紛うことなき漫画実写の成功例。
作品情報
2020年に放送された実写ドラマ『岸辺露伴は動かない』の新作エピソード。原作は人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第4部「ダイヤモンドは砕けない」のキャラ・岸辺露伴の日常を描く同名スピンオフ。前回から続投する高橋一生と飯豊まりえのほか、笠松将、市川猿之助、内田理央らが出演する。
原作: 荒木飛呂彦
出演: 高橋一生 / 飯豊まりえ ほか
演出: 渡辺一貴
脚本: 小林靖子
放送期間: 2021/12/27 – 12/29
話数: 3話
あらすじ
相手を「本」にしてその生い立ちや秘密を知り、書き込んで指示を与えることができる“ヘブンズドアー”。この特殊な能力を持つ漫画家の岸辺露伴が遭遇する奇妙な事件に立ち向かう。ヘブンズ・ドアー! 今、心の扉は開かれる――
NHKオンデマンド 岸辺露伴は動かないより引用
レビュー
このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
連続ドラマを活かした実写化
「だが断る。」短いながらも、強いインパクトとカッコよさがあるこの一文には、元ネタの『ジョジョの奇妙な冒険』の良さが凝縮されています。この台詞を発したのは、ジョジョの第4部に登場する岸辺露伴という漫画家。
彼を主人公にしたスピンオフ漫画『岸辺露伴は動かない』は、会話劇や心理戦がメイン。アクションを話の主体とした本編とは一線を画した、ファンタジー色の強い内容です。1997年に『週刊少年ジャンプ』に第1作が掲載されて以降、不定期で新作が発表されています。
2020年の年末には、NHK制作により同作の実写ドラマ化が行われました。アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ(2012-)のシリーズ構成を担当する小林靖子さんが脚本を、ジョジョの愛読者でもあるNHKドラマの名手・渡辺一貴さんが演出を担当。
現実離れした人々や奇想天外な現象を、地に足が着いたリアリスティックな演出で映し出したこのドラマ。その絶妙なバランス感は、原作の持つ「現実に潜む奇妙」的な雰囲気を再現するには十分でした。まさに『世にも奇妙な物語』にも通ずる不思議な読後感を与える良作です。
高橋一生さんのハマり役と言える主人公・露伴や、飯豊まりえさん扮する泉京香の魅力的なキャラ造形も、作品世界を豊かにしています。新たに息が吹き込まれた二人の魅力とやり取りの妙こそ、放送が終わった後も本作が愛され続ける理由だと考えられます。
ジョジョを愛するキャストやスタッフらによって作り込まれた世界観は、予想を超える好評を集めました。ギャラクシー賞テレビ部門の2021年1月度月間賞を受賞しており、対外的な評価も獲得しています。そのため今回の続編は、放送前から既に期待の声が寄せられました。
「富豪村」「くしゃがら」「D・N・A」の3エピソードで構成された前回の放送。それぞれは原作同様に独立したストーリーでありながら、ドラマ版では泉京香とその彼氏である平井太郎が各話に深く関わるよう変更されていました。
全編を通して謎多き彼の運命が、最終話にて明らかになる構成をとっていることで、連続ドラマの色合いが濃くなっていました。この改変は原作の良さを損なわないどころか、このたび新たに映像化する意義を感じさせられる出来となっています。
ドラマ版が高く評価される理由として大きく挙げられるのが、上述したように「世界観の再現度の高さ」と「連続ドラマにするにあたっての改変」の二つ。そしてこの二点は、今作でもかなり特徴的でした。
世界観の再現度の高さ
本作を観ていて目に入るのは、ジョジョの世界観を再現するディティールの数々でしょう。前作から引き続いて、製作陣によるこだわりが各所に見受けられます。
まずは字幕について。「漫画じゃなくて 名前”じゃあない”」や「金や ちやほやされるために マンガを描いていると”思っていたのかァーッ!!”」など、漫画をトレースした言葉づかいが随所に用いられています。
他の作品ではまず見ないであろう独特な文言は、ファン心をくすぐるとともに、「ジョジョを観ている」という没入感をもたらしてくれます。
露伴の特殊能力「ヘブンズ・ドアー」の演出についても、こだわりが見られます。彼だけが持つこの能力は、人の記憶を本にして自由に読むことができ、またその本に文字を書き加えると相手を意図通りに動かせる、といった内容。
漫画版では能力を使用すると、顔の表面が本さながらにパラパラとめくれるようになりました。前回のドラマ版では、この演出を忠実に映像化しつつ、場面ごとに本のデザインが変わる工夫がプラスアルファで加えられていました。
今作でも豊富なデザインによって、ヘブンズ・ドアーが表現されています。泉はファッション雑誌、橋本陽馬は罫線の入ったノート、大郷楠宝子は小説、第4話冒頭の不動産屋は新聞調。といったように職業や人柄とマッチした本の装丁になっており、その徹底ぶりには今回も唸らせられました。
