『ミッチェル家とマシンの反乱』感想:笑いと皮肉に溢れた家族再生

(C)2021 Columbia Pictures Industries, Inc. and One Cool Animation Limited. All Rights Reserved.

名コンビの最新作にして傑作。

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作品情報

ソニー・ピクチャーズ・アニメーション制作のコメディ映画。バラバラになった家族が団結し、突如襲い掛かってきた世界の危機に立ち向かう。フィル・ロード、クリストファー・ミラーらがプロデューサーを務める。2021年4月からNetflixにて独占配信。

原題: The Mitchells vs the Machines
出演: アビ・ジェイコブソン / ダニー・マクブライド / マーヤ・ルドルフ / マイク・リアンダ ほか
監督: マイク・リアンダ
脚本: マイク・リアンダ / ジェフ・ロウ
配信: 2021/04/30
上映時間: 113分

あらすじ

ミッチェル一家は近所でも有名な変わり者のファミリー。
大自然と家族への愛に溢れるちょっぴり古風な父リック、家族の為ならばすべてを投げ出す母リンダ、映画オタクの娘ケイティと恐竜好きな弟のアーロン。
カリフォルニアの映画学校に合格が決まったケイティを大学まで車で送り届ける家族ドライブ旅行中に、ロボットの反乱に巻き込まれたミッチェル家。
変わり者ぞろいの一家は、力を合わせて人類の危機から世界を救うことができるか!?

ミッチェル家とマシンの反乱 | ソニー・ピクチャーズ公式より引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

コメディに長けた名コンビ

何の変哲もない、ごく普通の4人家族・ミッチェル家。彼らのもとに突如として訪れる世界の危機が描かれています。もともとは劇場公開用に製作されていましたが、最終的にはNetflixでの配信に切り替えられました。

監督と脚本を担当するのは、マイク・リアンダさん。過去に本国のテレビアニメ『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』(2012)の脚本を執筆しており、長編映画の脚本は今回が初です。

監督、脚本以外にも声優として、ミッチェル家の長男・アーロンの声をあてています。その理由としては、これは推測ですが、監督本人の実体験を元に作った話だからなのかなと思いました。エンドロールでスタッフたちの実際の家族写真が使われているのも、おそらくそれに関係しているのでしょう。

彼の他にも、多くのクリエイターが製作に名を連ねています。中でも目を引く人物は、フィル・ロードさんとクリストファー・ミラーさんの二人。これまでに傑作コメディアニメーションを多数手がけてきたコンビとして知られています。

『くもりときどきミートボール』(2009)は、この二人が監督・脚本を務めた初のアニメ映画です。食べ物というキャッチーなモチーフを用いて、一人の研究者の成長をコミカルに描きました。日本公開当時はそこまで話題になりませんでしたが、尻上がり的に評価を上げている印象があります。

その後、原案から監督、脚本まで両者が携わったのが『LEGO ムービー』(2014)。一見すると子供向けに見えますが、内容としては大人も子供も楽しめる感動的な物語になっています。モチーフであるレゴブロックを活かした、フレッシュな視点の転換には圧倒されました。

加えて近年の代表作といえば、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)が挙げられます。脚本にフィル・ロードさんが参加し、クリストファー・ミラーさんは製作に携わりました。アメコミ映画隆盛の時代ならではのメタ視点を取り入れ、新たなヒーローの誕生譚を作り上げました。

彼らの作品に共通しているのは、『ザ・シンプソンズ』のような毒や棘のあるブラックユーモア。もしくは非常にしょうもないコメディ演出です。そういったザ・アメリカ的なユーモアが多分に見受けられるのが、このコンビの作風と言えます。

上述した三作が傑作と呼ばれる所以は、作品のモチーフとメッセージを繋ぎ合わせる役目としてコメディが用いられている点にあると思われます。作品ごとに適した笑いのエッセンスが盛り込まれており、それがしっかりと全体のメッセージに通じている。三作ともに続編が製作されていることからも、その好評ぶりが伺えます。

『スパイダーバース』と同様にソニー・ピクチャーズ製作の今作。両者ともプロデューサーとして参加しており、この二人の色が強く出ているコメディに仕上がっています。

SNSを取り入れた縦横無尽な笑い

広大な土地を走る一台のオレンジの車。そこに乗り込む4人の家族が映し出される。その場面からいったん過去へ戻り、冒頭にいたるまでの経緯が語られていく、といった構成になっています。

