『非公認戦隊アキバレンジャー』感想:唯一無二のオタク讃歌

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遂にこの時が来てしまった…。

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作品情報

秋葉原をモチーフにしたスーパー戦隊シリーズのセルフパロディ作品。妄想の力で変身した3人の戦士が、悪の組織に立ち向かう。監督の田﨑竜太、脚本の荒川稔久、プロデューサーの日笠淳など、東映特撮お馴染みのスタッフが製作に携わる。

原作: 八手三郎
出演: 和田正人 / 日南響子 / 荻野可鈴 / 内田真礼 / 穂花 ほか
監督: 田﨑竜太 / 鈴村展弘
脚本: 荒川稔久 / 香村純子
放送期間: 2012/04/06 – 06/29
話数: 13話

あらすじ

秋葉原で暮らす、スーパー戦隊シリーズが大好きな29歳・赤木信夫は、突然現れた女性・葉加瀬博世に「アキバレッドになって!」と声をかけられる。何の違和感を抱くこともなく了承した赤木に加え、強くなるため格闘技を極めんとする女子高生・青柳美月、コスプレ好きのOL・萌黄ゆめりあの3人は、葉加瀬から美少女フィギィアを渡される。そのフィギュアこそ、3人をヒーロー「アキバレンジャー」に変身させる超重要アイテムだった! 彼らが戦うことになる敵とは!?

BS朝日 – 非公認戦隊 アキバレンジャーより引用
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レビュー

このレビューは『非公認戦隊アキバレンジャー』および関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

大人向け戦隊の誕生

スーパー戦隊シリーズ35作記念作品『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011-12)。一年を通して過去34作全てのキャラが客演したお祭り作品は、子供だけでなく大人までも熱狂させました。『非公認戦隊アキバレンジャー』は、その反響を受けて大人向けに企画された深夜特撮ドラマです。

プロデューサーは、『救急戦隊ゴーゴーファイブ』(1999-2000)から『爆竜戦隊アバレンジャー』(2003-04)までの5作品などを担当した日笠淳さん。当時テレビ第二営業部長に就きながら、今作のチーフプロデュースを務めています。

同じくスーパー戦隊シリーズ(以下、公認戦隊)の経験が豊富な田﨑竜太さんと鈴村展弘さんが監督を務めるほか、『ゴーカイジャー』を担当した荒川稔久さんと香村純子さんが脚本を執筆。この布陣からして、「非公認」の冠とは裏腹に、東映の本気の姿勢が伺えます。

この作品と切っても切り離せないのが、バンダイの「S.H.Figuarts」。いまや日本が誇る一大フィギュアブランドとして広く知られています。同ブランドは当時、仮面ライダーなどと同様にスーパー戦隊でも、ハイターゲット層の獲得を目指していました。

そんな中、『ゴーカイジャー』の商業的成功を受け、東映とバンダイは作品の企画段階から連携しました。アキバレンジャーのスーツには、公認戦隊とは一線を画したカッコよさがあります。というのも、胸部のクリアパーツなどフィギュア映えを前提にデザインされているのです。

アキバレンジャー3人に加え、作品に関連した公認戦隊のフィギュアが発売。さらに銃への変形が可能な美少女フィギュア型の変身アイテム「MMZ-01 モエモエズキューーン」や、プリウス型の痛車が変形したロボ「イタッシャーロボ」までもが商品化されました。

どちらも公認戦隊の玩具と比較すると高価格でしたが、その分劇中に近い仕様を再現していました。後に「超合金魂」や「真骨彫製法」へと拡大していくハイターゲット商品の礎を築いた本作は、スーパー戦隊における魂ネイションズの歴史を語るうえで欠かせないと言えます。

キャラクターデザインを担当したのは、さとうけいいちさん。オタク文化を象徴する美少女フィギュアや痛車を、デザインに巧みに取り入れています。その徹底ぶりからは、公認戦隊が積み上げてきた、モチーフを世界観に落とし込むノウハウが感じられます。

本家ならではのメタフィクション

「良い子はみちゃだめっ!」と謳われている通り、作風も完全に大人向け。胸や下着を強調したスーツにはじまり、キャバクラやホストクラブ、喫煙、飲酒からの泥酔にいたるまで、公認戦隊ではあり得ないお色気要素や下品な表現が多分に盛り込まれています。

