映画『パレード(2024)』感想:死者と生者を繋ぐ架け橋

(C)2024 Netflix

どんな世界が待っているんだろう。

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作品情報

『新聞記者』や『ヴィレッジ』の藤井道人が監督・脚本を務めたNetflixオリジナル映画。息子と離ればなれになった美奈子が、現世に未練を残した人々と交流していくさまを描く。長澤まさみが主役を務め、坂口健太郎やリリー・フランキーなど藤井作品お馴染みの俳優が脇を固める。

出演: 長澤まさみ / 坂口健太郎 / 横浜流星 / 森七菜 / リリー・フランキー ほか
監督: 藤井道人
脚本: 藤井道人
配信: 2024/02/29
上映時間: 132分

あらすじ

大災害の混乱で離れ離れになった息子を捜す母親は、自分がすでに死者となっていること、そして今いる世界が、この世に未練を残した者たちが集まる特別な場所だということを知り…。

パレード | Netflix (ネットフリックス) 公式サイトより引用
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レビュー

このレビューは映画『パレード(2024)』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

ファンタジックな死後の世界

天国か、はたまた地獄か。この世を去った後に待ち受けている世界の真相は、現世を生きる私たちには決して分かりません。Netflixで配信中の映画『パレード』では、亡くなった人々が暮らす、現世とは異なる世界が描かれます。

長澤まさみさん演じるシングルマザー・川上美奈子が、息子の良と砂浜で遊んでいる。映画が始まると、楽しそうに遊ぶ様子が彼女の視点で映し出されます。すると突然、画面全体が一気に濁流に包まれる。その後、彼女の身体は水に浮かんでいた。

つまり言うまでもなく、彼女は津波に巻き込まれて亡くなったのです。トラウマを刺激される人もいるであろうストレートな演出かつ、あらすじを頭に入れて観ていても恐ろしいと感じさせる導入で、一気に引き込まれました。

漂着した海岸で目を覚ました美奈子は、誰にも声を届けられず、生者の肉体にも触れられない。不安と悲しみを抱く彼女に、謎の青年・アキラが話しかける。彼に導かれ、不思議な場所に着いた彼女。そこでは現世に未練を残した人々が自由に暮らしていた。

今作の監督と脚本を務めるのは、藤井道人さん。『余命10年』(2022)では、主人公が過ごす時の流れの速さを、小気味よい編集で巧みに表現していました。今回も美奈子が仕事や家事に追われていた日々を回想するシーンで同様の編集をしており、彼女の忙殺ぶりが見事に伝わってきます。

さらに同作と共通しているのは、野田洋次郎さんによる音楽。本作の劇伴も作品の世界観を体現しており、エンドロールで流れる主題歌『なみしぐさ』は特に素晴らしかったです。

劇中の説明曰く、「やり残したことがあるから、まだ「その先」には行けていない」。自分の死を認められない美奈子は、のんびりと暮らす周囲の死者たちに反抗的だった。しかし彼らがそれぞれに会いたい人を捜す「パレード」に参加したのをきっかけに、その考えは徐々に変わり始める。

この映画で特徴的なのが、実際に宮城県の山の中にある古びた観覧車や、「星砂座」と呼ばれる小劇場、といった幻想的なロケーション。中でもパレードの場面の美しい星空は印象的で、死後の世界というファンタジックな設定に説得力を与えていました。

現世を去った「幽霊」と残された人々にまつわるストーリーといえば、『オールウェイズ』(1989)や『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990)を想起させます。そうした作品と一線を画しているのが、一見すると生者と死者の区別がつかない、リアルに寄せた演出です。

主人公たちは現世と地続きの世界に暮らしているものの、生きている人々に存在が認知されることはありません。彼らは劇中で現世の物に触れています。しかし実際に触れているのではなく、あくまで彼らは人間の見た目をしているだけの魂と考えると、合点がいくのではないでしょうか。

演技巧者な常連たち

藤井監督は『余命10年』以降、『ヴィレッジ』(2023)や『最後まで行く』(2023)を製作し、今年5月には『青春18×2 君へと続く道』の公開を控えている多作な映画監督です。また『野武士のグルメ』(2017)や『100万円の女たち』(2017)など、配信文化が根付いていない時期からNetflixと仕事をしてきました。

この物語は、登場人物それぞれのバックボーンに焦点が当てられていきます。彼らに命を吹き込むキャスト陣の豪華さは、大きな見どころ。同じくNetflix製作である『クレイジークルーズ』(2023)と同様に、Netflixの莫大な予算だからこそ実現したキャスティングである点は否定できません。

これまで藤井作品に出演してきた常連と言われる方々が、今作には多く出演しています。例えば、元小説家志望の青年アキラ役の坂口健太郎さん。アキラは死後に会った人々や体験した出来事について記録しており、彼から醸し出される浮遊感は坂口さんならではでしょう。

