『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』感想:超次元な表現を詰め込んだ映像体験

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一度には理解できない圧倒的情報量。

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作品情報

2018年に公開されたCGアニメーション映画『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編。スパイダーマンを受け継いだ青年マイルスが、スパイダーマンに背負わされた運命に立ち向かう。フィル・ロード&クリストファー・ミラーのコンビが製作と脚本に携わる。

原題: Spider-Man: Across the Spider-Verse
原作: マーベル・コミック
出演: シャメイク・ムーア / ヘイリー・スタインフェルド / オスカー・アイザック ほか
監督: ホアキン・ドス・サントス / ジャスティン・K・トンプソン / ケンプ・パワーズ
脚本: フィル・ロード&クリストファー・ミラー / デヴィッド・キャラハム
日本公開: 2023/06/16
上映時間: 140分

あらすじ

救ってみせる。愛する人も、世界も――
ピーター・パーカー亡きあと、スパイダーマンを継承した高校生マイルス。共に戦ったグウェインと再会した彼は、様々なバースから選び抜かれたスパイダーマンたちが集う、マルチバースの中心へと辿り着く。
そこでマイルスが目にした未来。それは、愛する人と世界を同時には救えないという、かつてのスパイダーマンたちが受け入れてきた<哀しき定め>だった。それでも両方を守り抜くと固く誓ったマイルスだが、その大きな決断が、やがてマルチバース全体を揺るがす最大の危機を引き起こす…
<運命>を変えようとするマイルスの前に立ちはだかる、無数のスパイダーマンたち。
史上かつてない、スパイダーマン同士の戦いが始まる!

映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』 | オフィシャルサイト| ソニー・ピクチャーズより引用
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レビュー

このレビューは『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』をはじめとした、歴代スパイダーマンシリーズおよび関連作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

革命的前作を超えた映像表現

放射線のクモに噛まれて以来、人を助けて、恋をして、街を救ってきたヒーロー「スパイダーマン」。『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)は、世界中で人気を誇るスパイダーマン初となるアニメーション映画です。

特殊能力に目覚めた高校生マイルス・モラレスが、マルチバースから来た複数のスパイダーマンと共に、敵に立ち向かう姿が描かれました。本来は一人しか存在しない孤独なスパイダーマン同士が助け合う、新たなヒーロー誕生譚に仕上がっていました。

多くの人が真っ先に思い浮かべるであろう赤と青を基調としたスーツのスパイダーマンだけでなく、全身モノクロやカートゥーン調など、それぞれ異なるタッチで描かれたスパイダーマンが登場。彼らが同じ画面内に違和感なく共存する映像は、世界に衝撃を与えました。

それに加え、アメコミをそのまま動かしたような巧みな映像表現には、新鮮さと爽快さがありました。このようにアニメの歴史に革命をもたらした同作は、第91回アカデミー賞長編アニメ映画賞や、第76回ゴールデングローブ賞アニメ映画賞など、数多くのタイトルを受賞しています。

続編が公開されるまでの約5年の間には、『ONI ~ 神々山のおなり』(2022)や『THE FIRST SLAM DUNK』(2022)、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023)といった、多かれ少なかれ同作に影響を受けたと思われる、傑作アニメがいくつも作られてきました。

それらと比べても今作は、凄まじく多彩なアニメ表現を全編で展開しており、革新的な前作を自ら越えようという気概が感じられます。印象的なのは、映画の最初に映し出されるコロンビア・ピクチャーズのロゴ。矢継ぎ早にロゴのタッチが変化する演出が、前作以上に過剰に盛り込まれているのです。

マイルスの親友である、スパイダーグウェンことグウェン・ステイシーが、今回の実質上の主役です。「少しやり方を変えてみよう」から始まる彼女の自己紹介で物語は幕を開ける。その台詞のとおり、彼女の次元はパステルカラーを基調としており、水彩画のような淡いタッチで描かれます。

警察署長である父親に自身の正体を明かしたものの、父親に受け入れられなかったグウェン。過酷な現実に打ちひしがれる彼女の感情が、画面の色彩とマッチしているのが素晴らしい。行き場を失った彼女は、別次元のスパイダーマンで結成される「スパイダー・ソサエティ」に加入する。

スパイダー・ソサエティのリーダーであるスパイダーマン2099ことミゲル・オハラと、スパイダーウーマンことジェシカ・ドリュー、そしてグウェンの3人は別次元から来たヴィランのヴァルチャーと対決する。この序盤のバトルは特にスピード感があるため、グイグイと引き込まれました。

また中盤の見せ場としては、スパイダーマン・インディアことパヴィトラ・プラバカールと、スパイダーパンクことホービー・ブラウン、さらにマイルスとグウェンの4人が戦うバトルシーン。開放感ある舞台を活かした、迫力あるアクションが展開されていました。

この時点で明らかなように、前作よりもさらにバラエティ豊かなタッチのキャラクターが登場し、なおかつ同じ画面に描かれている本作。そのギャップがおかしくもあり、面白くもある。そこが作品最大の見どころとなっています。

「何でもあり」な作風

脚本と製作に携わっているのが、フィル・ロード&クリストファー・ミラー。『くもりときどきミートボール』(2009)をはじめ、実写・アニメーションに関わらず多くのコメディ作品を手掛けてきた名コンビとして知られています。

