劇場版『スパイダーマン(東映TVシリーズ)』感想:異次元アクションを体現した幻のアース

(C)1978 M.C.G/東映

45周年を迎えた無敵の男、スパイダーマン!

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作品情報

1978〜79年に放送された特撮テレビドラマ『スパイダーマン』東映TVシリーズの劇場用短編。スパイダーマンこと山城拓也は、貨物船を次々と襲うマシーンベム・海魔王に立ち向かう。1978年夏公開の「東映まんがまつり」の1本として上映された。

原作: 八手三郎(マーベルコミック版「スパイダーマン」より)
出演: 香山浩介 / 三浦リカ / 大山いづみ / 仲谷昇 / 安藤三男 ほか
監督: 高久進
脚本: 竹本弘一
公開: 1978/07/22
上映時間: 24分

あらすじ

アメリカの大人気ヒーロー、日本初登場!その名は「スパイダーマン」!
息を呑む迫力。マシンGP-7を駆って、地球を侵略する悪の組織「鉄十字団」と戦うスパイダーマン!
負けるなマーベラー!戦えレオパルドン!我らがスパイダーマン!!

『スパイダーマン』予告より引用
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レビュー

このレビューは劇場版『スパイダーマン(東映TVシリーズ)』および関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

「地獄からの使者」の誕生

言わずと知れたアメリカンコミックの人気ヒーロー・スパイダーマン。1962年にコミック誌「Amazing Fantasy #15」に登場して以来、様々なメディアを股にかけて活躍しています。膨大な量の作品の中に、日本の映画会社・東映による実写化が存在するのをご存知でしょうか。

マーベルの看板キャラである彼の権利関係を踏まえると、不思議な企画に思えます。ジーン・ペルクという一人のマーベルファンの熱意によって、この企画は始動しました。漫画大国・日本でアメコミが流通していないことに衝撃を受けたペルクさんは、日本人にも魅力を伝えたいと考えます(※1)。

※1:2020/11/27配信開始『マーベル616』第6話「日本版スパイダーマン」参照

マーベル616を視聴 | Disney+(ディズニープラス)
『マーベル616』はマーベル・ユニバースが我々に与える影響を探るアンソロジー・ドキュメンタリー・シリーズである。

日本担当としてマーベルに雇われた彼は、アクション作品を多く製作していた東映に目をつけます。同社の渡邊亮徳ゼネラルプロデューサーと交渉した末、業務提携を締結。「3年間、お互いのキャラクターを自由に使用できる」というライセンス契約が、両社の間で交わされました。

そこで東映が最初の映像化に選んだキャラが、スパイダーマンでした。海外輸出の禁止と、スパイダーマンの基本的な設定の保持。日本での映像化にあたりマーベルは、これら二つの条件を提示します。ただし制作のほとんどは、東映に一任されました。

その結果生まれたのが、日本特撮の特徴が色濃く反映された設定や物語。主人公は、ピーター・パーカーではなく山城拓也。キャッチフレーズは、「親愛なる隣人」ではなく「地獄からの使者」。

拓也は左腕につけたスパイダーブレスレットを操作して、スパイダーマンに変身。宇宙戦闘艦・マーベラーや、それが変形した巨大ロボット・レオパルドンを操縦しながら、父親の仇である悪の組織「鉄十字団」の怪人・マシーンベムと戦う。

独自路線すぎるがゆえに、試写を行った際、マーベルの幹部からは酷評の嵐。しかしスタン・リーだけが、作品の出来を絶賛したのだそう。彼の一声もあって無事に、『スパイダーマン』東映TVシリーズ(以下、東映版スパイダーマン)が1978年に放送を開始しました。

同作オリジナルの要素の中でも特徴的なのが、レオパルドン。『大鉄人17』(1977)のヒットを受けて取り入れられた巨大ロボ戦は、当時の視聴者に大きなインパクトを与え、興行的にも成功を収めました。

この他にも、敵組織の構成やブレスレット操作による変身といった要素は、その後のスーパー戦隊シリーズの礎として現代まで受け継がれています。東映版スパイダーマンなくして、今日のスーパー戦隊はない、と言っても過言ではありません。

ちなみにこの契約でマーベル側は、『勇者ライディーン』(1975-76)や『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976-77)、『惑星ロボ ダンガードA』(1977-78)のロボットが登場する漫画『ショーグン・ウォリアーズ』を1979年に刊行しました。

