映画『かぐや様は告らせたい~ 天才たちの恋愛頭脳戦~』感想:題材と相性の悪い実写化

(C)2019映画『かぐや様は告らせたい』製作委員会 (C)赤坂アカ/集英社

やっぱり実写映画は難しい。

スポンサーリンク

作品情報

2022年まで『週刊ヤングジャンプ』で連載された同名漫画の実写映画化。二人の天才高校生が相手を告白させるために頭脳戦を繰り広げる。『ニセコイ』の河合勇人が監督し、『翔んで埼玉』の徳永友一が脚本を務めた。

原作: 赤坂アカ『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』
出演: 平野紫耀 / 橋本環奈 / 佐野勇斗 / 浅川梨奈 ほか
監督: 河合勇人
脚本: 徳永友一
公開: 2019/09/06
上映時間: 113分

あらすじ

恋愛は戦(いくさ)―。「好きになったほうが負け」なのである!!
天才たちの恋愛(ラブ・)頭脳戦(コンゲーム)ここに開幕!!
将来を期待されたエリートたちが集う私立・秀知院学園。頭脳明晰・全国模試上位常連の生徒会会長・白銀御行(平野紫耀)と、文武両道で美貌の持ち主・大財閥の娘である生徒会副会長・四宮かぐや(橋本環奈)は互いに惹かれ合っていた。しかし、高すぎるプライドが邪魔して、告白することが出来ずに、半年が経過――。
素直になれないまま、いつしか自分から告白することが「負け」という呪縛にスライドしてしまった二人は「いかにして相手に告白させるか」だけを考えるようになっていた。
天才だから…天才であるが故に、恋愛にとっても不器用でピュアな二人による、相手に「告らせる」ことだけを追い求めた命がけ(!?)の超高度な恋愛頭脳戦!
果たして勝敗は!?そして2人の初恋の行方は―?

『かぐや様は告らせたい~ 天才たちの恋愛頭脳戦~』予告②【9月6日(金)公開】 – YouTubeより引用
スポンサーリンク

レビュー

このレビューは映画『かぐや様は告らせたい~ 天才たちの恋愛頭脳戦~』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

実写映画化の障壁

赤坂アカさんによる原作『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』は、高校を舞台にした人気ラブコメディ。巨大財閥の令嬢にして生徒会副会長の四宮かぐやと、並外れた努力で学年成績1位を維持する生徒会長の白銀御行が、相手に告白させるために頭脳戦を繰り広げます。

2015年に『ミラクルジャンプ』で連載を開始し、翌年からは『週刊ヤングジャンプ』に掲載誌を移行。アニメ版が放送されて人気が高まっていた2019年に、この実写映画は公開されました。

しかしながらこの『かぐや様』は、大きく二つの側面から、実写長編劇映画に向いていない題材と言えます。そして結果として、それらの障壁がクリアできていないように思いました。

まずは作品のキモである、心理戦要素。作中では登場人物の「心の声」がたくさん描かれ、建前と本音の違いにより笑いを生み出しています。かなり漫画的な表現なので、そのまま実写の役者たちが行うと違和感が生じるのです。

似た映画として挙げられるのが、福本伸行さんの漫画『賭博黙示録カイジ』を実写化した『カイジ 人生逆転ゲーム』(2009)。限定ジャンケンやEカードなど、心理戦を主体としたギャンブルにカイジが挑みます。

劇中では主演の藤原竜也さんをはじめ、俳優さんの力んだ顔がアップで映し出され、自らの思考やロジックをナレーションで説明します。漫画的な大仰な言い回しが特徴的な原作を、そのまま実写にトレースした映画でした。

同作と同じように、顔芸や心の声のナレーションが多用されている今作。それにより作品のフィクション性が強調されており、原作やアニメより物語の「作り物」感が強くなっていました。

もう一つの障壁は、一話完結のストーリー。かぐやと白銀の恋愛が物語の主軸ではありますが、二人の関係が進展する速度はゆっくりで、日常ものっぽい雰囲気が漂っています。

今回の実写版においても、前半は単発のギャグエピソードを並べています。チケット争奪戦に始まり、ババ抜き、映画館デート、白銀の恋愛相談、ぺス回、四宮邸へのお見舞いからの仲直り。原作の中でも主人公二人の関係が大きく動くエピソードを選出し、見事に繋げていました。

その後はアニメ版第1期のラストに置かれていた、花火大会のエピソードを中盤の見せ場にしています。そして本作のクライマックスに設定されたのは、大幅に改変された生徒会選挙編。この改変が様々な意見を呼ぶことになります。

チープなコメディ演出

原作よりもコメディ色が強いとともに、全体的にチープな印象を与えるこの実写版。演出の特徴として、俳優陣のコミカルな演技と同時に、コミカルな音楽やSEを流しています。対照的に、しんみりとしたシーンには湿っぽいBGMを流しており、どちらにしても過剰な演出に感じられました。