個人的に印象的だったのは、元ヤクザの勝利を演じる横浜流星さん。七回忌の日に墓参りに訪れた、深川麻衣さん演じる生き別れた恋人みずきと再会する。彼女は既に新しい恋人と同棲しており、一緒に親に挨拶に行く約束をする様子を勝利は目の当たりにする。

その後、一人で洗濯物を取り込みながらすすり泣く彼女を見つめる勝利。何とも言えない苦しみが混じった笑顔が、彼の触れられない悲しみを見事に表現していて圧倒されました。みずきの恋人を「いい男だよ」とハッキリ言える勝利が、本当にカッコよかった。

もうすぐ生まれてくる孫の顔を見るために「その先」に行けずにいる、元スナックのママのかおりについても、寺島しのぶさんの演技が味わい深かったです。

田中哲司さんは、同じ苗字の元銀行員・田中を演じていました。唯一ミステリアスなまま話が終わる田中。彼の未練は終始不明で、監視員的な役割であることのみが明かされます。新聞の日付が1990年であり、数十年ほど留まっているのかも、など想像を掻き立てられる存在でした。

藤井作品初参加の森七菜さんもまた、同じ名前の高校生・ナナを好演。いじめに耐えかねて自殺するものの、それにより友人が新たないじめのターゲットになった事実を知る。やさぐれていた初登場時から、少しずつ周囲に溶け込んでいく彼女の成長は、物語の推進力の一つに思います。

そして離ればなれになった息子の生死が気になっている主人公・美奈子を演じるのは、同じく藤井作品初参加の長澤まさみさん。長澤さんに当て書きされた美奈子からは、圧倒的な華と凄みを感じました。

人生の尊さと喪失の寂しさ

元々この映画は、映画プロデューサーの河村光庸さんが2020年頃から企画していたもの。2022年、脚本の打ち合わせをしていた直後に河村さんが亡くなり、一念発起した藤井監督がストーリーを再構築したことで実現にいたった、という経緯がデジタルパンフレットのプロダクションノートに書かれていました。

もう一人の主人公と言えるのが、元映画プロデューサー・マイケルこと古賀充。劇中では1970年代初頭、彼が傾倒していた沖縄の学生運動の回想が挟まれます。黒島結菜さん演じる麻衣子、中島歩さん演じる佐々木博、そして若林拓也さん演じる若きマイケル。この三角関係が実に切なかったです。

自身の学生運動を描いたマイケルの映画は未完成のままだったが、美奈子たちとともに作品を完成させる。基本的にちゃらんぽらんだけどカッコいい、人間味のある愛すべきキャラ。こういった役を演じさせたら右に出る者はいない、まさにリリー・フランキーさんの真骨頂が堪能できました。

言わずもがな古賀充には、『新聞記者』や『ヴィレッジ』で監督とタッグを組んだ「マイケル」河村さんが投影されています。監督は「誰にも頼まれずに書いた脚本を提出して「これがやりたいです」っていう経験はけっこう久しぶり」で、「“私映画”の類い」と語っていました。

Netflix映画「パレード」監督・藤井道人インタビュー | 「喪失を抱えた人の添え木になることはできる」正解のない“死後の世界”を描く - 映画ナタリー 特集・インタビュー
映画「パレード」が、Netflixで世界独占配信されている。

マイケルも美奈子も「その先」の世界に行った後、ナナは病院で目を覚ます。この飛躍には、非常に面食らいました。とはいえ今作は「その先」の世界に向かう瞬間を省略しているなど、劇中ではファンタジー設定を事細かに描いておらず、上手いバランスとも思えます。

大人になったナナは、マイケルをはじめとした死者の物語を映画にし、渋谷の映画館・ユーロスペースで上映する。ユーロスペース自体も、監督がインディーズ時代に何度もイベントを行った思い出の場所なのだそう。

そこにやってくるのは、奥平大兼さん演じる良。長澤さんとの親子役は『MOTHER マザー』(2020)を連想させます。加えて、かおりの家族も出てくるので、ナナは死者たちの家族と交流していると考えられます。ここのやり取りでナナが見せる自然な笑顔こそ、人生の尊さを象徴しているように感じられました。

誰の身にも訪れる大切な人の「死」。近年、その寂しさを強く実感している人も少なくないでしょう。この物語からは実際に喪失を経験した藤井監督の、死の描き方に対する誠実さが伺えます。そのため喪失の寂しさを経験した全ての人の心に寄り添ってくれる映画に仕上がっているのかもしれません。

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最後に

喪失の寂しさに寄り添ってくれる、とても優しい映画。喪失を経験した方々にこそ、ぜひ観ていただきたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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