『花束みたいな恋をした』感想:カルチャーが紡ぎ出す恋愛と労働のリアル

(C)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

2021年の恋愛映画の大傑作。鬼滅の記録を止めただけあります。

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作品情報

『東京ラブストーリー』の坂本裕二によるオリジナル脚本作品。とあるカップルの5年間の恋愛模様を描く。主人公二人を演じるのは菅田将暉と有村架純。『カルテット』で演出を担当した土井裕泰が、監督を務める。

出演: 菅田将暉 / 有村架純 / 清原果耶 / 細田佳央太 / オダギリジョー ほか
監督: 土井裕泰
脚本: 坂本裕二
公開: 2021/01/29
上映時間: 124分

あらすじ

東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った 山音やまね麦むぎ (菅田将暉)と 八谷はちや絹きぬ (有村架純)。好きな音楽や映画が嘘みたいに一緒で、あっという間に恋に落ちた麦と絹は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始める。近所にお気に入りのパン屋を見つけて、拾った猫に二人で名前をつけて、渋谷パルコが閉店しても、スマスマが最終回を迎えても、日々の現状維持を目標に二人は就職活動を続けるが…。

映画『花束みたいな恋をした』公式サイトより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

恋愛のリアル

興行収入30億円を突破する大ヒットを記録している「はな恋」。脚本を担当したのは、『Mother』(2010)や『最高の離婚』(2013)、『カルテット』(2017)など多くの恋愛ドラマ・社会派ドラマを手掛けてきた坂本裕二さん。

監督を務めるのは土井裕泰さん。本作同様に有村架純さんが主演する『映画 ビリギャル』(2015)の監督でもあります。またグリコ・森永事件をモチーフとしたサスペンス映画『罪の声』(2020)も記憶に新しいでしょう。

時代が抱える社会問題を生々しく描いてきた坂本さんと、脚本のキャラクターを実在感をもって映し出す土井さん。二人の手によって作り込まれた本作は、まるで登場人物たちが実在するかのごとく、2015年から2020年までの5年間を物語っていきます。

山音麦は知り合いの数合わせとしてカラオケに呼ばれていました。時を同じくして、八谷絹は知人の男性と焼肉屋に行き、大好きな天竺鼠のライブに行かなかったことを後悔していました。京王線「明大前」駅で終電を逃す二人。居酒屋で話してみると驚くほど共通点があることに気づきます。

  • 文学・映画・音楽・お笑いの趣味趣向
  • イヤホンをカバンに入れていると絡まってしまう
  • 映画の半券を本のしおりに使っている
  • コンバースのJACK PURCELLを履いている

一晩語り合って別れたあと、「上書きしないで」と思い出を噛みしめる絹。「山音さんの絵、好きです」という言葉を反芻する麦。二人はすぐに惹かれ合います。

3回目のデートの日、ファミレスで告白する場面がとても印象的でした。告白された絹がスマホの画面から麦に視線を移していることが、ピントの変化で表現されています。

その後大学をサボって三日三晩を共に過ごします。幸せの絶頂のようなお風呂やベッドでのイチャイチャは、観ているこっちが恥ずかしくなるほど愛おしい。特にパンケーキを食べに行くときに「彼氏パーカー」している絹の破壊力が凄いです。

彼らは同棲を始めますが、麦のイラストのバイトでは生活費が賄えなくなり、どちらも会社に就職します。お互い仕事をするにつれ、徐々にすれ違いが生まれていきます。

このあたりから、序盤に台詞のみ登場するブロガー「めい」の「はじまりは、終わりのはじまり」という言葉が響いてきます。この言葉はタイトルの「花束みたいな恋」に通じているのです。

花束とは、作られた時点が最も美しく、徐々に枯れていくもの。彼らの恋も同様に、付き合い始めたときが全盛期でした。始まった時点で既に終わりが始まっていたのです。恋愛の儚さを花火に喩えた「倦怠カップル」映画の傑作『ブルーバレンタイン』(2010)と似ています。

二人にすれ違いが増えていくと、演出にも違いが表れている点が素晴らしい。例えば、お風呂でイチャイチャしていたときはずっと目を合わせて会話していましたが、やがて目を合わせず会話するようになります。

また付き合いたての頃は、手作りの年越しそばを一緒に食べていました。しかし中盤には、仕事から帰宅した麦が、コンビニのそばを一人で黙々と食べており、意図的な対比のために描かれていると言えます。

麦は仕事に忙殺されていき、絹に対する気遣いや思いやりが明らかに無くなっていきます。

  • 言葉の中に「じゃあ」が増えていく。
  • デートした後「他にしてほしいこととかある?」と聞く。
  • 家の近くのパン屋が閉店することを伝える絹のLINEに「駅前で買えばいいじゃん」と返す。

