見受けられました。この映像には、そんな役柄から解放された若き原田さんの姿が詰まっています。最後にカメラに向かって見せる笑顔は、彼女の明るい前途を表現しているように感じられます。

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最後に

ちなみに吾朗だけ原作から苗字が変更されている理由は、深い意味はありません。広島県竹原市に実在する醤油屋があり、撮影のために作った看板を、撮影後も残してお店で使えるように、との配慮から直前に変更されたのだそう。

後の作品に多大な影響を与えた名作。ぜひとも心して観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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