ガッチャ!
作品情報
錬金術をテーマにした令和仮面ライダーシリーズ第5作。仮面ライダーの力を託された高校生・一ノ瀬宝太郎が、仲間や人工生命体「ケミー」とともに錬金術師を目指していく。長谷川圭一と内田裕基がメインライターを務め、湊陽祐がチーフプロデューサーを担当する。
原作: 石ノ森章太郎
出演: 本島純政 / 松本麗世 / 藤林泰也 / 安倍乙 / 富園力也 / 石丸幹二 ほか
演出: 田﨑竜太 ほか
脚本: 長谷川圭一 / 内田裕基 / 井上亜樹子
放送期間: 2023/09/03 – 2024/08/25
話数: 50話
あらすじ
錬金術…。
仮面ライダーガッチャード | 仮面ライダーWEB【公式】|東映より引用
卑金属から貴金属を錬成する、その秘術によって、この世の万物を模した人工生命体<ケミー>を生み出していた。
その数、101体。
ケミーは<ライドケミーカード>に封印、慎重に保管されていたのだが、何者かによって一斉に開放されてしまった!
善なる心と響き合えば人間の仲間となるケミー、しかし、人間の悪意と結合すれば怪人マルガムへと変貌してしまう…。
現代の世に放たれたケミーを回収せよ!
悪意と結合したマルガムを倒し、ライドケミーカードに封印せよ!
レビュー
このレビューは『仮面ライダーガッチャード』および関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
マスコットキャラの錬成
指輪やミニカーなど、仮面ライダーは毎年様々な変身アイテムを採用してきました。令和仮面ライダーシリーズ第5作となる今回のアイテムは、カード。おもちゃ売り場には、劇中同様のカードがランダムに封入されたパックが並びました。ポケモンカードゲームなどのトレーディングカードゲームの流行に影響された手法でしょう。
カードで変身する仮面ライダーとしては、『仮面ライダー龍騎』(2002-03)や『仮面ライダー剣』(2004-05)、『仮面ライダーディケイド』(2009)が挙げられます。それらと今作が異なるのが、100枚以上の大量のカードを使うコンセプトと、2枚の要素をミックスして能力にするシステムです。
変身ベルトに2枚のカードを入れて「ガッチャンコ」する仕組みや、「捕まえた」という意味の「ガッチャ」から決まった「ガッチャード」。後に登場するマジェードは「まぜまぜ」、ヴァルバラドは「バラバラ」、と結合・分離系の擬音が各ライダーの由来になっています(※1)。
※1:キミと僕のCHEMY×STORY | 仮面ライダーWEB【公式】|東映参照
バッタと蒸気機関車の要素が混在する基本フォームのスチームホッパーをはじめ、メタリックな見た目がカッコいい。各フォームには人型形態に加え、主にCGによって表現されるワイルド態が存在するため、ガッチャードのサイズは変幻自在。多彩なバトルは観ていて飽きません。
作品のテーマである錬金術は、本作において「命なきものに、かりそめの命を与える」こと。劇中では、錬金術によって人工生命体「ケミー」が100体生み出され、それぞれカードに封印された。ケミーにも様々なモチーフやサイズのものが存在しており、その自由な設定に惹かれました。
主人公の相棒となるケミー・ホッパー1役の福圓美里さんとスチームライナー役の檜山修之さんを筆頭に、個々にケミー役のキャストを起用。それにより一体一体が個性的になっており、印象に残るケミーが多いです。そのマスコット的な存在感が、作品の雰囲気を明るくしていました。
劇中で印象的な錬金術の呪文をはじめ、幅広くデザインを担当しているのが、石森プロのデザイナー・田嶋秀樹さん。特に秀逸なのが、メインセットである錬金アカデミーのデザインです。現代まで生き残り、テクノロジーと共存している近代的な錬金術のイメージが新鮮でした。
主人公は元々通っていた富良洲高校と錬金アカデミーという2つの学校に通うことになる。つまり『仮面ライダーフォーゼ』(2011-12)以来となる学園ものでもあります。修学旅行や新勧行事といった高校ならではのイベントが描かれるのも、特徴の一つに挙げられます。
