映画『ドクター・スリープ』感想:前作を良い意味で裏切る「シャイニング」バトル

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仲が悪い二人の間を取り持つのは大変です。双方の意見を聞いて仲介しないといけない役回り。そのくらい難しい立場にあった原作を、見事な切り口で映像化した作品です。

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作品情報

2013年に発表されたスティーヴン・キング著の同名小説の映画化。スタンリー・キューブリックにより映像化された著作『シャイニング』の40年後を描く。『トレインスポッティング』で知られるユアン・マクレガーが、大人になったダニー・トランスを演じる。

原題: Doctor Sleep
原作: スティーヴン・キング
出演: ユアン・マクレガー / レベッカ・ファーガソン / カイリー・カラン / クリフ・カーティス ほか
監督: マイク・フラナガン
脚本: マイク・フラナガン
日本公開: 2019/11/29 (PG12)
上映時間: 152分

あらすじ

40年前、狂った父親に殺されかけるという壮絶な体験を生き延びたダニーは、トラウマを抱え、大人になったいまも人を避けるように孤独に生きていた。そんな彼の周囲で児童ばかりを狙った不可解な連続殺人事件が発生し、あわせて不思議な力をもった謎の少女アブラが現れる。その力で事件を目撃してしまったというアブラとともに、ダニーは事件を追うが、その中で40年前の惨劇が起きたホテルへとたどり着く。

ドクター・スリープ : 作品情報 – 映画.comより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

キング vs キューブリック

サイコホラー映画の古典的作品として知られる1980年公開の映画『シャイニング』。雪山にあるホテルの管理人となった小説家志望のジャック・トランスが、次第に精神を蝕まれていき妻子に襲い掛かる。主役ジャック・ニコルソンの怪演や監督の作家性が、ホラーというジャンルと相乗効果を生み出しています。いまや同ジャンルの金字塔的な作品として、確固たるカルト的人気を獲得しています。その人気は、この映画の謎を検証するドキュメンタリー映画『ROOM237』(2012)が作られるほどです。

この作品は印象的なアイコンを多く作り出しました。237号室のバスルームから出てくる老婆や、観客を見つめる双子の姉妹。蜂の巣を連想させる模様のカーペット。血が溢れるエレベーター。ドアに書かれた”redrum”の文字。イカれた顔のジャケット写真。一つ一つがシンボリックに使われているアイコンは、枚挙にいとまがありません。40年にわたって数多くのコンテンツにて、オマージュやパロディが捧げられています。

監督を務めたのは、スタンリー・キューブリックです。『2001年宇宙の旅』(1968)や『時計じかけのオレンジ』(1971)でも知られています。シンメトリーな画面構図を多用しているのが、彼の作品の特徴。映画が「人工的に作られたもの」という印象を観客に与え、妙な不気味さを感じさせます。『シャイニング』中盤に登場する真っ赤なトイレなど、ビビッドな色を大胆に用いた美術も、彼の作家性の一つとして挙げられます。こういった非日常的な映像が演出する不気味さが、この映画をサイコホラーの代名詞たらしめているのは明らかです。

キューブリックの物語は、原作小説から大きな改変が加えられました。ジャックの息子ダニーが持っている超能力「シャイニング」について、映画では最低限の台詞と描写での説明にとどまっていました。また作品の舞台となるオーバールック・ホテルの立ち位置は、小説と映画で全く異なります。不気味なホラー要素に特化したキューブリック版とは対照的に、原作者スティーヴン・キングは事件の背景や超能力の設定について、より詳細に描いていました。

このような改変をした映画版を、キングは猛烈に批判しました。後年にテレビドラマ『シャイニング』(1997)の監修と脚本を担当し、原作に忠実な形で実写化しました。このことからも、いかに彼がこの映画を嫌っているかが伺えます。

そういった経緯を前提に考えると今回の映画『ドクター・スリープ』は、キングの小説とキューブリックの映画、両方の続編であると言えます。本作の原作は、超能力「シャイニング」にまつわる戦いを描いています。今作はキューブリック版とは異なり、超能力の具体的な説明や描写がされている原作に忠実な映像化です。しかし同時に今作は、キューブリックによって持ち込まれた様々なアイコンを引き継いでいます。すなわち『シャイニング』の続編でもあるというのが大きな特徴です。

趣向を変えた続編

ここまで述べてきた映画版の前作『シャイニング』を観て、本作も負けず劣らずのサイコホラー体験ができると思い鑑賞しました。おそらく原作を知らずに前作のみを観た観客で、同じように期待していた人は少なくなかったと思います。しかし私の期待は裏切られました。実際はサイコホラー要素は前作より薄まっており、主人公と超能力を使って敵とバトルを繰り広げる物語でした。