この映画にも彼らならではの笑いが多分に盛り込まれており、随所で笑い声がこぼれていました。特に『LEGO ムービー』(2014)を連想させる次元を描いた場面、あるいはスパイダーマン同士が互いに指を差す場面では、映画館が爆笑に包まれていました。

観客に「あとは知ってるよね?」と語りかけながら、それぞれのスパイダーマンが自身の生い立ちを語っていくナレーションは、前作から引き続き使われています。そうしたメタ要素を含んだコメディも、彼らの作家性の一つと言えるでしょう。

同じくマルチバース設定を用いた映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2023)は、様々な実写映像でマルチバースを表現していました。今作ではさらに、次元を超えた「何でもあり」な映像が次々と繰り出されます。

それはつまりNetflix製作『ミッチェル家とマシンの反乱』(2021)にも通ずる、さり気ない実写とアニメの融合です。アニメのキャラクターと実写の人間が会話しているのです。『ロジャー・ラビット』(1988)や『トムとジェリー』(2021)を観ているような不思議な感覚になりました。

過去のソニー製作の実写シリーズや、ディズニー傘下のマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)など、様々な作品が存在するスパイダーマン。前作はそういった他作品やアメコミを知らなくても楽しめる内容でした。

本作も(前作を観ておく以外に)予習せずに楽しめる内容ではありますが、いくつもの実写スパイダーマンシリーズの要素が取り入れられているため、知っているとさらに楽しめるでしょう。

コロンビア・ピクチャーズが展開するソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)の1作目『ヴェノム』(2018)のエンドロールには、前作の本編映像が使われていました。『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021)でも、SSUの枠を越えた共演が見られた『ヴェノム』シリーズ。

今回のヴィランである「スポット」は、次元を旅する力を持っています。劇中で彼が訪れたのは、『ヴェノム』シリーズに登場する、ペギー・ルーさん演じるチェンが店主を務めるコンビニ。同シリーズの未使用映像を再編集したシーンではありますが、意外な共演でした。

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気になるサプライズ

他にもスパイダー・ソサエティに捕まっていたプラウラー役として、ドナルド・グローバーさんが出演。『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)で彼が演じたアーロンも、前作のアーロンと同様に、マイルスの叔父と言われています。間接的にMCUと繋がった面白い試みだと思いました。

さらに「カノンイベント」と呼ばれる、スパイダーマンにとって避けてはいけない出来事を説明する際には、『アメイジング・スパイダーマン』(2012)のアンドリュー・ガーフィールドさんや、『スパイダーマン』(2002)のトビー・マグワイアさんのシーンが引用されています。

様々な実写スパイダーマンシリーズと繋がったこの映画は、スパイダーマンの歴史を感じられる特別な一作でもあります。

親愛なる隣人の運命と自由

自作した黒いスーツを身にまとい、亡くなったピーター・パーカーの跡を継ぎ、スパイダーマンとして生きる覚悟を決めたマイルス。ヒーロー活動を優先するがゆえに、両親との約束を疎かにしてしまう様子が、今作では描かれていました。

そんな彼は、スパイダー・ソサエティを訪れた際、スパイダーマンの運命を知らされる。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2022)でも語られた、「この世界にヒーローが存在する意味」に物語の焦点が当たっていきます。

どの次元においても、スパイダーマンはいくつもの悲しい運命を背負っています。例えば警察署長の死や、ベン叔父さんの死。それらからは決して逃げてはいけません。

さらにマイルスは、元々スパイダーマンになるはずの人間ではありませんでした。別次元から飛ばされた蜘蛛に噛まれて特殊能力を得た、いわば異分子です。

それまで積み上げてきたアイデンティティが全否定されたマイルスは、その運命に抗うことを決める。大量のスパイダーマンが縦横無尽に飛び回るラストバトルは、本当に大迫力。ただし人間が一度に認識できる限界を超えた情報量が詰め込まれているため、一度に全てを理解するのは無理でしょう。

前作からギャグ的に何度も繰り返されてきた自己紹介の決まり文句。マイルスはオハラとの一騎打ちでその決まり文句を、決め台詞として用います。劇中でギャグ的だった台詞を、終盤にカッコよく使う展開は、前作にもありましたが、テンションが上がるシーンでした。

元の次元に戻ったグウェンは、改めて父親と対話する。娘の本心を受け取った父親は、警察を辞め、これからは娘の近くで寄り添うことを決意。二人は無事に和解し、実質上の主人公である彼女の物語は、ここでいったん完結しました。

一方でマイルスは、スパイダーマンが存在しない荒廃した次元へと迷い込み、やがてその次元に存在する自分自身と対峙する。非常に緊張感が高ぶった状態のまま、映画は幕を閉じてしまいます。

というのも次作『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』が、来年に公開されることが既に発表されています。つまり本作は、3部作の真ん中。『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(1980)を思わせるダークな終わり方なのも頷けます。

完結編があるので、劇中で起こった問題のほとんどの決着は、次作に後回し。そうした終わり方は、もやもやするポイントではあります。とはいえピーター・B・パーカーをはじめとしたマイルスゆかりの面々が集った、グウェンの「バンド」が映し出されるカットは最高でした。

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最後に

前作とは異なり、今回は残念ながら3D上映は行われていません。しかしながら情報量の圧を体感するためにも、ぜひ大きなスクリーンで観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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