彼女に対してこういうことを言っちゃだめですよね、本当に。

そして二人の価値観の違いが決定的であることが表出するのが、口論のシーン。派遣のため収入が減ってしまうが、やりたい仕事への転職を考えている絹。理解できない麦は、「結婚することで好きなことができるよ」と反対します。リアルなやり取りは観ていてつらかったです。

本作でプロローグから全編を通して象徴的に使われているのが、イヤホン。付き合いたての麦と絹はイヤホンのLとRを分け合って音楽を聞きます。二人が価値観や思い出を共有する道具でした。しかしすれ違いが増えると、絹の「ゼルダ」のプレイ音を遮断するのをはじめ、やがて二人を分断する道具に変わっていきます。

この映画は、カップルの片方の視点からある出来事を描いた直後に、もう片方の視点から語り直しており、二人を公平に描いているのが特徴です。本作と同じく、男女のすれ違いを扱った『(500)日のサマー』(2009)が男性視点だったのと対照的だと思いました。

ポップカルチャーのリアル

個人的な思い入れ具合としては、絹には共感、麦には同情といった塩梅で鑑賞していました。なぜこれほどまでに共感できるのでしょうか。私自身、劇中に出てくる中で知らないカルチャーはたくさんありました。私と同じように登場人物の趣味に共感できない人はいると思います。

それでも物語に共感しやすいのは、ある特定の人物に取材し、主人公二人に忠実に投影することで、リアリティが生まれているからです。まるで彼らが実際に生きているかのように見えました。だからこそ鑑賞後にみんなが語りたくなる映画になっているのです。

本作は5年間のカルチャー集大成と言えるほど、カルチャー濃度が濃い作品です。その濃密さは、ドラマ『モテキ』(2010)と同じかそれ以上でしょう。

誰もが分かるようなメジャーなネタから、マイナーなネタまで随所に仕込まれているこの作品。麦と絹が触れてきたカルチャーの一部を挙げていきます。

  • 天竺鼠
  • 押井守:『機動警察パトレイバー』(1989)・『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995)の監督。
  • きのこ帝国『クロノスタシス』(2014)
  • 今村夏子『ピクニック』(2011)
  • TBSラジオ『菊池成孔の粋な夜電波』(2011-18)
  • 市川春子『宝石の国』(2012-)
  • 滝口悠生『茄子の輝き』(2017)
  • 任天堂『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(2017)
  • 『牯嶺街少年殺人事件』(1991)
  • 『希望のかなた』(2017)
  • フレンズ『NIGHT TOWN』(2017)

このような二人の趣味嗜好と対照的な存在として登場するものもあります。

  • SEKAI NO OWARI『RPG』(2013):麦が誘われたカラオケで歌われていた。
  • 『ショーシャンクの空に』(1994) :自称映画好きがドヤ顔で語っていた。
  • 実写版『魔女の宅急便』(2014)
  • ガンホー『パズル&ドラゴンズ』:ストーリーベースの「ゼルダ」とは異なる、感覚ベースのパズルゲーム。

加えて以下に挙げるものは、時代の流れの象徴として登場します。

  • 『シン・ゴジラ』(2016)
  • 『君の名は。』(2016)
  • 渋谷PARCO:2016年に一時閉店。
  • 『SMAP×SMAP』(1996-2016)
  • Awesome City Club
  • 野田サトル『ゴールデンカムイ』(2014-)

こういった様々なカルチャーだけでなく、麦と絹の口調や話すスピード、見た目の変化からも、年月の流れを感じ取れます。これはやはり菅田将暉さんと有村架純さんの両者の演技力が素晴らしいと言えます。特筆すべき点は、劇中で5年の歳月が経っているのに全く違和感がないこと。しっかり年を取っているように見えました。

労働のリアル

このように今作は、恋愛の始まりから終わりまでを緻密に描いています。社会派ドラマの名手・坂本裕二が手掛けているだけあって、社会との向き合い方に関する現代的メッセージを含んだ、より広い射程を持った作品になっています。

「夢」と「現実」の天秤

絹は大学生のときに就職活動をしましたが上手くいかず、フリーターとしてアイスクリーム屋で働きます。このときの絹の目が本当に輝いてたなあ、と鑑賞後に思いました。

そんな彼女を反対するのが、戸田恵子さんと岩松了さんが演じる絹の両親。「一流」の会社に勤め、結婚し、子供を育てるという、世間的に「正しい」とされている生き方をしている人たちです。

