ドラマ『岸辺露伴は動かない(第4期)』感想:怪奇を実写化する名人芸

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だから気に入った。

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作品情報

荒木飛呂彦による同名漫画を原作とした実写ドラマシリーズ第4期。今回映像化する「密漁海岸」では、漫画家・岸辺露伴が伝説の幻のアワビと対峙する。レギュラーキャストの高橋一生と飯豊まりえに加え、Alfredo Chiarenzaや蓮佛美沙子が出演した。

原作: 荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』『岸辺露伴は動かない』
出演: 高橋一生 / 飯豊まりえ ほか
演出: 渡辺一貴
脚本: 渡辺一貴
脚本協力: 小林靖子
放送期間: 2024/05/10
話数: 1話

あらすじ

相手を「本」にしてその生い立ちや秘密を知り、書き込んで指示を与えることができる“ヘブンズドアー”。この特殊な能力を持つ漫画家の岸辺露伴が遭遇する奇妙な事件に立ち向かう。ヘブンズ・ドアー! 今、心の扉は開かれる――

NHKオンデマンド 岸辺露伴は動かないより引用
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レビュー

このレビューはドラマ『岸辺露伴は動かない』シリーズおよび関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

ブランドとして定着した実写露伴

荒木飛呂彦さんが描く『ジョジョの奇妙な冒険』の世界は、いまや本編だけでなく様々な漫画作品に派生しています。その筆頭こそ、人気キャラである漫画家・岸辺露伴を主人公にした『岸辺露伴は動かない』。1997年の発表以降、不定期に新作エピソードが作られ続けています。

能力者同士が派手なバトルを繰り広げる『ジョジョ』本編とは異なり、心理戦が特徴の同シリーズ。ネタ探しに余念がない露伴が、興味を抱いた物事に首を突っ込む。そのたびに危険な目に巻き込まれるが、機転を利かせて何とか危機を脱する。そんな自業自得を体現した話です。

この漫画の独特な世界観を巧みに映像化したのが、NHKの実写ドラマでした。2020年に放送された第1期を皮切りに毎年新作が製作され、昨年には映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(2023)が公開されました。間違いなく漫画実写化の成功例と言えるシリーズになっています。

成功の要因として考えられるのが、リアリティの追求。このドラマは常に不穏さが漂っており、静かなトーンで物語が展開していきます。一方で独特な擬音やカラフルな色彩、コスプレっぽい服装など、原作における漫画っぽい要素はほとんど排除されました。

確かにドラマ版の登場人物のビジュアルからはリアリティが感じられます。これは衣装やヘアメイク、小道具を監修する「人物デザイン監修」の柘植伊佐夫さんによるもの。露伴の服装はモノトーンかつスタイリッシュで、対照的に担当編集・泉京香の服装は色鮮やかで可愛いものばかり。

映画『ルーヴルへ行く』では露伴の丸眼鏡が印象的でしたが、今回は彼の奇抜なウェットスーツに注目にしていただきたい。また菊地成孔さんと新音楽制作工房による音楽が、現実世界に溶け込む彼らのビジュアルと交わり、江戸川乱歩的な和製ホラーの雰囲気を醸し出しています。

加えて荒木さん特有の台詞回しを再現したNHKの字幕や、「ヘブンズ・ドアー」の本のデザインなど、原作の抑えるべきポイントを抑えた高クオリティの実写化でした。そしてこれらは、各期に必ず登場するドラマ版の定番要素になっています。

中でも忘れられないのが、中村まことさんと増田朋弥さんが演じる「やられ役」。各期の冒頭では、露伴の人物像や能力を彼らとの対峙によって端的に説明しています。今回も冒頭6分がこのパートに割かれており、密漁者2人が華麗に制裁されていました。

これにより『ジョジョ』未見の人も作品世界に入り込める間口の広さがあります。それと同時に、原作ファンの視点を持つ製作陣による再現と脚色によって、漫画的であり実写的でもある世界観が絶妙なバランスで成立しているのです。

さらに『ジャンプ』系漫画の実写化とは思えない品格を醸し出している本シリーズは、一つのブランド的な価値を生み出しているように感じます。

日常と隣り合わせの「スタンド」

これまでのドラマ版は各期ごとに話に連続性がありましたが、このたび新たに製作されたのは1話のみ。その題材は、ドラマ版が開始した当初から映像化を望む声が多かった「密漁海岸」です。

元々47ページの短編を1時間のドラマ用に膨らませるため、第2期の「背中の正面」、第3期の「ジャンケン小僧」に続き、『ジョジョ』4部のエピソードが組み込まれました。その話とは、トニオ・トラサルディが初登場した「イタリア料理を食べに行こう」です。

露伴邸の近くにオープンしたイタリアンレストランを訪れた露伴と京香。そこで出会った料理人のトニオ・トラサルディは、料理で客の身体の不調を治す不思議な力を持っていた。まさに「医食同源のスペシャリスト」なのです。

元の「イタリア料理を食べに行こう」には、京香はおろか露伴すら登場しません。そのため原作の東方仗助と虹村億泰の役割を二人に当てはめ、京香に寝不足と虫歯、露伴に肩こりと腹痛が振り分けられています。

