『サマーフィルムにのって』感想:好きを否定しない優しさ

(C)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

青春映画の新たな金字塔。

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作品情報

CMやMVなど幅広く手掛ける映像作家・松本壮史の長編初監督作。時代劇の製作に情熱をささげた高校生たちのひと夏を描く。伊藤万理華や金子大地といった新進気鋭の俳優陣が顔をそろえる。メルボルン国際映画祭をはじめとした各国の映画祭で上映された。

出演: 伊藤万理華 / 金子大地 / 河合優実 / 祷キララ ほか
監督: 松本壮史
脚本: 三浦直之 / 松本壮史
公開: 2021/08/06
上映時間: 97分

あらすじ

勝新を敬愛する高校3年生のハダシ。
キラキラ恋愛映画ばかりの映画部では、撮りたい時代劇を作れずにくすぶっていた。
そんなある日、彼女の前に現れたのは武士役にぴったりな凛太郎。
すぐさま個性豊かな仲間を集め出したハダシは、
「打倒ラブコメ!」を掲げ文化祭でのゲリラ上映を目指すことに。
青春全てをかけた映画作りの中で、ハダシは凛太郎へほのかな恋心を抱き始めるが、
彼には未来からやってきたタイムトラベラーだという秘密があった――。

映画『サマーフィルムにのって』公式サイト|2021年8月6日(金)より新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開より引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

ガールはフレンド、再び

2020年11月に行われた東京国際映画祭にて、初めて上映された本作。翌年8月の全国公開後、上映館数がそれほど多くなかったにもかかわらず、口コミで評判が広がっていきました。

オーディションで選ばれるキャストが多い中で、企画段階から配役が決まっていたのが、主役の伊藤万理華さん。2011年、乃木坂46に1期生メンバーとして加入し、2017年までグループに所属。卒業後は実写『賭ケグルイ』シリーズや『バンクオーバー!〜史上最弱の強盗〜』(2021)など、ドラマや舞台に出演しています。

グループ在籍中からファッションやアート、ダンスのセンスを発揮していました。自身の世界観を展開した個展『伊藤万理華の脳内博覧会』(2017)、そして『伊藤万理華 EXHIBITION “HOMESICK”』(2020)を開催するなど、一つの枠に収まらない幅広い活動をしています。

監督を務める松本壮史さんは、これまでCMやMV、短編ドラマなどを作っていますが、長編映画のメガホンをとるのは今回が初めて。ただし伊藤さんとの共作は以前にもあり、単発ドラマ『ガールはフレンド』(2018)でも監督と主演という関係性でした。

このドラマでは、同じ男性の今カノと元カノの同居によって、そこで生まれる友情が描かれています。何気ない感情の機微を、表情ひとつで見事に表現されている印象を受けました。

彼女の魅力について、「もう、存在そのものがおもしろいですよね。造形としての可愛さだけじゃないキュートさがあるんです。動きとか表情とか全部に「おもしろキュート」なところがあるというか。」と監督は語ります(※1)。

※1:松本壮史×三浦直之 「好き」は消えることなく、いつか誰かに届く | CINRAより引用

『ガールはフレンド』と『サマーフィルム』両方の脚本を担当しているのが三浦直之さん。若者同士の地に足がついたリアルな会話劇が特徴的です。松本監督とは既に何度もタッグを組んでいる名コンビであり、今作が伊藤さんの魅せ方を完全に分かった人々が作った映画であることが分かります。

予告にもあるとおり『サマーフィルム』は、SFや恋愛など色々なジャンルの要素が含まれています。そういったジャンルレスな感じが、彼女の活躍の幅の広さにも通ずるところがあるように思われます。

映画を撮影する映画

そんな彼女が演じる主人公は、時代劇をこよなく愛する女子高生「ハダシ」。高校では映画部に所属しているものの、そこではキラキラした王道ラブコメを撮っていた。そのため彼女は、自分が撮りたい時代劇が撮れずに忸怩たる思いを抱えていた。

ハダシには2人の幼馴染がいた。あだ名は「ビート板」と「ブルーハワイ」。高校生活最後の夏休みに悔いを残さぬよう、3人で本当に撮りたい映画を作る計画を立てる。そんなとき、凛太郎と名乗る少年と出会ったハダシは、一目見たときに感じたスター性にビビッときて、彼を主役にした時代劇「武士の青春」の撮影を開始する。

ハダシ、ビート版、ブルーハワイの三人の会話は、ずっと見ていたいほど飽きない。自分たちが好きな話題について話しているため、ただただ本当に楽しそう。演じている3人の俳優の自然な演技が光っています。

3人に加えて、映画製作のために4人の生徒が集められるのですが、その一人ひとりが個性的でチャーミングさを持っています。登場人物が少ないからこそ、それほど出番が多いわけではない彼らにも注目して観ることができました。