錬金アカデミーの生徒が着ている制服「錬金服」も魅力的です。スチームパンクとSF要素が合わさった、今までにないバランスのスタイリッシュな衣装だと思いました。
そうして生まれたのが、『仮面ライダーガッチャード』。高校という日常と錬金術という非日常を行き来しながら、主人公が成長していくストーリーが展開されます。
未知との出会いへのワクワク
主人公は、母親が営む「キッチンいちのせ」を手伝う高校生・一ノ瀬宝太郎。ある日、謎の錬金術師からドライバーを託されたことをきっかけに、ケミーや錬金術に触れた。ケミーの心を理解したい彼は、錬金術師の修行を始める。
世の中に解放されてしまったケミーをカードに封印するのが、宝太郎たちのミッション。『カードキャプターさくら』を連想させます。序盤は一話完結のエピソードを積み重ねながら、バラエティ豊かなケミーとの出会いや、錬金アカデミーの面々との交流、ケミーを悪用する「冥黒の三姉妹」との対立がテンポよく語られます。
なんといっても『ガッチャード』は、前作までの令和仮面ライダーとは異なる、突き抜けて明るい作風が最大の特徴。ズキュンパイア回など弾けまくるエピソードが時々あったり、雰囲気が重くなる物語終盤にもドタバタした日常パートが挟み込まれたりするので、終始楽しく観られます。
また全編を通して一貫しているのが、様々な出会いを描いている点です。ケミーたちや錬金術との出会い、同級生・九堂りんねや先輩錬金術師・黒鋼スパナら錬金アカデミーの面々や、敵との出会い。そういった出会いを通した宝太郎の成長が、作品の軸になっています。
今作のキャッチコピーは、「掴め!最高のガッチャ!」。テーマの一つにも「不思議な世界へ飛び込むワクワク」を掲げており、未知の世界に飛び込んでいく宝太郎を観ていると、自分も一緒に体験しているかのように身近さに感じられます(※2)。
※2:追跡、錬金、スケボーズ! | 仮面ライダーWEB【公式】|東映より引用
前作『仮面ライダーギーツ』(2022-23)の主人公・浮世英寿は、全知全能の最強キャラでした。対照的に宝太郎は、どこにでもいる普通の高校生。とてもピュアな明るい青年です。バイタリティに溢れており、そのチャレンジ精神は彼が作る創作料理の数々にも表れているように思います。
演じる本島純政さんから「思春期の高校生」感や一生懸命さが伝わってきます。なので視聴者として成長を見守りたくなる、素晴らしい主人公に仕上がってました。
同時期に放送していたファンタジー大作『王様戦隊キングオージャー』(2023-24)とは対照的に、現実に根差している本作。現実社会に近い世界だからこそ、登場人物のドラマにより共感しやすく、彼らの成長と勝利に涙腺を刺激されてしまいます。
若手×ベテラン
チーフプロデューサーは、この作品で初プロデューサーを務める湊陽祐さん。マッドハウスでアニメの制作担当をしていましたが、東映では『仮面ライダーゼロワン』(2019-20)や『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022-23)にプロデューサー補として関わっており、今回の抜擢にいたります。
湊さんがメインライターを依頼した「相棒」が、脚本家・内田裕基さん。『ゲーマーズ!』(2017)などアニメのシリーズ構成や、仮面ライダーシリーズのスピンオフの脚本を経て、初めて仮面ライダーシリーズのメインライターを務めます。
話が複雑だった『仮面ライダーリバイス』(2021-22)の総集編からも明らかでしたが、各話エピソードを成立させながらメインキャラクターの関係を深める丁寧さや、作品全体の流れを踏まえて情報整理を自然に混ぜ込む「シリーズ構成」の巧みさが改めて伺えました。
