『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』感想:色褪せない魅力が溢れている

こんにちは。こひぱんです。

本嫌いな子どもだった私は、高校生のときまで漫画以外の本を読んだことがほとんどありませんでした。ひたすら字だけが書いてあるし、何百ページもあって長いし。そのため名作と呼ばれるような古典文学は恥ずかしながら知らないことが多いです…

気軽に見始めることができるという点では、映画は本よりも間口が広いです。古典などの物語を伝え続けるという面でも、リメイクって意外と大事なのかな、と感じました。

今回は映画館で観た久々の新作について書きます。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

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作品情報

1868年に発表されたルイーザ・メイ・オルコットによる自伝小説『若草物語』の映画化。監督・脚本は『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ。同作でも主演を務めたシアーシャ・ローナンが、主人公ジョーを演じる。第92回アカデミー賞衣装デザインを受賞した。

原題: Little Women
原作: ルイーザ・メイ・オルコット
出演: シアーシャ・ローナン / エマ・ワトソン / エリザ・スカンレン / フローレンス・ピュー ほか
監督: グレタ・ガーウィグ
脚本: グレタ・ガーウィグ
日本公開: 2020/06/12
上映時間: 135分

あらすじ

1860年代のアメリカ、マサチューセッツ州。マーチ家の四姉妹の次女ジョーの夢は小説家になること。そのためなら結婚できなくても構わないと思っていた。そんな強い信念ゆえに、周囲と衝突することもしばしば。一方、長女のメグは結婚こそが女の幸せと信じるおしとやかでしっかり者の女性、対照的に末娘エイミーは生意気盛りで元気溌剌な女の子。そして家族の誰からも愛されている心優しい三女のベスは、病気という試練と闘っていた。ある日、メグと一緒に参加したパーティの会場で、近所の裕福な家庭の若者ローリーと出会い、意気投合するジョーだったが…。

映画 ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語 (2019)について 映画データベース – allcinemaより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

二つの時代を行ったり来たり

作品のリメイクやリブートにとって重要なのは、なぜ再び映像化する必要があるのか、という問いに明確な答えがあることです。これが明白でないと「なんか前に一回見たよね」と冷めた気持ちになります。近年の代表例が『アベンジャーズ』(2012)などのMCU作品です。多くの人を魅了するヒーローたちのカッコよさは、最新の映像技術が無ければ表現出来なかったと思います。

古典文学ゆえにこれまで何度も映画化されている『若草物語』。主人公たち姉妹の生き方を描くうえで、製作当時における、それぞれの「現代的」視点を反映していることは間違いありません。2010年代は女性の社会的位置づけに対するメッセージを打ち出す作品が明らかに増えました。映画における女性の描き方の変化が、今回の『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』にも表れています。

小説家を目指すジョーが自分の作品を出版社に持っていき、編集者と話すシーンから物語始まります。彼のジョーに対する要求が、19世紀当時の女性の社会的な立場を端的に物語っています。彼の直球すぎる表現に私は軽くひいてしまいました…

話を終え出版社を飛び出し街中を走るジョー。カメラが彼女を追っていく中で、当時の服装とか建造物とか馬とか、さまざまな美術が矢継ぎ早に目に入ってきます。おそらく一度に全部を把握できませんが、このシーンはとにかくワクワクするので、一見の価値ありです!

さてここまで述べた話は、作品における「現在」の時制です。マーチ家四姉妹が大人になって社会の障壁とぶつかりながら過ごしています。同時並行して描かれるのが、彼女たちの青春時代に位置づけられる「過去」です。二つの時制を頻繁に切り替えて物語を進めているのが、今回の映画化の大きな特徴です。原作である『若草物語』とその続編『続 若草物語』で時系列に語られている点を大幅にアレンジしています。

現在と過去をただ単に混在させているわけではありません。異なる時制の似た場面を繋げています。同じ人物が会話している場面を連続に映していても、過去では楽しそうに話しているのに対して、その後映された現在では冷え切った雰囲気になっています。そういった僅かながらも重要な変化が、せつなさを感じさせます。この演出は原作や過去の映像作品を知っていても、新鮮に感じられるポイントなのではないでしょうか。

中でも観た人の多くが衝撃を受けるだろう演出が、三女ベスにまつわるシーンです。ジョーが家の階段を下りるという同じ動きが、過去と現在で繰り返されます。しかしその後ジョーが見た光景はあまりに違うものでした。似た場面を呼応させているからこそ、悲壮感が増幅しています。このシーンの後も、異なる時制にて結婚式と葬式という正反対の行事が映し出されます。このように場面同士が呼応するように周到に計算されて作られているので、登場人物に対して深く感情移入してしまいます。

