『るろうに剣心 最終章 The Beginning』感想:異色な前日譚で閉じる物語

(C)和月伸宏/集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

当代随一の演者の演技に惹かれる傑作時代劇。

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作品情報

2012年から続く実写『るろうに剣心』シリーズの5作目。1994~99年に『週刊少年ジャンプ』で連載された『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』を原作とし、「人誅編」にて語られた剣心の回想を映像化する。前作『The Final』の敵・雪代縁の姉であり、剣心の妻である巴を有村架純が演じる。

原作: 和月伸宏
出演: 佐藤健 / 有村架純 / 高橋一生 / 安藤政信 / 江口洋介 ほか
監督: 大友啓史
脚本: 大友啓史
公開: 2021/06/04
上映時間: 137分

あらすじ

動乱の幕末。緋村剣心は、倒幕派・長州藩のリーダー桂小五郎のもと暗殺者として暗躍。血も涙もない最強の人斬り・緋村抜刀斎と恐れられていた。ある夜、緋村は助けた若い女・雪代巴に人斬りの現場を見られ、口封じのため側に置くことに。その後、幕府の追手から逃れるため巴とともに農村へと身を隠すが、そこで、人を斬ることの正義に迷い、本当の幸せを見出していく。しかし、ある日突然、巴は姿を消してしまうのだった…。

『るろうに剣心 最終章』The Final 4月23日(金)/The Beginning 6月4日(金)2作連続ロードショーより引用
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レビュー

このレビューは作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

巧みな演技の妙

明治時代初頭の日本を舞台にしたバトル漫画『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』(1994-99)を原作として、2012年に始まった実写シリーズ。これまでに4作品が製作されています。

シリーズ化するまで人気を集めたのは、アクションのクオリティの高さや新しい剣心像が観客にウケたことなど、様々な要因が重なったからだと考えられます。

伝説の剣客「人斬り抜刀斎」として暗躍した緋村剣心が宿敵たちと戦うストーリー。漫画と同じように、鵜堂刃衛や志々雄真実、雪代縁といった強敵との戦いが4作品を通して描かれました。

前作『The Final』で原作最後のエピソード「人誅編」が映像化されました。では5作目となる『るろうに剣心 最終章 The Beginning』はどういった物語なのか。人誅編にて語られた剣心の回想を膨らませ、人斬り時代の彼が妻・巴と出会ってから別れるまでを描きます。

物語の流れは、1999年にOVAとして製作された『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 追憶編』を元にしています。タイトルと製作会社のANIPLEXが、本作の制作協力にクレジットされていることからも、大きな影響を受けているのは明白です。

追憶編は、テレビ放送後が終了したあとに製作されたスピンオフのエピソード。劇中の時系列的に1作目より前の話なので、薫や左之助といったお馴染みの仲間たちは登場しません。本編とは異なり、時代劇に寄せた全編シリアスな作風や容赦ないグロテスク描写から、現在まで高い評価を受けています。

アニメ『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 追憶編』の感想・レビュー[598件] | Filmarks
レビュー数:598件 / 平均スコア:★★★★4.4点

江戸時代末期、緋村抜刀斎は長州藩の暗殺者として名が広まっていました。いつ、どこで、誰に襲われるか分からない。そういった恐怖から他人との関わりを避けてきました。そんな彼のもとに、雪代巴と名乗る一人の女性が近寄ってきます。二人は徐々に心を交わし、一緒に過ごすようになります。

今作の最大の見どころは、剣心役の佐藤健さんと巴役の有村架純さんの演技にあります。過去に『何者』(2016)で共演経験がある両者。類まれな演技力をもち、多くの作品に出演する二人の売れっ子は、いまや日本を代表する俳優と言っても過言ではないでしょう。そんな二人の掛け合いが非常に魅力的です。

主演の佐藤さんは『仮面ライダー電王』(2007-08)の多彩な役どころをきっかけに、幅広い役柄を演じてきました。近年では『いぬやしき』(2018)や『ひとよ』(2019)にて、心の中に闇を抱えたキャラクターを好演しています。

緋村剣心も同様に、犯した罪への意識を抱えて生きています。過去作において彼は、飄々としていながらもどこか物憂げな表情を見せていました。シリーズの中でも本作は、彼の心が一番かき乱される話のように思います。

終盤に、仲間の剣士も敵であり、愛した人も敵であったことを知る剣心。その事実を受け入れ自身の過去を消し去るために、巴と暮らした家を燃やします。そのときの表情から、人斬りとしての覚悟が伝わってきました。

また有村さんも素晴らしい。『ビリギャル』(2015)『花束みたいな恋をした』(2021)で笑顔が素敵な役柄を演じてきた彼女。身体的な役作りも相まって、そういったキャラと同一人物とは思えず、しっかり幸が薄いように見えます。

序盤はニコりとも笑わないため、本心が分かりません。中盤以降になると、彼女が抱えている悲しい真実に対する悲哀が感じられました。

唯一無二な存在感を示す、高橋一生さん演じる桂小五郎をはじめとした、他の役者陣も見逃せません。前作が佐藤健さんの体技を魅せる映画と言うのであれば、今作は佐藤健さんの演技を魅せる映画と言うことができます。