ただ今作は、メインライター2人の共作とされています。内田さんとともにメインを担当したのが、『仮面ライダーW』(2009-10)や『仮面ライダーセイバー』(2020-21)のサブライターでも知られる長谷川圭一さん。また途中からサブライターとして、井上亜樹子さんが加わりました。
物語の縦軸に関わる回を内田さん、エモーショナルな回を長谷川さん、変化球の回を井上さん、といった三者三様のカラーに分かれていると感じました。総じて横軸となる各話のエピソードがバラエティに富んでおり、放送終了後も折に触れて思い出す印象深い回が多かったです。
メインライターやプロデューサー陣によって見事に作り上げられた、現代に錬金術が存在する世界観は、描いていない部分を含めてかなり作り込まれていると思われます。しかし本編を観ていれば十分に話が理解できるつくりになっており、本編中で扱う描写の取捨選択が上手いと言えます。
メイン監督を担当するのは、平成仮面ライダーシリーズでお馴染み田﨑竜太さん。またアクション監督として、スーパー戦隊シリーズでお馴染み福沢博文さんが、仮面ライダーシリーズに初参加しています。
そしてガッチャードのスーツアクターは、永徳さんが務めています。2番手以降や劇場版限定のライダー役が多かったですが、『リバイス』のバイス役を経て初めて単独主役ライダーを演じます。長年のキャリアでの抜擢は、シリーズのファンとして嬉しい。
湊プロデューサーや内田さんをはじめ、企画チームは比較的若く、脚本打合せでは20~30代の比率が高いのだそう(※3)。一方ではキャリアを積んだベテランが、その脇を固めています。若手とベテランが「ガッチャンコ」したバランスのとれたチームと言わざるを得ません。
※3:さよならサボニードル | 仮面ライダーWEB【公式】|東映参照
物語序盤から特徴的だったのが、戦闘中に挿入歌を流す演出。『仮面ライダーアギト』(2001-02)に代表され、平成仮面ライダー初期では毎回のように流していたものの、近年この演出は減り、あったとしても音量が絞られていました。ですが本作のバトルシーンを観ると、ベタながらもテンションが上がる演出だと再確認させられました。
サプライズと裏切り
2023年末に公開された冬映画こと『仮面ライダー THE WINTER MOVIE ガッチャード&ギーツ 最強ケミー★ガッチャ大作戦』(2023)では、テレビシリーズとの完全連動という珍しい試みが行われました。公式では第10話までを第1章「ガッチャ!ケミー!」篇、第11~15話と同作を第2章「襲来! レベルナンバー10!」篇に分けています。
前述した挿入歌の復活や、テレビシリーズと映画の連動から分かるように、近年シリーズで恒例化していたことを繰り返すだけのルーティン的な姿勢が見られない『ガッチャード』の製作陣。若いチームゆえの情熱とアイデアの賜物かもしれません。
その特徴が顕著だったのが、クリスマスから年末年始にかけてです。りんねが変身する仮面ライダーマジェードの冬映画での先行登場。闇の錬金術師・グリオンの出現。そして仮面ライダーガッチャードデイブレイクのサプライズ登場。新要素が次々と投下されました。
加えて今作にピッタリな最高の主題歌『CHEMY×STORY』もBACK-ON単体から、BACK-ONとFLOWのコラボにバージョンアップ。『初恋の悪魔』(2022)に似た盛り上げ方をしています。令和仮面ライダーの主題歌の傾向を踏まえれば予想できたかもしれませんが、驚かされました。
さらに新しくキービジュアルを発表し、「新章開幕」感を例年より強調しています。宝太郎たちを導いてきた、熊木陸斗さん演じるミナトがグリオンの味方として姿を現した。ミナトを救い出そうと生徒たちが戦う第3章「解体!錬金アカデミー!」篇が始まります。
新章が幕を開けた第16話から、文字通り物語は加速していき、グリオンを倒す第27話まで毎回がクライマックスのような疾走感と高揚感に溢れていました。いわゆる闇堕ち展開ながら、最終的にミナトが味方側に戻ってくる着地も良かったです。
