『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』感想:独特な世界観の実写化への挑戦

(C)2017 映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

この作品を完全には嫌いになれない自分がいます。

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作品情報

1986年から『週刊少年ジャンプ』で連載された『ジョジョの奇妙な冒険』初の実写映画化。第4部「ダイヤモンドは砕けない」の始まりのエピソードを映像化する。監督は実写『土竜の唄』シリーズを手掛ける三池崇史。

原作: 荒木飛呂彦
出演: 山﨑賢人 / 神木隆之介 / 小松菜奈 /  岡田将生 / 新田真剣佑 / 伊勢谷友介 ほか
監督: 三池崇史
脚本: 江良至
公開: 2017/08/04
上映時間: 119分

あらすじ

この町、何かがおかしい
美しい海沿いの町、杜王町。平和に見えるこの町で、変死事件など次々と奇妙な出来事が起き始めた――
この町に住む高校生・東方仗助。見た目は不良だが、心根の優しい性格の持ち主。彼はスタンドと呼ばれる特殊能力を持っており、仗助のスタンドは、触れるだけで他人のケガや壊れたものをなおすことができる。一連の事件が別のスタンドを使う者たちの仕業だと知った仗助は、愛する町を守るために立ち上がる!

映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』予告2【HD】2017年8月4日(金)公開 – YouTubeより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

長寿シリーズ初の挑戦

「ズキュウウウン」「メメタァ」「レロレロ」といった擬音表現が用いられる漫画。その名は『ジョジョの奇妙な冒険』。30年以上の歴史を持つ一大漫画シリーズです。内容を知らない人でも、タイトルだけでも耳にしたことはあるのではないでしょうか。

1986年から『週刊少年ジャンプ』にて連載を開始し、現在は『ウルトラジャンプ』に掲載誌を移動。第1部、第2部などと部ごとに国や時代を変えながら、壮大な物語が紡がれており、2021年まで連載していた第8部『ジョジョリオン』にまで脈々と続いています。

テーマは「人間讃歌」。ジャンプ漫画の三大原則「友情・努力・勝利」を体現した、王道なストーリーが展開されます。第1部の主人公は、19世紀イギリスに生きる青年ジョナサン・ジョースター。彼が吸血鬼と化した幼馴染ディオ・ブランドーと死闘を繰り広げる。

この「始まりの二人」の子供や孫が、後の部の主人公になっていきます。各部で舞台設定が変化しつつも全体を通して共通しているのが、二人の一族の話であるという点。それはまさに、ジョースター家の大河ドラマ。血統を継ぐ者たちが辿る、奇妙な運命のドラマなのです。

王道な話とは対照的なのが、多用される独特な擬音表現や、非常にクセの強い作画。このあたりは、人によって大きく好き嫌いがはっきりと分かれそうです。

中でも最大の特徴とも言えるのが、登場人物が固有に持っている特殊能力「スタンド」。スタンドはその名前の多くが洋楽に由来しています。クールな見た目をしており、能力の内容も個性豊かで、その一つ一つが魅力的です。スタンドの登場は、シリーズの人気をより確固たるものにしました。

唯一無二でダークな世界観を確立した「ジョジョ」。影響を受けたと公言する人物や、作品は数知れず。部ごとにキャラが一新されるため、どの部から読み始めても大体の話が理解できるようになっており、新規ファンにも優しいつくりです。

メディアミックスとしては、2012年からテレビアニメの放送が開始。第1部から順にアニメ化が行われており、2021年12月からは第6部「ストーンオーシャン」がNetflixにて配信が始まっています。

そんなビッグタイトルでありながら、これまで実写化は一度もされてきませんでした。上述したような2次元的な色合いが強い世界観と、3次元の映像との食い合わせが悪いのが、その大きな原因でしょう。

今作はシリーズ30年の歴史で初めての実写化となります。題材に選ばれたのは、1992~95年に連載されていた第4部「ダイヤモンドは砕けない」。

この部の主人公は、20世紀末に生きる日本の高校生・東方仗助。元からスタンド能力を持っていた彼が、スタンド使いとして過酷な戦いに赴く覚悟を決めるまでを描いた、序盤のエピソードを映像化します。

他の部は基本的に日本人以外がほとんどなので、日本人キャストで実現させやすい第4部に白羽の矢が当たったのかな、と想像しました。

とはいえ並み居る漫画の中でも、実写化のハードルが高い部類のジョジョ。『クローズZERO』(2007)や『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』(2014)を手掛ける三池崇史さんが監督を務めます。漫画実写を多く手掛けてきた三池監督をはじめとした製作陣は、いかにこの課題に向き合ったのでしょうか。

漫画実写に付き纏う課題

2000年代以降に多くなった人気漫画の実写化。漫画そのものの作品数が増えたのもさることながら、原作の知名度により、オリジナル脚本よりも集客が見込めるなど、様々な要因が絡んでいると思われます。

当然、良いものもあれば悪いものもあります。ただ出来が悪いほうがどうしても目立ちますし、話題に上げられがち。そのため「漫画実写=悪」という印象を持っている人は少なくないでしょう。

