映画『AKIRA』感想:アキラはバイクに乗らない

(C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

こんにちは。こひぱんです。

先日数ヶ月ぶりに映画館に行ってきました。ただ平日の夜だったこともあってか、中はガラガラ。ゆったり鑑賞できて良かった反面、「この状況が続くと閉まってしまうのでは」と不安にもなりました。

6月に休業要請が緩和され、映画館は営業を再開しました。再開に当たって検温を実施したり、座席の間隔を空けたりするなど感染対策が十分にされています。混雑状況を見計らって映画を観に行くのもアリだと思いました。

新作映画が軒並み公開延期になった影響で、『ローマの休日』や『アベンジャーズ』など過去の名作が上映されていました。その中でも旧作の皮を被った新作が一本公開されていました。今回はその作品について書いていこうと思います。

『AKIRA』

4Kリマスター版が新たに公開されているということで、観賞してまいりました。

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作品情報

1982~90年にかけて週刊連載された同名漫画原作のSFアニメ。1980年代日本のポップカルチャーの代名詞として、海外で高い評価を受けている。スティーブン・スピルバーグをはじめとした、世界中のクリエイターたちが作品に影響を受けたことを公言している。2020年4Kリマスター版が製作され、Blu-rayの発売そしてIMAX上映がされた。

原作: 大友克洋
出演: 岩田光央 / 佐々木望 / 小山茉美 ほか
監督: 大友克洋
脚本: 大友克洋 / 橋本以蔵
公開: 1988/07/16 (PG12)
上映時間: 124分

あらすじ

1988年、関東地区に新型爆弾が使用され、第3次世界大戦が勃発した――。2019年、ネオ東京。金田をリーダーとするバイクの一団は進入禁止の高速道を疾走していた。しかし、先頭にいた島鉄雄は突然視界に入った奇妙な小男をよけきれずに転倒、負傷する。小男と鉄雄は直ちに現れたアーミーのヘリに収容され飛び去ってしまった。翌日、鉄雄を捜す金田は、少女ケイと出会う。彼女は反政府ゲリラの一員で“アキラ”という存在を追っていた。その頃、鉄雄はアーミーのラボで強力なクスリを連続投与され、不思議な力を覚醒し始めていた…。

映画アニメ AKIRA (1988)について 映画データベース – allcinemaより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

時代が生み出した芸術

作品を見始めて、「なんとなく今のアニメと少し違うな」という違和感を抱きました。その理由の一つとして、本作の特徴としてコマ打ちが挙げられます。コマ打ちとは、1秒間の中で同じフレームを何コマ表示するかということ。現在日本のアニメの主流となっている「3コマ打ち」に対して、『AKIRA』は「2コマ打ち」で描かれています。すなわち1秒あたりに使う絵の枚数が1.5倍になっているため、滑らかに動いているように見えるのです。

ただその違和感と同時に襲ってくる「なにかすごいものを観ている」といった感覚。それこそ映画の最大の魅力である、全編にわたって細部まで描き込まれた絵と、それがぬるぬると動いているアニメーションでしょう。たくさんのアニメーターによる膨大な作画、さらには年月とお金が費やされたことで実現しています。作画15万枚、製作期間3年、製作費10億円… 今では考えられない規模で作られたことが分かります。1980年代というバブル全盛期だから実現した映画といっても過言ではありません。

そのバブリーな感じが如実に表れているのが序盤です。1988年の東京を空撮したような絵から始まり、それから31年後のネオ東京のビル群が映し出されます。そこから流れるようにバイクチェイスに突入して、ネオ東京の様相が説明台詞なしに描写されていきます。ここまででも只者ではない映画であることがびしびしと伝わってきます。バイクチェイスシーンは割と長めに見せてくれますが、その中でとても映えているのが金田の服やバイクに使われている「赤」です。全体を通して赤色がキーカラーとして使われているのが印象的です。

映像とともに印象的なのは音づかい。「ドン!」という太鼓の音や、「ラッセーラ」が印象的な音楽。これこそIMAXの映画館でより鮮明に体感することができると思います。映画館で観たとき、これらがお腹の中にまで響いてくる感覚を味わいました。映像のきれいさもさることながら、この「音」体験こそ、IMAXで観て良かった一番のポイントだと思いました。