第3章以降もストーリーは鰻上りに面白くなっていき、そのまま終盤まで駆け抜けたように感じました。個人的にはシリアス要素が顔を出した第2章から一気に心を掴まれ、年末年始にかけての内容で完全な虜になりました。
仮面ライダーシリーズにおいてクリスマスから年末年始にかけての時期は、新商品や映画などが立て続けにある、忙しない期間です。そんな中で物語面では、半ば恒例化した展開が近年いくつもありました。
『仮面ライダーエグゼイド』(2016-17)と『仮面ライダービルド』(2017-18)が流れを作ったクリスマスの悲劇や、『仮面ライダー鎧武』(2013-14)以降に顕著になった年始以降の急展開、『ゼロワン』以降に高頻度で登場する主人公の暴走フォームなどが代表的です。
本作に関しては、こうした潮流を俯瞰しているような製作陣の視点を感じられます。おもちゃ関連では、例年通り新ライダーや新フォームは登場する。とはいえ誰も退場することなく、闇堕ちしたキャラは元に戻る、という新鮮さが物語にありました。お約束を取り入れる部分と裏切る部分があり、その采配が素晴らしかったです。
もう一人の主人公・りんね
実家の手伝いがあって帰宅部だったため、周囲と仲良くなりにくい環境にいた宝太郎。錬金術師であることを隠すため、クラスメイトと距離をとっていたりんね。クラスの中で少し浮いていた2人は、同じクラスにいたものの2学期になって初めて会話をした。
今作は宝太郎の物語であるとともに、りんねの物語でもあります。「少年と少女のW主人公感」を軸にしており、そのためヒロインではなく、もう一人の主人公と呼ぶのが正しいかもしれません(※2)。なんなら彼女の方が、主人公的なバックストーリーを与えられているのです。
序盤こそクールに振る舞っていたりんねでしたが、演じる松本麗世さんの明るさに徐々に引っ張られていきます。やがて可愛らしさとカッコよさを兼ね備えた、魅力的なキャラに成長しました。終盤でコメディ的な役回りも担っていたのは、松本さん自身がりんねに与えた影響でしょう。
そんな彼女ですが冬映画では、宝太郎たちに守られるだけの自分自身への忸怩たる想いが描かれただけでなく、仮面ライダーの力を手にして華麗に敵を圧倒しました。マジェードへと変身する流れには非常にカタルシスがあり、映画の実質的な主役でした。
テレビ本編でのお披露目となる第19話は、彼女が錬金術師としての覚悟を決める様子を描いており、映画とテレビシリーズの棲み分けがされていました。そこから最終話にいたるまで、宝太郎とりんねは仲間割れしません。なので1号2号ライダーの同時変身が頻繁に行われ、それがとても嬉しかった。
2人を含めた錬金アカデミー全体が、『仮面ライダー響鬼』(2005-06)の猛士のように結束力が高いので、心穏やかに観られる点が良い。同作以降に恒例化していた味方同士の仲間割れがほとんどないので、同作の空気感が好きな人には刺さるかもしれません。
「女性ライダー」の歴史は、『龍騎』の仮面ライダーファムに始まります。そもそもこの括りに囚われている限り、これに関する論争が無くならないのも事実。なので、その時代の価値観に寄り添うことが重要なのではないかと思います。
そんな中「シリーズ史上初の女性2号ライダー」と謳われるマジェードの存在は大きいです。変身者がもう一人の主人公ポジションなのもさることながら、特筆すべきは2号ライダーの名に恥じぬ劇中での活躍ぶり。『ゼロワン』の仮面ライダーバルキリーの扱いに失望した私にとっての希望でした。
戦闘シーンに関しても、主にスーパー戦隊で活躍する下園愛弓さんが自身初のライダーのスーツアクターを務めており、華麗なアクションを魅せていました。後述する宝太郎との関係性を含め、りんね及びマジェードは素晴らしい2号ライダーです。
過去作へのリスペクトと挑戦
放送開始から2ヶ月後、東映特撮YouTube Official等で配信された『仮面ライダーガッチャード VS 仮面ライダーレジェンド』(2023)で、謎の仮面ライダー・レジェンドがお披露目された。並行世界を自在に移動する彼は、歴代ライダーの力を使って悪の組織「ハンドレッド」と戦っている。
