映画『劇場』感想:「演技」が魅せる恋愛の儚さ

(C)2020「劇場」製作委員会

映画館で観たい映画はいくつか存在します。迫力あるアクション映画や、細部まで描きこまれた2Dアニメ映画など色々ありますが、今回の映画もぜひ劇場で観たい作品です。

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作品情報

2017年に発表された又吉直樹著の同名小説の映画化。売れない劇作家の永田を演じるのは山﨑賢人。女優を夢見る沙希を松岡茉優が演じる。『世界の中心で、愛をさけぶ』や『リバーズ・エッジ』で知られる行定勲が監督を務める。新型コロナウイルス感染拡大防止を考慮し、劇場公開と同日にAmazonプライム・ビデオで独占配信された。

原作: 又吉直樹
出演: 山﨑賢人 / 松岡茉優 / 寛 一 郎 / 伊藤沙莉 / 井口理 ほか
監督: 行定勲
脚本: 蓬莱竜太
公開: 2020/07/17
上映時間: 136分

あらすじ

中学からの友人と劇団“おろか”を立ち上げた永田だったが、上演した舞台はことごとく酷評され、劇団員たちも離れていってしまう。そんなある日、偶然同じスニーカーを履いていた沙希に思わず声をかける永田。女優を目指して上京し、服飾の学校に通う沙希は、生きることに不器用な永田と一緒に暮らすようになり、彼の夢のために公私にわたって懸命に支えていくのだったが…。

映画 劇場 (2020)について 映画データベース – allcinemaより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

時の流れがもたらす二人の関係性の変化

恋愛映画と謳われているものの、いわゆるキャッキャウフフな場面がないのが、本作最大の特徴です。カップル二人の恋愛を主軸に置いた作品でありながら、ベッドシーンはおろかキスシーンが一切ありません。実際二人は当然キスしていたと考えられますが、映画の中で描写されることはありません。この映画で表現されているのは、他人と生きることの幸せと辛さです。永田と沙希が過ごした7年間の中で随所に見られるようになる二人のすれ違いを観ていくほどに、つらい気持ちにさせられます。

永田は劇作家として成功するという夢を追いながら、貧乏な生活を送っていました。自身が立ち上げた劇団の脚本や演出を考えないといけないのに、ついつい楽な方向へと逃げてしまう「逃げ癖」があります。駄目な生活を送っていること、そして努力をしないといけないことは、永田自身が一番分かっています。ただ他人の意見に耳を傾けることを、彼の自尊心が邪魔します。そういった悪い部分も全肯定してくれる沙希と、彼が出会うところから物語は始まります。

地元から上京したての沙希は、触れるものすべてに対して純真な気持ちを抱いています。例えばカットモデルのキャッチを断れないでいる様子が序盤で映し出されます。だからこそ永田と出会い親しくなると、互いに影響を及ぼし合います。音楽の好みなどのプラスな影響だけではありません。沙希は決して永田を叱ることなく、常に支え応援しています。彼女の従順さに基づいた行動です。永田はそんな彼女の優しさに甘えて、自堕落な生活から抜け出さなくなります。時折、創作活動に打ち込もうとしますが、結局彼女のもとに戻ってきます。加えて沙希が学校をサボってゲームをしている場面を観ても、彼女もまた永田からの影響を受けているのが明らかです。

一見して息が合っているように思えますが、二人の間にはコミュニケーションにズレが生じています。それが集約されているのが、ディズニーランドに関するやり取り。この会話の微妙に噛み合ってない様子はとてもおかしく面白いので、ぜひ注目していただきたいポイントです。序盤のこの場面から既に、実は互いを本当に理解していないことが伺えます。ただこういったズレは永田と沙希に限ったことではなく、コミュニケーションをとることの普遍的な難しさを表現していると思います。誰もが少しは感じたことがあるような心情描写が劇中ところどころに挟まれているのが、非常に丁寧でした。

徐々に深まっていく二人のすれ違いが決定的になるのが、中盤の見せ場である沙希が激昂するシーン。映画の中で季節の移り変わりが描かれているものの、ここまで具体的に何年経っているか説明されていません。この場面で沙希が27歳になっていることが判明します。毎日酒を飲まないとやっていけないほど彼女の神経が擦り減っているのが、この後の場面からひしひしと伝わってきます。永田は激昂されてようやく自身の行いを反省して、彼女に優しい目を向けるようになります。だが時すでに遅し…

