『パパとムスメの7日間』映像化の第4弾です。
他の『パパとムスメの7日間』関連記事はこちら。
作品情報
2006年に発表された五十嵐貴久による同名小説を、主演・飯沼愛で15年ぶりに再びドラマ化。TBS系列「ドラマストリーム」枠で2022年に放送された。父親と人格が入れ替わった女子高生の恋模様を描くラブコメディ。2007年ドラマ版と同じく、荒井修子が脚本を手掛ける。
原作: 五十嵐貴久『パパとムスメの7日間』
出演: 飯沼愛 / 長尾謙杜 / 小栗有以 / 羽田美智子 / 眞島秀和 ほか
演出: 嶋田広野 / 松田礼人
脚本: 荒井修子
放送期間: 2022/07/27 – 09/14
話数: 8話
あらすじ
青嵐高等学校に通う17歳の川原小梅 (飯沼愛) は、サッカー部の先輩の大杉健太 (長尾謙杜) に絶賛片想い中。受験の日、小梅が落とした受験票を拾って届けてくれたのがキッカケだった。その後、サッカー部のマネージャーで親友の中山律子 (小栗有以) から何かとアシストしてもらっているにも関わらず、健太先輩との距離は遠いまま…。
あらすじ|TBSテレビ:ドラマストリーム『パパとムスメの7日間』より引用
川原家はムスメの小梅、パパ・川原恭一郎 (眞島秀和)、ママ・川原理恵子 (羽田美智子) の3人家族。ここ数年、恭一郎が小梅に話しかけても避けられてしまい父娘関係はギクシャク。疎まれていると感じながらも父親としての沽券を守りたい恭一郎は、小梅が小声で放つ自分への苛立ちを聞こえないふりでやり過ごす日々を送っていた。
そんなある日、たまたま帰り道で一緒になった小梅と恭一郎。ちょうどその時、不慮の事故に遭遇し2人は救急車で病院へ…。そして小梅と恭一郎が目を覚ますと、なんと2人の人格が入れ替わっていた…! 状況が飲み込めず、パニック状態の小梅。一方、事故のことを知った健太は学校を飛び出していって… !?
レビュー
このレビューは2022年ドラマ版をはじめとした、歴代『パパとムスメの7日間』映像化作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
パパとムスメとセンパイの三角関係
イマドキの女子高生のムスメ・川原小梅と、冴えないサラリーマンのパパ・恭一郎。小説『パパとムスメの7日間』では、ひょんなことから人格が入れ替わった2人が元に戻るために奮闘します。2017年に韓国、2018年にベトナムで映画化されるなど、これまでに何度も映像化されてきました。
そのきっかけとなったのが、作品初の映像化である2007年に放送されたテレビドラマ。舘ひろしさんと新垣結衣さんが父娘役を演じ、今でも人気を誇っています。韓国映画版もベトナム映画版も同作を下敷きにしており、どの作品も、元の姿に戻れる日を信じて2人が協力する姿を描いたファミリーコメディでした。
しかしながら、15年の時を経て日本でリメイクされた今作は、恋愛方面に大きく舵を切りました。意中の先輩と結ばれたい娘と、娘から先輩を引き離したい父、娘よりも父の性格に惹かれているかもしれない先輩、という奇妙な三角関係が描かれます。
企画・編成を務める中西真央さんは、「出版社の方から「原作者もOKですので変えちゃってください」と言っていただいたので“恋愛方面でガッツリ変えてみよう”と。」と語っています(※1)。
※1:“令和版パパムス”、制作陣のこだわりは「いかに視聴者をキュン死させるか」人気作リメークへの思いも<パパとムスメの7日間> | WEBザテレビジョンより引用
本作のラブコメ的な世界観は、ドラマのオープニングからも感じ取れます。ポップで可愛くキラキラした雰囲気が、曲や編集に溢れています。2007年ドラマ版の印象がいまだに強く残る中、全く異なるテイストで作りなおす、といった意気込みが伝わってきました。
30分×8話で構成されていることもあり、かなりスピーディーに話が展開されます。入れ替わる前の日常パートはまるごと省略されており、いきなり第1話冒頭で、落ちてきた鉄パイプに衝突した小梅と恭一郎の人格が入れ替わる。
小梅が想いを寄せる「健太先輩」こと大杉健太と初デートをする第2話までは、原作および2007年ドラマ版の台詞をなぞっている場面が多いです。デート場所が名画座から盆栽展に変更されている以外は、ほとんど一致していました。
第3話以降、徐々にオリジナル要素が盛り込まれ、2人の恋愛模様にフォーカスが当たっていきます。とはいえ試験からの三者面談、「レインボードリーム」の御前会議、山登り、そして部活最後の試合にいたるまで、大筋の流れは2007年ドラマ版と一緒でした。
ただし同作よりも、小梅側のエピソードが多くを占めるため、必然的に恭一郎の会社についての描写はかなり簡略化されています。
胸キュン重視なアイドルドラマ
2007年ドラマ版でも脚本を担当した荒井修子さんが手掛けた今作には、同作のコメディ要素はそのままに、大きく二つの改変が加えられています。それはラブコメらしい胸キュン展開と、現代的なブラッシュアップです。