この作品の世界観は、『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975-77)から、同時期に放送中だった『特命戦隊ゴーバスターズ』(2012-13)までの36作が、「作品として」存在する世界。つまり私たち視聴者のいる現実と非常に似ています。

主人公は、秋葉原で働く29歳のおじさん・赤木信夫。重度のスーパー戦隊オタクにして、美少女アニメ『にじよめ学園ズキューーン葵』の大ファンの彼は、日常のあらゆる出来事を戦隊と絡めて妄想してしまう。彼は突如、コスプレ喫茶「戦隊カフェひみつきち」の店長・葉加瀬博世から、アキバレンジャーにスカウトされる。

同じくスカウトされた、総合格闘技が得意なツンデレ女子高校生・青柳美月と、衣装によって性格を変えるなりきり型のコスプレイヤー・萌黄ゆめりあ(CN)とともに妄想世界で変身を遂げる信夫。「非公認」な戦隊である3人は、東映から公認される日を願って戦いに身を投じるのだった。

物語のジャンルは、メタフィクションのコメディ。公認戦隊に関するあるある、パロディ、オマージュが全編で展開されます。間違いなく、戦隊について詳しい人ほど楽しめる作風です。言い換えれば戦隊を全く知らない人にとっては、どこが面白いのか理解できないかもしれません。

戦隊特有の「名乗り」や、敵幹部による退場フラグ。東映特撮お馴染みのロケ地で撮影が行われたり、七変化回や親上京回という定番的なフォーマットを使ったり。細かすぎるネタの数々は挙げればキリがないほど大量で、信夫の台詞の節々にまで小ネタが詰め込まれた濃密さは、最大の特徴と言えます。

惜しげもなく公認戦隊のBGMや画像を使えるのも、本家本元だからこそできる特権。実際に撮影で使用された当時の小道具も多く出てきます。恐竜やのカレー皿や大量の変身前衣装を取り揃えた「ひみつきち」のコレクションは、とても素人が収集したとは思えません。

さらには戦隊経験者も出演を果たしている今作。おそらく『ゴーカイジャー』が客演の土壌を整えたおかげで実現できたことでしょう。公認戦隊が巨大武器に変形する能力「大それた力」は、『仮面ライダーディケイド』(2009)のファイナルフォームライドを彷彿とさせる大胆さがありました。

このように細部まで凝りまくっている本作は、東映による本気の遊びと言えます。中でもエンディング映像は、その局地だと思います。日曜朝にアキバレンジャーが放送した架空の未来を映した写真には、登場人物が語る悲哀溢れるエピソードと相まって、哀愁が漂っていました。

予想の斜め上を行く展開

アキバレンジャーの前に立ちはだかるのは、秋葉原の平和を乱す悪の組織「邪団法人ステマ乙」。穂花さん演じる再開発部長のマルシーナが、各話ごとに係長と呼ばれる怪人を差し向けて3人を苦しませる。露出の多い衣装の女性幹部は、公認戦隊あるあるの一つでもあります。

一話ごとの完成度が高いのは言わずもがな。3人の絆が回を追うごとに深まっているのが、些細なやり取りから伝わってくる素晴らしい脚本です。序盤から笑える話が続いていた中で、ゆめりあの母親が登場する感動的な第5話には落涙させられました。

3人のリーダーである赤木信夫を演じているのは、和田正人さん。劇中でも触れられる俳優集団「D-BOYS」のメンバーでもあるカッコいい方です。しかしながら信夫は、イタいオタクのおじさんにしか見えません。恐ろしいまでの怪演には驚かされました。

そんな信夫とは対照的な性格の青柳美月役は、日南響子さんが務めています。「ひみつきち」で行っている柔軟の様子からも明らかなように、日南さん自身の身体能力の高さによって、ストイックな美月を体現していました。

そして萌黄ゆめりあ(CN)を演じる荻野可鈴さんは、男子小学生やゴスロリなど多彩なコスプレを見事に着こなしていました。それと同時に、衣装に伴って性格を演じ分けていました。当時17歳にして演技力の高さが垣間見れます。