未来の予言ではなく、過去の郷愁

『AKIRA』って観たことない人も名前だけは聞いたことがあるみたいな人は一定数いると思います。現実の2019年を予言したかのような要素によって、近年たびたび話題になっているからです。はじまりは2020年の東京オリンピック開催が決定した2013年。ネオ東京のオリンピック開催と完全に一致しています。五輪会場の工事現場に「開催迄あと147日」「中止だ中止」という落書きが書かれています。結果としてオリンピックは延期になりました。ただ実際の2020年2月28日(※1)は、新型コロナウイルスの影響で、この文言通り中止になるのではないかと注目を集めました。当日はTwitterのトレンド入りもしました。

※1:当初の開催予定である2020年7月24日の147日前。

しかし当然ながら1980年代にこれらのことを予測して書いているわけではありません。もちろん現実の2020年とは異なる点も多々あります。例えば、インターネット周りの描写。ナンバーズの研究室のコンピュータの出力結果を記した紙がペラペラと出てきて、そのシーンは今見るとかわいいです。

対照的に、レトロな描写を意図的に残して架空の未来を描いているところもあります。戦時中のような漢字とカタカナが主体の看板。1980年代当時における「一昔前」感があったと思います。

1945年から数十年経った1982年に原作の連載が始まります。1988年から31年後を描いている。すなわち未来という空想を描いているようであり、1980年代という現実の写し鏡の存在だったのです。劇中の台詞でもあった、ネオ東京は復興が終わり成熟しきった世界、という表現にも表れています。

ネオ東京が実際に訪れた未来とリンクしているように見える。ということは現実が当時からそれほど進化していないことが分かります。「歴史は繰り返す」という言葉がよく使われますが、この映画もその要素を含んでいるのではないでしょうか。

いかに人類は超能力と向き合うか

では物語としては、どういう話なのか。金田に対して鉄雄が常に抱いていた劣等感を克服していく話です。その過程で鉄雄の過去のさまざまなトラウマが容赦なく描かれます。

本作のアニメーションの特徴の一つと言えるのが、グロテスク描写。個人的に一番怖かったのが、クマやウサギ、クルマのぬいぐるみが迫ってくるシーン。鉄雄が見る幻覚の一種なのですが、この描写がぬるぬるした動きと相まって気持ち悪い。もちろん「良い意味で」気持ち悪いです!

最初に『AKIRA』を観たとき、似ているなと思った映画があります。それは『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』(1997)です。特に類似性を感じたのが、物語終盤の鉄雄が一線を越えるシークエンス。本来であれば絶対に外に現れることのない、人間の生き物としての生々しさ、まがまがしさが存分に表現されています。エヴァ量産機のトラウマ描写に似た絶望感を味わいました。

同時並行して語られるのが、超能力に人類がどのように向き合っていくのかという話です。『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978)に出てくるマモーに似た、顔だけ老けている子供たち。ナンバーズと呼ばれる彼らの顔と声のアンバランスさが絶妙です。鉄雄は、彼らと同様に超能力に覚醒し蝕まれていきます。

終盤からラストにかけて、これら二つの物語が合わさっていきます。ただ最初に映画を観終わったときは正直訳が分かりませんでした。「でもいつかは私たちにも」?「もう始まっているからね」??? クエスチョンマークがいくつも浮かんでエンドロールに入ってしまいました。

しかしよく考えると、人類の進化のこと示しているのかなと分かりました… 人間が進化にどのように向かい合うかという苦悩を描く点は、『仮面ライダーアギト』(2001-02)に似ていると思いました。

災難が去ってからのネオ東京は、この映画でははっきり描かれていません。あのナレーションで終わらせることで観客に考える余地を与えています。余白の部分について考えさせることこそ、製作者の意図ではないでしょうか。観た人と語り合いたくなる最高の映画です。

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最後に

ソフトに収録されているのは国際映画祭参加版と呼ばれるバージョン。全編英語字幕に変更されていたり、修正カットが加えられたりしました。今回の4Kリマスター版もこのバージョンがもとになっています。つまり当時映画館で上映されていたものと、今公開しているものは異なります。観たことがある人も、まだ観ていない人も、その映像体験をするためにも、4Kリマスター版でぜひ見ていただきたい作品です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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