細田守監督版『時をかける少女』感想:新ヒロインを創出した傑作

(C)「時をかける少女」製作委員会2006

『時をかける少女』映像化の第7弾です。

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作品情報

1965年に発表された筒井康隆による同名小説を、アニメ監督の細田守が映画化。仲里依紗が主人公・紺野真琴の声をあて、マッドハウスがアニメーション制作を担当する。キャッチコピーは「待ってられない未来がある。」

原作: 筒井康隆『時をかける少女』
出演: 仲里依紗 / 石田卓也 / 板倉光隆 ほか
監督: 細田守
脚本: 奥寺佐渡子
公開: 2006/07/15
上映時間: 98分

あらすじ

紺野真琴は、あるきっかけで過去に遡ってやり直せる『タイムリープ能力』を持ってしまう。使い方を覚えると、日常の些細な不満や欲望に費やしてしまう。バラ色の日々…のはずが、親友の千昭から告白を受け動揺した真琴は、タイムリープで告白を無かった事にしてしまう。
やがてそれがとんでもない事件を招く事になり…。

時をかける少女(劇場予告) – YouTubeより引用
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レビュー

このレビューは細田守監督版をはじめとした、歴代『時をかける少女』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

時かけらしさとの対峙

時をかける能力を手にした一人の少女は、ラベンダーの香りに導かれ、同級生への初恋に揺れ動く。映画作家の大林宣彦さんによって演出され、当時10代だった原田知世さんが演じた彼女は、『時をかける少女』のイメージを決定づけました。

筒井康隆さんによる原作小説が初めて発表されたのは、なんと1960年代半ば。2006年にいたるまで何度も映像化されており、「時かけ」と略されるほどにその名は浸透していました。

理科実験室にあった謎の液体に触れた芳山和子は、タイムリープを行えるようになる。同級生の浅倉吾朗や深町一夫と過ごす学校生活の中で、不思議な事件が発生。未来からやってきた深町は彼女に真相を明かすが、彼にまつわる全ての記憶は未来への帰還とともに消失してしまう。

同じ話をベースとしながらも、その一つひとつの媒体やジャンルは異なり、個性的な魅力を持っています。ミステリー、ラブストーリー、あるいはコメディ。話の改変の自由度は高く、その時々の現代的なエッセンスを加えながら、時代に合わせて形を変えてきました。

この物語が語り継がれるきっかけとなったのが、1983年に製作された大林監督による映画版です。作り込まれたノスタルジックな舞台設定や、作家性溢れる独創的な画面作りにより、公開前の予想を超える大ヒット。やがてカルト的な人気を獲得するにいたります。

三角関係に似た淡い恋愛模様をはじめ、印象に残る場面をいくつも生み出した大林版。後続の映像化作品には多かれ少なかれ、同作からの影響が散見されます。また「時かけ=大林版」といったイメージは一般に広まったため、同作との比較を余儀なくされました。時かけといえば大林宣彦であり、原田知世であったのです。

その流れを変えたのが、2006年に公開されたアニメーション映画『時をかける少女』。各種サブスクリプションサービスで配信されているほか、『金曜ロードショー』などテレビでも繰り返し放送されており、息の長い人気が伺えます。若い世代にとっては特に、「時かけ」と聞いて真っ先に連想されるのは今作ではないでしょうか。

本作はそれまでクラシックとされてきた大林版と真逆なスタンスをとっています。まず舞台となる季節が、冬や春先ではありません。今回の舞台は、太陽が燦々と照りつける7月。圧倒的に陽性なイメージを連想させる夏が、寒い季節から醸し出される閉塞感を振り払っています。

真夏を体現しているのが、主人公の紺野真琴。歴代の時かけ作品の主人公である、芳山和子の姪です。おとなしく内省的な和子とは対照的に、真琴は少年のように無邪気で活発な少女。クラスメイトの津田功介と間宮千昭の三人でキャッチボールするシーンが、劇中に何度も出てきます。

真琴は一般的な高校生に比べて、恋愛に無頓着です。功介と千昭に対する彼女の感情はあくまで友情であり、恋愛感情を含んだ和子、深町、吾朗の関係性とは一線を画していました。こうした要素を挙げるだけでも、製作陣の思い切りのあるスタンスが見受けられます。

アニメがもたらす快感と革新

時かけの長い歴史において、初のアニメ化となる今作。『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』(2005)を経た細田守さんが、東映アニメーションからフリーになって初めて監督した映画でもあります。

公開された同時期には、スタジオジブリ『ゲド戦記』とフジテレビ製作の『ブレイブ ストーリー』という大作アニメが上映されていました。それらとは対照的に、「良質な作品創り」を念頭に置いたこの作品は非常に小規模で公開され、大々的なプロモーションも行われませんでした(※1)。