絹の父親が麦たちにONE OK ROCKのライブを勧めるのが、「自分は若者の流行りを知っている」感が出ていて絶妙に鼻につきました。絶対ONE OK ROCKのことに興味ないのが分かります。

彼ら「大人」と対照的な存在なのが、麦の先輩であるカメラマン・青木海人。夢を追い続けて一般社会とは反した生き方をしていました。この物語はくだらない死に方をした彼を、決して正しいとは描いていません。かといって「大人」サイドを全肯定しているわけでもありません。

生活が苦しくなった麦と絹は就活を始めます。菅田さんと有村さんの映画で就活といえば、『何者』(2016)を想起する人もいるでしょう。何者でもない若者が何者かになろうとする姿は、光太郎と瑞月とも非常に重なるため、連続して観るとつらさ倍増する気がします。

絹は、会計士として仕事に就きました。プライベートの時間を確保できるホワイトな会社です。対して麦が就職した物流会社は残業続きです。「仕事だから」と自分に言い聞かせ続けた結果、やがて彼は「人生は責任」と考えるようになりました。絹の両親と同じ「社会」サイドの考えに染まったことが明らかになり、とても悲しい気持ちになりました。

就職による麦の言動の変化から、麦が全面的に悪いみたいに思われがちです。しかし彼が原因というよりは環境の変化や、さらにはその環境を作り出している社会のシステムを問題視していると思います。麦の台詞の中にも、社会の構造自体が腐っているという言葉があることからも、この作品が夢と現実の両立が難しい社会の仕組みに疑問を投げかけていることが分かります。

本作にはAwesome City ClubのボーカルPORINさんが、本人役として出演しています。最初は無名でファミレスのバイトをしていた彼女が、どんどんスターダムをのし上がっていく姿が描かれます。

やりたいことで生計を立てる彼女こそ、麦がなりたかった存在なのではないでしょうか。「じゃあどうすれば麦は彼女のようになれたのかな」って考えるけど明確な答えはなく、やっぱり運や巡り合わせだったりするのかな、という想いを抱きました。

夢と現実の葛藤を恋愛に絡めた作品として、『劇場』(2020)と似ていると思いました。しかしながら『劇場』は最後まで夢を追い続ける姿を肯定しており、「はな恋」と対照的なラストと言えます。

現代における恋愛と結婚

働くことの葛藤を描くと同時に、現代における結婚の意味を残酷に問いただしています。

麦が「正しい」とされる仕事観ひいては男女観に変わった一方で、絹は自身のやりたいことを曲げませんでした。派遣になったとしてもやりたいことを仕事にしていきたい彼女。この違いは、現代にも残っている男女の働き方の違いが関係しているのかな、と少し思いました。

この物語が結婚をどのように捉えているかが最も表れているのが、本作の白眉である結婚式後のファミレスのシーン。もう心は決まっているのに、なかなか「別れよう」と切り出せない麦。

しまいには「結婚して一緒に暮らそう」と絹に提案します。ここまで冷え切った状態で、そんな言葉いっさい響かないですよね。

この台詞からも分かるように彼は、結婚を絶対的「正しい」とする価値観を信じ続けていました。おそらく会社の先輩や同期でそういった価値観がマジョリティだったのでしょう。

ファミレスで清原果耶さんと細田佳央太さん演じる一組のカップルを目にする二人。出会ったばかりの自分たちを重ね合わせ、もう当時には戻れないことを悟り、別れることを決めます。

もしこのジョナサンのシーンで映画が終わっていたら、つらすぎて映画館で倒れていました。その後の展開があったおかげで私は救われました。というのも別れを決めてから家を離れるまで二人が一緒に過ごす様子が描かれるのですが、このエピローグには、それまでのすれ違いを忘れさせる爽やかさがあるのです。

そして2020年の二人を描くことで、「あの頃は良かった」的な閉塞的に物語を終わらせるのではなく、未来に開けたラストになっているのも評価すべきポイントだと思います。

序盤の掴みであるGoogleストリートビューが、しっかりラストのオチの伏線にもなっているのが上手。エンドロールでは二人の思い出のイラストが散りばめられています。Soup Stock Tokyoに行ったり、二人で一緒にゼルダをプレイしたり、本編には無かった描写があり最後まで彼らのことを愛おしく思えます。

夢と仕事の両立や、結婚といった現代的でシリアスな問いを投げかけています。そのため観た人によって感想が大きく変わる映画であり、観た人同士で語りたくなる作品です。それに加え、さわやかな終わり方になっているため非常に観やすくなっています。

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最後に

映画館で両隣カップルに挟まれて観たんだけど、カップルで一緒に観たら気まずくならないかな…

誰と一緒に観るかは置いておいて、仕事と恋愛を経験した全ての人におススメの作品です!

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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