『青天を衝け』感想:渋沢栄一と徳川慶喜の知られざる姿

(C)NHK

初めて大河を観たら面白かった、というだけの話です。

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作品情報

2021年に放送されたNHK大河ドラマ第60作。江戸末期から明治初期にかけ、目まぐるしく変化する日本を生きた「日本資本主義の父」渋沢栄一の生涯を描き出す。吉沢亮が主人公を演じ、連続テレビ小説『あさが来た』の大森美香が脚本を担当する。

出演: 吉沢亮 / 高良健吾 / 橋本愛 / 草彅剛 / 小林薫 ほか
演出: 黒崎博 / 村橋直樹 / 田中健二 ほか
脚本: 大森美香
放送期間: 2021/02/14 – 12/26
話数: 41話

あらすじ

天保11年(1840)、武蔵国・血洗島村。藍玉づくりと養蚕を営む百姓の家に、栄一は生まれた。おしゃべりで物おじしないやんちゃ坊主は、父・市郎右衛門の背中に学び、商売のおもしろさに目覚めていく。
ある日、事件が起きた。御用金を取り立てる代官に刃向かったことで、理不尽に罵倒されたのだ。栄一は官尊民卑がはびこる身分制度に怒りを覚え、決意する。「虐げられる百姓のままでは終われない。武士になる!」。

番組紹介|大河ドラマ「青天を衝け」|NHKオンラインより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

短く、濃い大河

「大河は難しそう。」「大河は年配の方が観るもの。」

生まれて一度も大河ドラマを観たことがなかった私は、シリーズに対して、こういった偏見を抱いていました。何も知らずにネガティブな感情ばかり抱き、理由もなく「食わず嫌い」をし続けていた私。いま振り返れば非常に恥ずかしい…

前年に引き続き、人々の行動が制限されていた2021年。家の中にいても何かしら、新しい挑戦をしようと個人的に思っていました。そんな矢先、吉沢亮さんが主演を務める大河の存在を知り、それに惹かれ、人生で初めて大河ドラマを観るにいたります。

NHKが(一部を除き)年1回のペースで新作を作り続ける「大河ドラマ」。歴史上に実在する一人の人物にスポットを当て、その一生を描き出します。1963年に始まった長寿シリーズであり、作品数はこれまでで60作を数えます。

史実をベースにした重厚なストーリー、当時を再現した荘厳な衣装や舞台セット、脇役にいたるまでに豪華なキャスト陣。このような他のドラマには見られない特徴は、歴史が長く、多額の予算が組まれているこのシリーズだからこそできる特権と言えます。

歴史上の出来事を取り扱っているといえど、歴史に詳しくないと話が分からないわけでは決してありません。登場人物の話し方が現代的になっていて理解しやすいし、難しい専門用語は劇中で説明してくれる親切なつくりになっており、日本史初心者でも安心です。

大河ドラマは、ある人物の幼少期から最期までを追っていきます。基本的な流れは史実に基づいているものの、曖昧な部分は「説」で補われる場合もあります。学校で習った歴史と重ね合わせ、その出来事がどのように描かれているかに注目すると、物語に奥行きを感じられるでしょう。

2020年、明智光秀を題材とした第59作『麒麟がくる』が放送。新型コロナウイルスの流行、緊急事態宣言の発令による撮影休止の影響で、放送を休止した期間がありました。そのため異例ではありますが、翌年1月以降も放送が続けられ、当初予定していた話数で幕を締めました。

それにより2021年の大河は、2月中旬からスタート。また東京オリンピック・パラリンピックの影響で、放送休止の週が何回もありました。2月開始の遅れに追い打ちをかけるように、さらに話数を縮小せざるをえなかったと考えられます。

そして2022年の次回作『鎌倉殿の13人』については、例年どおり新年1月からの開始が発表されました。ゆえに今作は全41話で幕引き。時世ゆえの色々な影響を受けた結果、例年と比較してコンパクトな作品となりました。

しかしそのストーリーはコンパクトどころか、とても広大なスケールで展開されます。本作の主人公に抜擢されたのは、渋沢栄一。2024年度から発行される新一万円札紙幣に採用され、一気に注目を浴びた方です。

とはいえそれ以前は、その偉業はおろか、名前すら知らなかった人も少なくないと思います。日本初の銀行「第一国立銀行」を創立するなど、実は多岐にわたる事業に携わっていました。「日本資本主義の父」と称される方です。

渋沢を演じるのは、吉沢亮さん。『仮面ライダーフォーゼ』(2011-12)をはじめ、近年は『キングダム』(2019)や『東京リベンジャーズ』(2021)といった大作映画に次々と出演されています。まさに人気俳優の一人。大河ドラマに関しては、初出演にして主役という大役を担っています。

渋沢栄一の信念

『青天を衝け』は、渋沢栄一が生まれた江戸末期から、亡くなる昭和6年までの日本を描いています。日本史全体の中でも激動の期間のため、時代劇としてスペクタクルな内容となっています。特に幕末が舞台の前半は、一話ごとに劇的に物語が動くため、目が離せません。