歴史の闇に消えた蜘蛛男

このように複雑な権利関係にある東映版スパイダーマン。契約終了後の展開が難しいのは、想像に難くありません。映像ソフトとしては1980年代に、第1話、第31話、劇場版、「東映まんがまつり」・第2話・第3話の予告編を収録したVHSが発売されました。

その後2005年、全41話が収録されたDVD-BOXが発売。これが「最初で最後」の全話ソフト化である、と予め告知されていたとおり、それから現在にいたるまで、新たなソフト化は実現していません(※2)。

※2:スパイダーマン 東映TVシリーズ DVD-BOX 特集 | 東映ビデオオフィシャルサイト参照

ゆえに正規の手段での視聴が非常に難しく、プレミア化しているDVD-BOXやVHSを手に入れるか、一部レンタルショップでVHSをレンタルするしか方法がありません。東映版スパイダーマンは、歴史の闇に消えざるを得ませんでした。

ただし一時期マーベルの公式サイトでは、無料配信が行われていました。それにより海外にも影響を与え始めました。映画『レディ・プレイヤー1』(2018)の原作小説『ゲームウォーズ』(2011)には、主人公の乗り物としてレオパルドンが登場します。

そして本家アメコミにも逆輸入されており、様々な次元のスパイダーマンが出てくる『スパイダーバース』(2014-15)にて、物語上重要な役回りを担っていました。

同作を原作とした映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)では、主人公マイルス・モラレスのスケッチブックに、スクリーントーンを用いてポップに描かれたレオパルドンのイラストがありました。東映版スパイダーマンの根強いカルト的な人気が伺えます。

日本では2000年代、ニコニコ動画で空耳台詞や名乗り口上を茶化したユーザーから「スパイダーマッ」と呼ばれ、ネタキャラとして知られるようになりました。残念ながら現在も、その存在を単なるネットミームとして認識している人は一定数いるでしょう。

しかし本編の内容は、かなりハード。香山浩介(現・藤堂新二)さん演じる山城拓也は、鉄十字団のモンスター教授に父親を殺される。同じく教授を追っていたスパイダー星人・ガリアも、拓也に力を与えた後に絶命。父親とガリアの復讐のため、拓也はスパイダーマンに変身して戦い始める。

音楽を担当するのは、日本特撮界を代表する作曲家・渡辺宙明さん。ED曲『誓いのバラード』もさることながら、OP曲『駆けろ!スパイダーマン』が最高。いわゆる昭和特撮的な曲調ですが、今でも色褪せないカッコよさがあります。

同じくスーパー戦隊初期を支えた大平透さんがナレーションを担当するなど、この作品には当時の特撮界の第一線を走っていたスタッフが揃っていたのです。

力技な劇場用ストーリー

さて今回扱う「劇場版」は、1978年7月に「東映まんがまつり」の1本として公開されました。同時上映は『長靴をはいた猫』、『宇宙海賊キャプテンハーロック アルカディア号の謎』、『キャンディ・キャンディの夏休み』、そして『宇宙からのメッセージ・銀河大戦』の4本です。

実写・アニメに関わらず子供向けの映画をまとめて上映する「東映まんがまつり」。5本立ての中の1本ということで上映時間は24分であり、「劇場版」という印象は薄いです。毎年夏に恒例となっている、仮面ライダーの劇場版と同時上映されるスーパー戦隊の劇場用短編と雰囲気が似ています。

ここでは上述したVHSで鑑賞した感想を書いていきます。ただ今作はシネマスコープサイズでありながら、VHSに収録されている本編映像は左右がカットされており、残念ながら本来とは異なるバージョン。これから観ようと考えている方は、その点を注意していただきたいです。

縦に伸された後左右カットされた男、スパイダーマン!! | mixiユーザー(id:12220007)の日記
オークションで『スパイダーマン』(言わずもがな東映)のビデオを入手。 ご存じの方もいると思いますが、僕はDVD-BOXを持っています。 なのに何故買ったかと言うと、劇場版が公開された「東映まんがまつり」の総合予告編が入ってい...