不調が治るとは言っても、かなりの荒療治。洪水のごとく涙が溢れたり、肩から垢の塊が大量に掻き出されたり、虫歯が抜けて新しい歯が生えてきたりする。直接的にグロテスクな演出ではないものの、妙な生々しさや気持ち悪さがあり観ていて楽しく、今作の視覚的な見どころに思いました。

これこそ、日常と隣り合わせにある怪奇。スタンドの存在が見えない非能力者と同じ視点で描かれている本シリーズでは、『ジョジョ』本編の大きな要素であるスタンドの姿や単語が一切使用されません。露伴は人の記憶を読める自身の特殊能力を「ギフト」と呼んでいます。

当然ながらトニオのスタンド「パール・ジャム」も登場しません。なので本作では、料理の治癒効果は猛毒を含む食材によるもので、その食材を弱毒化し薬効に変えている調理技術はトニオ自身の豊富な知識と努力の賜物、といったように現実でもあり得そうな設定に改変されていました。

しかしトニオは、相手の手を見ただけでその人の身体の悪い部分を見抜く能力を「天からの恵み」と呼んでいます。つまりこの能力に、スタンドの存在を感じることができます。

そして天からの恵みを授かったのは、サソリの毒を誤って大量に摂取し、生死をさまよった末に回復した後なのだそう。この脚色からは、4部に登場する「適合者のスタンド能力を引き出す弓と矢」を連想させます。多くの原作ファンも唸るであろう見事なバランスのアレンジでした。もはや名人芸と言えます。

脚本と演出を務めるのは、渡辺一貴さん。シリーズの多くの脚本を執筆する小林靖子さんは、脚本協力として参加しています。作品世界を知り尽くすお二方による再解釈には信頼感がありますし、過去4年間にわたる積み重ねがあってこその完成度の高さではないでしょうか。

呪われたアワビ伝説

前半パートから「密漁海岸」パートへ移行する流れも自然でした。後半の鍵となるのが、どんな病気でも治してしまう伝説のヒョウガラクロアワビ。重い病気を患っている恋人の森嶋初音を助けるため、トニオはこのアワビが生息するヒョウガラ列岩での密漁を露伴に持ちかける。

密漁シーンになると、画面全体が暗めの色調に一気に変化します。トニオはすぐに溺れてしまうし、露伴も同じく海に沈んでいく。絶体絶命の状況ながらも、色調と相まって美しいシーンでした。

その後の大量のアワビが攻めてくる演出には、日本古来の信仰や風俗にまつわる呪いや祟りを強調しているドラマ版ならではの恐ろしさを感じました。リアリティ寄りの演出により、現実と非現実の間にいるような感覚に襲われます。

トニオを演じるのは、モデルのAlfredo Chiarenza(アルフレッド・キャレンザ)さん。イタリア・シチリア出身の当事者キャスティングです。漫画そのままのビジュアルで、その再現度の高さに驚きました。

また劇中で登場したカプレーゼやプッタネスカ、クロスタータといったイタリア料理はどれも美味しそうで、実際にイタリアンレストランに行きたくなってきます。

初音役を務めるのは、NHK版『大奥(Season2)』(2023)も記憶に新しい蓮佛美沙子さん。原作ではヴェルジーナという女性でしたが、日本人パティシエに変更されています。

5月18日からAmazon Prime Videoで独占配信されているエピソード「もうひとつの密漁海岸」では、初音と京香の会話劇が展開されます。穏やかな時間が流れる静かな会話は、『ジョジョ』全体に通じる人生讃歌を謳っているようにも思いました。

主役である高橋一生さんのハマり役と言える演技は圧巻で、露伴以外の何者でもない、と言わざるを得ません。今回出てくる名台詞「だから気に入った」の言い方も流石でした。高橋さん曰く、撮影前に船舶1級免許を取得したのだそう。役への愛と向き合い方が凄すぎます。

「露伴VSアワビ」⁉ 高橋一生、露伴愛を語る2024【ドラマ「岸辺露伴は動かない」最新作「密漁海岸」】 | UOMO
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人間関係を嫌う神経質な露伴に付きまとい、いつも彼を悩ます京香を飯豊まりえさんが今回も好演しています。ウザさと可愛らしさを兼ね備え、天真爛漫ぶりを存分に発揮していました。

この凸凹コンビの掛け合いは、ドラマ版ならではの大きな魅力になっており、回を重ねるごとにバディ感が増しています。二人のコミカルなやり取りのおかげで、全体的にシリアスな雰囲気になりすぎず、ドラマとして観やすいバランスが保たれているのでしょう。

「密漁海岸」は改めてこのシリーズの強いブランド力を実感させられるエピソードでした。物語ラストでは、京香がイタリアへの現地取材を露伴に提案しており、イタリアが舞台のエピソードの続編製作を匂わせています。露伴と京香の掛け合いがまた見れるのを楽しみにしています。

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最後に

原作ファンの方もそうでない方もぜひ観ていただきたいドラマシリーズです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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