『るろうに剣心 最終章 The Final』感想:現代剣戟の到達点

(C)和月伸宏/集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

当代随一の演者とスタッフが作り出したチャンバラ映画の秀作。

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作品情報

2012年から続く実写『るろうに剣心』シリーズの4作目。1994~99年に『週刊少年ジャンプ』で連載された『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』を原作とし、最後のエピソード「人誅編」を映像化する。佐藤健らが前作から続投するほか、新田真剣佑が宿敵・雪代縁を演じた。

原作: 和月伸宏
出演: 佐藤健 / 武井咲 / 新田真剣佑 / 青木崇高 / 江口洋介 ほか
監督: 大友啓史
脚本: 大友啓史
公開: 2021/04/23
上映時間: 138分

あらすじ

かつて<人斬り抜刀斎>として恐れられ、激動の幕末を刀一本で戦い抜いた男、緋村剣心。新時代を迎え、二度と人を殺さないと誓う。斬れない<逆刃刀>に持ち替え、日本転覆を狙った志々雄真実をはじめ数々の敵との戦いを乗り越えた今は、仲間たちと平穏な日々を送っていたー。 ある日、東京が何者かに攻撃され、次々と大切な人々が襲われた剣心は、次第に追い詰められていく。憔悴しきった彼の前に現れたのは、あの志々雄に武器や軍艦を送り込んでいた上海マフィアの頭目・雪代 縁。剣心の<十字傷の謎>を知る彼こそが、剣心自らが生み出してしまった最恐最悪の敵だった。剣心に強烈な恨みを持ち、剣心だけではなく<剣心が作った新時代>をも破壊するため<人誅>を仕掛けてくる!

『るろうに剣心 最終章』The Final 4月23日(金)/The Beginning 6月4日(金)2作連続ロードショーより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

実写るろ剣の功績

原作である『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』は、明治時代初頭の日本を舞台にしたバトル漫画です。江戸末期に伝説の剣客「人斬り抜刀斎」として暗躍した緋村剣心。人斬りを退いたあとも彼の前に立ちはだかる敵と剣を交え、自身の人生と向き合っていく様子が描かれました。

実際の史実とリンクしたストーリーや、個性的なキャラクターの魅力が相まって、当時の『週刊少年ジャンプ』を支える人気漫画となりました。単行本は全28巻が発売されています。

るろうに剣心(通称、るろ剣)といえば、1996~98年に製作されたアニメ版の印象が強い人も多いと思います。というのも緋村剣心を演じていた涼風真世さんの声がとても特徴的なのです。儚さや色っぽさを含んでおり、彼の人生を象徴するような美声でした。

既に連載やアニメ放送が終了していた中で、2012年に製作されたのが実写映画『るろうに剣心』。山下智久さん主演の『あしたのジョー』(2011)や松坂桃李さん主演の『ガッチャマン』(2013)など、漫画やアニメ原作の実写映画ラッシュにあった一本です。

原作改変の是非をはじめとして、公開前から議論を巻き起こすことが多い「実写化」というジャンル。るろ剣は事前にされていたネガティブな予想を公開後に裏切りました。

好評価を受けたのは主にアクションシーン。CGを使わずワイヤーアクションを多用したバトルの迫力は、邦画の中で最高峰と言って過言ではありません。監督の大友啓史さんやアクション監督の谷垣健治さんの手腕が大きいと考えられます。

漫画ではキャラクターが『天翔龍閃』などの技名を実際に口にしてから技を繰り出します。こういった見せ方は、歌舞伎の見得やそれにヒントを得たスーパー戦隊に代表されます。ただし実写版では「特撮的」な要素は排除されました。

この作品は、明治時代初期の日本を再現した巧みな美術によって世界観を作り込んでいます。こうしたリアルなセットと、CGや「特撮的」演出は対照的であり相性が悪い。後者をばっさり切り捨てる英断をしたことで、作品の世界観の説得力が強固になっているように感じました。

さらに特筆すべきは、ワイヤーなどのアクションシーンを役者本人が演じているということ。主演の剣心役に選ばれたのは、当時22歳の佐藤健さん。『仮面ライダー電王』(2007-08)や『龍馬伝』(2010)に出演しており、当時から高い演技力と殺陣の経験を持っていました。

目に追えない速さで繰り広げられる壮絶なバトルが楽しめる1作目。ここまで述べた要因から、そこに剣心が実在しているかのように感じられる完成度でした。アニメ版の女性的な声とは大きく異なりつつも新しい剣心像を作り上げたこの映画は、漫画実写化の成功例の一つと言えます。

2014年に続編「京都編」として二部作『るろうに剣心 京都大火編』『るろうに剣心 伝説の最期編』が製作されました。

9年間の集大成

前作公開から6年経った中で発表された4作目『るろうに剣心 最終章 The Final』。5作目『るろうに剣心 最終章 The Beginning』とともに2020年のGWに公開が予定されていましたが、コロナウイルス感染拡大の影響を受けて約1年間延期されました。

今回取り扱うのは原作最後のエピソード「人誅編」。アニメ化されていない話なので、本作が初の映像化となります。過去作に絡んだ設定もあるので、今作から観るとさすがに話についていけない部分が多分にあります。そのため、これまでの3作品を予習してから鑑賞することを推奨します。