ある日、拓也のもとに一本の電話がかかってくる。「君の恋人とご姉弟はお預かりした。」拓也は罠であるのを察知しつつ、指定されたホテルに急行した。そこで待ち構えていたのは、仲谷昇さん演じるインターポール秘密情報部の捜査官・間宮重三。

貨物船を次々と魚雷で攻撃しているマシーンベム・海魔王を止めるため、間宮は拓也に共闘を持ちかける。しかし一瞬の隙をついた鉄十字団によって、間宮は拉致されてしまう。スパイダーマンはスパイダー感覚を頼りに敵の罠を掻い潜り、空から貨物船に潜入して救出に成功した。

この物語の時系列は、テレビシリーズ第10話と第11話の間の出来事。東映まんがまつり用に作られたとはいえ、冒頭から話が展開するので、キャラを最低限知っている必要があると感じました。第1話さえ観ていれば基本的な前提は分かるため、鑑賞前にこちらを観ておきたいところ。

本作オリジナルの怪人である海魔王を演じるのは、テレビシリーズに登場するマシーンベムのほとんどに声を当てた飯塚昭三さん。『宇宙刑事ギャバン』(1982-83)のドン・ホラーをはじめ、多くの「悪の幹部」役で知られるお声が、ゲスト怪人にすら重厚感を与えています。

ところで間宮は、わざと鉄十字団にスパイダーマンの情報を流し、拓也の彼女や姉弟を襲わせることで正体を突き止めました。思わず「なぜ?」と言いたくなる箇所が、ストーリーの中には他にもあります。これはテレビシリーズ同様に脚本を務めた、高久進さんの力技によるものと言えます。

二度と作れない迫真のアクション

しかしながら今作の見どころは、何と言ってもアクションです。当時スパイダーマン唯一の実写化だったテレビドラマ『The Amazing Spider-man』(1977-79)には、ほとんどアクションがありませんでした。

それに対して東映版スパイダーマンは、当時の日本の特撮技術によってクモらしさを見事に映像化しました。テレビシリーズよりも話のスケールが大きく、撮影も大掛かりで行われた「劇場版」には、クモらしさを活かしたアクションシーンが多分に盛り込まれています。

1970年代、CGどころかワイヤーアクションすらありません。そんな中、ジャパンアクションクラブ(JAC)をはじめとした製作陣は、ロープやスタント、カメラワーク、合成を使いつつ、限られた予算とスケジュールでスパイダーマンを最大限に再現しました。スタン・リーが絶賛したのも納得です。

特筆すべきは、スーツアクターの古賀弘文さんの存在です。ビルなどの壁面や地面を這って移動する動きや、猫背での疾走、腰から上がるような独特のジャンプ。彼の一挙手一投足に蜘蛛らしさが感じられるのが素晴らしかったです。

敵の前に立ちはだかり、「鉄十字キラー、スパイダーマン!」と名乗って決めポーズをとる。東映版スパイダーマンの特徴であると同時に、スーパー戦隊にも通じる日本特有の文化です。この名乗り自体カッコよく、OP曲が流れる貨物船上での戦闘シーンにもテンションが上がりました。

アクションが多い本作は特に、古賀さんによる、まさに体を張ったアクションの数々が体感できます。個人的に印象的だったのが、中盤のワンアクション。体操選手さながらパイプに飛びついて一回転した後、着地した流れでそのまま戦闘員ニンダーをパンチする。サラッとやっているように見えるのがより凄いです。

ニンダーがヘリからスパイダーマンを銃撃する終盤の展開。ここでのナパーム爆破を用いたアクションは、今作の白眉と言えます。本物の火薬が間近で爆発しており、危なすぎてヒヤヒヤします。薄っぺらい全身タイツしか着ていないため、古賀さんは相当熱かったでしょう。

その後、低空飛行するヘリにスパイダーマンがしがみつく展開も、非常に危なっかしい。何ならスパイダーマンだけでなく、ニンダーたちも危険なアクションをしていました。現代よりも安全面への意識が少ない時代だからこそ可能だった、もう二度と作れない映像には違いありません。

巨大化した海魔王に対し、マーベラーを呼んで対抗するスパイダーマン。レオパルドンへの変形シーンは丁寧で見ごたえがあります。そして敵に攻撃の隙を与えず、ソードビッカーでとどめを刺す。ロボのデザインがカッコいいのはもちろん、必殺技の無双ぶりが爽快で、安心感すらあります。

船上での戦闘や、ヘリコプターを使っての爆破といった、ケレン味たっぷりな映像の数々に感動しながら観ていました。一部に合成を使用しているとはいえ、徹底的にリアルに撮影された迫真のアクションにただただ圧倒されました。

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最後に

当時の特撮技術によるスパイダーマンの再現は、一見の価値があります。もし視聴するのであれば、ぜひとも正規の手段を使って、この迫力を味わっていただきたいです。

また6月に公開される映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』に彼が登場するのか。その点にも注目です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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