アニメ『ばらかもん』感想:自分らしさを促す非日常体験

(C)ヨシノサツキ/スクウェア・エニックス・「ばらかもん」製作委員会

自分らしさってなんだ。

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作品情報

2008年に『ガンガンONLINE』で連載を開始したヨシノサツキの同名漫画をアニメ化。五島列島に移り住んだ若き書道家と島民たちの交流を描く。書道家の主人公・半田清舟を小野大輔が演じ、島に住む小学生・琴石なるを当時9歳の原涼子が演じた。アニメーション制作は、キネマシトラス。

原作: ヨシノサツキ
出演: 小野大輔 / 原涼子 / 古木のぞみ / 大久保瑠美 / 内山昂輝 ほか
監督: 橘正紀
脚本: ピエール杉浦
シリーズ構成: ピエール杉浦
放送期間: 2014/07/06 – 09/28
話数: 12話

あらすじ

書道界の重鎮を殴った罰として、
日本西端の島で一人暮らしを始めることになった
若きイケメン書道家・半田清舟。
都会育ちで神経質な「半田先生」の前に現れるのは、
自由奔放で個性豊かな島民ばかりで……!?
慣れない田舎暮らしの洗礼を受けながら、
書道家として人として
少しずつ成長していく青年の
ハートフル日常島コメディ!!

物語|TVアニメ「ばらかもん」公式サイトより引用
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レビュー

このレビューはアニメ『ばらかもん』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

非日常を描く日常系アニメ

住みやすいのは都会か、それとも地方か。そんな漠然とした問いに対する答えは、個々の仕事や人間関係、価値観によって異なります。アニメ『ばらかもん』は、この正解のない問いに対して一つのヒントを与えてくれる作品です。

原作は、漫画雑誌『ガンガンパワード』での読み切り掲載をきっかけに、2008〜18年に『ガンガンONLINE』で連載された同名漫画。長崎県の西部に位置する離島・五島列島を舞台に、都会育ちの書道家と島民たちの交流をコメディタッチで描いています。

アニメは全12話で構成されていますが、全編を通して特に大きな事件は起きません。ジャンルは、いわゆる日常系アニメ。しかし「離島」と「書道」といった、ほとんどの視聴者にとって馴染みのない非日常的な設定が、この作品のオリジナリティに繋がっています。

主人公・半田清舟が飛行機で五島列島にやってくるところから、第1話は始まる。生まれてからずっと東京で育ってきた半田の視点で、離島暮らしのメリット・デメリットや、東京とのギャップが語られていきます。

舞台になっている五島列島は、原作者であるヨシノサツキさんの出身地です。実際に住んでいる人間ならではの、リアルな生活の描写。都会育ちの私としてはフィクションに思えるエピソードもありましたが、「わりと8割方実話をもとに作られた」という話には驚きました(※1)。

※1:『ばらかもん』単行本2巻収録「ばらかもん通信」より引用

当然ながら登場人物の大半は、五島列島の人々。そのうちメインキャストの一人である山村美和役の古木のぞみさんは実際に五島列島出身で、エンディングには方言監修として彼女の名前がクレジットされています。それもあって劇中で交わされる会話は、ごく自然に感じられました。

中でも特筆すべきキャラは、半田を慕う無邪気な小学1年生・琴石なる。彼の家に無断で出入りし、何度追い出されても諦めずに戻ってくる、ハッキリ言って「クソガキ」です。しかし彼女の行動原理は純粋な好奇心のみであり、生意気ながらもどこか許してしまう愛嬌があります。

声を当てている原涼子さんは、放送当時9歳でした。限りなく小学1年生に近い年齢だからこそ出せる絶妙な雰囲気が声から感じられました。さらに方言もマスターしているのだから感服してしまいます。彼女の溢れんばかりの魅力は、間違いなく作品のキモになっていました。

アニメーション制作を務めたのは、『東京マグニチュード8.0』(2009)などを手掛けてきたキネマシトラス。今作では森や海、空、雲、星といった、島の豊かな自然を絵画的に美しく描いていました。このように五島列島を描くことに対して、丁寧に向き合って製作されているのが分かります。

魅力的なスローライフ

第1話では、半田が五島列島に移り住むにいたった経緯が回想によって語られる。渾身の作品を酷評されたことに激昂した彼は、書道界の重鎮を殴ってしまう。同じく書道家である半田の父親はその暴挙を咎め、罰として島に住むように命じた。まさに「島流し」と言えます。

半田が島に到着した知らせを受けた島民たちは、次々と家を訪ね、引っ越しを手伝いだす。見返りを求めない彼らの行動に半田は衝撃を受けると同時に、人々の温もりに圧倒された。インスピレーションを受けた彼は、それまでの作風とは異なる個性的な書をしたためる。

