ドラマ『ばらかもん』感想:新たな挑戦の背中を押す非日常体験

(C)ヨシノサツキ/SQUARE ENIX・フジテレビジョン

聖地巡礼したくなる。

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作品情報

2008~18年に『ガンガンONLINE』で連載されたヨシノサツキの同名漫画をドラマ化。フジテレビ系「水曜22時枠」にて放送された。『マルモのおきて』の河野圭太と阿相クミコが、五島列島に移り住んだ若き書道家と島民たちの交流を描く。主演を務めるのは、杉野遥亮。

原作: ヨシノサツキ『ばらかもん』
出演: 杉野遥亮 / 宮崎莉里沙 ほか
演出: 河野圭太 / 植田泰史 / 木下高男 / 北坊信一
脚本: 阿相クミコ / 金沢達也 / 上原莉恵
放送期間: 2023/07/12 – 09/20
話数: 11話

あらすじ

都会生まれ、都会育ちの半田清舟(杉野遥亮)は、高名な書道家・半田清明(遠藤憲一)を父に持ち、新進気鋭の書道家としてもてはやされてきた。だが、ある賞を受賞した祝いの席で、清舟は美術館の館長で書道界の重鎮・八神龍之介(田中泯)から「実につまらない字だ」と批判されたことに激高。マネージャー・川藤鷹生(中尾明慶)の制止を振り切って館長につかみかかる。清明は、そんな清舟に「お前は書道家の前に、人間として欠けている部分がある」と告げ、長崎県・五島列島で生活して頭を冷やせと命じる。
五島福江空港に降り立った清舟は、バスもタクシーもいない田舎感にあぜんとしながらも、初めて会った島民・琴石耕作(花王おさむ)の運転するトラクターに乗り、やっとの思いで目的地の七ツ岳郷に到着。郷長の木戸裕次郎(飯尾和樹)に古びた一軒家を案内されるが、誰も住んでいないはずなのに、室内には人の気配が…。
そこにいたのは近所の小学生・琴石なる(宮崎莉里沙)。なるは村の悪ガキたちと、この家を基地にしていたのだ。 書の修行をするため、静かな一人きりの時間を過ごせるかと思いきや、なるを始め、勝手に家に上がり込んでくる自由奔放な島民たちとの人付き合い、慣れない田舎の一人暮らしに翻弄されてしまう清舟。
しかし、清舟は、耐性のない日常に戸惑いつつも、島民たちに助けられ、励まされ、少しずつ心の成長をし、新たな書の境地を拓いていく。

ばらかもん | ストーリー – フジテレビより引用
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レビュー

このレビューはドラマ『ばらかもん』および関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

五島の自然と書の美しさ

コバルトブルーの海や白い砂浜を擁する、自然豊かな九州最西端の離島「五島列島」。漫画『ばらかもん』では、そんな五島列島に移住した都会育ちの青年が、そこで出会う島民たちとの交流を通じ、人間として成長していくさまが描かれます。

「ばらかもん」とは、「元気もの」を意味する五島列島の方言だそう。実際に五島列島で生まれ育ったヨシノサツキさんによる同作は、2008〜18年にかけて『ガンガンONLINE』で連載され、スピンオフを含めた単行本の累計発行部数は1000万部を超えています。

杉野遥亮、「ばらかもん」でGP帯連続ドラマ初主演 「原作に最大限のリスペクトを持ってチャレンジしたい」 : 映画ニュース - 映画.com
杉野遥亮が、フジテレビで7月期に放送される“水10”ドラマ「ばらかもん」でゴールデン・プライム帯連続ドラマ初主演を飾ることがわかった。衣装を身に付けた杉野のビジュアルとコメントが披露された。原作は、「ガンガンONLINE」「少年ガンガン」(

連載中の2014年には、TBSテレビ系列でアニメ版が放送されます。主に単行本第1~6巻までのエピソードを映像化した同作は、多少の取捨選択はありつつも漫画の流れに沿ったアニメ化でした。

作品特有のハートフルな空気感を、琴石なる役の原涼子さんをはじめとしたキャスト・スタッフが見事に再現。このアニメ版が、唯一にして至高の『ばらかもん』映像化と言ってもいいほどの出来でした。なので新たに映像化するうえで、同作との比較はどうしても避けられないでしょう。

そんな中、『ばらかもん』初の実写化である今作の第1話は、東京育ちの書道家・半田清舟が五島列島にやってくる場面から始まります。自身の作品を酷評した書道界の重鎮に掴みかかった彼は、同じく書道家として活躍する父・半田清明から、この場所で頭を冷やすよう言われたのだった。

空港を出た半田は、偶然通りかかったトラクターに乗せてもらい、引っ越し先の家に到着。その後、噂を聞きつけて家を訪ねた島民たちに、引っ越し作業を手伝ってもらう。それまで孤高に生きてきた彼は、このとき人の優しさを身に染みて感じることになった。

ドラマのクレジットには、五島市および五島市観光協会が特別協力として名を連ねています。一部シーンは関東で撮影されているものの、五島列島でロケが行われました。ヨシノさんの見てきた豊かな自然を目にすることができ、実際に島に行って見てみたいと思わせる美しい光景でした。

