ドラマ『岸辺露伴は動かない(第3期)』感想:奇妙な年末の風物詩

(C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社 (C)NHK・PICS

厄介ファンには御用心。

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作品情報

荒木飛呂彦による同名漫画を原作とした実写ドラマシリーズ第3期。特殊な能力を持つ漫画家・岸辺露伴が取材先で遭遇する奇妙な出来事を描く。高橋一生と飯豊まりえのほか、各話ゲストとして古川琴音、柊木陽太らが出演する。

原作: 荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない』『ジョジョの奇妙な冒険』
出演: 高橋一生 / 飯豊まりえ ほか
演出: 渡辺一貴
脚本: 小林靖子(第7話) / 渡辺一貴(第8話)
脚本協力: 小林靖子(第8話)
放送期間: 2022/12/26 – 12/27
話数: 2話

あらすじ

相手を「本」にしてその生い立ちや秘密を知り、書き込んで指示を与えることができる“ヘブンズドアー”。この特殊な能力を持つ漫画家の岸辺露伴が遭遇する奇妙な事件に立ち向かう。ヘブンズ・ドアー! 今、心の扉は開かれる――

NHKオンデマンド 岸辺露伴は動かないより引用
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レビュー

このレビューはドラマ『岸辺露伴は動かない』シリーズのネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

年末の風物詩

1986年に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まってから、35年以上経った現在もなお続いている『ジョジョの奇妙な冒険』の物語。部ごとに舞台や登場人物が変わる独特な手法をとった長寿シリーズとして知られ、今年2月には第9部『The JOJOLands』が連載開始する予定です。

第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場する人気キャラクター・岸辺露伴は、自己中心的で人間関係を嫌う「変人」漫画家。少年誌で『ピンクダークの少年』を連載する彼は、面白い漫画を創るための取材は怠らず、常にリアリティを追い求めています。

スタンドと呼ばれる特殊能力を持つ者たちの戦いが描かれた第4部。同部を題材にした実写映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(2017)は、スタンド同士のCGバトルシーンが見どころの一つでした。

露伴のスタンド「ヘブンズ・ドアー」は、人の記憶を本にして自由に読むことができる能力。またその本に書き込まれた命令には、絶対に逆らうことはできない。敵への攻撃にも有用ですが、好奇心溢れる露伴は、人が実際に体験したリアルな出来事を知るためにも使用します。

そんな彼を主人公にしたスピンオフが、1997年に発表された『岸辺露伴は動かない』。後にシリーズ化されて以降、不定期に新作が発表されています。第4部のアニメ化に際して、2017年には一部エピソードがアニメ化されました。

露伴が取材のために訪れた先々で、様々な奇妙な事件に巻き込まれる同作。一話完結の形式をとっており、派手な能力バトルをメインに据えた『ジョジョ』本編とは一線を画し、会話劇や心理戦を中心とした静かな話です。

2020年12月、NHK制作で実写ドラマ化されました。劇中では、スタンドの姿が一切映し出されません。スタンドという単語すら使われておらず、露伴は自身の能力を「ギフト」と呼んでいます。つまりスタンドの存在が見えない非能力者と同じ視点で、不思議な事件が描かれるのです。

それにより各エピソードに出てくる人々や現象の不気味さが、より強調されていました。和製ホラーのような演出のバランスは、『世にも奇妙な物語』にも似た独特な読後感に繋がっています。

2020年に第1期、2021年に第2期、そしてこの度第3期が製作されました。3回とも年末に数夜連続で放送されており、もはや年末の風物詩と言えるでしょう。シリーズとして定着するほどに、このドラマが人気を獲得しているのが分かります。

ジョジョの世界観の再現

このドラマが好評を博している大きな理由として、ジョジョの世界観の見事な再現ぶりが挙げられます。

人の顔がペラペラとめくれるようになるヘブンズ・ドアー。ドラマ版では、このギミックを真正面から映像化しつつ、ファッション雑誌や学習帳など、当人の職業や人柄を反映した本に変化するアレンジが加えられていました。

主役の高橋一生さんによる、露伴の再現性の高さは言わずもがな。第3期で彼は、デザインの無許可な変更に激怒したり、ジャンケンで勝ったことに大人げなく喜んだりします。喜怒哀楽をはっきりと表に出す場面で、改めて高橋さん演じる露伴の「スゴ味」を感じました。

飯豊まりえさん演じる編集者の泉京香も、露伴同様に実在感に溢れています。原作で彼女は単発のゲストキャラでしたが、ドラマ版ではレギュラーキャラに変わっており、いつも露伴を悩ましています。ウザさと可愛らしさを兼ね備えた彼女は、今回もその魅力を存分に発揮していました。

このドラマはシリーズを通して、露伴と泉のでこぼこバディものとしても非常に楽しめます。その面白さは第3期でも損なわれておらず、二人の軽妙な掛け合いが再び観られるだけで幸せでした。

これまでゲストキャラを演じた役者陣も、ハマり役ばかりでした。特に今回は、各登場人物の配役と演技が素晴らしかったように思います。

イブを演じるのは、『街の上で』(2021)や『偶然と想像』(2021)に出演している古川琴音さん。原作から飛び出したと思えるほど、古川さんがジョジョの世界観を体現していました。キュートさとマッドさが混在するイブは、まるで別世界線の『ふしぎの国のアリス』のように感じられます。