仗助のビジュアル解禁時の反応を見ると、熱心な原作ファンからの批判が寄せられており、早くも映画の出来が不安視されているのが見受けられます。

本作と同時期に公開された福田雄一監督作『銀魂』(2017)も同じく、ジャンプ系の人気漫画の実写化です。この作品に関しては、実写映画に付きまとう安っぽさを逆手にとっていました。つまり監督の作風を上手くマッチさせていたのです。興行的にも成功し、翌年には続編が作られました。

ただし『銀魂』は特例のようなもので、基本的には原作を忠実に再現することが、一般的には良いとされています。特にジョジョの場合は、その独創的な世界観をどこまで再現できるのかが、映画全体の評価を左右すると言っても過言ではありません。

ぶどうヶ丘高校に転校したばかりの高校生・広瀬康一の視点から物語は始まる。不良に絡まれる彼のもとに助けに入ったのは、リーゼント姿の同級生・東方仗助。普段は温厚な彼であったが、自身の髪型をバカにされると、だれかれ構わずキレる、という面倒な性格の持ち主でもあった。

仗助は触れたものを直す特殊能力「クレイジー・ダイヤモンド」を持っている。平穏と暮らす彼のもとに、次々とスタンド使いが襲い掛かってくるのであった。

舞台となるのは、日本の架空の都市・M県S市杜王町。名前の通り、仙台市がモデルとなっています。しかし映画のロケは、スペインの都市・シッチェスで行われました。

その理由として、「リーゼントヘアや長ラン&ボンタンの昔ながらの不良スタイルが浮かないロケ地を探すことは難しい」と判断し、「最も今作のキャラクターがなじむ場所」を選んだと監督は語ります(※1)。

※1:実写ジョジョ監督・三池崇史の“ジョジョ観”|シネマトゥデイより引用

確かに異国感やファンタジックな雰囲気は漂っていました。ただし日本で起きている話には感じられず、マイナスに働いているように映りました。

さらに不良スタイルのキャラに違和感がないかというと、そうでもありません。かなり頑張っていますが、それでも仗助のリーゼントからは嘘っぽさが感じられます。そして伊勢谷友介さん演じる空条承太郎に代表されるように、登場人物の衣装もコスプレ感が拭えませんでした。

忠実な脚本=高評価?

もちろん素晴らしい箇所もあります。実写『約束のネバーランド』(2020)について書いたときにも述べたように、個人的には好きな作品です。

特筆すべきは、スタンド周りの演出です。CGを使って表現されたそのビジュアルは、再現度が高い。クレイジー・ダイヤモンドやエコーズなどが動く様子は感動的でした。スタンド同士が戦うアクションシーンからも、力の入りようが見て取れます。

一つ惜しいのが、スタンドの見せ場がそれほど多くない点。エピソード的にはプロローグにあたるので、アクションの見せ場としては「vsアンジェロ」と「vs虹村形兆」の二つだけ。原作ではこの後から本格的にスタンド使いの戦いが活発になります。なので見せ場が少ないのは、仕方ないのかもしれません。

役者陣は全体的にかなり好演をされています。ジョジョの台詞は、どちらかと言えば文語体に近い文体で書かれているので、実際の人間が話すと不自然に聞こえる部分があります。それでも自然に聞こえるように、健闘されているように感じられました。

特に康一に想いを寄せる山岸由花子を演じている、小松菜奈さんがハマり役。出演シーンは少ないのが惜しいですが、彼女をキャスティングしただけでも、本作を作った意義はあると言えるハマり具合です。

このような褒めポイントを、映像の不自然さが大きく搔き消してしまっています。それと同様に、脚本にも惜しい点が見られました。

ストーリー自体は、大きく改変されているわけではありません。むしろ原作の展開に対して、非常に忠実な脚本です。なので一から十まで既に知っているジョジョファンからすれば、新鮮さが全くないのです。

そこに相まって、話自体のテンポも悪い。アニメ版では5話にわたって描かれるエピソード。本編1話分を20分とすれば、100分くらいの尺で描かれているのです。つまり今作は、アニメ版と同じ話の量でありながら、時間を多く使っているのが分かります。

本作で印象に残ったのが、作中で頻繁に流れる重苦しいBGM。映像的に再現が難しい原作の擬音表現の代わりなのかもしれませんが、これもまたストーリーの冗長さを助長しているように映りました。

そのまま原作をトレースしただけでは、漫画やアニメと比べて表現の限界があるため、どうしても負けてしまいます。個人的には、どうせだったらもっと大胆な省略や改変をしても良かったのではないか、と思いました。

映画ラストで形兆にとどめを刺す人物は、第4部での重要人物である吉良吉影です。原作では音石明という人物でしたが、改変がされています。

切った爪を入れたビン。紙袋に入れられた片手。そして「第一章」という副題から、続編を作りたい感が溢れ出ています。何なら第4部を足掛かりに、他の部も映像化しようとしていたと言われています。しかし振るわなかった興行によって、それらはほぼ絶望的になりました。

原作の後のエピソードで登場するスタンドが動き回る姿を、CGで見てみたかった気持ちがあるのでただただ残念です。

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最後に

一言でまとめると「その心意気やよし」。惜しいポイントが多すぎました。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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