変身者は、永田聖一朗さん演じる鳳桜・カグヤ・クォーツ。煌びやかな衣装を身に纏い、上から目線で周囲に接する。幼い頃に仮面ライダーディケイドに命を救われた彼は、外見や能力がディケイドに似たレジェンドに変身する。それだけでなくカグヤの言動は、ディケイドこと門矢士を彷彿とさせます。
ただし配信後もレジェンドは本編に一切登場せず、前述した年始のキービジュアルに登場していたにもかかわらず、しばらく音沙汰なしでした。しかし2024年4月に新ビジュアルが公開されたのち、第32~35話で「レジェンド編」が満を持して展開されます。
とにかくバトルシーンが多く、平成1期ライダー変身ラッシュや、ダークキバの最強必殺技「キングスワールドエンド」、グランドジオウのジオウ召喚などオタク心溢れた、まさにゴージャスな絵面のつるべ打ち。『仮面ライダーアウトサイダーズ』(2022-)も絡んでくるカオスぶりでした。
また湊プロデューサーが携わった『ゼロワン』で、コロナ禍のために断念した「仮面ライダーゼロツーvs仮面ライダーアークワン」も再現(※4)。ダークライダーの変身所作も、意図的にオリジナルと変えることで原典へのリスペクトを示しており、極めて誠実な姿勢が見受けられます。
※4:ゴージャスタイム!レジェンダリーは終わらない | 仮面ライダーWEB【公式】|東映参照
『ディケイド』で色々な並行世界を旅していた門矢士。『仮面ライダージオウ』(2018-19)は、並行世界に住む人々の視点で士の来訪を描きました。それと同様に本作でも、「ガッチャードの世界」に住む人々の視点から、カグヤやハンドレッドの襲来が描かれました。
歴代ライダーを繋ぐディケイドの役割を継承し、今後シリーズを股にかける存在になると考えられるレジェンド。このエピソードは、シリーズへのメタ的な視点を知っていればより楽しめるつくりではあります。
とはいえレジェンド編には、そういった視点を抜きにしても、祭りのような高揚感と異常なほどに濃密なバトルに圧倒されます。なので他の仮面ライダーを知らなくても楽しめますし、そうでなくとも過去作はいまや配信サービスで容易に視聴できるのです。
湊プロデューサーは「もはや視聴環境としても、配信などで過去作にも同等に触れられる世の中」では「初めて触れたその時が全て最新作」なので、「今できる最大のエンタメとして、最大限のリスペクトを捧げ、きちんと歴代仮面ライダーが好きだった気持ちを番組作りにぶつける!」と覚悟を語っており、その想いに感動いたしました(※5)。
※5:オンリーワン!すべての道はゴージャスに通ず | 仮面ライダーWEB【公式】|東映より引用
応援し、応援されるヒーロー
明るい雰囲気に包まれ、平成仮面ライダー初期のような暴力性とは程遠く見える『ガッチャード』。しかし宝太郎の放つ光が眩いほど、物語の闇の部分も濃くなる。つまり明るいところは明るくし、曇らせるところは徹底的に曇らせており、容赦なくシリアスな回もありました。
例えば、宝太郎の先輩・鶴原錆丸が仮面ライダードレッドとして冥黒の三姉妹に操られてしまう第12話。彼がドレッドに一方的に殴られ続ける場面は衝撃的でした。宝太郎が初めて敗北をしたことで、戦う責任と重みを彼が考えるきっかけを作りました。
続いて第20話では、自身の過去に苛まれたスパナがマルガムになってしまう。いわばこれは、仮面ライダーヴァルバラドに変身する前の試練。スパナの慟哭には迫力と悲壮感があり、演じる藤林泰也さんの熱演に引き込まれました。
レジェンドが去った第36話からの最終章では、今作が持つ唯一にして最大の仮面ライダーらしさである「善悪同源」の怪人が、最後の試練として宝太郎の前に立ちはだかります。
その怪人とは、マルガム化したホッパー1。第37話の幕引きは、かなり絶望感に満ちていました。ただし次回予告には、最終ビジュアルにも載っているレインボーガッチャードの姿がありました。次のエピソードで宝太郎が立ち直るのをバラすあたりは、あくまで明るさを前面に出す『ガッチャード』らしい構成です。