武蔵国の血洗島村に生を受けた栄一は、藍玉と養蚕を生業にしている渋沢家の長男として育てられる。幼い頃から家業を手伝う中で、商売人として成長していく。

商いに触れると同時に、従兄の尾高惇忠から『論語』を習っていた栄一。尊王攘夷の思想に目覚め、従弟の喜作とともに倒幕運動に加わる。そういった最中、一橋家家臣・平岡円四郎と出会い、人生が一変。彼の推薦により「渋沢篤太夫」として、一橋慶喜に仕え始める。

栄一の性格の特徴は、「自分の信念を絶対に曲げない」。商人や幕臣、政府の役人など、自分の立場が変わったとしても、芯をしっかり持った人物です。自身の信じる正義のために突き進む姿が、全編を通して印象的でした。

そのため周囲との対立も少なくありませんでした。商人を無下に扱う役人に憤ったり、将軍補佐をしていた慶喜が次期将軍を就任する際は猛反対を示したり。その熱意を原動力に、何かしらの結果を残していくさまは痛快でした。

幕臣となった後はヨーロッパへ留学。西洋の技術や資本主義経済を目の当たりにし、感銘を受ける。しかしその間に大政奉還が起こった。慶喜は静岡の駿府で隠居生活をしており、帰国後の栄一はそこで会計係を務めていた。

海外での学びを活かし、駿府にてコンパニー(会社)の仕組みを導入。その才覚に目を付けた大隈重信によって、新政府にフックアップされる。郵便制度の導入をはじめ、新しい日本の基盤づくりに尽力。政府を辞めた後は第一国立銀行の創設をし、その総監役となる。

彼の物語を眺めていると、いかにして日本人が西洋の文化を受け入れてきたかが見て取れます。例えば、いつ男性の髪型は髷から横流しに変わったのか。もしくは洋服の流入によって、政府や市井の人々の服装はどのように変化したのか。

大々的に映されてはいないものの、そういった時代の移り変わりの一つ一つが美術から読み取れる点はとても興味深かったです。

個人的に印象に残ったのが、第一国立銀行にて算盤と筆算で計算競争をするシーン。筆算も外国からやってきた方法だったのか、と驚いたとともに、当時の人々の算盤での計算の正確さと速さに感動しました。

いまや当たり前となっている、社会の仕組みづくりに深く携わった栄一。このドラマを観ると、彼無くして今の日本はないと断言できます。

だからこそ終盤になるにつれて弱っていく彼の姿は、見ていて切なくなりました。吉沢亮さんだけあって、はっきりと老人には見えませんでしたが、演技や所作からはしっかりと老いが感じられます。

確固たる信念を持っていた栄一。その様子が最も表れていたのが、吉沢さんの眼です。彼の強い目力があってこそ、作品全体に説得力が生まれていたと思います。後年になり優しい表情に変わりますが、慶喜の伝記を作るという強い想いは表情の端々から垣間見れました。

徳川慶喜の想い

本作には渋沢栄一とともに、その人生にフォーカスが当たっている人物がもう一人います。その人物は、江戸幕府第15代将軍・徳川慶喜。もう一人の主人公と言っても過言ではありません。

薩摩や長州、公家、国民、諸外国など各所の対応に追われ、終始慌ただしかった幕府。その中心で旗振りをしていたのが彼でした。

大政奉還を決行した慶喜は、「敗者」のようなイメージを勝手に持っていました。しかし今作は敗者とされてきた旧幕府側の面々にも寄り添っており、彼らもまた悩みや葛藤を抱えて必死に生きていたことが明らかになります。

特筆すべきと思ったのは、先代将軍である家茂と、公武合体のために江戸に越してきた妻・和宮。運命に抗えない切なさと、時代の岐路に巻き込まれるさまは涙なしには観られませんでした。

また慶喜の背負っていた将軍職の重責は、多大なるものだったでしょう。薩摩藩の暗躍や、家臣の裏切り。作中では彼の前に立ちはだかる様々な試練が描かれました。ただし最終的には江戸城を明け渡すに至る。劇中にあった通り、当時の国民からは誹謗中傷の声を浴びせられました。

このドラマで浮き彫りになるのが、彼が誰よりも国の未来を想っていた人物であること。争いのない未来を目指し、幕政改革を行っていたこと。だからこそ薩摩藩よりも先手を打つために、政権を返上したのです。

彼が一つ決断をするとき、どれほど慎重な姿勢をとっていたか。演じる草彅剛さんの表情が、その様子を物語っていました。話し方一つとっても、重職ゆえの重みのあるスピードや、言葉の選び方が伺えます。彼の名演により、慶喜の一人の人間としての側面が見事に表現されていました。

そして何より、隠遁後の彼は諦観しているように見えました。そんな彼が東京に戻り、自身の過去を語る場面には、二人の関係性が表れており感動を覚えました。慶喜の人生を後世に伝えようと尽力した栄一。その栄一の物語が現在に伝わっているのが感慨深く感じられます。

国の未来を想っていた二人の知られざる関係性が描かれた今作。歴史は決して一面のみでは語れないことを思い知りました。

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最後に

初めて大河ドラマを視聴したのですが、なぜもっと前から観ていなかったのか、と後悔する面白さでした。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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