『エイプリルフールズ』感想:倫理を無視した盛大な美談

(C)2015フジテレビジョン

毎年エイプリルフールネタを投稿するケンタッキーが好き。

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作品情報

『キサラギ』を手掛けた古沢良太によるオリジナル脚本映画。エイプリルフールの一日を舞台に、小さな嘘が大騒動を引き起こす。主演の戸田恵梨香をはじめ、27人もの豪華キャストが顔を揃えた。監督を務めるのは、『リーガル・ハイ』でタッグを組んだ石川淳一。

出演: 戸田恵梨香 / 松坂桃李 / 寺島進 / 富司純子 / 里見浩太朗 ほか
監督: 石川淳一
脚本: 古沢良太
公開: 2015/04/01
上映時間: 118分

あらすじ

舞台は、東京らしき大都会。なにげなくついた嘘がウソを呼び、あちらこちらで大騒動!果たして、嘘の中に隠されていた真実とは…!?エイプリルフールの1日の終わり、全ての嘘がからみ合い、誰も想像さえしなかった、最高の奇跡を起こす☆☆☆

DVD『エイプリルフールズ』パッケージより引用
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レビュー

このレビューは『エイプリルフールズ』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

27人の群像劇

4月1日、一年に一度だけ嘘をついても良い、という謎の風習「エイプリルフール」。正確な起源は不明にも関わらず、いつの間にか世界中の人々に周知されています。一時期は、この風習に便乗した多くの企業がこぞって偽プレスリリースを発表し、注目を集めていました。

そんな一日を題材にした映画が、その名の通り『エイプリルフールズ』。『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや『探偵はBARにいる』シリーズで知られる古沢良太さんによる、映画『キサラギ』(2007)以来となるオリジナル脚本作品です。

様々なジャンルを手掛けてきた古沢さんの作品の中でも有名なのは、堺雅人さん演じる敏腕弁護士・古美門研介が活躍するテレビドラマ『リーガル・ハイ』(2012)でしょう。根強い人気を誇り、2回のテレビシリーズと2回のテレビスペシャルが製作されている傑作コメディです。

今作は同シリーズのメイン演出の石川淳一さんが監督しているほか、プロデューサー、撮影、編集、選曲などのスタッフが再集結して作られました。加えて同シリーズに出演した里見浩太朗さんや岡田将生さん、生瀬勝久さん、小池栄子さん、矢野聖人さんが出演しており、似た雰囲気を色濃く感じられます。

そうした面々をはじめとして、27人もの個性的なキャラクターが次々と出てくる群像劇。ポスタービジュアルが示すように、7つの別々のエピソードがテンポ良く切り替わり、徐々に絡み合っていきます。大量の登場人物とエピソードを一つにまとめた、ストーリーの構成力には目を見張ります。

メインとなる話は、「イタリアンレストランでの大惨事」。清掃員の新田あゆみは、外科医の牧野亘と一夜を共にした結果、妊娠してしまう。その旨を牧野に連絡するも相手にされなかったため、彼のいるレストランを訪れ、リュックにあったピストルを使って店員と客を監禁する。

この話と並行して、大きく二つのエピソードが語られます。一つ目は「ロイヤル夫妻の休日」。櫻小路と名乗る夫妻は、まるで皇族のような振る舞いをしていたが、その正体は普通のサラリーマン。妻の病気の快気祝いに、周囲を巻き込んでちょっとした悪ふざけをしていただけだった。

もう一つは「不器用な誘拐犯」。小学生・江藤理香を誘拐した強面のヤクザは、彼女を中華料理屋や遊園地に連れ回す。その正体は、彼女の実の父親。大きな仕事を控えていた彼は、娘に一生会えなくなるのを覚悟しており、実父であることを隠して彼女の前に現れた。

後出しの伏線回収

この映画は劇中にいくつも張り巡らされた「伏線」の回収が、ストーリーのキモとなっています。それぞれのキャラクターがついていた嘘や、隠していた真実が明らかになるにつれ、独立しているように思えた7つのエピソードが繋がりを見せていくのです。

伏線とは、後の展開を前もって暗示しておく手法のこと。ある人物の、その描写自体は単体で成立している、何気ない言動の裏に伏せられていた意図が明かされたとき、俗に「伏線が回収された」と言われます。伏線の違和感の無さが生み出す「あれが伏線だったのか!」という爽快感が、その醍醐味と言えるでしょう。

しかし本作における「伏線」は、描写されたときに「あれ?」と違和感を抱くものが多いです。さらにそれらの種明かしをする際も、それまで全く描かれていなかった場面を回想で語っており、いわば後出し的に説明しているのです。