夏休み明けに開催される文化祭に上映するために、映画を製作するハダシたち。本作は企画から完成にいたるまでの努力と苦労を描いており、映画撮影の様子を撮影する映画、という入れ子構造になっています。

こういった創作の裏側をテーマにした作品は、過去にも多く存在します。近年でよく挙げられるのは、『SHIROBAKO』(2014-15)や『映像研には手を出すな!』(2020)でしょう。特に『映像研』は、女子高校生3人組という点でもこの映画と共通しています。

どちらもアニメを通して、アニメ作りの裏側が語られます。アニメを作ることがいかに大変なのか、言い換えれば、そのアニメ自体がいかに大変な工程を経て視聴者のもとに届いているのか、を明らかにしています。つまり物語にメタ的な視点が加わっているのです。

上述の作品と同様に、クリエイティブの喜び、そしてそれが周囲に与えるポジティブな影響が描かれた今作。中盤には「武士の青春」の撮影前から後までワンカットで映した場面があります。キャラクターたちが撮影に臨む緊張感と、ワンカット長回しゆえの制作側の緊迫感が同時に伝わってきました。

同じように撮影の工夫が見られる点として、同じ画角から映画部の部室の様子を映すことで、時間経過を表したシーンがあります。ここでハダシの仲間の一人である駒田が、映画部の女子を好きになって、告白して、最終的にフられるまでがサイドストーリー的に映し出されます。シーン自体の主題ではないですが、なんとも愛おしい場面でした。

だれの「好き」でも肯定する

この物語の最大の特徴は、登場人物全員の「好き」を肯定しているところ。ハダシや凛太郎が愛する時代劇だけでなく、その趣味と対照的な位置にあるジャンルを決して否定していません。

時代劇と対にあるもの、それはラブコメです。リーダーの花鈴をはじめとした映画部の面々は、ハダシたちと対立するライバル関係にあります。こういったライバルキャラは単純な悪役として描かれる傾向にあり、ラストで主人公チームに負けて悔しい思いをする結末は安易に予想できるでしょう。

しかし本作は、両者を対立構造に落とし込むことはしていません。それが明白になるのが、ハダシと花鈴が二人っきりで個々の映画を編集するシーン。ハダシは花鈴のおすすめの映画を観ることで、毛嫌いしていたラブコメも結局見始めたら面白いということを知ります。ラブコメも時代劇も、百聞は一見にしかず。二人の邂逅は心があたたかくなりました。

またブルーハワイも、花鈴のように恋愛ものが好きであったことを打ち明けます。だからといって周囲の人は彼女を嫌いになることはなく、そっと受け入れてくれるのです。登場人物や観客の、好きであること、好きを伝えることをしっかり肯定してくれる映画です。

細かいところで言うと、小栗の自転車照明に関しても、登場人物たちは否定したりバカにしたりすることはしません。観客席からは彼が映るたびに笑いが漏れていましたが、面白い演出になっていると同時に周囲の彼の扱い方に感動しました。

未来人である凛太郎が生まれた遠い未来には、映画という文化は消えていました。忙しさゆえに時間を惜しむ人類にとって、2時間の映像は求められなくなりました。1分ですら長編と呼ばれているそう。今年のニュースで同じような話題を耳にした気がして、寒気がしました。

彼のもといた世界が、どれほど遠い未来なのかは具体的に明示されませんが、映画が消えた世界にいても、凛太郎はハダシが作った時代劇を愛して続けていました。これは劇中の台詞にもあった「好きはいつまでもどこまでも残り続ける」を体現しており、好きの肯定というメッセージがさらに強調されています。

主演・メイン監督が同じの連続ドラマ『お耳に合いましたら。』(2021)は、今作の公開と同時期に放送されていました。好きという感情の発露をテーマにしている点でも似ており、この作品が好きな方にはハマるドラマだと思います。

映画好きな高校生が主人公の映画としては、『桐島、部活やめるってよ』(2012)が挙げられます。その作中では校内のスクールカースト上位層と下位層が明確に分かれており、高校生活の息苦しさがリアルに描かれていました。その意味で本作は非常に対照的な位置にあり、誰も否定しない優しさは、目指すべき理想の世界であると言えます。

個人的に唯一賛否が分かれそうなのが、クライマックスの展開。文化祭当日、ついに完成した映画の上映中に、ハダシは映画を中断させてしまいます。彼女曰く、ラストに納得がいっていないからだそう。そしてその場で、即興で映画の続きを撮り始めます。

その場にいた一般客からすれば「急に何やってるんだ、この人たち」となる展開であり、頑張ってひねり出した脚本を自身で台無しにしているので、もやっとするラストではありました。とはいえ、そういった物語の飛躍を長引かせず、勢いを保ったままエンドロールが始まるあたり、バランスが良いともとれるように思いました。

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最後に

口コミの絶賛具合によって上がったハードルを余裕で飛び越えてきた、万人におススメできる作品です。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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