ホラーというジャンルは共通していますが、前作がサイコホラーであったのに対して、今作は吸血鬼ホラー+超能力バトルです。キューブリック的な画面作りを継承しているわけではなく、ジャック・ニコルソンも出演しません。監督によって「謎」とされていた部分は、原作通りに映像化することで明らかになります。そのためキューブリック版『シャイニング』に思い入れが強い人ほど、この映画への拒否反応は強くなると思いました。

『シャイニング』の事件がトラウマとなっている、ダニーの荒れた生活が物語序盤で描かれます。ユアン・マクレガーさんの好演により、ダニーが自信を無くしている様子がひしひしと伝わってきました。自身の持つ「シャイニング」で患者を慰める「ドクター・スリープ」と呼ばれるようになります。ちなみに「ドクター」という呼称は、前作で両親から「ドク」と呼ばれているのと呼応しています。

前作では「シャイニング」によって、近い未来を予知したり、他の能力者とテレパシーで会話したりできることが出来ました。実際「シャイニング」の能力は、これより幅広いことが明らかになります。今作ではホテルの料理人ディック・ハロランが亡霊として登場しますが、亡くなっている彼とダニーは意思疎通しています。加えて能力者とのテレパシーだけでなく、能力者の行動を察知することもできます。

この世界でひっそりと暗躍しているのが、ヴァンパイア集団「トゥルー・ノット」。「シャイニング」を持つ子供たちを殺害し、彼らの生気を吸い取ることで生き延びています。バイオレットという少女が、彼らによって拉致される場面から物語は始まります。ヴァンパイアたちの外見は人間と変わりませんが、どこか人間とは違う気味の悪さを醸し出しており、とても印象に残ります。

特にラスボスであるローズ・ザ・ハットを演じた、レベッカ・ファーガソンさんの存在感は素晴らしかったです。カリスマ的な立ち振る舞いによって、子供たちを誘惑する場面はあっけにとられました。そしてなんといっても、色気がすごいです。人間を装って生活している場面もさることながら、ヴァンパイアとして生気を吸うシーンが注目ポイントです。彼女の食事はすなわち人間の生気なわけですが、この食事シーンが妙に生々しく「生」を感じさせます。悪役として非常に魅力的なキャラクターになっていると思います。

また劇中で彼女が仲間に引き入れる少女アンディも、また魅力的な人物です。殺害された子供たちと同様に彼女も、ローズに人生を狂わされた被害者の一人なのです。悲劇的に人生を狂わされていくアンディに、個人的には感情移入して観ていました。

アイコンに溢れる第三幕

ダニーたち能力者側とローズたちヴァンパイア集団の攻防が、中盤までじっくりと語られます。中盤までは、前述したような『シャイニング』的アイコンは前面に押し出されることはありません。あくまで超能力などの世界観を共有しているだけであるかのように思えました。しかし終盤で満を持して、前作の舞台「オーバールック・ホテル」が登場し、このホテルで最終決戦が行われます。ここに向かっていく車を映した空撮は、明らかに前作の印象的な冒頭シーンをオマージュしています。

空撮ショットを皮切りに、キューブリック版のアイコンが次々と登場します。双子の姉妹やエレベーターは恐怖の対象というよりは、「待ってました」的な使われ方がされています。これは私たちが既に前作のアイコンを知っているため、同じような恐怖を感じることは難しいと製作側が考えたからでしょう。そういった演出が極に達するのが、オールスターが集結するラストバトル。観たとき正直笑ってしまいましたが、この場面が前作を観た人のために作られた映像であることは間違いありません。このように前作ファンへの目配せが露骨に感じられる人にとっては、この展開が鼻につくのも分かります。私は十分楽しんで観ていました。

40年後の続編ということで、当然挙がるのがキャスト問題です。ダニーの両親が重要な役回りとして登場するなど、前作のキャラクターを演じる役者を新しく用意する必要がありました。ジャックの配役を決めるのは、ジャック・ニコルソンの印象が強いため、特に難しかったと思います。新キャストについて似てないという意見を多数見かけますが、個人的にはほとんど気になりませんでした…

本作はサイコホラーにも超能力バトルにも振り切っているわけではありません。しかしながら今回の映画化は、相容れない二つの作品を見事に折衷した続編と言えます。事実として今作は原作者から許諾を受け、さらに賞賛の言葉をもらった言われています。そういった文脈を理解すると、本作をより楽しめるのではないでしょうか。

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最後に

この作品を見るのであれば『シャイニング』を観ておく必要があります。逆に言えば、『シャイニング』を観た人にとっては、ハマるかハマらないかを確かめるためにも一見の価値ありです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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