※1:『時をかける少女』DVD発売 – 生みの親に聞いた「今だから言えるヒットの”秘密”」 (1) | マイナビニュースより引用

しかし蓋を開けてみれば、徐々に口コミで話題を呼び、ロングランヒットを飛ばします。その理由として挙げられるのが、アニメーションとしてのクオリティの高さ。一本のアニメとして面白く、観ていて楽しいのです。

作品序盤、理科実験室を訪ねた真琴は、クルミ型の謎の装置に触れる。このとき原始人や未来都市といった様々な描写が矢継ぎ早に映し出され、とても楽しい。彼女が触れたのは、身体にチャージして使うタイムリープの装置であることが後に明らかになります。つまりお馴染みのラベンダー香る薬品は、一切登場しません。

この理科室の作画からも分かるように、部屋に差し込む光や水しぶきなど、自然が生き生きと鮮やかに描かれています。そして何より、青空と入道雲の美しさは抜きん出ており、本作を象徴しています。

自転車で坂を駆け降りていた真琴は、踏切に直撃しそうになった瞬間、気が付くと少し前の時間に戻っていた。この場面にも出てくる赤い数字の世界線演出や、白を基調とした電脳空間は、全編を通して印象的でした。『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000)や後の『サマーウォーズ』(2009)にも似た電脳空間は、監督の大きな持ち味と言えます。

やがて時間移動の方法を見つけ出した彼女。妹に食べられたプリンを取り戻したり、カラオケの時間を延長したり、お小遣いをもう一度貰いに行ったり。彼女が能力を使って好き放題やる様子からは、ワクワク感がすごく伝わってきます。さらに前転でタイムリープするのも、アニメ的なコミカルさがあり面白かったです。

上述したタイムリープの仕掛けや、短いスパンで時間移動を繰り返すあたりも、歴代の映像化には見られない点でありフレッシュさが感じられました。

青春映画の新たなクラシックへ

しかし楽しい夏の日々は、陰りを帯びていく。帰り道に突然、千昭から告白された真琴は呆気にとられ、タイムリープで時間を巻き戻してしまう。何度も時間移動を繰り返し、そのたびに告白を取り消し続ける。他にも彼女は自身の身勝手な歴史改変のせいで、周囲の人々に迷惑をかけているのを知り、後ろめたさを感じ始めた。

真琴のタイムリープ能力に勘付いた千昭は、自分が未来人であることを打ち明ける。現代にやってきた目的は、未来で消失していた絵画を見るためだったが、ちょうど修復中のためそれは叶わなかった。

特筆すべきは、千昭が未来について語るシーンのアニメーション。あるカットでは海水浴場の背景に、大量に排煙している工場らしきものが描かれています。他にも彼の生きている時代が荒廃を遂げているさまが、静止画で仄めかされます。全てをナレーションで説明しない、映画的な見せ方でした。

功介の自転車事故を防ぐため、残り1回のタイムリープを使ってしまった千昭は、真琴たちの前から姿を消す。悲しみに暮れる彼女は、自分にとって一度きりのタイムリープを使用。千昭の能力の残り回数が1回に戻っているのを確認し、彼が見たかった絵画を未来に残すことを約束する。

この経験を経て、真琴は将来やりたい事をようやく見つけられました。過去へのノスタルジーに囚われていない未来に向けたこの幕引きからは、時かけという題材が、大林版の呪縛から解放されたように考えられます。

ただし作品のイメージを一新しながらも、時かけとして重要な、若い俳優の登竜門的な側面はしっかりと受け継いでいます。主人公・芳山和子を演じる俳優のアイドル映画(ドラマ)として、定番的な題材となっていた時かけ。これまで原田知世さんをはじめとした、そうそうたる面々が主役を演じてきました。

今作で主人公に声をあてる仲里依紗さんは、真琴が実在するかのように感じられるほどハマり役に思いました。彼女が演じているからこそ真琴というキャラクターが、より魅力的になっているのは確かです。

それもあって、原作や過去の映像化と完全に切り離されているとは断言できません。本作の和子の仕事部屋には、学生時代の写真とラベンダーが飾られていました。この映画のキャラクターデザインを担当する貞本義行さんがイラストを描いた原作小説の表紙が、写真の構図と非常に似ています。これは原作ファンへのファンサービス的なカットと捉えられます。

Time waits for no one.

理科室の黒板に書かれた一文からは、青春時代が刻一刻と過ぎていく儚さや、時間の不可逆性が感じ取れます。タイムリープ能力の残り回数というオリジナル設定にも、それらは表れているように思えました。

ラブストーリーではない、高校生たちの青春の一ページを切り取った本作。明るく開放感に満ちた、まさしく青春映画の新たなクラシックと言えます。

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最後に

原作を一切読んでいなくても、もちろん楽しめる青春アニメ映画の傑作。もしまだ観ていなければ、ぜひとも観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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