悲しいことに永田も沙希も卓越した才能を持った人間ではありませんでした。周囲の変化の中で自身も変わらなくてはいけなかった沙希。対して「いつまで経ってもなんにも変わらない」まま、夢を追い続ける永田。現実を受け入れて夢を諦めるのか、諦めず続けるのか。こういった葛藤が淡々と描かれてるだけなのが本当に切ないです。人間関係の「どうしようもなさ」や抗えなさを表現しているという面では、監督の前作『リバーズエッジ』(2018)にも通ずるものがあると思いました。

また物語の序盤と終盤で追う側と追われる側が逆転しているのも、今作の切ないポイントです。序盤では夢を追う永田に尊敬の眼差しを向けている沙希という構図でした。対して終盤になると、関係を終わらせようとする沙希を追いかける永田という構図に変化しています。

俳優陣が生み出す実在感

この映画に登場する全員が、絶妙な「この人いそう」感を放っているのが素晴らしいです。原作や脚本のリアルな人物設定もさることながら、俳優陣の演技が大きな要因として挙げられます。特に主演二人の演技の持つ説得力は凄く、「この二人をずっと見ていたい」と思わせてくれます。

山﨑賢人さん演じる永田の腐り具合は絶妙です。象徴的なのが、彼が最初に道端で沙希に話しかける場面。ホームレスまでとはいかないものの、積極的には近寄りたくない人を体現しています。他人の目や意見を気にしていないのが、身だしなみを整えていない様子にも表れています。『四月は君の嘘』(2016)をはじめとして、漫画実写化映画の主人公に起用される役者というイメージがある人も少なくないと思います。しかしながら『羊と鋼の森』(2018)以降、落ち着いたトーンやシリアスな役柄を演じる作品も増えました。今回の映画でも、板についた落ち着いた演技が、永田に説得力を持たせています。

そして松岡茉優さんの役への憑依ぶりは言わずもがな。「こういう上京したての学生、実際に見たことある」と思わせてくれる実在感があります。『勝手にふるえてろ』(2018)など、現代の「一般」の女性を演じることの多い、彼女の演技力の高さが今作でも見受けられます。また『ひとよ』(2019)でも見られたような、カジュアルな台詞回しが本作でも楽しめます。序盤で永田とカフェに行ったときの「勝手に決めちゃった」とか、最高でした。

脇を固める役者の演技も、物語の説得力をより強固にしています。例えば、冒頭で劇団「おろか」を辞めた青山。ストレスから解放された様子や、絶妙な「仕事できると思っている」感が一瞬で観客に伝わってきます。他にも、沙希のバイト仲間の田所が永田に対してリスペクトをしているようでしていなかったり、青山が永田に紹介した評論家が胡散臭かったり、妙にリアルだからこそ観終わった後に頭に残るキャラクターが多いのです。

演劇的な構造

本作終盤の演劇的な展開に向けて、伏線となる演出が序盤から用いられています。あるエピソードが終わると暗転して切り替わり、次のエピソードに向かいます。演劇のセットが変わるときに似ています。初めて鑑賞したとき、登場人物の一連のやり取りが終わると、ふっと画面が暗くなるので不自然に感じられました。ただラストの仕掛けを踏まえると、「これが伏線だったのか」と納得する作りになっています。

さらなる演出としては、永田の一人語りによる心情や状況の説明が多いです。小説を読んでいるうえで登場人物視点の語りはごく自然に用いられます。しかしそれをそのまま映画にトレースすると、違和感を抱く要因になり得ます。そのため嫌悪感を示す人もいるでしょうが、この演出は「小説らしさ」を意図的に表現するため、明らかに意図的に使われています。永田の心情があまりにも表に出ず分かりにくいため、その補助線の役割もあると思いました。

これらの伏線的演出は、最後の大きな仕掛けに繋がっていきます。クライマックスの二人の掛け合いが、実は演劇であることがシームレスに明らかになる展開。本当に鳥肌が立ちました。この仕掛けこそ映像でしかできない展開だと思います。中盤のバイクの件「ばああああ」とか手作りのお面とかも、この展開に繋がってくるので、より感動的になっていきます。

そしてエンドロールで、観客から見ている劇場の風景が流されます。まるでこの映画を鑑賞している私たちと否応にも重ね合わせてしまいます。すなわち観客席に座っている沙希は私たちなのです。定点で映されるステージを観ていると、青山や小峰と一緒に劇団をしていることが分かります。劇中でほとんど成長しなかった彼が、ようやく一歩を踏み出したんだなあとしみじみ感じました。沙希のように最後まで残って劇を観てしまう余韻があります。

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最後に

最後の仕掛けを最大限に体験するにも「劇場」で観たい作品です。ただそれが叶わなくても、Amazonプライムに入っていればいつでも観られます。もうこれは一度でも観てほしい作品です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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