この作品の最大の醍醐味と言えるのが、「応援」です。第15話では仲間たちの想いを自分の力に変える宝太郎、第33話では声援を受けて立ち上がる彼の姿が描かれました。市井の人々が仮面ライダーにエールを送るだけでなく、宝太郎がケミーや周囲の人々を応援する展開もあります。
劇場版作品『仮面ライダーガッチャード ザ・フューチャー・デイブレイク』(2024)もまた、応援を主題にしていると思われます。というのも同作には、宝太郎がデイブレイクを奮起させる台詞や、観客に応援を呼びかけ、その声がガッチャードに力を与える演出が盛り込まれていました。
錬金アカデミーはケミーの目撃者の記憶を消してきたが、物語終盤で封印されていた記憶が一気に甦る。ケミー排斥運動が起こる中、かつてケミーと触れ合った人々が声を上げ、錬金術師を応援する。これまでのゲストが終盤に再登場する展開自体にテンションが上がります。
人とケミーが仲良く暮らせる世界の実現を目指す宝太郎と、ケミーを道具と割り切るスパナ。互いを認めつつあった2人でしたが、「人とケミーの共生」をテーマにした作品を締め括るに際し、直接対決が描かれました。
続く第48~50話では、マジェード、ヴァルバラド、ガッチャードにそれぞれ強化フォームが与えられます。商品化へのハードルを抱えながら、それでも3つの新フォームを用意した製作陣からは、熱意と執念を感じました。
全編を通してフォームチェンジの回数は多く、それ自体も本作の魅力の一つに挙げられます。新フォームが既存フォームの上位互換にならないよう差別化し、違和感なく多くのフォームを生み出していました。カードを単なる変身アイテムで終わらせず、ケミーカードとして一枚一枚に個性を持たせていたのも見事でした。
高校生バディものの完成形
メインライダー3人以外にも魅力的なキャラが多すぎる今作。安倍乙さん演じる銀杏蓮華と富園力也さん演じる錆丸の「先輩ズ」は、個々にケミーとの交流が描かれていただけでなく、ライダーと一緒にバトルに参加する場面が多かったです。最終話にいたるまで、彼らならではの見せ場が用意されていた点が最高でした。
加治木涼は、高頻度でケミーに遭遇するものの、その度に記憶を消される宝太郎の親友、という唯一無二のキャラでした。その危うい設定の落とし所や、木下彩音さん演じる姫野聖との関係が好きです。加部亜門さんの好演も相まって、『ガッチャード』を語るうえで欠かせない人物でしょう。
シリーズの傾向として、『エグゼイド』を境にメインキャストにおける仮面ライダー変身者の割合は増えました。ですが今回は、変身するヒーローと変身しないサポートキャラに最後までハッキリ分かれています。その構成が懐かしくも、新鮮でした。
また宝太郎の日常を支える母・珠美は、南野陽子さんが演じており、高い包容力が画面から伝わってきました。一方で彼を非日常へと導く九堂風雅役は、石丸幹二さん。黒ローブを着た姿は、舞台版『ハリー・ポッターと呪いの子』を連想させるほどカッコよく、うっとりしてしまいました。
さらに冥黒の三姉妹に関しても、坂巻有紗さん演じるラケシスや宮原華音さん演じるクロトーは、儚い散り際が忘れられません。アトロポス役の沖田絃乃さんからは、当時9歳とは思えぬ「長女」の落ち着きと敵幹部としての恐ろしさが感じられて、ただただ圧倒されました。
数ある登場人物の中でも特筆すべきは、W主人公の宝太郎とりんねです。2人の関係性は、かけがえのない仲間同士。一部ファンの間では、この関係を恋愛に発展させるのを望む声があるのだそう。しかしそのような願望は、あくまで同人誌までに留めてほしい。
宝太郎とりんねは、恋愛要素のないバディ的な関係性だからこそ魅力的だと考えています。互いに気を許した唯一無二の関係ならではの掛け合いが面白かったです。高校を舞台にしたバディものとして絶妙なバランスであり、最終話の着地も含めて素晴らしかった。