映画序盤からひしひしと感じられるのは、冷え切った関係の家族の悲哀。しかしながらウェットな雰囲気になりそうになったら、すかさずくだらない笑いが挟み込まれます。

フィル・ロードさんとクリストファー・ミラーさんの名タッグ。彼らの作品には、それぞれに一つの特徴的なエッセンスが盛り込まれていました。『LEGO ムービー』にはブロック人形ならではの自虐的な笑い。『スパイダーバース』にはメタ的な視点の笑い。

本作の特徴は、いま流行りの映像加工の多用にあります。InstagramやSnapChat、TikTok風の加工の再現度は高く、面白いです。猫フィルターをはじめ、現実にありそう感が凄い。

またYouTubeのサムネイルのような、人目を引く静止画のカットが唐突に差し込まれます。さらには「ラバはこの後無事に救出されました。」といった注意書きからは、コンプライアンスに対する意識がいかに浸透しているかが見て取れます。

こういったインターネットミームの数々が、3Dアニメの中に取り入れられているのが非常に斬新。適当にやってしまえば寒い演出になりかねないところを、巧みなバランス感で笑える演出に仕上げていました。

他にも、「理想の家族」という台詞のときに映される実写の写真であったり、「テナガザルに似ている」からの実写のテナガザルの映像であったり。ふとした瞬間に実写の映像が挟み込まれるのも笑えてしまう。

こういった一つ一つが挟み込まれるテンポ感が心地よく、細かいところまで作り込まれているのが分かります。

そしてこの作品はコメディ映画の皮を被っていながら、ストーリーには社会への皮肉が確かに込められています。これが先述した、メッセージとモチーフをつなげている部分。今作ではインターネット社会になって久しい現代、そして現代人への風刺がなされています。

現代を生きる人々がいかにデジタルデバイスやネットワークに支配されているか。Wi-Fiがないと何もできない。その様子はコミカルに誇張されてはいるものの、同時にハッとさせられる部分もあります。ロボットたちが「Foolish Human Air」と名付けるのも頷けてしまう、人間の愚かさが表現されていました。

劇中に登場するスマホのかたちをしたパーソナルデバイス「PAL」。PALを販売しているPAL社は、明らかにAppleをイメージしています。特にCEOによる新製品発表会のあたりが顕著。巨大資本による監視社会に対する危機感を表わしているようにも感じました。

あとは、ミッチェル家とは対照的な存在として出てくる、ヨガ愛好ファミリーについても見逃せません。ヘルシー志向の人が増加している現代社会。その人々の生活を俯瞰的な視点で笑いに落とし込んでいます。

普遍的メッセージ

本作のテーマは、家族です。序盤に映し出されるのは、個々のスマホやタブレットを見て、一緒にいながらも目を合わせないミッチェル家の面々。

心がバラバラになった家族の様子は痛々しい。とはいえ誰もが少なからず経験したことがある状況なのではないでしょうか。それぞれ普遍性が高いキャラクター造形になっているため、ミッチェル家の面々に共感しやすいと思われます。

中でも父親と思春期の娘の関係性に焦点が当たっていきます。娘のケイティは映像制作が大好き。行きたかった映画大学への入学を目前にしていた。自身の作品をまともに見てくれなかった父を拒絶している。

ケイティに対して、ぶしつけな言動をしてきた父親のリック。大学に行くための飛行機をキャンセルし、家族全員で自家用車で移動すると言い出す。その旅の最中に、PAL社は新商品「PAL Max」を発表。PAL Maxたちは次々と人間を襲い、捕獲していくのだった。

運よく逃れた4人は、囚われた人類の解放に向けてロボットたちと戦っていきます。電化製品やファービーたちとの戦いを経て、クライマックスにはPAL社本部のロボット軍と対決します。

中盤に明らかになるのが、リックはかつて自分が抱いていた夢を諦めた人物だったこと。だからこそ似た境遇の娘に対して、厳しい態度で接していました。母親が撮影したホームビデオと、娘が制作した映画が二人の真意を浮かび上がらせます。

典型的な感動話でありながら、仲直りする流れの演出は台詞に頼らない巧みさが伺えます。大量のロボットと戦うアクションシーンで、『恋のマイアヒ』を流すのも良かった。そしてラスボスとの決着の仕方も、コミカルであると同時に、なるほどこの手があったかと感心させられました。

「家族は大切に」という、とても普遍的なメッセージを伝えています。それでありながら怒涛のコメディ演出によって、重たい気持ちにならずに最後まであっさりと見られる。そんな素晴らしい映画です。

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最後に

全編を通して笑いに溢れていながら、最後にはホロリとさせてくれるハートウォーミングムービー。これこそ王道のエンターテインメント。家族で一緒に観ても楽しいこと間違いなしでしょう。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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