「静」の映画

4作目『The Final』と同時期に公開された本作。『The Final』が派手なバトルが盛りだくさんの「動」の映画でした。対照的に『The Beginning』は、アクションが比較的少なめで作風も暗いため「静」の映画と言えます。

とはいえ、冒頭の生身アクションは震えました。屋敷に捕らわれている剣心が、周囲を囲む何十人もの剣士たちを一人で斬殺する一連のシークエンス。剣の柄を口に咥えたところから始まる自然でスピーディーな流れは、まさに圧巻の一言。中盤にある村上虹郎さん演じる沖田総悟とのバトルシーンも見事です。

しかしながら今回は、シリーズ最大の特色であるアクションシーンが少ないため、もっとアクションを見たいという気持ちになるのは否めません。

また大仰なBGMを多用する演出は、過去作に共通して見られます。その演出の間はストーリー進行が止まるため、テンポが悪くなっているように感じざるをえません。これまではアクションが随所に挟まれることで、そういったマイナス面が緩和されていました。それが無い今作、特に中盤は、ダレているような印象を受けました。

元になったアニメの追憶編は30分×4話構成です。対して、実写版の上映時間は2時間17分。アニメ版より長くなっている放映時間が、この映画が観客に冗長な印象を与えていることを裏付けているのではないでしょうか。

加えて話全体のトーンが、シリーズの他作品と比較して暗めでシリアスになっています。この作風自体はストーリーと符合していると思うのですが、話の冗長さを強めているようでした。

この作品の注目すべきポイントは、繊細に描写されている四季の情景です。ポスターや予告では美しい雪景色が大々的に使われていました。それだけでなく、春に二人が出会った場面から始まり、夏、秋、そして冬への移り変わっていきます。

植物や二人が育てる農作物の様子一つひとつに、四季折々がちゃんと表現されています。同時に、季節の変化が二人の関係性の変化を意味しているのも巧みな映像表現でした。

クライマックスで剣心は、妻である巴を斬ってしまいます。この衝撃的なシーンは、前作で回想として映し出されていました。すなわち前作を既に鑑賞している私たちは、巴が最終的に剣心に斬られるという事実を知っています。今回の物語は初めから、この悲しい結末に向かって動き出している映画なのです。

同じくらい印象的なのが、窪田正孝さん演じる清里明良という若き従者が惨殺される場面。亡くなる前に剣心の顔に傷をつけた人物です。1作目で出てきた描写でしたが、巴が彼と許嫁であったことが明らかになります。彼の死に際の映像が、数回にわたって挟まれている点が、多少のしつこさを感じました。

最終作としての違和感

今回語られる前日談を通して、剣心は不殺を心に決めます。『バットマン ビギンズ』(2005)や『アイアンマン』(2008)に代表されるような「ヒーローが誕生するまでを描いた」物語となっています。

1作目冒頭で描かれた鳥羽伏見の戦いへと繋がるラストシーンが、この映画のキモ。史実ではこの戦いで薩長軍が勝利したあと旧幕府軍は朝廷の敵とされ、政府としての地位を失っていきました。つまり時代が大きく変化するきっかけとなった出来事です。

ラストで再び鳥羽伏見の戦いを描くことにより、剣心がここで剣を捨てた理由が9年後になってはじめて明らかになります。薩長軍の錦の御旗が掲げられる。それは新しい時代の到来を意味していました。これからは一人も斬らないと心に決めていたからこそ、彼は剣を捨てたのです。

最終作の結末が1作目の冒頭に繋がる円環構造。とても綺麗な終わり方でシリーズに幕を下ろしました。しかしこの作品が完結編と題されている点に違和感を覚えました。というのも、この円環によって物語を閉じてしまうと、剣心は結局過去に囚われた状態から抜け出せないような印象を受けたからです。

剣心は自身が犯した罪に対する罪悪感に苛まれており、新時代の到来を望んでいた人物でした。前作『The Final』では、縁との戦いを終えた彼がようやく未来に向かって進み出します。薫と手を繋いで歩くカットがそれを象徴しているようでした。

そのため個人的には「人誅編」でシリーズを締めたほうがしっくりきたと思っています。二作の公開順序については、監督自身も「どちらを先にしたほうがいいのか」考えていたのだそう。

『るろ剣』大友啓史が語る“あのサプライズ”!Final、Beginningの順番の理由は?|シネマトゥデイ
佐藤健が主演を務めた『るろうに剣心 最終章 The Final』。

ここまで色々言いながらも、今作を最後にしていることで綺麗な終わり方になっていることは確かなので、どちらが正解かは断言できないと思います。そしてこの仕掛けは、シリーズが長く続いたからこそできる芸当であり、一見の価値は十分にあります。

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最後に

るろ剣シリーズの中では異色な作風の最終作。役者陣の掛け合いや作り込まれた美術など様々な要素を味わえる作品でした。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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