過去回想で物語の真相を明かす手法は、『リーガル・ハイ』の逆転展開や、後に作られる『コンフィデンスマンJP』のどんでん返し展開とも共通しています。つまり古沢さんの脚本は、むしろ謎に包まれた描写の数々が「どのように繋がっていくか」に重きが置かれています。このような作風のため、好き嫌いはハッキリ分かれるでしょう。

この映画では物語後半になるにつれ、「この人とこの人が実は知り合いでした」や「このときに実はリュックが入れ替えられていました」といった事実が次々と明らかになります。しかしそれまでに、そんな展開を示唆する描写は一切なく、いきなり謎が明かされるので、驚きや感動はありませんでした。

また登場人物とエピソードの多さも、ストーリーに対する違和感を助長しているように思いました。上述した3つを除いた、「占い老婆の真実」「42年ぶり涙の生還」「僕は宇宙人」「ある大学生の行末」の4つのエピソードは、かなり比重軽めに扱われています。

これらに登場する人々は、ただ単に「この人とこの人は実は知り合いでした」の展開を増やすための装置にしかなっておらず、キャラクターの描き込みもほとんどされていません。なので、無かったとしても問題ない要素だと思わざるを得ませんでした。

曖昧にされた倫理的是非

この映画は、後の古沢脚本作品『コンフィデンスマンJP』(2018)とも似ています。テレビシリーズに加え、『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019)、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(2020)、そして『コンフィデンスマンJP 英雄編』(2022)と、劇場版が3つも製作されている人気シリーズです。

同シリーズの片鱗を彷彿とさせる箇所が、今作には見受けられます。例えば、物語冒頭に差し込まれる偉人の名言。それ自体、本編に出てくるわけではないものの、話のテーマを表現した言葉であり、今回は聖ピエトロ・フランチェスコ8世の「嘘は罪である。だがときに、嘘が奇跡を起こすこともある。」が引用されています。

何より大きな共通点は、嘘をモチーフにしているところ。とはいえ『コンフィデンスマンJP』は物語が美談で終わらないのに対し、『エイプリルフールズ』に関しては、「感動的」な美談へと物語が集約していきます。

『リーガル・ハイ』も『コンフィデンスマンJP』も、主人公の行動は絶対的に正しいとは言えませんでした。しかし前者は、一般的な倫理に反しつつも自らの正義を貫くキャラを主人公に設定しており、後者はダー子たち信用詐欺師と騙される側のどちらにも非があるように描いていました。

倫理的なバランスが上手く取れている二作に対して本作には、「お涙ちょうだい」イベントが立て続けに用意されています。重病人の余生、肉親との別れ、そして新しい命の誕生。絶対的に「正しい」物事に話の主軸がシフトすることで、監禁や誘拐など当初の行動の倫理的是非は無視されていきます。

牧野は妊娠自体、嘘だと思っていました。しかし嘘ではなく、さらに臨月であり、ひいてはレストランにいる最中に破水する。出産に向けて、彼女に脅迫されていた全員が協力し、なんとか事なきを得た。感動的な雰囲気に包まれる中、監禁をはじめとした彼女の悪行が曖昧にされた終わり方には、モヤっとしました。

矢野聖人さん演じる青年・梅田が、窪田正孝さん演じる親友の松田に嘘のカミングアウトをする「ある大学生の行末」。松田にゲイであることを告白され、梅田が困惑するという出オチでしかなく、二人のその後は一切描かれない。あくまでメインのエピソード同士を繋ぐ役割なのです。

臨月の妊婦が激しく動き回ったり、救急車が事故を起こして到着しなかったり、妊娠・出産や同性愛というシリアスな事象に触れているだけに、登場人物のふざけた態度に腹が立ちます。もしかしたら、笑えないほど行き過ぎたエイプリルフールネタの皮肉やメタファーなのかもしれませんが。

演出の安っぽさも倫理的なダメさを加速させていました。菜々緒さん演じるキャビンアテンダントの「うっそぴょーん」や、ユースケ・サンタマリアさん演じるレストランの接客係が繰り返す叫びが、例として挙げられます。

中でも印象的なのは、滝藤賢一さん演じるタクシー運転手や、古田新太さんと木南晴夏さんが演じるハンバーガーショップ店員の、櫻小路夫妻に対するオーバーな態度。誇張表現なのは理解できますが、演出自体に面白さを感じませんでした。

とはいえヤクザ役の寺島進さんは、ちゃんと最後までブレないので安心感がありますし、父娘の関係性は観ていてほっこりするので、そのあたりは見どころに思いました。

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最後に

2023年最注目と言える脚本家のオリジナル作品。観てみても良いのではないでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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