剣心をはじめ、神谷薫、高荷恵、相楽左之助、明神弥彦といった面々が「あかべこ」で牛鍋を囲む場面から物語は始まります。お馴染みのキャラによる会話劇は楽しく、安心して観ていられます。ちなみに弥彦を演じる役者さんが年齢の関係で過去作とは変わっていますが、違和感を抱くことはありませんでした。

平穏な日常を過ごしながらも、どこか物憂げな表情をしている剣心が印象的に映し出されます。そんな中、皆の憩いの場「あかべこ」が砲撃されます。仕掛けたのは武器商人・雪代縁。京都編の敵である志々雄真実に武器を輸出していた縁。彼は剣心の亡き妻・巴の弟でした。

縁が襲撃した事実を知り心が沈む剣心でしたが、左之助たちに励まされながら、自身の過去に決着をつけるため戦いに赴く覚悟を決めます。二人の過去については次作『The Beginning』で詳しく語られることになります。そのため今回は、次作と共通の映像を使いながら簡潔に語られるのみでした。

縁の陣営と剣心の仲間たちによる総力戦が終盤に繰り広げられます。四乃森蒼紫、巻町操、斎藤一、そして瀬田宗次郎にいたるまで、シリーズに登場したキャストが総出演します。全員が違う場所にいながら剣心をサポートして戦う展開は見どころ。特に宗次郎は原作の人誅編には登場しないため、サプライズ的な改変です。

戦いを終えて薫と一緒に巴の墓を訪れる剣心。「ありがとう。すまない。さようなら」と巴に語りかけて、その場を去ります。薫の手を取る彼の目に、はじめて光が宿ったように見えました。

ここまでの4作品を追ってきた観客としては、ようやく彼が人斬りとしての呪縛から解き放たれ、時代が動き出したように感じました。彼の過去への贖罪と決別が描かれた本作のラストにふさわしい秀逸な演出です。

変わらない特色

実写るろ剣シリーズは、アクションやストーリーなどの大まかな構成が1作目から一貫しています。言い換えれば、良い意味でも悪い意味でも全作に共通する特徴があるのです。

シリーズ最大の特徴である生身アクションは今回も必見。主演の佐藤さんの体を張った演技には目を見張ります。剣心が全速力で走るカット一つから、並外れた運動神経が一目で分かります。特にカメラ=観客に向かって疾走するカットが劇中で何度か挟まれるのですが、凄まじい迫力がスクリーンから伝わってきました。

物語序盤にある、邸宅という狭い場所を活かしたアクロバティックなアクションも素晴らしい。映画を観た人もそうでない人も、まずはYouTubeに投稿されているトレーニング動画を見ていただきたい。佐藤健さんという役者の凄さを改めて実感することができる動画です。

一方で今作の敵キャラ・雪代縁を演じるのは新田真剣佑さん。序盤の電車内のバトルシーンから、彼もまた類まれな運動神経を持っていることが分かります。剣術を操る剣心とは対照的に体術をメインに戦う縁。彼の鍛え抜かれた肉体があらわになるのも、注目すべきポイントでしょう。

そして縁と剣心の一対一の戦闘が繰り広げられるクライマックスは、本作の白眉。他のバトルシーンとは異なってBGMが使われていないことで、二人のアクロバティックな動きに観客の意識を集中させる演出になっています。

互いの動きが完璧に噛み合ってこそ成り立つ殺陣。この映画では、それがもの凄いはスピードで展開していきます。一秒たりとも見逃したくない、現代の邦画が作り出せるチャンバラの到達点と言える場面でした。

二人だけでなく、巻町操演じる土屋太鳳さんや瀬田宗次郎演じる神木隆之介さんなど、他のキャラクターのアクションも見事。邦画史上に名を残すクオリティのアクションを体感するだけでも、観る価値は十分にある作品です。

しかしながら先述したプラスな面と同時に、シリーズ特有のマイナスな面も過去作から引き継がれています。

漫画版との違いとしては、京都編二部作と同様に主要な敵キャラ以外のエピソードはバッサリ削られています。前作は「十本刀」と呼ばれる志々雄の配下の多くがほとんど描かれなかったことで、原作ファンから批判を受けました。

人誅編には、私兵集団「六人の同志」として縁のほかに5人の強敵が登場していましたが、実写版でその掘り下げはほとんどされていません。彼らのファンにとっては悲しい改変でしょう。ただしこれに関しては、ストーリーを2時間の尺に収めるためには仕方ないことだと個人的に思っています。

加えて1作目から変わらない特徴として、大仰なBGMを多用する演出が挙げられます。雨の中にたたずむ剣心を映すカットが中盤にあります。壮大な音楽とほぼ静止画の映像が長時間流れます。根間はストーリーも止まっているので、ただ長ったらしいという印象。しかし1作目からこの傾向は見られていたので、シリーズのお決まりと割り切って観るしかないと思われます。

とはいえ原作を最後まで実写化したシリーズというのは珍しく、その歴史をリアルタイムで追えること自体がかけがえのない経験であることは確かです。

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最後に

るろ剣シリーズの集大成を体現した壮大なお祭り。過去作を楽しんだ方を裏切らない出来となっていまいた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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