中学生の山村美和と新井珠子、高校生の木戸浩志と仲良くなっていく半田。餅拾いに参加したり、海水浴をしたり、釣りに行ったり、夏祭りに行ったり。移住当初は離島暮らしに馴れずにいたが、東京では体験してこなかった様々な物事を一緒に体験するにつれ、島での生活に馴染んでいく。

子供たちの考え方に影響され、半田の凝り固まっていた価値観が変化する様子からは、人と人の繋がりの重要性を改めて感じさせられました。そして島での楽しそうなスローライフな生活を見ていると、肩肘張らずに、無理に頑張らずに生きていこうと思わされます。

なるや、友達の陽菜など、島の小学生たちは何の忖度もなく言葉を発します。彼らの素直すぎる言葉には、大人になった私たちに突き刺さるストレートな部分があり、ハッとさせられる瞬間が何度もありました。

こうしたハートフルな日常描写に加え、ユーモアある会話劇が全編で繰り広げられるのが面白い。劇中の登場人物たちは、視聴者を無理に笑わせようとしていません。自然に交わされる彼らのやり取りにクスッと笑わさせられるのです。

タイトルの「ばらかもん」は、五島列島の方言で「元気もの」を意味するのだそう。ここでの「元気もの」は、なるを筆頭としたエネルギッシュな島民たちを指しているのでしょうが、このアニメを観ていると、彼らに元気を分け与えてもらっている感覚になります。

もちろん離島暮らしをするうえで、都会暮らしよりも不便に感じることは沢山あるでしょう。島民全員が家族同然であるがゆえにプライバシーが存在しない生活は、人によっては快くない環境かもしれません。

そういったマイナス面が描かれる場合、本作ではギャグとして笑い飛ばされており、あくまでシリアスにならないように調整されています。そのため「田舎」側にとって都合良く美化されている、と捉えることもできます。

しかしながら綺麗な島の景色を見ていると、実際に五島列島に訪れてみたくなる人は多いでしょう。疲れているときにも気軽に観られるコメディなので、都会での生活を窮屈に感じている方にこそ特に観てほしい作品だと思いました。

ネガティブ書道家の成長譚

考えるよりも先に手や足が動くタイプの半田は、つい衝動的に行動してしまい痛い目を見てきた。島に住み始めた当初も、気性の荒々しさが多少見受けられたが、徐々にトゲが抜けていき丸くなっていく。

他人からの評価を何よりも気にしていたネガティブな半田。演じる小野大輔さんのロートーンな口調が、彼のネガティブさを見事に表現していました。そんな半田が新鮮な体験をする様子は楽しそうで、環境や周囲の人々によって人は変われることを体現していました。

都会の生活で失敗した若者が、田舎暮らしを通じて、人間として、書道家として成長する。あるいは幼い子供とのコミュニケーションを通じて、インスピレーションを取り戻す。

これら自体よくある展開ではあるものの、そういったメッセージが説教くさい台詞で説明されるのではなく、また恋愛ドラマに組み込まれているのではなく、島で暮らしていく中で彼が自然と「気づく」様子として描かれるのが巧みで素晴らしい。

半田の感情の昂ぶりや、価値観の変化を如実に表しているのが、彼がしたためる「書」です。島に移り住んでから、感情に突き動かされて生み出してきた個性的な作品がどれも良い。アニメでは、原作漫画よりも字の迫力が伝わってくるように感じました。

第1話で書いた「楽」や、第9話で書いた白抜きの「星」など、いずれも迫力があって素敵な字でした。中でも第7話で書いた、大量の魚を模した「鯛」が個人的には一番好きです。

劇中で半田と思想的に対峙するのが、天才書道家の神崎や、息子を溺愛する半田の母親。二人の言い分にも正当性はあるのですが、離島暮らしに楽しみを見出してきた半田の姿を追ってきた視聴者としては、自分らしさを模索する半田にどうしても共感してしまいます。

単行本1〜6巻までの内容を映像化した今作。最終的に半田が五島列島に帰ってくるシーンで幕を締めるのが、実に綺麗な終わり方です。シリーズ構成を務めるピエール杉浦さんによる、適度なエピソードの取捨選択が功を奏していました。

ラストの展開自体、ある程度予想がついてしまうのは否定できませんが、ようやく自分らしく生きることを選択した姿にはグッときました。

自分らしさを見出した半田。彼の成長物語を象徴しているのが、SUPER BEAVERが歌うオープニングテーマ『らしさ』。「自分らしさってなんだ」から始まる歌詞が、本作の主題をストレートかつ力強く表現していました。

全12話の中には、浩志の卒業後の進路など未回収の要素もあります。ずっと彼らの物語を見ていたい身としては、続編を観てみたいところ。何よりハートフルコメディとして、非常に幸福度が高いアニメであるのには違いありません。

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最後に

今年7月からフジテレビでドラマ化される『ばらかもん』。それに合わせて漫画も、『月刊少年ガンガン』にて期間限定で連載中。まさに今このタイミングで観ていただきたい作品です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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