加えて衣装やセットにもチープさがあり、画面からコスプレ感が伝わってきます。河合勇人さんが同じく監督を務めた『ニセコイ』(2018)と似ています。これらと同様に漫画実写である『銀魂』(2017)は、安っぽさ自体をネタにできる反則技が使える世界観でしたが、今作はそうはいきません。

この映画の作風を顕著に表しているのが、冒頭のナレーション。漫画の台詞を踏襲しながら、「好きになった方が負け」という作品の世界観や舞台設定が説明されます。

恋愛の主従関係を女王蜂と働きバチ、もしくは王様と奴隷で喩え、その様子を安っぽいアニメーションで描いています。そのアニメのキャラに役者さんの顔をはめ込み、表情の演技をさせていました。この時点で映画の品位が見て取れます。

ナレーションを担当するのは、本編にも田沼正造役で出演する佐藤二朗さん。原作にも登場する医師ではありますが、佐藤さん用にかなりアレンジされています。中盤の悪ふざけナレーションしかり、病院で披露するソーラン節しかり、彼のアドリブシーンはまさに独壇場。良い意味でくだらない。

もちろん笑える場面はあるものの、それは彼のアドリブによる面白さであり、『かぐや様』自体の面白さとはズレています。冒頭のアニメの隅には、わざわざ「ナレーション 佐藤二朗」と表記。佐藤さんにアドリブさせておけば面白くなるだろう、といったような製作陣の考えがここから垣間見えます。

こうした演出に関して役者さん自体は全く悪くなく、否があるのは、演出をつけている製作陣。というのも彼の演技の巧みさや幅広さは、『鎌倉殿の13人』(2022)や『さがす』(2022)を見ても明らかだからです。

佐藤二朗さんや橋本環奈さんといった、福田雄一作品の常連組が本作には起用されています。『銀魂』シリーズや『斉木楠雄のΨ難』(2017)など、福田監督の映画は公開当時、軒並みヒットしていました。キャスティングからも、福田監督の笑いのテイストを意識していると考えられます。

劇中の笑いの多くは、メタネタだったり『情熱大陸』などのパロディだったりします。同じ脚本の『翔んで埼玉』(2019)をも彷彿とさせます。原作の面白さとは異なる実写版の笑いに、個人的にはそれほど面白いと思えませんでした。

当時ヒットしたドラマ『おっさんずラブ』(2018)に出演した伊藤修子さんと、『カメラを止めるな!』(2017)に出演したどんぐりさんが、四宮家の使用人役で出演。ただ残念ながら出オチでしかありません。流行りを取り入れただけの姿勢からも、この映画の志の低さが見受けられます。

演技とキャスティングの妙

ここまで否定的な感想を書きましたが、今作について褒められるべきポイントとして挙げられるのはキャスト陣でしょう。

白銀を演じるKing & Princeの平野紫耀さんは言うまでもなくカッコよく、平野さんならではのポンコツ会長を体現しています。かぐや役の橋本環奈さんも可愛らしい。顔芸やVRアイドルの件を見て、製作陣のやりたかったことが何となく伝わってきました。

浅川梨奈さん演じる生徒会書記・藤原千花は、アニメ版のキャラに見事に寄せていました。演じるにあたってとても研究したのが分かります。ただし残念ながら藤原のキャラを実写で演じるのが、そもそも見た目的に厳しいことが、彼女の好演により皮肉ながら明らかになりました。

そして佐野勇斗さん演じる生徒会会計・石上優は、ストーリーの流れ的に原作から最も改変しているキャラと言えます。とはいえ実写版ならではの卑屈さを表現しており、浅川さん同様、非常に好演されていました。

他にも四宮家の近侍・早坂愛を演じる堀田真由さんや、柏木渚を演じる池間夏海さんは、コメディ的ではない自然な演技に感じられました。柏木がかぐやに恋愛相談をされる場面は、リアルな演技の演出がされていて好きでした。

作品終盤は、新会長を決める生徒会選挙が展開されます。しかし原作のエピソードとは異なり、かぐやが選挙に立候補。彼女の身を案じた白銀も立候補し、二人が直接対決をします。原作では伊井野ミコという新キャラがここで登場しますが、この改変によって今回は出てきません。

「恋の病」回やソーラン節特訓回といった原作のエピソードを盛り込みつつ、選挙演説の場で二人が想いを吐露するラストに繋げています。この改変自体は苦し紛れながらも、上手く切り抜けたなとも思いました。

しかしながら原作のエピソードを一部だけ抽出しているので、ストーリーの展開が速く、キャラの掘り下げが不足していると感じました。白銀とかぐやが互いに好意を寄せる理由が分かりにくく、最後まで感情移入しにくかったです。

この映画は正直なところ、主人公二人のキャスティングあってこそ生まれた企画だと考えられます。なのでメインターゲットは原作ファンではなく、役者さんのファン。そういった観点では、作品のファンを新しく獲得する役割は十分に果たしたのではないでしょうか。

スポンサーリンク

最後に

気軽な気持ちで観ると、たくさん笑えて良いかもしれません。またこの実写版から入って、原作やアニメを見るのもオススメです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

Comments