指揮官的ポジションにあたる葉加瀬博世を演じるのは、実写作品初出演の内田真礼さん。終盤まで隠されていた秘密には、内田さんが声優であることが活かされていました。他にも松本梨香さんや矢尾一樹さんといった、豪華声優陣が起用されているのも見どころの一つでしょう。

当初アキバレンジャーの戦いは、あくまで妄想世界での出来事でした。しかしマルシーナが現実世界に飛び出たのをきっかけに、戦況は一変。変身不能になった信夫が、お手製スーツを着て走りながら変身する展開には、まるで公認戦隊を見ているようなアツさがありました。

加えてステマ乙のボス・ドクターZや、新幹部デリューナイトが登場。時を同じくして、設定盛りすぎな好青年・都築タクマが現れ、退場した信夫に代わって2代目アキバレッドに変身する。理解が追いつかない程のスピードで、アキバレンジャーを取り巻く状況が変化していきます。

この急展開の正体は、アキバレンジャーをオタクっぽい番組から、公認っぽい番組へ変えようとする力。要するに、テコ入れです。路線変更すらをネタにする胆力には舌を巻きました。

路線変更を信夫に気付かれた製作側は、番組打ち切りへと舵を切る。「登場人物 vs 番組外現実」という類を見ない構図。伏線を張って延命を試みる登場人物と、強引に終了フラグを立てていく製作側の争いが滑稽すぎます。原作者「八手三郎」がラスボスになる展開は、多くの視聴者の予想の斜め上を行くものでした。

第12話の本編が終了する瞬間まで、彼らの戦いは続きます。そして最終話は、登場人物たちが物語を振り返る総集編であり、公認戦隊お馴染みの素面名乗りで締め括りました。最後までメタネタを拾い続ける精神には感動すら覚えました。

10年後から見たアキバレンジャー

放送終了から約10年後、『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』(2021)で公認戦隊とのコラボが叶った『アキバレンジャー』。その後2023年10月には、東映特撮YouTube Officialでの公式配信が初めて行われました。

『スーパーヒーロー戦記』のメインである『機界戦隊ゼンカイジャー』(2021-22)は、過去の戦隊をイジった作風のコメディです。企画立ち上げ時には「アキバレンジャーみたいな戦隊」というイメージが共有されており、今作が公認戦隊の下敷きになっているのが分かります。

特にオマージュしていると考えられるのが、ラスボスが神様である点。アキバレンジャーが敵わなかった強大な敵に、ゼンカイザーこと五色田介人は勝利するのも、公認戦隊だからこそできる大団円だと思いました。

それから現在にいたるまで、同作から派生した『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022-23)や『王様戦隊キングオージャー』(2023-)といった、非常に型破りな作品が続いています。振り返ってみれば本作のほうが、「非公認」ながらも「戦隊らしさ」に溢れているのかもしれません。

放送当時、子供ながらに私は『アキバレンジャー』をリアルタイムで観ていました。劇中ではオタク文化やオタクあるあるが色濃く描かれ、「グリリバ鬼畜攻め」などの専門用語も台詞に出てきます。ですがその分野に明るくなくても楽しめる、底抜けに明るい作風が非常に魅力的でした。

「オタクはウザい、キモい、ダサい。」ステマ乙の係長が発するこの台詞は、現在とは価値観が多少ズレています。時を経てカジュアルに世間一般に広まっているオタク的な活動ですが、放送当時はまだ世間からの風当たりは強く、肩身が狭い趣味でした。

とはいえ劇中に登場する信夫以外のオタクたちは、当時としても少し古いオタク像のように感じられました。眼鏡やチェックシャツを身につけた、『電車男』(2005)的なステレオタイプ。あまりに画一的に描かれているので、もしかしたら意図的なのかもしれません。

ただし時代が変化しても、好きであることに誇りを持つことの尊さは変わりません。第9話のエンディングで語られる信夫の公認戦隊への愛情は、イタさよりもアツさが勝っているように思いました。

また第12話での彼の一言「もし俺みたいなイタいオタクがそんな番組見てたら、歴史から消されても、絶対忘れることはない!」は、視聴者と同じ視線を持っている作り手ならではの台詞ではないでしょうか。周囲にバカにされがちなオタクたちを、そういった製作陣が真正面から肯定した素晴らしい作品です。

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最後に

スーパー戦隊ファン必見の珍作にして重要作。何かしらのオタクである方にこそ、ぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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