ただ同時に、この演出はマイナスな効果も含んでいます。時制が激しく移り変わるため、「今観ているのは過去と現在のどっちの話なのか」と、こんがらがることが何回かありました。確かに時制によって映像の色調が変えられています。過去のシーンは暖色を基調としているのに対し、現在を映す映像は寒色によって冷たい印象を与えています。それでも、髪型ががらりと変わるジョー以外は見分けがつきにくく、鑑賞中のノイズになる人もいるのかなと思いました。

原作者へのリスペクト

原作小説が著者オルコットの半生を描いた自伝であることは有名です。言うまでもなくジョーには原作者自身が投影されているのです。今回の映画化は、この物語がジョーの話だけではなくオルコットの話でもある、というニュアンスを含んでいるように感じました。

というのも、ジョーが実際に『若草物語』を執筆して本にするというメタ的エピソードが終盤に加えられているからです。彼女が原稿を書き始めて以降、映画内で描かれているのがジョーの書いている小説の話なのか、それとも映画内で現実に起きていることなのか、その境目が曖昧になっていきます。

同時に描かれる過去の物語は、青春時代の終わりに向かって進んでいきます。二人が疎遠になるきっかけとなった、ジョーがローリーの告白を断るという展開です。冒頭から現在の物語を観ている観客は、その展開は既に知っています。ただ二人が見る光景や時制を混交させる演出も相まって「もうこの頃には戻れないんだ…」と、はかなく映りました。

その後現在に移ると、当時と似た状況に置かれた彼女が再び決断を強いられます。ニューヨークで出会ったフリードリヒと結婚するのかどうか。先ほど書いたように、現実とフィクションの境目が曖昧になっていることで、観る人によって解釈が異なるラストになっています。二人が結婚したかは曖昧だが関係は以前同様続いている、というふうに私はとらえました。

ジョーは続編小説で結婚しているのに対して、オルコットは生涯独身を貫いています。この映画をオルコットの人生として描くなら、ジョーがフリードリヒと決別するという結末にもアレンジできたでしょう。しかし実際は「結婚だけが女性の幸せではないし、夢を追いかけるのも素晴らしい、だけど愛がない生き方は寂しいよね」というバランスになっています。

商業的な視点や読者からの意見が反映された、原作のジョーの結婚はオルコットが本当に描きたいものではないと言われています。今回の「あやふや」なラストは、原作を大幅に改変するわけでもなく、同時にオルコットの意思を尊重していて、とてもスマートなバランスのとり方だと思いました。

一人一人の人生を肯定してくれる

主演がシアーシャ・ローナンさんということもあって、監督の前作『レディ・バード』(2017)の主人公と重なるところが多いです。レディ・バードは親や周りの反対に臆することなく、自分の決めた道を突き進みます。周囲との人間関係を大切にしながら、夢の実現に向かって進む姿もジョーと似ています。

女性の社会的役割や生き方について言及している『若草物語』は、19世紀に書かれたとは思えないほど先進的な内容です。それゆえにフェミニズムと結びつけられて論じられることもあります。今作は「これが女性にとって幸せなんだ」と決めつけておらず、登場人物一人一人が違った人生を歩んでいて、幸せのかたちもそれぞれあることを観客にに伝えています。そういった意味で、全面的に「フェミニズム」を肯定しているとは思いませんでした。

夢をあきらめて愛する人と結ばれるのも幸せ。夢を追いかけ続けるのも幸せ。生涯独身を貫くのも幸せ。生きていれば辛いときもたくさんあるし、楽しかったあの頃に戻ったりやり直したりすることはできない。だから今を自分らしく生きるんだ。

こういった普遍的ながらも大切なメッセージが、登場人物が集合するラストにおけるマーチ家姉妹の表情に集約されています。

この映画には長い邦題がつけられていますが、私はこの邦題好きです。キャラクターそれぞれの物語であると同時に、観ている私たちの人生の物語でもあるというメッセージが含まれていると思いました。観客それぞれの人生をそっと肯定してくれて、穏やかな気持ちにさせてくれる素晴らしい映画です。

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最後に

個人的に好きな場面は、終盤の製本シーンです。一枚一枚刷ってそれを束ねて本にする。その製本プロセスが美しく丁寧に描かれていて、うっとりしてしまいました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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