とにかく一人一人のキャラが立っており、最後まで誰も存在感が薄くなっていません。登場人物の掘り下げが丁寧に行われるので、色々なキャラを好きになってしまいます。彼らの心情の変化に終始感情移入しながら楽しんでいました。なので最終話まで観終わった後の喪失感も凄いです。
仮面ライダーシリーズに共通する見どころと言えるのが、一年間以上にわたる撮影を通して、俳優陣の顔つきや演技が変化する点。本作でも物語終盤、当初から見違えるように成長した姿を観ると、追い続けて良かった、という気持ちになりました。
変化を恐れぬ若さ
『ガッチャード』のストーリーは未来や並行世界が出てくるものの、大筋の話は単純明快。人物配置や対立構造、各キャラの行動目的が明確に描かれています。それもあって物語終盤は、冥黒王の身体を乗っ取って復活したラスボス・グリオンの悪役ぶりが際立っていました。
グリオンは3人の冥黒王から賢者の石を取り込んだだけでなく、最終的に完全体・仮面ライダーエルドとなり、黄金化計画で街を侵食していく。中ボスとラスボス、さらに劇場版の敵までもが同じキャラという新鮮さと、鎌苅健太さんの妖艶さが相まって非常に印象深い悪役でした。
人とケミーの未来をかけた対決にて、宝太郎は仲間たちから受け取った想いを力に変え、黄金化計画を阻止。彼の諦めない姿勢が勝利を導きました。その後、錬金術で作った別の地球にケミーを住まわせる、というケミーとの共存に向けて彼が歩き出すところで幕を閉じました。
多様なケミーたちとともに、様々な形へと姿を変えるガッチャード。そうした変化が許せないグリオンは、宝太郎のアンチテーゼだったのです。
内田さんは今作を通して「何があっても決して諦めず、前に進み続けること」を伝えたいと語っています(※6)。変わることや失うことを恐れずに、前に進む大切さ。それは一年間新しいチャレンジをし続けた製作陣の、作品への熱意にも通じるように思いました。
※6:最終話を終えて | 仮面ライダーWEB【公式】|東映より引用
ちなみに冬映画と『ザ・フューチャー・デイブレイク』は、どちらも日本映画制作適正化認定制度から認定を受けました。『映画 仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐』(2023)から続く試みで、稼働時間のルールやハラスメントに関する体制のもとで映画を完成させた証明です。
加えて『リバイス』で乱発していたスピンオフの数が減っていたり、次回作『仮面ライダーガヴ』の撮影が例年より早い時期から始まっていたり、あくまで視聴者から見える範囲では、労働環境の改善が見られます。シリーズを続けるためにも、この流れが続くのを願っています。
それと同時に、全体的に作品の量よりも品質を重視しているように思えて嬉しい。『鎧武』から恒例化しているVシネマについても、ここ数年は形骸化しているように感じていました。そのため労働環境の改善を優先させるのであれば、個人的には別の選択肢でも良いです。
これら様々な事柄も踏まえると、いかに湊プロデューサーのハンドリングが巧みだったかが分かりました。特に平成仮面ライダー初期の影響を受けながら、明るく楽しいヒーローに舵を切った判断が凄いです。
明るく楽しい雰囲気に加え、丁寧で分かりやすく話を展開する内田さんの構成力も随所で光っていました。最初から最後まで、一定の安定感を持って楽しませていただきました。おかげで本作は、子供でも大人でも楽しめる理想的な「子ども向け作品」になった、と言わざるを得ません。
最後に
シリーズの長い歴史において、後世に語り継がれるであろう名作。仮面ライダーが好きな方もそうでない方も、食わず嫌いせずに是非観ていただきたい一作です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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