また書道家の鈴木曉昇さんによる監修も行われているので、半田の書道家としての説得力が増しています。白抜きの「星」や、「島民の名前」、「かわ」を集めた「心」。各話に登場する書はどれも魅力的で、彼の人間的な成長とともに、表現力が豊かになっていくのが伝わってきました。

ドラマならではのキャラ統合

主人公の半田清舟を演じるのは、映画『東京リベンジャーズ』シリーズや、大河ドラマ『どうする家康』(2023)でも知られる杉野遥亮さん。全編を通して一線を画す高い演技力が見受けられ、特に注目すべきは、回を追うごとに変化していく半田の表情だと思います。

半田はよく独り言を呟くのですが、その独り言で状況説明をしていく点には、違和感が拭えませんでした。ネガティブ思考に陥りがち、といった設定は漫画にもあるものの、実写映像にした途端、その描写のリアリティの無さが如実に浮き彫りになっていました。

彼に懐く島の少女・琴石なる役は、後にNHK版『大奥(Season2)』(2023)にも出演する宮崎莉里沙さんが務めています。元気で可愛らしいけれど、ずっと声を張っている印象を受けるとともに、残念ながら標準語を話します。これらが気になってしまうのは、どうしてもアニメ版のなるが凄すぎるからに違いありません。

しかし劇中で、なるが時折見せる表情は絶妙で、間違いなく今作の大きな見どころです。特筆すべきは、父・優一郎が島に帰ってきた第8話で彼女が号泣する場面。それまで常に元気だったからこそのギャップにやられました。

二人以外の登場人物も良かったですが、特に半田清明を演じた遠藤憲一さんには、その迫力に圧倒されました。またお笑いコンビ・ずんの飯尾和樹さんが演じる「郷長」こと木戸裕次郎も、飯尾さんならではの味わいがあって良かったです。

ですが半田の母・えみに関しては、彼女の存在だけ作品から浮いていました。ピンクの着物を身につけ、ぶりっ子な言動を繰り返す彼女。他のキャラとは明らかに異なるリアリティの無さは、原作からも感じられた要素でしたが、それがドラマにも悪い意味で引き継がれており、残念でした。

実写化に際して本作では、キャラの統合や省略が行われています。例えば「あっきー」こと新井明彦や、分校の教頭。さらにキヨバも登場しないため、その代わりに、原作では元気なヤスバが物語中盤で病気で亡くなる。これに関する批判的な意見も分かりますが、尺の関係上、仕方ない改変とも言えます。

最も改変されたキャラと言えるのが、田中みな実さん演じる久保田育江。元々の河本育江に、なるの友達・陽菜の母親要素を加えており、大幅に出番が増えています。ただし個人的には、「これはこれでアリ」なバランスに収まっている、という印象を抱きました。

上述した原作からの変更点は、いずれもドラマだけを観ていれば自然に機能しており、その誠実さに原作へのリスペクトが感じられました。

心温まる爽やかな幕引き

演出の河野圭太さんと脚本の阿相クミコさんのタッグは、フジテレビ系列のドラマ『マルモのおきて』(2011)のタッグ。放送前は育江を絡めた恋愛要素の投入などが危惧されていましたが、蓋を開けるとそんなことは無く、むしろ作品の雰囲気やメッセージを真摯に汲み取っていると感じました。

漫画連載が完結した後に作られた今作。10年以上にわたり紡がれた膨大なストーリーを全11話のドラマにまとめるため、エピソードの省略が行われています。しかしながら上述のキャラ統合と同様に、原作へのリスペクトが随所に表れていました。

同時に本作は、2014年のアニメ版への配慮が見受けられました。というのもアニメ版で扱った原作のエピソードに関しては、なるべく省略を少なくしています。半田の入院、もち拾い、釣り、遭難にいたるまで、ドラマの第6話前半までは、アニメ版をなぞったような流れが展開されます。

一方それ以降は、今回初めて映像化されるエピソードでありながら、より大胆に省略が行われています。五島列島と東京を行き来する中で、自分自身や書道と向き合った半田は、子供たちといるときに自分らしくいられることに気付くのだった。

最終的に彼は書道家を辞め、島に帰って書道教室を開く。新しい環境に身を置いて一歩踏み出す姿には、勇気と元気をもらいました。

調理師学校に進学した、綱啓永さん演じる木戸浩志。家業を継ぐことに決めた、豊嶋花さん演じる山村美和。そして漫画家を目指し始めた、近藤華さん演じる新井珠子。島の若者である彼らと半田の掛け合いも心地いいだけでなく、それぞれの選択をした3人の未来が楽しみになるラストは、何とも眩しく、爽やかな幕引きでした。

さらに物語の締め方として、単なる田舎礼賛に終わっていない点が素晴らしい。ネット動画を撮影しに島を訪れたアイドル・ゆなが、半田たちと交流を深める最終話に象徴されるように、どちらの良い面も悪い面も描いており、田舎と都会の二項対立を否定するフェアな姿勢が表れていました。

最終話では、「一年先生」として半田の歓迎会が開かれる。そんな心温まるラストで彼が書いた「楽」の字は、第1話での作品然とした「楽」とは異なる、より自由で、より輝きを放ったものに感じられました。

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最後に

原作漫画の雰囲気を保ちながら、ドラマならではの面白さがある実写化ですので、ぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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