登場人物が身にまとう衣装美術についても、原作の奇抜なデザインを残しつつ、現実世界と上手くなじませており違和感がありません。特に泉の着ている衣装は全話通してオシャレで。見惚れてしまいました。製作陣の彼女に対する愛が感じられます。
各キャラを演じる役者陣も、ハマり役ばかり。世界観を再現すると同時に、作品世界に視聴者を引き込んでいく吸引力があると思いました。
中でも目を引くのは、主人公・露伴を演じる高橋一生さんの憑依ぶり。他人との関わりを極端に嫌い、面白い漫画を描くためには努力を惜しまない「変人」。高橋さん本人のミステリアスな雰囲気が相まって、「実際にこういう性格の人いそう」と思わせる説得力がありました。
前回に引き続きレギュラーキャラとして登場するのが、露伴の担当編集・泉京香。彼女に関しても、ジョジョっぽいファンタジックさと「実際にいそう」感の間をとった、絶妙な愛されキャラに仕上がっています。露伴とのでこぼこバディぶりも軽快で面白く、見逃せません。
各話のゲストキャラも素晴らしい。特筆すべきは、乙雅三を演じる市川猿之助さんの演技。
演出の渡辺さんは起用の経緯を、「歌舞伎の世界だと女形も含め美しい方。本当に体の動きがきれいで『色彩間苅豆 かさね』という演目では、猿之助さんが殺されて怨霊になるかさねを演じられていて、その時にまさに乙雅三のような動きをされている瞬間があって」と語ります(※1)。
※1:「岸辺露伴は動かない」になぜジョジョ本編?演出・渡辺一貴が語る(シネマトゥデイ) – Yahoo!ニュースより引用
怯えながら露伴に近づくさまは真剣そのもので、その様子がかえって面白くもあります。ただし中盤以降は、ひょうきんに見えた表情が一転して、恐怖に感じられました。全身をフルに使った怪演と言ってもいいでしょう。
またジョジョファンを公言している内田理央さんは、大郷楠宝子を演じられています。ジョジョの登場人物にいそうに思える端正な顔立ちや、漫画を読んで研究した佇まいは、まさに二次元から飛び出したようでした。
連続ドラマにするにあたっての改変
前作と同じく、3つの話に分かれている今回のドラマ版。話数を引き継いで、4,5,6話として扱われています。
各話は独立した物語でありながら、全体で一本の筋が通っているという構成も、前作同様。これは一話ごとに完結している原作にはない要素。さらに本作はエピソード間の関連性が、より濃くなっている印象を受けました。
- 第4話「ザ・ラン」
単行本2巻に収録されたエピソード。走ることに憑りつかれた青年・橋本陽馬が登場。ジムで会った露伴に対して彼は、トレッドミルを用いたデスゲームを挑む。窮地に追いやられた露伴だったが、ヘブンズ・ドアーを使って無事生還する。
冒頭では、岸辺露伴とはどういった人物なのか、彼の持つ特殊能力は何か、といった基本的な設定が端的に描写されます。能力の内容を説明しすぎていないことで、奇妙さも残る冒頭のシーンは、前回のあらすじの役割を果たしていました。
同時に第4話は、今回の3つの物語が六壁坂の謎に向かって進んでいく展開を示す、導入編としての役割も担っています。
- 第5話「背中の正面」
元となるのは、は第4部『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』の「チープ・トリック」編。ジョジョ本編の一エピソードから引用しているので、かなり大胆に改変が行われている話と言えます。とはいえ違和感を抱かせない脚本・構成には圧倒させられました。
原作では乙雅三は、露伴を殺害する刺客として登場したスタンド使いでした。しかしスタンドが描写されないドラマ版には、彼のスタンド「チープ・トリック」は出てきません。ちなみにアニメでは、こんなビジュアルです。
そのため本作では、六壁坂を露伴から買い取ろうとする不動産業者に設定されています。また背中に取り憑くスタンドは、六壁坂の怪異に変更されています。その怪異は取り憑く前の人物の姿をかたどるので、露伴に転憑した際は乙の見た目をしていました。
ジョジョ本編でカギとなる『決して振り向いてはいけない小道』が、第5話には出てきます。今作で露伴は平坂という道の存在を知り、黄泉比良坂や「あの世」との関連性を導き出し、怪異を祓うことに成功しました。
- 第6話「六壁坂」
単行本1巻に収録されたエピソード。橋本陽馬と乙雅三、その両方が訪れていた六壁坂。露伴と泉はその村に調査をしに行く。そこで物語の鍵を握る大郷楠宝子と出会い、やがて六壁坂村に潜む妖怪の謎が明らかになる。
モノクロで映し出された回想シーンは、漫画では表現できない、ドラマならではのサスペンス演出です。そしてそれまでの2話で出てきた謎を回収しつつ、真相の解明に向かっていくさまは圧巻でした。
第2話の『岸辺露伴は叫ばない 短編小説集』からの引用に続いて、ジョジョ本編からエピソードを引っ張ってきたドラマ版。今後ますます広がりを見せていきそうな、素晴らしい実写シリーズです。
最後に
さらなる続編を匂わせた第6話のラスト。ここまでクオリティの高い実写化であれば、いつまでも待ちます。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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