ジャンケン小僧(大柳賢)役の柊木陽太さんは、『PICU 小児集中治療室』(2022)などの作品に出演。また今年公開予定の映画『怪物』の主役に抜擢されています。ただウザいだけだった元のキャラ造形とは少し異なり、ウザいけれど憎めない雰囲気を醸し出していました。愛嬌があって、個人的には好きです。

酒向芳さんと山本圭祐さんが演じている神主の親子にも、何とも言えない魅力があります。二人の言葉や表情、立ち振る舞い、その全てが奇妙で、作品世界に一気に引き込まれました。

劇中の衣装については、泉の服装がとにかくオシャレで可愛い。露伴の服装はコスプレっぽさを出来るだけ無くし、リアルに落とし込んでいます。第3期に関しては、イブの服もファンタジックで可愛く、彼女のキャラをより引き立たせていました。

そして忘れてはいけないのが、字幕の演出。「いくよォ~っ ジャアあああ~んけん ホイッ」に代表されるように、荒木先生特有の台詞回しが、字幕でも忠実に再現されています。ただし残念ながら現在のところ、本作を配信するAmazon Prime Videoでこの字幕は観られませんので、可能であればテレビ放送で視聴するのがおススメ。

「3」を巡る物語

一話完結形式の原作とは異なりドラマ版は、各期ごとに話に連続性があるのが特徴的。この改変がとても巧みで、ストーリーに連続ドラマならではの深みをもたらしています。

2020年に放送された第1期は、「富豪村」「くしゃがら」「D・N・A」の3話構成。『岸辺露伴は叫ばない 短編小説集』(2018)収録の北國ばらっどさんによるエピソード「くしゃがら」を盛り込み、泉京香の彼氏である平井太郎の出自の謎が、物語の中心に設定されていました。

2021年に放送された第2期は、「ザ・ラン」「背中の正面」「六壁坂」の3話構成。第4部本編の「チープ・トリック」編を大胆にアレンジした「決して振り向いてはいけない小道」を含めた怪異の謎が、物語の軸に設定されています。

脚本は、アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ(2012-)のシリーズ構成を担当する小林靖子さん。そして演出は、ジョジョの愛読者でありNHKドラマを数々手掛ける渡辺一貴さん。お二方によるドラマとしての再解釈が、シリーズ化にいたった大きな要因でしょう。

さて第3期は、「ホットサマー・マーサ」と「ジャンケン小僧」の2話構成。話数が少ないので、前回までよりは話の規模が小さく感じられてしまいました。

各期の冒頭は、露伴の人物像や能力を端的に説明するパートから幕を開けます。なのでジョジョや原作を知らない人でも楽しめる作りになっています。毎回、中村まことさんと増田朋弥さんが印象的なやられ役を演じており、今回は代理店社員に扮していました。

第7話「ホットサマー・マーサ」は、2022年3月に発表されたばかりのエピソード。単行本化を待たずして映像化されました。ドラマ版が放送を開始した後に描かれたこの話には、泉京香が出てきます。ドラマ版の泉の人気を受けて、漫画に再登場したとも考えられます。

コロナ禍で「動けない」生活が続いた露伴は、マスク生活や、現地へ取材に行けないことへのストレスから鬱状態になります。露伴がスランプになるこの回は、彼の弱い一面や、藪箱法師が行ったような闇の部分が垣間見えました。

著作権やデザイン盗作、誹謗中傷といった様々な社会問題が反映されている、新キャラ「ホットサマー・マーサ」の問題。コロナを含めて、いかに2020年代が彼にとって生きにくい時代なのかが見て取れます。

第4部本編を原作とする第8話「ジャンケン小僧」は、本編の展開をトレースしつつ、ジャンケンの動機にホットサマー・マーサを絡めています。単にジャンケンが好きな少年を、露伴の好みや作家性を完全に理解しているファンに仕立て上げました。

加えて少年の力の正体はスタンドではなく、辻神の力に変更されています。怪異として謎に包まれたまま終わらせたオチは、ホラー色の強い『岸辺露伴は動かない』ならではでした。

どちらも露伴が「ヤバい」厄介なファンに振り回される話。しかしながら彼はイブに「罪を犯さない」と書き込んだり、丸3つのホットサマー・マーサを少年に書いてあげたりします。どちらもドラマオリジナルの結末であり、このあたりに脚本の良心が表れているように思いました。

二つの話のさらなる共通点は「3」。元々脈絡のなかった二つのエピソードを、3という数字を接着剤にして見事に繋ぎ合わせていました。

3は縁起が良い数字、と劇中の神主は言っています。ドラマ版はこれまで3話ずつ放送してきましたが、第3期だけは2話のみ放送されました。製作発表時から個人的に抱いていた違和感を吹き飛ばしたのが、先日発表された『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(2009)の映画化。

製作陣も続投しており、第「3」期の「3」話目とも言える『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』。8話ラストで既に示唆されていましたが、まさかこんなに早く実現するとは。今年5月の公開を心待ちにしたいと思います。

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最後に

漫画実写の成功例として、末永く続いてほしいドラマシリーズ。原作未見の方にもぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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