小梅を演じるのは、約9000人が応募したオーディションで1位に選ばれ、『この初恋はフィクションです』(2021)の主演を勝ち取った飯沼愛さん。現代に生きる明るく元気な女子高生を好演しており、時折変顔まで披露しています。一方で恭一郎人格のときは、発声や仕草でオジサン感を醸し出していました。
「パパムス」といえば、2007年ドラマ版のキャスティングを連想する人は今でも多いでしょう。そういった逆境の中で、新たな小梅像を見事に作り出したように思います。
人気アイドルグループ・なにわ男子の長尾謙杜さん演じる健太は、サッカー部の部長にしてエース。真面目で礼儀正しく、女性に不慣れな一面もあるイケメン。読書や料理が趣味で、ゲームも得意。おまけに学年トップ5に入る賢さを兼ね備える。
まさに「高嶺の花感」のあるパーフェクトな王子様と言えます(※1)。2007年ドラマ版の健太は、最後の試合でペナルティーキックを外していましたが、本作の彼はペナルティーキックを成功させました。そのアレンジからも、彼の完璧さが垣間見えます。
病院での突然のハグに始まり、頭ごっつんこ、あーん、壁ドンなど、長尾さんによる胸キュンポイントが各話に仕込まれています。話運びに無理やりな点もありますが、おそらく製作陣も織り込み済みでしょう。物語のリアリティよりも「キュン」を重視している方針が分かります。
今作は終盤に、過去の映像化とは一線を画す展開が用意されています。山登りに行った健太と、彼を追う小梅と恭一郎。そこで斜面から転落した小梅の人格は元に戻ったものの、今度は恭一郎と健太の人格が入れ替ってしまう。健太の最後の試合と、恭一郎の御前会議。3人の前には二つの試練が待ち構えていた。
つまり長尾さんは、健太の人格と恭一郎の人格を演じています。この変貌ぶりにもぜひ注目していただきたいです。
そして恭一郎を演じるのは、眞島秀和さん。『おっさんずラブ』(2018)でも見せていた可愛らしい芝居が今回も堪能できます。恭一郎と小梅、健太の三役を巧みに演じ分けた、眞島さんのバイプレイヤーぶりには本当に脱帽しました。
平成から令和へのブラッシュアップ
原作小説の発表や2007年ドラマ版の放送から10年以上が経過しているため、劇中では様々な変化が見受けられます。
例えば、流行のファッションやヘアスタイルの変化や、「ビジュ爆発」「しか勝たん」などの若者言葉。またガラケーそのものを持ち替える必要がなくなり、スマホのカバーを付け替えるだけで他人を誤魔化せるようになりました。
これらのような表面的な変化だけではありません。時代に合わせて、脚本の各所がブラッシュアップされています。
料理やお菓子作りを得意とする本作の健太は、従来の理想の男性像にはまっていません。小梅たちにパスタやクッキーを楽しそうに振る舞っていた彼だが、その趣味を恥ずかしがっていた。なので自分を肯定してくれた恭一郎(身体は小梅)と一緒にいると、ありのままでいられるのだそう。
第4話では、ボイスチェンジャーを使った小梅(身体は恭一郎)と健太がオンラインゲームをする。恭一郎の姿ゆえに健太との交流に制限があった彼女は、彼との会話を楽しんでいました。距離が離れていても交流できる現代社会を上手く反映させています。
演出面にも時代の変化は表れています。ゴールデン帯に放送された2007年ドラマ版には、父娘で一緒にお風呂に入るシーンがありました。それに対して深夜帯のドラマである今回は、小梅が目隠しをするカットを一瞬映すだけで、お風呂シーン自体は描写していません。
二作品の違いの中で最も驚愕したのは、恭一郎の部下である西野和香子。高木ひとみ〇さんが演じた彼女には、原作の「魔性の女」感は一ミリもなく、ギャグアニメのような奇怪な言動をしています。笑えるコメディリリーフですが、少し極端すぎるような気もしました。
原作の西野は、川原家の関係を揺るがす存在でした。今作で彼女の存在が軽視されているのは、小梅側のエピソードをメインにしているからと考えられます。
そんな彼女の代わりとして、健太の幼馴染にして恋のライバル・藤野凛花が物語後半に登場します。健太を狙う才色兼備な彼女に対して、小梅は劣等感を抱きます。その姿を見た恭一郎は、娘のために元に戻ろうと強く決意をしました。全8話の中で唯一使われている、内面の人格が表出する演出は、この場面の特別さを強調しています。
最終的に凛花は、小梅へのいたずらを認めて謝罪し、2人は友達になります。西野のように分断で終わらせず、連帯でまとめた話の纏め方も現代ならではのアプローチに思えました。
最後に
U-NEXTやParaviで配信しているこのドラマ。役者さんのファンはもちろん、2007年ドラマ版が好きな方にこそぜひ観ていただきたいです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
Comments